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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夕闇の落ちる頃

作者: 今宵 侘

私は、夕日が好きだ。


空を美しい茜色に染め上げる、夕日が好きだ。


暮れ落ちる太陽が私を感傷的にさせる、夕日が好きだ。


私の隣に立つ想い人に頬が赤くなるのを悟らせないようにしてくれる、夕日が好きだ。


私の名前にも入っている、夕日が好きだ。


夕焼けこやけのメロディが町の空気を満たす、夕日が好きだ。



私は夕日がいっとう好きだ。


私が真っ赤な血に濡れていても、私を目立たないようにしてくれる夕日が、好きだ。


地面についた血の赤と空の赤が絡み溶け合い、鮮やかな紅い海となって私を沈み込ませてくれる夕日が、好きだ。


―――大好きなモノに囲まれて命を終わらせる私は、きっと誰よりも幸せなんだろう。


でも…私はそんな幸せを望んだ訳じゃない。


だから、せめて私は皆を道連れにしよう。


皆と一緒に幸せになれたら、私ももっと幸せになれると思うから。


だから、私は……私は皆を――――――







――――――殺してやる




~~~~~~




陽炎が揺らめく夏の日――――夕美が、死んだ。


日も落ちかけた夕闇の時間、彼女から「話がある」とメールで呼ばれた俺は、彼女の指定通りに宝来山の景勝断崖までやってきた。

景勝断崖は俺の住む町ではその名の通り町を一望できる景勝地で知られ、また20m以上の絶壁を利用した自殺者が相次いだ過去を持つ場所でもある。


静かで落ち着くということで夕美との逢瀬の場として何度か二人でここを訪れていたのだが……俺はそこで、過去の自殺者と同じように吹き出した血に染め上げられた夕美を発見してしまう。


断崖のふもとに真っ赤に咲く夕美を見た瞬間に俺の頭をよぎったのは、「どうして…?」という思い。

俺は気付かぬ内に彼女に何か重圧を与えていたのだろうか…いや、夕美に限ってそんなことは無いはずだ。

つい先日まで元気に笑っていた彼女の笑顔にかげりなど無かったのに……。


何故、何故、何故――――俺の疑問ははちきれんばかりに膨れ上がり、夕美の告別式が終わっても涙を流すことすら無かった。

頭の中では薄情だ、冷徹だと自分を罵りながらも、俺は考えることを止められなかった。

黒いモヤモヤとしたものが俺の中でうごめき、


――真実を突き止めろ――


そう言い続けられているような気持ちの悪い感覚。


脅迫に近いようなその感覚に後押しされた俺は、どうして夕美が死ななければならなかったのか……その理由を突き止めることを胸に決めた。

あくまでこれは夕美の無念を晴らすため…と自分に言い訳めいた考えを自身に押し付けながら――――




夕美の告別式が終わった帰り道、俺のように礼服の代わりに高校の制服を身に纏って式に参加していた女子に声をかける。


「あの、ちょっと良いか?」


俺の声に足を止めたのは三人の女子。

真ん中の派手な化粧をしているのが橋田、その両隣に居るのが彼女の取り巻きである岸と海藤だ。

この三人は夕美とよくつるんでいて、夕美からも度々彼女達の話題を口にしていた。


「…なによ?」


橋田が特徴的なツリ目をさらに吊り上げて俺を見る。

俺はそれに気圧されそうになりながらも、質問をする。


「どうして夕美が自殺したのか、何か心当たりは無いか?」


「…アンタ、ホントに何も知らないの?」


信じられない、といった顔をする橋田に俺はさらに詰め寄る。


「どういうことだ? 何か知っているのか!?」


「本当に知らないのね……行くわよ」


橋田は俺の問いに答える事無く行ってしまった。


彼女たちは、明らかに何かを知っている…俺の知らない、夕美の何かを。

本来ならしつこく橋田達を問い詰めるべきだったのだが、俺にはただ見送ることしかできなかった。


胸の奥に宿る、わずかな疼きを感じたまま……





次の日の昼過ぎ、寝ぼけ眼で点けたテレビのニュースを見た俺は一気に意識を覚醒させることになる。

橋田の取り巻きの一人である岸が、何者かによって惨殺されていたというのだ。

死亡推定時刻は前日の午後六時を過ぎたあたりで、凶器はまだ見つかっていないらしい。


これは、偶然なのか…?

ただ単に通り魔に襲われたと言えばそれまでなのだが…俺にはそう思うことが出来ない。

昨日岸と会話したということで警察に電話で軽い事情聴取を受けた俺は、その間も睨めつける様な橋田達の目を思い出していた。



俺が感じた不吉な予感は、間もなく的中することになる。



岸が殺された次の日も、またその次の日も同じような惨殺死体が相次いで発見されたのだ。

