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やってしまった感、一杯一杯です。
果たして時間が取れるのか? 本編に影響しないのか? 等々
色々と不安要素はありますが、やってみないと分からないからやってみる、という感じでスタートです。
「だから、駄目だって言ってるでしょ!」
町中に響いてるんじゃないかな、という程の大声。
このパターンはもう、何回目になるんだろう? 五回目? あぁ、六回目だ。
叫んだのは、最近では逆に珍しいかも知れない、染めていない黒髪を腰より長く伸ばした女の子。痩せぎすというと言うよりは、少し病的に細い身体付きは、これでも少し改善して来たものだった。
最初会った時には、本当に大丈夫かと一目見て思う程に細く、顔色どころか手足も含めて白過ぎた。
って、現実逃避してる場合じゃ無いわね。
「ねえベイセルさん。流石に今回は救いようが無いと思うよ」
私は、隣に居る人に声をかける。
その人は、この町の衛士衆、簡単に言えば自衛団みたいなところの隊長さんなんだけれど、見た目は文官って感じの、ひょろっとした男の人だ。
人・・・まぁエルフらしいから、人と言って良いのかは分からないけど、こっちでは人の枠内なんだよね。
美形なんだけど、耳は尖ってない。
聞いてみたら、エルフの耳が尖っている事は無いらしいけど、人間族は小神族の姿を美形と言うらしい。本人達には独自の美的感覚があるらしく、ベイゼルさんはエルフの中では普通だと言うんだけど、結構美形だと私は思うって言ったら、私の方が綺麗だと真顔で返された。無茶苦茶照れるんだけど・・・って、こんな事考えてる場合じゃ無いわね。
「ですが岩崎さん、来訪者の方々はこちらに不慣れな訳ですし、受け入れ難い事情も理解出来ますし」
「あのね、いくら何でもこれは駄目よ。
あっちでも流石に、大目に見て貰えるものじゃないわ」
「そうは言いましても、未だ混乱されてる可能性もある訳ですし」
「そんな訳無いでしょ。
これで六回目よ? 甘い扱いだから調子に乗ってるだけ!
実際、どんどんやる事が大きくなってるんだから、これ以上甘い扱いは、街の為にならないわよ」
現状は、六人の男と、叫んだ一人の女が向かい合っていて、それを町の人達が野次馬のごとく取り巻いている状態。
叫んだ女は、うちのパーティーリーダーである雨宮紗弓。正義感が強すぎる部分もあるけれど、嫌みにならない正当な正義感だから問題無いし、同性の私から見ても紗弓は可愛いから、もっとくどくてもOK。可愛いは正義だ!
で、向かい合う男達の中で、真ん中に居るリーダー格の男は葛西弘晃。私の高校での同級生なんだけど、正直こういう奴とは知らなかった。
葛西の馬鹿は、見た目はそこそこ良いので自分のクラスだけじゃなく、他のクラスや他の学年の女子にもそこそこ人気があったし、正直私も、ちょっと良いかなと思ってしまっていた。
けど、こっちに来て本性が分かって・・・うん、幻滅というか、無いわね。
「あれは救いが無い馬鹿よ。
禁固刑でも、強制労働でも、何でも良いから徹底的にやらないと、この場を収めてもまたやるわよ?」
「ですが、確かご学友だったのでは?」
「罪は罪でしょう。私の知人だとかは全く関係無いし、むしろそう言うなら、私はこう返すわよ。
知人だからこそ、ギルティって」
そもそも私がこっちに来たのも、葛西の誘いが原因とも言える。
私も、自慢する訳じゃ無いけど、そこそこ男子に人気があるのは聞いていたし、自覚をする程には自惚れていないけど、ちょっと良いかなと思っていた相手に誘われれば、ゲームくらいするわよ。お近づきになれるかも的な打算もあったのは事実だし。
うん、あの頃の私に言いたい。
あんた、男を見る目無いわ。
でも、デュアル・クロニクルと言うタイトルの、そのゲームユーザーが、世界のもう一面とか言うこっちに飛ばされて来てるなんていうのは想像外だった。
勿論、葛西の馬鹿も知らなかったのは確実だから、それを責める気は無いし、もう一面だか何か知らないけど、私達からすれば異世界も同じこっちに飛ばされた時点で、混乱するのも、受け入れ難いのだって分かる。
でも、だからと言って何でもして良い訳無いでしょ?
