4.勇者
「うわあっ!」
今日も自分の悲鳴で目を覚ます。怖い…怖い…手…手を洗わなきゃ…血…血を落とさなきゃ…じっと手を見る。ついてない。血はついてない。ああ、また。勇者になったあの日から…人を…人を殺めたあの日から毎朝これだ。
「もういい加減手放せよ。」
頭の中であの声がしてる。これも毎朝のことだ。チリチリと焼け付くように皮膚が痛む。
「嫌だ。」
体が裂け、炎が上がる。
「うっ…ぐっ…。」
内側から焼かれる痛みは耐え難いが、こいつに流されたら俺はもう終わる。
「俺を抑えるのは大変だろ?だってお前は出来損ないだもんな。関わった奴ら全員そう思ってんぜ?あの時死ねばよかったのにってな。なあ。辛いだろ?出来損ないの癖に、僅かばかりの意識を必死で守って勇者やってんのにこんなところに閉じ込められて、毎晩人を殺した夢に怯えて。意識なんか持ってたらそんな嫌なことばっかりだ。だから、な?捨てろよ?さっさと意識なんか捨てて、俺にこの体を自由に使わせろよ?」
苦痛が判断を鈍らせる。全くその通りだと思ってしまう。三十年前からずっと地下の牢獄に鎖で繋がれて、毎晩悪夢にうなされて。こいつのいう通りだよ。本当に、何の為に生きてんだ?俺。こいつの声にうんと言って仕舞えば楽になれるのかな?手放したっていいのかな?思考が黒く濁ってくる。
「ぐっ…うわああああああっ!」
体を引き裂く炎は強くなり痛みが増す。体が俺の形を捨てようとし始めてる。むりかも。もうこのままかんがえるのをやめればぜんぶおわれる。あいつにすべてをあけわたせば。じぶんがきえてってるのがわかる。もういいかな。このまま…このまま
「ジュード!帰ろう!」
だれ?
「おい!逃げろ!失敗だ!そいつは魔物憑きになった。殺さねばならん。」
うるさい
「そんなのダメだ!こいつは…ジュードは俺の弟なんだから!」
だれ…
「たすけて」
「ジュード…お前その姿…いや、どんなでもお前は俺の弟だ。絶対に助ける。一緒におうち帰ってご飯食べよう。」
かえる?
「子ども!貴様どこから?いいから離れろ!そいつをこちらに渡せ!」
あ、にいちゃんだ
「くそっやめろ!離せ!」
にいちゃんになにを
あ
いたいいたいいたいいたいくろいのなにこれくらくなるたすけてやだこないではいってこないでもうやだいたいいたいよにいちゃんたすけておうちにかえるにいちゃんとかえるかえるかえるかえるうううううううううああああああああははははははははっ!!!肉体だ!受肉成功だ!血だ!血をよこせえええええええっ!もっと!もっともっとだ!血を!血を捧げろおおおおっ!!!!殺せ!壊せ!全てを破滅に追いやれ!血を流させろおおおおおっ!
「うわっ!隊長殿ぉっ!」
たすけてこんなことしたくない
ひとごろししたくない
「ひっ…あっ…にっ逃げろ!殺される!殺されるううう!」
みえない
にいちゃんたすけて
「うわあああっ!」
「ジュード!」
「あ…あ…に…」
あのひかりが
「にいちゃん!」
そうだ。俺の意識はあの時兄ちゃんが繋ぎ止めてくれた意識。手放すわけにいかない。それにもう二年経つ。
「思い出したか?酷い目にあったよな?もう嫌だろ?俺が全部壊してやる。だから、死ね。」
「死なないよ。」
そしたら俺は
「もうすぐ兄ちゃんに会えるから。」