さらに殺された二人には面識が無かったものの、両人とも夕美と同じ部活に入っていたという事実が、夕美には関係ない事件だという希望的観測を完全に否定する結果となった。


警察による関係者への連日の事情聴取も功を成すことは無く、また一日が過ぎた。


そして、橋田のもう一人の取り巻きである海藤が殺されたというニュースが俺の耳に入ってきたその日、俺は橋田に呼び出された。



教えた記憶の無い電話番号により一方的に近場のファミレスに呼ばれた俺は、放課後になると一旦家に帰ってからその場所へと向かう。


正面から照りつける斜陽に目を細めながら歩いてゆくと、家に囲まれた目の前の十字路を人影が横切る。


「っ…! アンタ、なんでこんなところにいんの…!?」


そこに居たのは、橋田だった。

どうやら、同じ目的地へ向かう途中で鉢合わせようだ。


「なんでって、俺はお前に呼ばれた場所に向かってたんだが」


「そ、そうだけどっ…アタシ一人じゃ…」


そう言い、橋田は少しだけ後ずさる。

その目には明らかに恐怖の色が浮かんでいる。


「お、おい、どうしたんだよ一体?」


俺の問いかけにも、橋田は顔を俯かせるようにしたまま反応が無い。


しばらく互いに無言の状態が続いたが、やがて橋田が意を決したようにこちらをキッと睨みつける。


「もういい、単刀直入に言ってやる!!アンタ、全部知ってるんでしょ!?」


「…は?何を言って―――」


「トボけてんじゃ無いわよ!!惠美が死んだのも、夏希が死んだのも全部アンタが…アンタのせいなんだっ!!」


「ち、ちょっと待ってくれ!俺には何のことか全く―――!?」


ヒステリック状態の橋田を落ちつかせようと口を開いた瞬間、頭の奥に激痛が走り頭を抱えてうずくまってしまう。


何だ、何なんだこれは。


脳みそを掻き回されるような痛みが波のように押し寄せ、未だ喚き続ける橋田の甲高い声が頭の中で反響する。


朦朧としていく意識の中、地平の向こうに沈んでいく夕日が残像のようにまぶたの裏に焼き付いていた。



意識が途切れる間際―――私は連日起こる惨殺事件が決まって今と同じ時間帯だったことを思い出した。



開けていないはずの視界の隅に、鈍い銀色のきらめきを見た気がした。





「う……どうなったんだ、俺は?」


目を覚ましあたりを見回すと、そこは先程と変わらない十字路。

そして俺の目が真っすぐ前を捉えたとき―――俺は戦慄する。


そこに転がっていたのは、紅く染めあげられたナニカ(・・・)


もはや人間としての原型を留めておらず、肉のカタマリとしか言えない程に切り刻まれたそれ(・・)はきっと、さっきまで俺に喚き散らしていた橋田なのだろう……。


かろうじて顔と分かる部位を見やると…目玉がくりぬかれた後の空洞と目が合い、猛烈にこみ上げてくる吐き気と再び起こる頭痛。

思考不能となった頭を押さえながら、俺はただただこの場から逃げ出すことを選んでいた。



その姿を血走った目で睨みつける、おぞましい視線にも気づかず……



息も絶え絶えになりながら家に戻り、自分の部屋のベッドにうずくまり、回らない頭で必死に多くのことを考えていた。


何故、あんな常軌を逸した真似が出来るのか、何故俺は殺されなかったのか、何故、何故……

深く考えようとする度に起こるこの頭痛も、この事件と関係あるのだろうか……


事件、か…いや、待てよ?



これは本当に人間・・()こしている(・・・・・)事象・・なのか…?


果たして、夕美の関係者の中であんな人間離れした所業ができる者などいるのか…しかも毎日殺人が起こっているのに、一向に犯人が捕まる兆しもない。



では、夕美自身・・・・()犯人・・だと仮定すればどうだろうか。


死人が人を襲うなんて非科学的な話だが、ただの人間がやったと言うよりはよほど信じられる話だ。

そして、あの十字路で俺を殺さなかったのは恐らく―――俺を最後に殺す、というメッセージなのでは無いのだろうか…?


俺は新たに生まれた恐怖に体を震わせながら、それでも夕美と向き合わなければならないという決意を胸に抱いていた。




橋田の死から一夜が明けた。


橋田の死体は彼女の知人によって発見され、通報がなされたようだ。

本来は俺がその役割を負わなければならなかったが、橋田のことを気にする余裕も無かったし、今だってそれどころでは無い。


この日俺は体調不良の名目で学校を休み、日も傾きかけた夕方の時刻に家を出た。


向かう先は、景勝断崖。

そう……夕美がその命を散らした場所である。


断崖のある宝来山のふもとまで自転車をこぎ出し、そこからは整備されていない道に生える雑草をかき分けるようにして進んでゆく。

木々に囲まれ窮屈だった視界は、やがて断崖にたどり着くことで一気に解放される。


目下に広がるのは先程まで俺が居た町。

豆粒ほどに小さく見える人々や車が動き回っているのが見える。


目線を上げると、燃えるような赤をした太陽が真正面から全てのものを煌々と照らしている。