しかも繰り返しなんてのは、論外よ。
「うっせぇな。おれはこんなとこに来るなんて、同意してねぇんだよ。
勝手されてるんだ、おれが勝手して何が悪いってんだよ」
「自分の思う様に行かないからって、他人にそれを押し付けて良いわけ無いでしょう!」
「黙れよ。何ならお前も一緒に可愛がってやろうか? 未だ細すぎだが、見た目は良いからなぁ」
「なっ」
顔を真っ赤にする紗弓。
てか、ギルティ。本当に、葛西は救いようが無い。
しかも紗弓に何て事言うのかしら。許せないわね。
こっちには、私達はバラバラに飛ばされて来た。
予兆は一ヶ月くらい前。主にパーティーを組んでいた六人の内の一人が、急にログインインしなくなった事だった。
最初の内はパーティー内で、急用だとか、体調が悪いんじゃないかとか話していたのだけれど、彼は数日経ってもインしなかった。
その数日後、葛西がインしなくなり、翌日以降学校にも来なくなっていたのでおかしいなとは思っていた。
一週間もしない内に紗弓がインしなくなって、流石にただ事じゃないと思ったけれど、その時はパーティーメンバーで、インしていた人数が減っていた事もあって、フリーの人と組んでしまっていたから、直ぐにはログアウト出来なかった。
軽く回ったらアウトして、メールしてみようと思っていたのが間違いだったのか、気が付いたら私は、山の中に居た。
丁度敵を倒したところだったから、経験値とかが影響したのかも知れない。
どっちにしても山の中。どうして良いのかも分からない。
ふと見上げると、木々の間から青い空が見える。
日曜日だったから、昼間にインしていた事もあって、ここも昼間なのかな? と、何となく思ったのだけど、どうしてそんな事を、その時思ったのかは分からない。
よく友達に、意識を現実逃避させるよねって言われてるし、自分でもそう言うところは分かっているから、そういう事なんだろう。
どうせ真面目に考えても、分からないだろうし。
そんな状況から助けてくれたのが、ベイセルさんだった。
ベイセルさんの日課は、流石に森の民と呼ばれるだけあって、西方から日之本に渡って来てからも、時間があれば森の中を歩いているらしく、そこで人間族の気配を一つだけ感じてやって来たらしい。
森と言うか、実際は山の中だったので、人間族が一人だけという事を奇妙に思ったのだとか。
そして、近くの黒竜郷と呼ばれる町に連れて行ってもらったのだ。
ゲームの中で、最初の一人がインしなくなる直前に、みんなでクエストの“黒龍・白龍伝説”を進める予定だった。
それがそのままになっていた為、何となくそれ以降は、近い辺りに留まっていたのが良かったのだろう。ベイセルさんに連れて行って貰った町には、インしなくなっていたパーティーのみんなが居た。ただ、その関係はかなり変わっていたけれど。
最初にインしなくなった男の人・・・実は単に男キャラを使っていただけで、実際には女の子だった加藤薫は、肩くらいに揃えたストレートの、薄い茶色髪だった。
何でも、外国人とのクオーターとかで、髪色は染めた訳ではなくて地らしい。
それを弄られる事が多くて、あまり人と関わりを持たなかった為か口数が少ないのだけど、キャラを完全に変えた男キャラでは、その性質に引っ張られないという事からだったらしい。今でも、ベイセルさんとは逆側の、私の隣に居るのだけど、さっきから黙ったままだ。口数が少ないだけで、喋ってくれない訳では無いんだけどね。
次にインしなくなった葛西は、当初こっちに飛ばされた事を夢だ何だと言って信じなかったらしい。その気持ちは分からなくも無いんだけれど、私が来る数日前に、これはゲームだと言い出して、NPCに払う金は無いとか言って無銭飲食をしたらしい。
このケースは、同じくゲームで飛ばされて来た人の中にはままあるらしいんだけれど、葛西はその後も、解放されては問題を起こして捕まったらしい。
何でも、食事処のお姉さんを無理矢理連れ込もうとしたとか。
私が来た時には、また解放されてはいたんだけれど、姿を見なくなったらしい。
紗弓が来て、薫はやっと知り合いに出会って気が楽になったらしい。
そりゃ、葛西がそんなんだと、拠り所が無いものね。
