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伝説の淵術師  作者: ぶっぺぽん
「→」
6/16

←交→

真紅の炎が赤黒い不気味な足を燃やしつくし、世にも恐ろしい時間が夢のように過ぎ去った。黒く焦げてしまった部屋が、無残(むざん)にも焼き開け放たれた窓という窓から澄んだ深夜の風を呼び込む。私たちの心中を知ってか知らずか、暇を持て余したように、部屋はただ部屋であり続けていた。



・・・。



(あー。なんというか)


・・・私は頭の中で言葉を探し続けていた。この光景に対する回答が、今すぐ必要だと思う。

何から話そうか?いや、そもそも何を考えるべきか?あの赤い足のことを?あの場所が何だったか?

焔魔が成功したかしてないか、何故私が生きているか?それともーーーーー今も目の前で、こちらを穴が開くほど見つめている黒服の男のことを、か?こんがらがる。さっきから近況が変わりすぎて。



ひとまず片方の手のひらを目に押し付ける。ごしごしと、こびりついた窓の汚れをふき取るように、緊張と油断をもとに戻そうと頑張る。よし。顔を上げる。はい。意味がなかった。自分に対してあきれ返った。なんてベタな。

だがその行為が、少しだけ自分を冷静にした。


高級な黒い服装の男はじっと動かず、何かを待っているような態度。月の明かりが今更にキラキラさして、くっきりとその姿を浮かび上がらせる。白い光と対照的な見た目が、照らし出せなかった闇の名残(なごり)のように思える。真っ白な肌に、深い真紅の瞳。ルビーの色、、いや炎を閉じ込めたルビーの色だ。一度見たら忘れることのできない、そんな姿かたち。



しかし。何故こいつはさっきから動かずにいるのだろう?急に現れて、あの得も言われぬ異空間になんのこだわりもみせず、かつ素直に受け入れていた。ついでに朝日が雪をつきとばすように、真紅の炎を操り変な足を焼き払った。

あまりも強い違和感が全身をわしづかみにしている。

というか、やってきたんだったら、その目的とか顛末(てんまつ)を私たちに説明して

もいいんじゃない?それとも何かを求めているの?いったい何を・・・いや、うん。


過ぎ去ってしまった時間に何かを問い詰めるよりも、今ある現実に向き合うことが重要だ。これまでも困難がやってきたとき、ひたすら全力で戦ってきたじゃないか。それと同じことをすればいい。


「--------あなた、

「俺の炎は、あらゆるモノを灰にし、消滅させる力がある。子供の頃とは違う。今では選択したものを、迷わず選び取るだけの力がある。こうまでなるのに、随分と努力はしてきたんだがね」


私の言葉の頭を狙ったかのように、被った。青年らしい、真っ直ぐな声に少し驚く。先ほど一度耳を通ったはずなのに、新鮮な感じを受けた。その男は、猛威を振るった真紅の炎が生み出される白い手を確かめるように持ち上げ、そこに目を落とす。


「この炎は、俺だけのためにあり、俺だけのために世界をつくる。ただそれだけのためにあった。しかし、その燃える時は、どうやら終わりを迎えたようだね。実に喜ばしく、実にさみしく思う。自分の意志で心臓の

鼓動を抑えられないように、突然新しい未来はやってくる。いや、安心してほしい。俺は後悔していない。君が望む世界を存分に見せてくれ。これからよろしく頼む。黒炎」


「!」


今まで彫像(ちょうぞう)のように固まっていたその男が、ぐいんと動く。手足を動かし、私により近く迫った。

反射的に炎を手に集めて構える。だがその真剣さを裏切るように、右側についた腕をごく自然な運びで、スッと差し出した。


「・・・・・・なんのつもりかしら?」


「ん?これが何に見えるか分かるだろう?」


「そういうことを言っているんじゃないわ」


私はイライラと首を振り、一歩下がる。すぐ前に、無邪気に開いた手がピッと浮かんでいる。

まるで空間に固定されてしまったように、そこを動かない。どこからどう見ても握手(あくしゅ)

私はさらに一歩下がり、問いかける。


「説明しなさい。あなたの炎がどうの、世界がどうのなんて知らないわ。まずあなたがしなくてならないのは、何者で、何をしに来たか。そして、敵ではないのかどうか。その情報を差し出す事よ」


出現させた炎をさらに高ぶらせて、差し出された手を遮る位置に掲げる。顔をそむけるようにしてチラリと後方に視線を向けた。

人型ブグを消滅させた炎の影響で、出口が黒ずんで分かりづらい。展望室であるこの階にエレベーターはなく、階段でしか行き来できないようになっている。その階段は残念ながら扉で守られていたので、発見する必要があった。

クッ。転炎地なんて大技を出してからに!私は馬鹿野郎か!扉がどこにあるか全くわからないじゃないのよ!いつも後先を考えずに行動して!いい機会だわ、恥を知りなさい!