断崖の上であるこの場所も、ここから見ているとまるで別世界にいる様に思えてしまう眼下の町も、平等に赤い光を浴びるこの光景が俺は好きだった。

特に夕美と、沈んでいく太陽とそれに伴って黒く染まっていく景色を眺めるのがいっとう好きだった。



どうして…どうして死ななければいけなかったんだ……


「俺に償えることがあるのなら、お願いだから教えてくれよ、夕美……」


漏れるように俺の口から出た呟き。

誰も答えることは無いはずの問いかけだったのに―――


「―――じゃあ、死んで償えや」


真後ろから掛けられた声に反射的に振り向くと、そこには腕を振り上げる男の姿。

とっさにかばう様にかざした右腕に、鋭い痛みが走る。


痛みに顔を歪ませながら飛びずさると、痛みを訴える右腕からは大量の血が流れている。

男の方を向くと、彼の手には太陽に照らされ鈍く光る包丁が握られている。


「お前、一体誰なんだ!?何でこんなことをするんだ!?」


俺に切り付けてきた男は俺と同じ学年だった位の見覚えはあったが、面識は無かったはずだ。

しかし、彼がこちらを睨む瞳には強烈な憎悪が宿っている。


「俺は、俺はなぁっ、由香の――橋田のカノジョだったんだよ…! それを、それをお前はぁっ!!」


「ち、違う!!橋田を殺したのは俺じゃない!!」


再び切り付けてくる男を必死でけん制しながら、俺は男の勘違いを訂正させようと必死に説得する。

だが、男の口にするセリフは俺にとって余りにも不利なものだった。


「しらばっくれんじゃねぇ…俺はてめぇが由香をバラバラにした後逃げてく所を見てんだよ!」


「っ…!!あ、あれは違うんだ」


「何が違えってんだよ!? 由香が『事件の犯人を追いつめるから』って言われてファミレスで待機して…遅いと思って探し回ったら……ちくしょおおおおおおお前も殺してやるぅぅうう!!」


がむしゃらに包丁を振り回す男から逃げ惑いながらも、俺は言葉を返す。


「俺は犯人じゃないっ!!橋田が殺された時もたまたま居合わせただけだ」


「てめぇ…まだしらばっくれんのかぁ……」


「しらばっくれるも何も―――」


「―――由香の前で血だらけで笑ってた奴が言い逃れできると思ってんのかぁっ!!?!?」



――――――え?


なんだ、それ。


俺は血だらけになんて―――



一瞬の思考の静止により逃げ遅れた俺は、男の振り下ろされた包丁を避けることが出来ず、また反射的に手を前にかざす。

しかし、今回はほぼ偶然と言って良いタイミングのおかげで男の腕を掴むことができ、そのままもみ合いに発展する。



地面に引き倒され、包丁をこちらに突き出そうとしてくる男を懸命にいなす。

わずかな隙をついて男の腹を蹴り上げ、男の手の届く距離からすばやく離れる。


よろよろと立ち上がろうとする男の背には、断崖。


そして俺は、考える間もなく男に再び接近し―――思い切り突き飛ばした。



驚愕の表情を浮かべた男はそのまま空中に投げ出され、俺の視界から一瞬で消えていなくなった。


ドチャッ、と鈍い破裂音のようなものが響き渡る。



俺は、荒くなった息を整えるのも忘れ、恐る恐る崖の下を覗き込む。


そこには、自重のせいで激しく潰れた赤い物体が飛び散っていた。




なんだ、これは。



違う、違う…嘘だ、こんなの。


俺は―――()()とす(・・)感覚・・()っている(・・・・)…?



なんだよ、何なんだよこれ!?


俺は、夕美を殺したって言うのか…?



いや、いや、気にするのはそんなことじゃない(・・・・・・・・・)


こんな…発狂しそうになるくらいの状況の中で――――――




―――――どうして、俺は笑っているんだ……?




また襲ってくる頭痛の中で、俺のなかにあるはずの無い―――いや、()()めていた(・・・・)記憶が、今見ている景色と重なっていく。


そこには、断崖の上に立ち涙を流す夕美の姿。


俺は、夕美に向かって手を突き出し―――――


「は…はは、ははははははははっはははは、うぐぁ、はははははっはははははははははははははっははっはははははははははははっはははひひひひは」


どんどん激しくなってくる痛みの波に反して、俺の口から漏れ出る笑いの声は止まらない。


「ひひふはははははは、あがっ、おぇ、ぐ、は、あは、あはははははははははははははっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははひへへぅふはははははははははははははははぁはははははは」


ああ、なんだ。


そうか、そうだったのか。


全部、全部全部全部全部分かったぞ。



「―――――やっと、思い出したんだね」


もう誰もいないはずのこの断崖の上で、俺は再び後ろから声を掛けられた。

でも、俺はそのことに何ら驚きも恐怖も感じなかった。


