序章 悪夢
序章
何時からだろう? あの夢を見るようになったのは……
蛍光灯の光で照らされたフローリングの部屋、奥のほうのキッチンからは湯気が立っている。
家族四人ぐらいが一緒に食事を取れそうなテーブルが真中にあって、その上に幾つかの料理が並んでいる。
―――そして床には赤い水溜りが出来ていた―――
僕の足元まで流れてきている。その赤い水を目で辿っていくと、部屋の隅のドアから流れ出していた。
それを見た僕は、そのドアに向かって、ゆっくりと歩き出す。
頭の中で嫌というほどの警鐘が鳴り響いているのに、足は僕の拒絶を無視して歩いていく。
―――赤い道を辿って―――
―――赤い水に誘われて―――
―――理性を無視して歩いていく―――
ドアに一歩、近づくたびに何なのかも解らない。恐怖が心を侵食していく。その恐怖が心を全てを侵食しようとする寸前で、僕はドアの一歩手前まで辿り着いた。たった一歩足を動かせば、首を動かすだけでドアの奥を見える。それなのに体は動かない。
ただゆっくりと俺の目線は、下に降りていく。嫌だ、嫌だと、頭の中では警鐘が鳴り響いているはずなのに目線は下へと下がっていく。そうして僕は見てしまった。
ドアの方から少しずつ出てくる人間の指を……それは段々と僕のほうに伸びてくる。
手は赤い液体で染められていて、その手からはポタポタと血が滴る。
それが僕の足を掴んで、僕は夢から覚める。