青い宝石
ある町に青い宝石を売ることで有名な宝石店がありました。
その店にある青い宝石は、他のどの宝石より深い青色をしていました。海の浅瀬のような、深海のような、空が泣き出したような、とにかく見る者を虜にせずにはいられない色でした。
でも、店主以外はその宝石がどこから採れたものなのか誰も知りませんでした。
人々はこぞって店につめかけました。ここでしか手に入らない貴重な宝石を手に入れるためです。
ただ、誰が聞いても店主はこの宝石がどこで採れたか話しません。きっとどこかに秘密の鉱山を持っているのだと、人々は噂していました。それを誰にも言わずに独り占めしているのです。
あるとき、その秘密を探ろうと一人の男が店の中に忍び込みました。あわよくば、自分もその鉱山の場所を知って大もうけ出来ると思ったのです。
そこで男は見てしまいました。
薄暗い檻の中で、この世の者とは思われない美しい女が悲しげにぽろぽろと涙を流していたのです。
男は目を見張りました。
その涙は、こぼれ落ちると次々に青い宝石に変わっていくのです。
「まさか……」
男は驚いた声で呟きました。
すると、男に気付いた女が顔を上げました。
「誰?」
「俺は……」
宝石の出所を知りたくて忍び込んだなんて言っていいのかどうか、男は一瞬迷いました。
「助けて!」
そんな男に女は言いました。
「私は涙が宝石になるせいで、こうして閉じ込められているのです。ここから出してください」
女は必死に檻の中から男に向かって手を伸ばそうとします。
男はなんだか閉じ込められている女がかわいそうになってきました。
男は檻の近くにあった鍵を見つけて、檻の扉を開けました。
そして、女を連れ出しました。
男の手を握って、女は嬉しそうに笑いました。
こんなことをして大丈夫なのかと思いながらも、男は女の薄暗いはずの部屋に光が差したような笑顔に見とれてしまいました。
宝石の秘密を知りたいと、自分も手に入れたいと思って忍び込んだはずなのに、この女をもう泣かせたくないと、男は思いました。
そのときです。
「待て! この盗っ人め!」
声がしました。
この店の店主です。
店主は護身用のナイフを構えていました。
店主は男に突進しました。
ナイフは男の心臓を貫きました。
男は倒れました。
瞬間、女はこれまでにない、すごい勢いで泣き出しました。
自分を助けてくれようとした男にすがりついて泣き出しました。
女の目からは青い宝石が次々とあふれ出しました。
それはみるみるうちに周りを覆い始めました。
宝石店の店主も、宝石店も、町も、最後は国までも覆い尽くしてしまいました。
女がいつ泣き止んだか、どこへ行ってしまったのか、それは誰も知りません。
◇ ◇ ◇
「それが、この国で採れる青い宝石だって話さ」
「えー、それ本当?」
おじいさんのお話を子どもたちが聞いて不思議そうに首を傾げます。
「さあな、ワシもお前たちくらいの頃に聞いた昔話だからな。けれど、この国で宝石になるような青い石がたくさん採れるからそういう話があるのかもしれないなぁ」
おじいさんは言いました。
青い石が、その女の涙なのか、本当のところは誰も知りません。
ただ、涙のような青い石がこの国の深いところにたくさん埋まっているのは本当です。




