7.魔法科学推進派
「なるほど。」
勇者は作られていること、勇者の力は魔物を体内に取り込ませていること、成功すれば勇者、失敗すれば死、そうした全てが捏造された歴史で隠されていること…全てを聞いたミリアムさんはそう呟いたきり黙り込んでしまった。
不意に不安に襲われる。もし、ミリアムさんが魔法科学推進派だというのが嘘だったら?歴代の勇者達のことはわからんが、俺達は国に良くは思われていない。本来だったら失敗したとして殺されるはずだったジュード。その後も不安定で幽閉して拘束しておかなくてはまた人を殺してしまうかもしれない。なぜか俺といる時だけは安定して人としての理性を保ち、必要な時には勇者の力を引き出すことができる。そのため勇者として認められてはいるが、人殺ししてるし、いつ暴走するかわからない。しかしプロパガンダは必要だ。その為に俺を偽物の勇者に仕立て、二年に一度のこの期間だけ、ジュードの安定を保ちながら旅をさせる。そんな経緯なんで俺は国が嫌いだ。いつ人を殺すかわからない勇者といつ反旗を翻すかわからない偽物勇者の俺らのスパイとして、ミリアムさんが嘘をついてる可能性だってある。早まったか…?心臓の音が大きくなった。俺の不安をよそにミリアムさんは憐れむような表情で口を開いた。
「三十年も隔離されてるからジュードくんはこんなに無口で口下手でビクビクしているのか…。」
「いや、それは生まれつきだ。いや、そこかよ。もっとこう、なんかあるんじゃないの?普通はさあ。」
「私のような天才はあなた方のような凡人の普通には当てはまらんものよ。」
自己肯定感高すぎて話が噛み合わん。
「で?私にそれを話してどうしようというんだい?」
「魔法科学推進派に協力したい。」
「ほう?」
「この旅で全ての洞窟のリミッターをアップデートしてもらう。旅が終わればまた式典がある。その時にそれを公表する。そんで俺達はお役御免だ。」
「浅はかだな。それは国を裏切ることになるだろう?何十年、いや、何百年も嘘をつき続けてた国だぞ?何某かまた嘘の理由をつけて君らはおろか、私らまで殺されると思うよ。」
「大丈夫だ。俺達には勇者がついてる。」
「ふぁえっ?!」
ジュードが間の抜けた声を上げた。見開かれた目は怯えで曇り、涙で潤んでいる。これはよくない。
「にっ人間を、あっあっ、こ、殺すのは嫌だっ!無理っ!できないっ!うええ…」
ジュードが泣きながら俺の肩を掴んだ。取り乱して力加減ができてない。離れて暮らしているせいで俺も兄弟の距離感がおかしいが、三十年間幽閉され、人間扱いされてないジュードは気をつけていないと自分が大人になっていることを忘れてしまう。俺よりでかいほぼ熊となった今、七歳の時の気持ちのままで力加減なく掴まれたら俺の肩が壊されてしまう。
「落ち着け。そんなことさせない。俺らのことわかってる奴らはみんなお前の強さを恐れてる。だからお前の存在だけで充分脅しの種になるんだよ。」
「楽天家なんだな、偽物君は。」
呆れたようにミリアムさんが言う。
「前向きなんだよ。あと俺の名はオリヴァー、楽天家じゃなくて酪農家だ。」
「オーケー、オリヴァーくん。全ての責任を君達勇者が取ってくれるなら…まあ悪くないかな。」
そういうとミリアムさんは右手を差し出した。俺はその手をガッツリ握りしめた。
「交渉成立だ!」