無意味な葛藤(かっとう)を悟られぬように、サッと視線を黒づくめの男に戻す。それから、ふと気づいた。


あれ、そういえばあいつはどこにいるんだろう?




「-------ううむ、確かに僕もそれを聞いてみたいと思う」


男性にしては少しばかり高めの声が、、頭上から聞こえる。ちょっと安心した。


「しかし、黒。今やらなければいけないことは、多分それじゃないよ」


「どういうこと?何か思いついたわけ?」


         -      -

         -      -

         ー      ー

         -      -


油断なく、天井に目を向ける。黒服の男の丁度真上に、カルロスはハットを片手で押さえ、もう片方の手をズボンのポケットにしまい、格好良く直立していた。いつの間に出したのか、黄緑色の炎を足に纏い、足を交差させている。

音もなく炎を燃やし続けることはかなりの技能を求められるが、彼にはそれをわけもなく作り出す才能があった。

あ~、ムカつく・・・いやそんなことはどうでもいいわね。私は疑問の目を注ぎ続ける。


「いつものことだよ。よく周りを見て」


周囲の様子を窺う。何も変わった様子はない。


「何もないわ」


「ハッハッハ。確かに何もないね!」


心からおかしそうにカルロスは肩を揺らす。そのひょうきんな動作は、私の機嫌をより悪化させた。


「・・・。」


押し黙った様子を見、カルロスはやれやれといわんばかりにポケットから手を引き抜いて、人差し指を顔の前で揺らす。


「ブグを退治した後、僕らはいつも必ずしていたことがある」


「だから何を!?」


とうとう苛立(いらだ)ちを抑えきれずに、叫んでしまった。


「逃げる」


「は・・・!?」


逃げるだって?私はポカーンとすることを余儀(よぎ)なくされた。すぐに顎を引いて黙考する。いつもしていたこと?


 ブグを空間から引きずり出して退治する。人に知られぬ内に終える珍妙で厳かな行為はこの一文で終了する。それ以上でも以下でもない。それ以下でもそれ以上でもない。儀式を終えたら、すぐ解散宣言を出してバラバラになる。


 今日も特に何事もなかったのであれば、踏みつぶされる哀れなぬいぐるみを買うため、適当な店を探すだろう。だがいろいろなことがありすぎた。

逃げるというのはそれらの異常に対し見て見ぬふりをするということか?何を考えているんだろう、カルロスは?

私は、逃げるということが死ぬよりも嫌いだと知っているはずじゃないか。よく気を配る彼にしてはらしくないな。


・・・いや、自分の事を心配しているだけかもしれないな。確かに、命からがらあの場所から助かった身だ。

これ以上の面倒はさすがにごめんだと思うのが普通だろう。・・・責めはしない。むしろよく付き合ってくれた。

どうやらこの人物は私に用があるようだ。それに今炎を(まと)ってはいるが、あの物凄い奥義を出し、結界を張った彼はもうギリギリだろう。

焔魔を失敗した私には、何故か炎がだいぶ有り余っている。死ぬと思っていたが、運が良かったのだろうか。


とにかく、もう付き合う必要はない。そう伝えようと真っ黒に焼け焦げた天井を見上げる。



真っ黒、に焦げた。



「・・・。」


「淵術師というものは?」


私の顔が心の内を代弁してしまったのか、振っていた指と手を腰に当て、カルロスが聞く。


「・・・・・真実を探求するもの。決して人に知られずに」


「うん。そうだね」


ハットが顔の半分を隠しているせいで、口が楽しそうに緩やかなカーブを描いているのが目に付く。


「彼が何者かはよく分からないが、どうやら敵意はなさそうだ。あれば僕のソリテは反応している。」


「敵意?あるわけないじゃないか」


黒い男は差し出していた手をすっと引込め、不思議そうな顔をする。


「俺を呼んだのは君たちだろう?」


「うーん。すまない、僕にも、もちろん彼女にもそれはよく分からないんだ」


「わからない?」


「ああ。しかし時間がない。黒、僕はこの御仁を本部に紹介することが無難(ぶなん)だと判断する」

提案しつつも断言するような力強さがそこにある。


「そうね。私たちでは解決できない。・・・仕方ないか」


私は目を男に戻して、


「そういうこと。悪いけどあなたには強制的についてきてもらうわ」


手の炎をさらに強くし、その意志が頑なであることを示威する。

それを見た黒い男は逆に呆れたそぶりで目をパチクリさせた。



「ふーん。何かひどい思い違いがあるようだね。いいよ。ついていくよ。なんとなくこういう展開を予想していなかったといえば嘘になるしね。理解は安全と安心が保障されている舞台でしか成り立たない。そういうものだ。では、いこうか」









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