そして、俺は込み上げてくる笑いを抑えながら、よく知っているその声の方に振り向く。


「ああ、思い出したよ……夕美・・



俺の目の前に立つ綺麗な黒髪の少女が、こちらに小さく微笑みかけている。



「……私をしたことも(・・・・・)?」


「もちろん。 それが、すべての始まりだったから」


俺がそう答えると、夕美は目を伏し気味に俺の横を通り過ぎ、断崖の端へと歩みを進めた。


「綺麗だね」


「…うん、そうだな」


目の前には、すでに半分以上が地平に沈んだ太陽が、最後のともしびのように街を薄く照らしている光景が広がっていた。

さらに太陽が沈んでゆく太陽を互いにしばらく無言で眺めていると、夕美がおもむろに断崖下の地面を覗きこむように見下ろす。


「あの男のことも、本当は知ってるよね?」


「ああ、知ってるよ」


名前は忘れてしまったけどな。

そして俺は男が置き去りにした包丁を拾い上げ、夕美の隣に並ぶ。


彼女と同じように下を覗くと、体の所々ががおかしな方向に折れ曲がった男が倒れているのが見える。

やはり、何度見ても名前は思い出せない、思い出せないが――――――


俺は包丁を頭上高くまで持ち上げる。

そして、一気に腕を振り下ろすと共に包丁を手放す。


くるくると回転しながら加速し続けた包丁は、


ダンっ


という音を立てながら男の顔に突き刺さり、そこから鮮血を噴出させる。

ぱっくりと割れた頭蓋を見、これで万一にも男が生き延びる可能性は無いだろう。


「そこまでするなんて、ひどいなぁ」


夕美の言葉は俺の行為を咎めるというよりは、俺へのからかいの響きを多分に含んでいた。


「本当はもっとバラバラに切り刻んでやりたかったんだけどな…まあこの位で我慢するよ」


そう言う俺の顔は、きっと醜く歪んでいるに違いない。

まるで――いや、本物の殺人鬼のようにおぞましい表情なのだろう。


「これで、終わったんだね」


「うん…そうだ、これで全て終わり」


そう、終わったんだ…俺と夕美の物語は、今日で完結する。

そのことに俺は微かな胸の痛みを覚える。


「夕美……ごめんな?」


「ふふ、なによ今さら。 もう手遅れなんだし、謝られても困るよ」


「じゃあ俺を…俺のことを許してくれるか?」


「もちろん。 許すも何も、こうなったのは全部私のせいなんだから…むしろ、謝るのは私の方」


「それは違う!! 悪いのは全部、全部アイツ等だ!!」


感情を爆発させる俺に、夕美は寂しげに微笑みかける。


「ううん、そうじゃないの…少しだけ、私の話を聞いてくれる?」


太陽が沈みきった錆色の空を眺めながら、彼女は自らの過去を語り始めた。



―――――私はね、橋田さん達にずっといじめられてたの。


それである日、私は橋田さんに男子への告白を強要された。

あなたがその相手として選ばれたのは、橋田さんのただの気まぐれだったんだ。


橋田さんにとって予想外だったのは、あなたが本当に告白を受け入れてくれたこと。

そして、優しいあなたに私が本気で恋をしてしまったこと。


それである日、私は橋田さんに言われたの…あなたと別れろ、って。

その時、私は初めて橋田さんに逆らったの。

どんなに脅されても、暴力を振るわれても、それだけは…あなたと離ればなれになるのは嫌だったの…!


言うことを聞かない私に痺れを切らした橋田さんは、彼女の用事に一日付き合うというのを交換条件に、あなたと別れるのを強要しないと約束してくれたの。

私はその話に喜んで乗った…自分がその後どうなるかロクに考えもせずに。


橋田さんの家に連れ込まれた私は、彼女のカレシであるあの男に―――犯された。


私は、まんまと橋田さんの策略に嵌っちゃったんだ…そして、あなたともう一緒にはいられないと思った

私は、あなたをこの場所に呼び出したの――――



「…どう? 軽蔑したでしょ?」


自嘲するように言う夕美。

しかし、俺の感情は自分でも不思議な程に動かなかった。


「いや…大体は分かってたからな」


「…そっか」


「それに、もう終わったことに何を思っても無駄だって気付いたからな」


夜に包まれた断崖。

夕美の横顔を見ても、その表情を伺うことは出来なかった。


「じゃあ、そろそろ仕上げをしないとね」


「ああ、そうだな…本当は、俺も断崖から飛び降りる予定だったんだが、先客がいるからな」


「それなら、夕日が綺麗な場所を探そうよ。 この事件のフィナーレにふさわしい場所を」


「そうだな…一緒にいこうか、夕美」


「うん…ずっと一緒だよ?」


「もちろんだ」





そうして断崖の上の影は姿を消す。


その後、彼の姿を見た者は誰もいない。


この町で起こった一連の猟奇殺人は、事件前夜に忽然こつぜんと姿を消した一つの死体の噂と共に、都市伝説として語られる事となる。





