プロローグ
大切な、大切なお嬢様。
幼い頃、家族に捨てられた私に手を差し伸べてくれたのは彼女だけだった。優しくて温かな温度を持つ彼女の手。私は神様が本当にいたとすれば、こんな温度を持っているんじゃないかと思ったくらいだ。
だから、この先、私は何があってもお嬢様の味方で、いつも彼女の幸せを願っていよう。
そう思っていた、しかし、それはもう過去形になってしまっている。
原因、いや、元凶は何なのかよく分かっている。
あの男、トーヤ=シノノメっ! ぽっと出の正体不明の男に彼女は夢中なのである。こちらの常識が通用せず、異世界から来たなどとのたまう不審者そのもの!
しかし、他の者までこの国にとって大事な存在などとあっさり言ってのけるものだから、その頭シェイクしてローディス川の底にでも捨ててやろうかなんて言いたいくらいだ。いいえ、もちろんしませんけれど。お嬢様が悲しみますからね、絶対に!
嫉妬でも何とでも言えば良い。彼女にはここの国の方と幸せになってほしいのだ。
唐突に現れたということは、唐突にいなくなると言うことと同じなのですよ? 辛くなるのはお嬢様、貴女ですのに、だから、どうか。
どうか、恋慕なんて捨てて、そんな辛さを味わうことなどないのです。
お嬢様、どうか、貴女の幸せを。
そう思っていたのに、何で、何でっ!?
あなたは私の前によく現れるんですか、こんちくしょう!!