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デュアル・クロニクル other story  作者: 不破 一色
序幕
3/10

0-3

「えっとさ、薫ちゃんの説明だとよく分からないから、ベイセルさんが説明して欲しいかも?

 ほら、うちはあんまり、頭良く無いから」


 と言って笑う紗弓。

 いや、そこは笑うところじゃ無いでしょ。


「まぁそうね。説明よろしく」

「そうですね。

 あれは三日前でしたか・・・」


 三日前の夜、薫がベイセルさんに、前衛向きの人が居たら紹介して欲しいと、話しをしたらしい。

 動きやすい様にと、衛士衆でも私達三人は基本的に、固まって動ける様になっていた。

 ベルセイさんも、最初は衛士衆の組として不足している、私達への前衛補充と考えたらしいけど、そうではなかった。

 薫は、私達の最近の言葉や態度から、近い内にこの町を離れ、情報を集める方向に行くと考えていたらしい。

 ・・・私と紗弓って、そんなに分かり易い感じだったのかしらね?

 ともあれ、衛士衆内で私達の組が前衛不足でも、別にそこまできっちり組んでないと危険という事はほとんど無い。

 でも、情報収集とかで町を離れるなら、バランスが悪いと命取りに成りかねない。

 ゲームなら再挑戦も出来るけど、今の状態は現実だ。望む望まない、認める認めないに関わらず現実なんだ。


 実際に目にした事ばかりではないけど、私達の様にこっちに飛ばされた来訪者には、葛西の様に現実逃避して悪さに走るのだけで無く、この現実を受け入れられず、帰る為に馬鹿な試しをする人もそれなりに居るらしい。

 所謂いわゆる、死に戻り。

 デュアル・クロニクルと言うゲームでは、死に戻りは拠点への帰還ではなく、ログオフだった。これは再ログイン時に、デスペナるティーが加算された状態で拠点に現れる為の仕様だったらしい。

 つまり、この現状がありがちなオンラインゲームに取り込まれた系なら、死に戻りは現実への帰還になるわけ。

 でも、実際に考えれば分かるんだ。そんな事は無いし、これは現実だって事が。

 だって、怪我をすれば血が流れ、痛みも感じるし、部位欠損したらよっぽど運が良くないと治せない。敵を倒してもその死体が消えたり、アイテムをポップする事も無い。

 敵も味方も、死ねばその場に死体が残る。

 それなのに、死に戻りに期待をかけるなんてのは、現実逃避なのか、生きてる事からの逃避でしかない。


 勿論、通常ならそうそう危険がある訳じゃ無いけれど、問題はやっぱり来訪者。

 私達もそうだけれど、それなりのゲームキャラクターステータスが、こっちに飛ばされた時に上乗せされているらしい。

 戦いなんて知らないし、武器の扱いも知らない私達だけれど、相応に強い状態になっていた。

 そんな来訪者の中から、悪さをする連中が出ているんだから、急激に危険性が増しているらしい。

 ・・・理性とか、道徳観無いのかしらね?

 あるいはオレTUEEEEとかやって、理性とか捨てた形での現実逃避なのかしら?

 まぁ、葛西も逃避している実感は無かったみたいだから、無意識なんでしょうけどね。

 ともかく、そんな状態で女三人、前衛不足で方々回るのは自殺行為か、あるいは女の安売り行為になるのは分かり切った事。

 とは言っても、簡単に増員出来る訳でもないから、薫は先手を打ったみたい。


「で?」

「ん?」

「『ん?』じゃ無いでしょ。

 薫は帰らない選択をしたのに、何で情報集めに出るわけ?

