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「犯人?外側?」

 毎度ながら急に置き去りにされるような感覚だ。

「犯人だなんてえらく物騒な物言いね。どういう意味かしら。」

 初参戦の咲和も同様に置き去りをくらっているようで、その様子を見て仲間がいる事に流華は安堵を覚えた。

「犯人って言っても、ゆかりちゃんとその母親しか登場人物いないでしょ?父親はすでに亡くなってるわけだし。」

「うん。いや、あたしもさ、言っていつも通り話の中にあるなんか引っ掛かりとかを探してたわけですよ。そしたらそこに違うお話がいつも見えてくるわけよ。」

「うん。」

「いやもう、白状しますけど。今回のこのお話、あたしには解釈出来んかったとです。」

「ええ!?」

 流華は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。今まで流華の頭では辿り着けなかった都市伝説の違う世界を見せてくれていた小枝からのまさかのギブアップ宣言。しかもよりにもよって自ら救いの解釈を求めたこの話で両手をあげられてしまうだなんて。

「そんなー。小枝だったらこの話をもうちょっと救ってくれるんじゃないかって思ってたんだけどなー。」

「あたしにそんな期待を寄せてくれてただなんて、光栄マキシマムだわ。めんごめんご。」

「古っ!」

「とりあえずあたしが思ったのはさ、この話滅茶苦茶なのよ。」

「まあ、気分の良いお話ではないよね。」

「違う違うそうじゃなくって。成り立ってないのよ、話として。」

「え、どゆ事?」

「解釈出来なかったって言ったけど、それは何かって言うと引っかかりが多すぎるのよこの話。幸せだったけどパパが死んで生活が大変になった。まあそこは分かるとして。それでも力を合わせて仲良く過ごしてたんでしょ?仲良くよ?なのに実の所娘に対しての恨みつらみパンパンでしたと。」 

 確かに最初の時点で貧しさはあれど仲良く力を合わせてと言っている。ただ。

「分かんないけどさ、状況っていうか。お母さんもいろいろ複雑な想いだったんじゃないの?それでも世間体的には子育てを放棄するわけにもいかない。でもやっぱり生活の辛さとがだんだん積り積もって、やり場のない憎しみをせめてもの形にしたのがお守りだったとか……。」

 言いながらも流華は苦しい言い訳をしている気分だった。この理由事態に破綻はないように思える。けれども、しっくりは来ない。

「だとしても周りくどすぎっしょ、それ。」

 その通りだ。あまりにもその手段は遠回りすぎる。

「しかもだよ。お守りをゆかりんごに渡した時に、ママ何て言ってたよ。」

「それは確か……。」


“お守りって中身を開けてしまうと効果がなくなってしまうから、大事に持っておくのよ。中身は空けちゃいけないからね。”


「これおかしくない?いやこれも考え方なんだろうけどさ。こういう呪術めいたものってルールみたいなものがあってさ、開けたら呪いが無効化しちゃうってのもあるのかもしんない。でもね、でもよ。あたしの一般的見解からいくなら、結局そういうのって人の心のしでかす作用問題だと思うんだ。心なんて案外単純だからね。例えばほら、この前かすみんが話してくれた不幸の手紙の話。あれなんてまさにそうね。根拠も何もないのにお前は不幸になるだなんて字面だけで気持ちを揺さぶるっていうデビルレター。」

「あーそんなのあったわねー。懐かしいわ。私達の時代にもそういうのあったわ。なんでかああいうのって流行っちゃうのよね。」

 と、咲和が不幸の手紙というろくでもない入口からまさかのノスタルジックに浸りだした。

「あれが流行っちゃったのは皆が不安になったから。不幸という視覚から入ってくる情報が脳に働いて心に暗示をかけてしまう。それを逃れる為の手段が更に手紙という形で不幸を繋げていく。自分の不幸をかき消す為にその他大勢に不幸をばらまくっていうね。でだ、話は戻るけど。そもそもこのママのゆかりんごへの復讐の仕方自体とんでもなく周りくどいのに、そのくせ中身は見るなだよ。はっきり言って効果を発揮するならゆかりんごにこの内容は見てもらわないと駄目でしょ?今回不幸が重なった結果たまたまその封は切られたけど、下手したら一生その内容に目を触れない可能性だってあるよね。」

「確かに。なんだか矛盾してるね。」

「そう、矛盾。この話を聞いた時にすぐ思ったのがそれだった。矛盾だらけなのよ。もう一つ言うと、お前がいなければもっと楽に過ごせたって言うからにはかなり早い段階からそういった感情があったわけよね。構成は知らないよ。でももっと周りに甘えて上手く出来なかったのかなって。例えば自分の親とか親戚とか兄妹とか。この環境なら周りの人間だって手は差し伸べてくれるはずよ。そこは一切語られてないけど、それでも自分の手一つで娘を育て上げたのなら、本当は愛情ってハンパない気がすんだけど、そこんとこさわでぃーさんどうっすか?」

 え、私?と急に話を振られた咲和は一瞬驚いた顔を見せるものの、そうねーと流華の方に顔を向ける。その顔は母の愛が簡単に見透かせるほどにとても優しいものに感じられてなんだか流華は恥ずかしくなって思わず目を背けてしまう。

「辛い事だっていっぱいあったと思うけど、それでもやっぱり自分の子供ってどうしたってかわいいものよね。しかも大学も受かってちゃんと就職も出来て、初めてのお給料で旅行でしょ。私そんな事この子にされたら……。」

 未来の流華に思いを馳せた咲和の声が少し震えだしているように聞こえて慌ててそちらを見やると、咲和の目はもうぷるぷると潤いに溢れ今にも涙が零れ落ちそうだった。

「ちょっとお母さん!何勝手に泣きそうになってんのよ!やめてよもう!」

「あちゃちゃー。これあたし?あたしのせいかな?ごめんってさわでぃーさん泣かないでよー。」 

 ごめんなさいねー、おセンチなものでと咲和はティッシュで目元を抑えた。この展開にはさすがに小枝も驚いたようであわあわと慌てふためいていた。ふうっと一つ深呼吸を置いた所で落ち着いたらしく、咲和は続けて続けてと手のひらでこちらに促す。

「えっと、どこまで言ったっけかな?あ、そだそだ。だからさ、やっぱりゆかりんママは娘の事本当は大事に想ってたと思うんだよね。とてもじゃないけど、ママがそこまでの憎しみを抱えてこんなひどい事するとは思えないんだよねー。」

「じゃあ、一体……あ、もしかしてそれで出てくるのが……。」

「そ。外側の犯人」


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