2.オリヴァーとジュード
何が勇者だ。くそったれ。
この町の空気が嫌いだ。水が嫌いだ。音が嫌いだ。匂いが嫌いだ。町並みが嫌いだ。空が嫌いだ。地面が嫌いだ。つまり、この町全てが嫌いだ。それなのに二年に一度、この忌々しい中央都市センティシアに来なくちゃいけない。
「兄ちゃん。ごめん、待たせて。」
こいつの為に。義弟のジュード。おどおどと震える声で俺に謝るこの可愛い義弟の為に、俺は二年に一度、この苛立ちに耐えている。
「ジュード!二年ぶりだなあ!」
俺は満面の笑みで振り返る。そこにいるのは、五歳も年下なのに背はニメートルと俺より八センチ高く、分厚い胸板、太い腕、隆々とした筋肉質な体を持つ、遠目に見ればほぼ熊みたいな奴。これが俺の可愛い義弟。
「とっとと国王の謁見終わらせて何か上手いもん食いに行こうぜ。」
「ん。」
「それにしてもお前、また筋肉増えてねえ?兄ちゃんも仕事で結構体使うから筋肉あるつもりだけど、お前と比べると全然だな。」
「四十二なら十分過ぎるくらいだよ。」
ニコニコしてジュードが言う。四十二!お互い大人すぎるほど大人になってんな。初めて会った時、親父に手を引かれてたジュードはまだ三歳で、小さくてうるうると涙で目を潤ませて、不安そうに縮こまって震えてたのになあ。
「オリヴァー。この子は従兄弟のジュードだ。今日からここで一緒に暮らす事になった。」
俺より小さいのが俺と暮らす?
「それって弟?弟じゃん!やったあ!弟だ!」
人里離れた山あいの牧場には近所なんてもんはないし、早くに母を亡くしたせいで一人っ子だったから友達も兄弟もいない。そんな俺がずっとずっと求めていたもの。それが弟。嬉しくて、すぐさま駆け寄り、握手をしようとジュードに手を差し出した。
「よろしくな。ジュード。」
「ぁ…。」
ジュードは俺をじっと見つめ、凍りついたように動かない。そのうちに潤んでいた目は大粒の涙を落とし、震える小さな手は親父から離れ、崩れるようにその場にうずくまってしまった。
「ぅ…ぅぅ…。」
小さな肩が震えている。しまった!せっかくできた弟を早速泣かせてしまった!
「ごめんな。驚かしちゃって。ゆっくりでいいから。ゆっくり、仲良くなっていこうな。」
俺は慌ててジュードの隣にしゃがみ込み声をかけた。ジュードの小さな体が一瞬ビクッと跳ね上がり、その後何かが弾け飛んだかのように大声を上げて泣き出した。どうしていいかわからなくて、俺はそっとジュードの肩に手を回した。小さくて温かい震える肩。俺はこの小さな弟と共に育っていくのだなあと思っていたが…現実は残酷だった。
「兄ちゃん?」
ジュードが不安そうに俺の顔を見る。せめて俺といる時くらいはこいつにこんな顔をさせたくない。気持ちをグッと抑え込み、俺は笑顔で応える。
「さっさと行こうぜ。勇者様。」




