(5)
「っとまあこんな話がある訳で。」
語り終えた流華の心にはやはり少なからずの後悔があった。改めてひどい話だ。ここまで後味の悪い話もそうそうないだろう。しかもこんな話を母がいる前でしてしまった事。場には淀んだ空気が流れているように感じられる。
「こりゃなかなかにひどい話だね。」
「ほんとに。無慈悲ったらないわ。」
小枝と咲和の反応も芳しくない。いや、この話の狙いとしてこの空気は思惑通りなのだろうが、やはりあまり気持ちの良いものではない。
「都市伝説系統の話の中ではトップクラスに後味の悪い話だからね。」
「ふーん。こういう感じの話もあるんだね、都市伝説ってのは。」
ぽりぽりと頬を片手で掻きながら、視線はまるで自分の頭の中を見るかのように上へ向けられている。既に小枝の作業は始まっているようだ。
「それにしたってあんまりよ。ゆかりちゃん何にも悪くないのに。都市伝説なんて言えば作り話みたいなものでしょ?どうしてこんな話が出来ちゃったのかしら。」
と咲和の方はすっかり感情移入してぷりぷり怒っている。
決して気分のいい話ではない。不幸が続いて最後の最後にとどめの不幸に見舞われたゆかりちゃんも、憎悪を抱えながらも娘を育て上げた母親も、どちらにとってもこの話は辛く悲しく救いもない。でもだからこそ流華はこの話をしようと事前から決めていた。この悲劇を、小枝の解釈が救ってくれるんじゃないかと期待して。
「小枝、どう思う?」
「ん?うーん、そだね。」
話が終わった段階でもそうだったが小枝の表情は変わらず渋いものだった。どうも今回は解釈に手こずっているらしい。
「何?さーちゃんなんか悩んでるの?」
「小枝、すごいんだよ。日頃はちゃらんぽらんだけどこういう話聞かせるとね、思ってもない解釈を披露してくれるの。」
「あらそうなの。小枝ちゃんすごいじゃない。そんな特技があったなんて。」
「ちょっと待って。誰がちゃんぽんよ。あたしゃ根っからのとんこつ派のこってりどっしりタイプが好きなの。ちゃんぽんなんて認めないんだからね!」
「何怒ってんのよあんた。誰もラーメンの話なんてしてないわよ。私はちゃらんぽらんって言ったの。」
「あ、そっちの方か。」
「急に”あいつ、ちゃんぽんなんだ。”なんて日本語おかしいでしょ。」
「いやー、ちゃんぽんだけは許せなくて。」
「何があったらそんな確執が生まれるのよ。」
「相変わらずねーさーちゃん。ちゃんぽんと戦争だなんて。」
「何がどう相変わらずなのか分からないよ、お母さん。」
「そんな事より、るーさん。」
「はい?」
「聞く?」
「あ、終わったの?」
「んー……まあこれがあたしの限界っていう所かね。」
「限界?」
小枝がそんな表現をするなんて珍しい。やっぱり今回は難題だったのか。
「じゃあわたくしもしっかり拝聴させて頂こうかしら。」
咲和が改まってぴしっと正座する。
「それじゃあまあ、発表させてもらいますけれども。」
こほんと咳を一つつき、小枝の見解が始まった。
「犯人は外側にいるってとこかな。」