 人員の補充って事は、薫は一緒に行くって事よね?」

「ん~、二人は決めて無いと思ったし」

「思ったし?」

「この時を逃したら、見て回る機会、無くなると思った」


 成る程ね。確かにこっちでは、あんまり町を出て、色々歩き回るとかしないらしいし。

 帰らずにこっちで暮らすなら、そうそう出歩く事も無くなるのかも知れない。

 けど・・・

 それは建前よね。歩き回る事があまり無くても、全く無いわけじゃない。

 では何故か。その答えは多分、簡単に思い付いた“あれ”だろう。とは言っても、決め付けはダメな選択肢だから、確認しない訳には行かないでしょうね。


「あの、色々思うところもあるでしょうけれど、取り急ぎ今日の仕事にも絡むので、皆さんとしてどうするか、教えて貰えますか?」


 そう言われて気が付いた。もう今日の勤務時間に入ってたわね。

 薫への確認は、後にするしか無いか。


「んとね、別にここが嫌って訳じゃ無いんだけど、やっぱり自分達の事だから、色々回って情報収集したいなって思ってるんだけど」

「そうね。紗弓の言う通りだと、私も思ってるわね」

「成る程ね。薫さ・・・コホン。薫と同じ感じですね」


 あの二人、いつからそういう関係になったんだろ。

 まぁ、薫が望んだ結果ぽいからいいけど、知らない内って何か水臭い感じで、納得行かないかも?


「そこでですね、完全な前衛という訳では無いんですが、折角なので賢者様に、皆さんと同道して貰うのはどうかな、と思いまして」

「は?」


 何を言ってるんだろ?

 この日之本っていう国に、六人しか居ない中の一人でしょ?

 私達と一緒になんて、どう考えても無理でしょ。


「賢者様に話しを振るにしても、皆さんの都合や意思も有るでしょうし、とりあえず会ってみるというならば、今日はそれを踏まえた配置にします」

「配置って」

「一応、町の案内を兼ねて、衛士衆から何人か出す事になっているので、会ってみるなら皆さんがそこに、という感じですかね」


 成る程、だから仕事の話し、って訳ね。


「ちなみに、案内兼護衛、ではありません。

 案内兼監視、ですね」

「監視? 何。危険な人なわけ?」

「いえいえ。ただ賢者様ですからね。

 好奇心というか、何というか、非常に旺盛な方なので、突発的に何かしでかす可能性も否定出来ませんし」

「おいおい、失礼だな。

 来ているのが分かっていて、そういう事言うのが、本当に失礼だぞ」


 急に入り込んできた第三者の声に、私達は入り口を見ると、そこには長身の男の人が居た。・・・男の人?

 見た目は二十代半ばくらいに見える。でも雰囲気はもっと老齢な感じ。でも、十代後半の様にも見える、不思議な印象。

 赤みがかった灰色の髪に、濃い紫色の、山伏か修験者が着てる様な服装。手には、単に木の棒にも見える長い杖を持っていた。杖の先には鈴が幾つか付いているけれど、鈴の音はしない。

