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その少女の名前はゆかりちゃんと言った。ゆかりちゃんは一人っ子として生まれ、父と母の愛情を一身に受け育っていった。誰もが羨む幸せな家庭がゆかりちゃんのもとには存在していた。しかし、不幸は唐突に訪れる。
ゆかりちゃんが小学校五年生になった時、父親が交通事故によって帰らぬ人となってしまったのだ。母と二人になった生活は裕福なものから一変、貧しいものとなった。
だが、ゆかりちゃんは決して不幸には思わなかった。父が亡くなった事は悲しい事ではあった。だが悲しんでいても仕方がない。母と助け合い強く生きなければ。懸命に文字通り身を粉にして働き生活を支えてくれる母の姿を見て、ゆかりちゃんはそう思った。生活は確かに苦しかったが母とは仲良く日々を過ごしていた。
母のおかげでゆかりちゃんは無事に義務教育を終えた。そして大学受験。ゆかりちゃんは母から手作りのお守りをプレゼントされた。
「頑張るのよ、ゆかり。お守りって中身を空けてしまうと効果がなくなってしまうから、大事に持っておくのよ。中身は空けちゃいけないからね。」
ゆかりちゃんは母の気持ちに心から感謝した。結果、ゆかりちゃんは無事に大学合格を果たし、卒業後は就職先も決まり晴れて社会人となった。
これでやっと母に苦労をさせずに済む。恩返しが出来る。
ゆかりちゃんはその気持ちとして初任給で母親と旅行へ行く事にした。
ゆっくりと羽を伸ばし、母の今までの苦労を労う旅になるはずだった。しかし不幸はまたも訪れた。
旅行途中、母親は不慮の事故によってその命を終えてしまったのだ。
悲しみに暮れるゆかりちゃん。やっと、やっと母に安息が訪れると思ったのに。そんな矢先に起こってしまった事故。
茫然とするゆかりちゃんの手には今や母の形見となってしまったあのお守りが握られていた。
開けてはいけない。
しかし感情のどん底に追いやられたゆかりちゃんの手は母の忠告を無視し、お守りを開けてしまった。
中には一枚の紙切れが入っていた。そこには何か文字が書かれており、ゆかりちゃんはその内容に目を向けた。
“お前がいなければもっと楽な生活が送れたのに。死ね、ゆかり。シネシネシネシネ。”