プロローグ ——腐った祝福の始まり——
誰かが死んでいた。
自分だった。
首から血が噴き、石畳が赤く染まっている。まだ意識があるのに、心臓が止まっていた。
その映像が消えた瞬間、目が覚めた。
石畳。崩れた建物。遠くで黒煙が上がり、焦げた臭いが鼻をついた。戦場の跡だ。
腰に剣があった。鞘から引き抜いて立つ。また転生した。だが冒頭の映像だけが引っかかっていた。
足音が来た。複数。速い。
瓦礫の影から兵士が飛び出してきた。剣を正眼に構え、目が血走っている。間合いが詰まる。刃が振り上がった。
頭の奥で何かが軋んだ。意図したわけではなかった。
自分が首に刃を受けて倒れている。頸動脈が断たれ、血が石畳を染めていく。熱さが冷たさへ変わる。喉が詰まり、息を吸うたびに気管へ血が入る。視界の端から黒が滲んだ——
体が横へ跳んでいた。
刃が石畳を叩く。火花が散る。
かわした。直後、握っていた剣が落ちた。指の力が一瞬だけ抜けた。
剣を拾う間もなく兵士が踏み込む。素手で腕を流し、距離を取った。
二人目が来た。三人目も続いた。
頭の奥が歪んだ。背後から刃を受けた自分と、頭部を砕かれた自分が同時に押し寄せてくる。どちらも同じ場所の、別の結末だ。痛みと後悔が重なった。
右の剣を払い、左の男の体重を利用して後ろへ投げた。足元の石が崩れて体勢が乱れる。何とか立て直した。
動くたびに何かが起きた。剣が落ちる。石が崩れる。煙が目に入る。どれも些細だ。だが積み重なり、じわじわと追い詰められていく。
傷はない。死んでもいない。
頭の奥に、死んだ自分たちの痛みだけが沈んでいた。
兵士たちが退いた。
その場にしゃがみ込んだ。体は無傷だ。だが今回の転生は、何かがおかしい。
瓦礫の下から声が聞こえた。細く、必死な子供の声だ。
石を退かすと、子供がいた。怪我はない。泣いていた。生きている。
それだけでよかった。
子供を路地の奥まで連れて行き、壁に背を預けた。兵士たちとの戦闘から、しばらく経っていた。
全身が裂けた。
首の右側から血が噴く。視界が赤くなる。脇腹が割れ、肋骨の間から熱い塊が滲み出す。右肩の骨が軋み、腕全体が悲鳴を上げた。さっきかわしたはずの傷が、まとめて来た。
両手を石畳につき、意識を繋ぎ止めた。血が手の甲を伝い、石畳に黒く広がる。
路地の影が伸びた頃、ようやく痛みが引いた。肉が閉じ、皮膚が戻っていた。人間の速さではない。血の痕だけが残った。
転生のはずだった。いつもそうだった。
だが頭に死の光景が入り込み、かわした傷が後から来て、傷口が勝手に塞がる。今回は、何かが根本から違う。
その感覚が、奇妙なほど重かった。
——足が動いた。それだけが、いつもと同じだった。
プロローグ あとがき
初めて書いた作品です。
拙い部分も多いと思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。