~~~~~~




俺は、夕日が好きだ。


空を美しい茜色に染め上げる、夕日が好きだ。


暮れ落ちる太陽が俺を感傷的にさせる、夕日が好きだ。


俺の愛しい人の名前にも入っている、夕日が好きだ。




俺は夕日がいっとう好きだ。


俺が真っ赤な血に濡れていても、俺を目立たないようにしてくれる夕日が、好きだ。


地面についた血の赤と空の赤が絡み溶け合い、鮮やかな紅い海となって彼女を沈み込ませてくれる夕日が、好きだ。



美しい朱と紅に彩られた彼女は、どんな彼女よりも美しかった。


だから、俺は彼女を苛む汚物どもの血でこの町ごと彼女を赤く染めてやろう。


もっと綺麗な彼女を見る為に、彼女の為に。


だから俺はみんなを――――――





――――――殺してやる




Fin.

あんまり怖く無くてごめんなさい…楽しんで頂けたら幸いです



活動報告で話の解説的なものを書いておきましたので、ネタバレOKな方は是非ご一読ください


http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/218014/blogkey/527509/

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんわ、晴人です。  夕闇の落ちる頃、読ませていただきました。登場人物の描写が解りやすく、話の進み方が早く面白かったです。
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも更新頑張ってください(*^-^*)
2012/08/20 13:34 退会済み
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