 特徴的なのは頭の上にある、三角形の耳。明らかに獣人族、おそらくは猫かしらね。

 私も、動きからすると紗弓と薫も気が付かなかったけれど、話しぶりからするとベイセルさんは気が付いていたらしい。


「儂は、雅章がしょうと申す。深淵の賢者と呼ぶ者も居るな」

「ちょ、深淵の賢者って」

「衛士衆からすると、賞金首じゃな」


 そもそも六賢者自体、あまり人前に出て来ないので、所在不明ばかりと聞く。

 とは言え一応の居住地はあるので、それなりには出向く事も出来るらしいのだけれど、深淵の賢者は居住地も不明で、放浪の深淵とも呼ばれている。

 宮内からの呼び出しにも、この数年は一切応じていないので、生死不明とさえされていて、情報に懸賞金がかかっていたはず。


「賞金首とは、穏やかじゃ無いですね。

 別に捕縛指示や、生死問わずと言う指示は受けていませんよ?」

「ベイセルは相変わらず暢気じゃの。

 儂が今、この黒竜郷に居るという情報だけでも、確か二十銭じゃろ?」

「誰もそんな情報を流しませんよ。

 流した途端、宮内から巡視隊やらが大量にやって来て、面倒なだけです。

 町から発った後で、立ち寄ったという情報を流すのが利口でしょうね」

「知人を売るか。儂も人付き合いを考えんとなぁ」


 やれやれという感じこそ出していても、顔は笑ってるのはおそらく、この賢者とベイセルさんとの間では、お決まりのやり取りなんだろう。

 六賢者の中でも、一番所在不明と言われる深淵の賢者と、ベイセルさんとの関わりが分からない。


「私が西方より流れて来た目的が、世界樹ユグドラシルの支樹だったのは、以前言いましたよね?」

「うん、聞いたよ。

 元々住んでいた場所の森が、微妙に合わなかったんでしょ?」


 そう。ベイセルさん達小神(エルフ)族は、自然と豊かさを司る、森に住む民だ。

 森とは言っても、中心に世界樹、あるいはその支樹を持つ森だけに住むらしい。まぁ、そこから離れて生きるのも居るらしいけど。

 ベイセルさんは生まれた森の空気が何となく合わない、森から離れる者と同じタイプらしいけど、かと言って、森そのものから離れて暮らすのも良しとしなかったらしい。

 それで、世界を渡り歩いて、この日之本に来たって言っていた。

 幾つか回って、ここ黒竜郷の近くにある支樹の空気が気に入って、住み着いたらしい。


「日之本に来て始めに行ったのは、別の支樹でしたけどね。

 ともあれ、その頃目的は違うものの、同じ様に支樹を回っていた雅章さんと出会って、一緒にここまで旅をしたんですよ」

「は~、そういう知り合いなんだ」


 つまりは、ゲームか現実かの違いはれど、私達みたいに、いわばパーティー仲間って事になるわけね。

 そんな人の情報は、流石に売れないか。

 深淵の賢者こと雅章さんは、千四十一年前に仙となった、つまりは仙人なんだとか。

 仙となる前は色々やんちゃしたという事らしいけど、仙となった今では世俗にとらわれない存在らしい。

 獣人種、特に猫人族かと思っていたのだけれど、それは仙となる前の存在の姿を若干残しているからだとか。


「とりあえず薫、に、前衛と言われたものの年頃の女性だけの組ですからね。なかなか条件の合いそうな方も居なかったので、雅章を呼んでみた訳です。

 加えて、情報についても検証についても、好条件ですしね」


 いや、それで賢者の一人を呼び出すって、どうなんだろうね?

 色々オーバースペックな気がするんだけれど。


「とりあえず、問題無ければ皆さんに、町の案内に就いて貰いたいと思っています。

 お試しみたいなものですね」

「お試しって・・・」

「ふむ。流石に年頃のお嬢さん方に、儂の様な爺を案内など、退屈かも知れんのぅ」

「いえいえいえ。そういう意味では無く」

「出涸らしですからね。

 仕事として就いて貰った上で、問題無ければ同道という形で良いかと」

「ずいぶんな言い様じゃの。

 否定は出来んが」


 何か、そういう流れなのかしら?

 でもさ、大物よ。しかもかなりの。

 それを何で、私達が選ぶみたいになってるのかしら? むしろ逆なら未だ分かる。

 いえ、逆なら私達ごときが選ばれる訳は無いんだから・・・訳分からなくなって来たわねぇ。


「うん、よく分からないけど、賢者様を案内すれば良いのかな?」

「ん。そうみたい」


 え? 何で二人共普通にしてるの?


「良いみたいですね。

 では、とりあえず昼まで案内をお願いします。昼食は手配しておきますから」

「ふむ。見目良いお嬢さん方に案内して貰えるとは、たまにはベイセルからの呼び出しにも応じてみるものじゃな」


 あれ、何か私だけが、話しの流れから取り残されてるんだけど。私がおかしいのかな?

 何だか訳が分からない状態のまま、紗弓に手を引かれて本陣から外へ。

 二人が賢者と話しをしているけど、混乱状態の私は、話しの内容も頭に入って来ないまま、引き摺られる様に連れられて行った。



 雅章と三人が連れ立って出て行った。

 これで第一段階はクリアといったところでしょう。

 後は午後に、理由を付けて戦闘連携の確認をさせて、組む方向に流れを付けないといけませんし、本当に面倒な事です。

 気疲れで思わず溜息を一つ吐き、懐から遠話機を取り出す。


「あの人に一報入れておかないとですね」

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