第9話『名付け』
狼を上から退かして、立ち上がる。
「キュイキュイ!」
いつのまにか部屋の隅に逃げていたウサギが、俺に駆け寄ってくる。
「そういえば、ウサギのステータスを見てなかったな」
・スピードラビット(幼体)
『No name』 信頼度6 Lv 1 /5 〈R1〉
HP/400 STR/90 VIT/50 AGI/50
『スピードラビットの幼体。進化するとスピードラビットに進化する。ごく稀に特殊なスピードラビットに進化することがある』
【スキル/ ーー 】
【アビリティ/ーー】
先ほど見た狼のステータスと比べると、やはりというか弱かった。
「ねぇ、名前つけてあげれば?」
「名前?」
「さっきからウサギウサギって、呼び方が雑じゃない」
たしかに、エリーに対して妖精妖精ってずっと言ってようなものだ。
そう考えたら名前がないというのは可哀想である。
「名前か……急に言われてもな。俺って名前考えるの苦手なんだよな。う〜ん、ウサギ。スピード。ラビット。召喚獣だから」
「ウサ助。ぴょん助。ラビ助。みみ助」
エリーのダサい名前の候補は無視して、俺は名前を脳内で纏める。
スピードラビットなんて名前なので、速さがありそうだ。きっと先制攻撃する役目になるはず。
「よし!決まった!今後は一番槍になってもらうって意味で『スピカ』にしよう!」
「槍ならスピアじゃないの?」
「スピカだ。一文字変えたほうがオシャレで良いだろ」
「そうかな?私の考えたウサ乃助の方が良いと思うんだけどね」
名前に喜んでいるのか、スピカも「キュキュー!」と元気に鳴いている。
「よし、次は……」
黒い狼を見る。強そうな見た目をしているので、騎士のように俺を守ってほしいという意味も込めて『ナイト』にしようかな。
「悩むなら本人に聞いてみる?」
そんなことを考えていると、エリーが俺が悩んでいると思ったようでそんな提案をしてくれた。
「本人?」
「そうこの子に要望を聞いてみるの」
「あ〜、なるほど」
エリーのアビリティの通訳で聞いてみようってわけか。
「それじゃあ頼もうかな」
「任せて!ねえ、どんな名前が良いか教えて」
「ガウガウガウガウ」
「うんうん、なるほどなるほど」
しっかりと話している。狼も名前についての要望があるようだ。
「ガウガガウ」
「えー、そうなんだー!」
「ガウガウガウガウ」
「うそ〜!やっぱりあの二人付き合うことにしたんだー!お似合いだと思ったんだよね!」
「ガウガウガウ」
「わかるわかる。ちょっと束縛するところあるよね」
和気藹々としたかんじで話しているけど、絶対に名前と関係ない内容だよな。
「なあエリー、狼は何て言ってるんだ?」
「名前は任せるって」
「うそつけ!そんな話してなかっただろ!絶対に誰かが付き合った話してただろ!」
余計なことをあれだけ話してたのに、結局は任せるのかよ。
「本当に任せるで良いのか?」
「うん。要約すると任せるって言ってるから」
「それなら俺が決めたナイトって名前で良いか?」
「ワウ!」
エリーを見ると頷いたので、ナイトで納得してくれたようだ。
メニューを開いて、召喚獣の名前が変わっているか確認する。
「名前は変わってるな……ん?なあ、エリー。このエリーの名前の横にある星マークってなんだ?」
「それはね、お気に入り機能だよ。召喚獣を一体だけお気に入りにできて、その召喚獣は戻らずにずっと召喚できるんだよ。それにどこにでも連れて行けるの」
「なるほど。……ならこれをナイトに変えってと」
「ちょ、ちょっとなんで変えようとしてるの?!」
鬼気迫る勢いで、メニューを操作する俺の手にしがみ付いてくる。
「当然だろ。日常生活でも防犯対策にもなるし、戦闘でもすぐに戦える。ナイトを召喚し続けるメリットのが多い!」
「絶対に私の方が良いって!私って可愛いから目の保養にもなるし、ナイトは店に入ったら大きいから邪魔になるでしょ!」
「ワウっ!」
エリーの言葉にナイトがショックを受けている。
「それに私のスキルとアビリティを使うなら、ずっと居た方がいいよ!」
「えー」
「えーん!お願いお願い!!私は知識もあるし、絶対に役に立つから〜!」
よほど俺と一緒に居たいのか、泣きながら机の上で蹲る。
「わかったよ。お気に入りはエリーのままにする」
「本当?!ありがと〜!マリー!」
勢いよく顔を上げると、俺に向かって飛んで来る。
うわっ、汚な!涙や鼻水で顔がぐしゃぐしゃだ。
「ありがと〜、ちーん!」
「あ〜!」
俺のローブに顔を擦りつけて、鼻をかまれた。
「ところで、私たちのステータスは見せたけど、マリーについて何も知らないんだけど。マリーは職業とかは何にしたの?」
「え?俺か?俺は召喚士と格闘家。それと合成士だな」
「は、はあああ?!」
エリーが物凄い顔をしている。
なんだこのアホを見る様な目は、ちょっと悲しい気持ちになってしまう。
「なななな、なんでそんな職業にしたの?!」
「ネットで聞いたらこれが良いって勧められたからさ。良いだろ?」
「う、う〜ん、そうだね。悪くないんじゃない」
煮え切らない返事をされた。
エリーは微妙なかんじだが、俺はネットの賢人たちを信じるぞ。
「そういえば、合成士だけスキルが使えなかったんだよな……」
エリーに聞こうと合成士の職業を確認すると、スキルが使えるようになっていた。
「あれ?合成ってスキルが使えるようになってる」
スキルの詳細を見てみると、召喚獣と装備を選択できるようだ。
どうやら二つのモノを合体させるのが合成のスキルの能力らしい。
一度使って試してみたいので、スピカと見習い格闘家の装備一式を選択する。
「早速、スピカと見習い格闘家の装備一式を合成してみようかな」
「ダメーー!!」
俺が合成のボタンを押そうとすると、エリーがまたしても必死に手にしがみ付く。
「それだけはダメー!」
「なんでだよ?!」
「そ、それは……合成すると、合成に使った召喚獣がしばらく召喚できなくなるからだよ!」
そう言うことか。今から冒険に行こうかと思っていたので、ここで戦力を失うわけにはいかない。
「そうだったのか。俺もちゃんとスキルを見ておけば良かったな」
「わかってくれたらいいよ」
エリーが俺の手から離れる。
「それじゃあ、エリー。準備は終わったし外に出るか」
マリアに最初にやるように言われていた。スキルの確認も終わった。
早く街の外に出てみたいし、モンスターとも戦ってみたい。
「うん!」
「よっしゃ!」
「その前にスピカたちを戻してあげてね」
「そうだったな。次に召喚する時は敵の前に召喚するかもしれない。すまないが頼むぞ!」
そう言いながら二匹の頭を撫でる。『任しておけ』と言わんばかりに吠える。
「よし!戻れ!」
地面に召喚陣が描かれて一瞬で帰っていった。
「マリー、先ずは冒険者ギルドに行ってみない?」
「そんなとこに行かずに一直線でモンスターがいるところに行ったほうが良くないか?」
「冒険者ギルドではクエストが受けれるの。ただモンスターのいる街の外に出るよりかは、ついでにクエストもした方がお得でしょ」
「なるほど、クエストか」
エリーの提案通りに俺はギルドに向かうことにした。