悪役令嬢は婚約破棄をライブ配信しました
「公爵令嬢アメリア・ローゼンベルク!」
王城の大広間に、第一王子エドワードの声が響き渡る。
「私は、お前との婚約を破棄する!」
貴族たちが一斉に拍手を送る。
王子の隣には、涙ぐむ男爵令嬢ミリア。
「アメリアはミリアを何度もいじめた! そのような悪女を王妃にするわけにはいかない!」
「まあ、なんて酷い令嬢……」
「あれが噂の悪役令嬢か」
周囲は完全に王子の味方だった。
しかし。
当のアメリアだけは、にこりと笑った。
「はい。存じております」
「……何?」
王子が眉をひそめる。
「婚約破棄なさることも、私を悪役に仕立てることも」
「強がりはよせ!」
「強がりではありません」
アメリアは胸元のブローチにそっと触れた。
カチリ。
小さな魔法陣が輝く。
アメリアには前世の記憶があった。
日本という国で動画配信サイトを見るのが好きな、ごく普通の会社員だった。
(ライブ配信って便利だったのよね)
転生して最初に思ったのは、それだった。
この世界には「記録水晶」がある。
音や映像を保存できる高価な魔道具。
「なら、生中継もできるんじゃない?」
研究好きだったアメリアは十年かけて魔道具を改良。
映像を魔力通信で飛ばし、各地の映写水晶へ映す装置――
『ミラーネット』
を完成させていた。
最初は料理番組。
次に演劇。
旅番組。
闘技大会。
今では国中の酒場や広場、貴族の屋敷に映写水晶が設置され、多くの人々が毎日視聴している。
そして今日は。
「王太子殿下の卒業記念式典を生中継します!」
と宣伝してあった。
視聴者数。
約三百万人。
「殿下」
アメリアは微笑む。
「ちなみに今、この会場は全国へ生中継されています。」
「…………は?」
王子が固まる。
会場中が静まり返った。
「な、生中継?」
「ええ」
アメリアが指を鳴らす。
天井近くに浮かんでいた小さな水晶が一斉に光り始める。
魔法映像が巨大なスクリーンへ映し出された。
そこには。
驚いて口を開けた王子自身の顔。
画面の端には文字。
【現在視聴者 3,284,517人】
「…………」
王子の顔が真っ青になる。
酒場では。
「おいおい、生放送かよ!」
市場では。
「続きが気になる!」
地方都市では。
「王子様映ってる!」
国中の人々が画面に釘付けだった。
コメント表示用の魔道具には次々と文字が流れる。
『始まった!』
『婚約破棄って本当?』
『王子イケメン』
『アメリア様かわいい』
『修羅場だ!』
王子は慌てて叫ぶ。
「き、切れ! 映像を止めろ!」
「申し訳ありません」
アメリアは優雅に一礼する。
「ライブ設定ですので。止められません」
「なっ!」
王子は取り繕うように咳払いする。
「ともかくだ! アメリアはミリアへ嫌がらせをした! 証人もいる!」
アメリアは頷いた。
「ええ。証拠ならございます」
「何?」
彼女は別の水晶を取り出す。
映像が切り替わる。
そこには廊下。
ミリアが自分で転び、
「ああっ!」
と言いながら自分で花瓶を割る姿。
さらに。
「これでアメリア様のせいになりますわ」
と笑う姿まで映っていた。
会場が静まり返る。
「……え?」
「え?」
ミリアも固まった。
続いて。
王子とミリアが手をつないで密会する映像。
「卒業したら婚約破棄しよう」
「はい、殿下♡」
「悪役令嬢に全部押しつければいい」
全部、音声付きだった。
全国が騒然となる。
『えぇぇぇ!?』
『王子最低』
『浮気じゃん』
『証拠強すぎる』
『全部録画されてるwww』
『これは言い逃れ無理』
コメントが滝のように流れる。
王子は怒鳴った。
「ね、捏造だ! そんな映像は偽物だ!」
アメリアはまた微笑んだ。
「では。こちらをご覧ください」
今度は王子自身が贈った手紙。
『卒業式まで秘密の恋を続けよう』
本人の署名入り。
王子は膝から崩れ落ちた。
「終わった……」
王都中の新聞はすぐにこぞって速報を出した。
【婚約破棄、生中継される】
【王子、不倫発覚】
【悪役令嬢、完全無実】
【史上最大の公開処刑】
ミラーネットでは録画版が何度も再生された。
一千万回再生を突破。
流行語は、
『婚約破棄生中継』
になった。
数日後、国王が頭を下げる。
「アメリア嬢……本当に申し訳なかった。」
王子は王位継承権を剥奪。
ミリアも国外追放。
「どうか王家へ戻ってきてほしい。」
国王は懇願する。
アメリアは笑って首を横に振った。
「遠慮いたします。今、とても忙しいのです」
「忙しい?」
「はい」
秘書が書類を持ってくる。
「配信予定です。」
『ドラゴンと行く秘境温泉』
『スライム100種類食べ比べ』
『勇者24時間密着』
スポンサー契約。
広告収入。
魔道具販売。
どれも王国予算に匹敵する利益を生み出していた。
「私は配信会社の社長ですので」
それからというもの、ミラーネットは更に世界中へ広がった。
王侯貴族も庶民も、同じ映像を見る時代。
「嘘はすぐ暴かれる」
「証拠は残る」
「誰もが情報をすぐに手に入れることができる」
そんな新しい常識が生まれた。
世界初の配信女王となったアメリアは、今日も画面の向こう側で完璧な笑顔を浮かべる。
「皆様、本日もご視聴ありがとうございます」