本当なら、私達の様にあっちから飛ばされて来た人達は、最低限最初の内は、こっちで暮らすのも難しいから、衛士衆に迎え入れられるんだけれど、薫はそんな状態で心を開かなかったから、紗弓が来た事でやっと動き出せたって言ってた。
そして私が来て数日後、姿を消していた葛西が、五人の男共を引き連れて町にやって来た。
全員が葛西の様に、こっちを非現実だの、ゲームの世界だのと言って、好き勝手する様な連中ばかりだった。
仲間を引き連れた葛西の、この町で三回目の悪さは略奪。出店の食べ物を奪った挙げ句に、代金を求める店員さんに対して暴力を振るおうとしたのだ。
当然捕縛の上で、数日間施設に監禁してから解放されたのに、その翌日にはまた悪さをやらかした。
これまでは大きな被害こそ出ていなかったけれど、いい加減、反省の意思無しとして、もっと重い罰を与えないと駄目だろう。
そう言って来たのだけれど、どうも隊長のベイセルさんも、町の人達も、私達来訪者に対して同情的なのよね。
結果として、とうとうやらかしたのが、食事処のお姉さんを人質にしての身代金要求。
・・・まぁ、お姉さん綺麗だから・・・って、それでも二度目ってどうなの? と思わなくも無いんだけれど。
しかも、さっき紗弓に言った言葉からすると、いかがわしい事もするつもりらしい。
うん、ギルティ確定ね。
今度という今度は、町のみんなが許しても私は許さない。
「薫?」
「ん。準備出来た」
小さく問いかけると、同じく小声で返事。
それじゃ、やっちゃいましょう。
「紗弓」
私が声をかけるとほぼ同時に、連中の両サイドから水の球が飛ぶ。
六人全員の頭に当たって弾けた水の球は、そのまま頭を包む様にまとわり付く。これは薫の符によるものだ。
水にまとわり付かれて呼吸が出来なくなる六人に対して、私は鉄扇から引き抜いた羽根を飛ばす。紗弓の背に重なる中央の三人には狙いが付けられないので、そいつらは紗弓に任せた。
飛んで行く羽根と一緒に飛ぶかの様に、紗弓が走り、中央の二人を殴り、そのまま動きを止めずに葛西の元へ。
お姉さんを押さえてる左手を取り、腕を捻ってその流れで押さえ込む。肩の辺りから嫌な音がして、葛西が絶叫を上げるけれど、知ったこっちゃ無い。むしろもっとやれ。
他の連中はと見ると、私の投げた羽根が当たった三人は、刺さった羽根を抜いて動こうとしたけれど、その時にはもう、周りから衛士衆のみんなが取り囲んで、武器を構えていた。紗弓が殴った二人は・・・起き上がってこないわね。
近づいて行くと、白目を剥いているのが見えた。
「ふ、っざけるなよ。
お前ら女は、オレ達にケツだけ振ってりゃ良い・・・」
「ギルティ!」
最後まで言わせない。
私の一言で、紗弓は押さえ込みを解くと、そのまま右肩を蹴り抜く。
薫は、もう解けていた水球を再度発現させる。
私は、鉄扇を閉じて右足に向けて振り抜いた。
ほぼ同時に行われたこの動きで、右肩と右足あたりから妙な音がして、腕と足が妙な方向に向く。
水で息が出来なくて藻掻いているけど、両肩とも骨を折られているので、ただ芋虫の様に這いずり、転がるばかり。
「あ、あの、やり過ぎでは?」
そうベイセルさんが言うけれど、知らん。
と思ったら、動きが小さくなって来た。
そろそろマズいかな? と思ったところでまとわり付いていた水球も消えたけど・・・動かないわね。あ、微かに動いてるからOKでしょ。
ふと見ると、人質になっていたお姉さんだけで無く、衛士衆のみんなも、何か引いてる感じ? てか、何で私達の方を見てるのよ。
・・・まぁ、やり過ぎた感はあるけどね。
その後、私達三人は、ベイセルさんからやんわりと、やり過ぎを叱られました。
でも、全然、欠片も後悔してない。
ちなみに、あの六人は、これまで甘く対応されていた分も罰を上乗せされて、敦賀の街にある施設に送られた上で禁固刑らしい。
ざまぁ。
雨宮紗弓は、訳あっての元気っ子。
岩崎真桜は、色々あっての押さえ役。
加藤薫は、・・・何だろ?
そんな感じの三人は全部女なんだよね。
男が書いて、どこまで行けるのかは、正直生暖かく見守って下さいm(_ _)m