第8話『ウサギとオオカミ』
「うん、ウサギだね」
「うわ〜!可愛い〜!これが召喚獣か〜!撫でた〜い!」
「ちょっと待ってよ!」
ウサギを撫でようと手を伸ばすと、エリーに止められた。
「なんだよ?」
「私を召喚した時と反応違いすぎじゃない!」
「そうだっけ?」
エリーを召喚した時は、思っていた召喚獣ではなくて呆気に取られた。
言われてみれば、反応が悪かった気がする。
「ならもう一回エリーを召喚するから、それで良いリアクションをするよ」
「それ良い!それやって!」
「……」
「…………」
エリーが俺を見て固まる。
「早く戻してよ!」
「あ、ああ!俺が戻さないといけないのか!」
「そうだよ!私に向かって戻れって言って」
「おう、戻れ」
召喚陣がエリーの足元に描かれると、一瞬で消えてしまった。
「キュ、キュ!」
「うわっ!なんだ?」
「キュキュ」
エリーが居なくなると、ウサギが俺の足に擦り寄って来た。
「どうしたんだ、急に?ふふん、可愛いやつめ」
抱き抱えると、ウサギは抵抗もせずに身を任せてくる。
「うわ〜、あったかくてふわふわだ〜」
エリーを召喚しないといけない。でも今はウサギの体に頬を擦り付けよう。
椅子に座って、太ももにウサギを乗せる。
プルプルと震える体を優しく撫でてやる。
「ほらほら、気持ちいいか?」
頭や背中を撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じている。
ウサギからコリコリと音が鳴っている。
「なにこの音?!お前どっから出してるんだ?!」
耳をすませば、口から聞こえる。ウサギって口からこんな音が出せるのか……知らなかった。
誰かに教えたい。そうだ、エリーに教えてやろう。
「あれ?そういえば、どうやって召喚するんだ?えーっと、とりあえず最初にエリーを召喚したみたいに『契約召喚!』」
机の上に向かってスキルを発動する。
「あれ?」
召喚陣が明らかに大きい。
ウサギを召喚したときの五倍……いやもっとデカイな。
「まだエリーの可能性はある」
光に包まれて召喚獣が召喚のシルエットは大きな犬だ。
「いや、まだ着ぐるみを着たエリーの可能性はゼロじゃない」
「ガルルル……」
「やっぱりエリーじゃないかも」
この獣の唸り声を聞いて、エリーではないことは確信した。
光が消えると、全身が真っ黒で青い線が入った大型犬が座っていた。
「おいおい、凄いのを召喚したぞ」
この迫力と怖さは犬とは違う。まるで肉食獣のようだ。
「とりあえず、ステータス!」
・ナイトウルフ
『No name』 Lv1/10 信頼度1/10 〈R5〉
HP/1200 STR/ 400 VIT/300 AGI/300
『闇に生きる狼。暗闇でも獲物を狩ることができる眼と嗅覚を持っている。魔法で闇の壁を生み出すことが出来る。進化残り2回』
【スキル/闇の壁。 5秒間につきHPを10消費して闇属性の壁を生み出すことができる】
「な、なるほど。きみ、狼だったのか!」
「キュ、キュー!!」
「わっ!」
ウサギは撫でていた俺の手を振りほどき、暴れるので落とさないように抱っこする。
「キュキュ〜!」
ウサギは怯えているようだ。無理もないか、狼はウサギを食べるからな。
「あの、召喚されてくれてありがとう。俺の名前はマリー、よろしく」
「ガウッ!」
俺が体に触ろうと手を伸ばすと、思い切り吠えられた。
「うわっ!ごめんごめん!そうだな!こんな会ったばかりのやつに触られたくないよな!調子乗っちゃったよ!ごめん!」
慌てて手を引っ込める。怖過ぎなんだけど、このオオカミ!
こんなのどうやって信頼度を上げて仲良くなれば良いんだ?
「グルルル……」
そんなことを考えていると、狼は俺に顔を近づけてくる。
怖ええええ!恐怖で体が動かせない。蛇に睨まれた蛙とは正にこのことだ。
狼の鼻が、俺の顔や胸に当たっている。俺が美味しいかどうか、匂いで確認しているのか?
「ガウッ!」
「わああ!!」
食べることが確定したのか、狼が俺に飛び掛かってきた。
その拍子に椅子ごと床に倒れる。
「いでっ!」
頭を床にぶつけるが、怪我の心配などしている暇などない。
今まさにたんこぶどころではない、重傷を受けようとしているのだ。
「グルルルル……」
狼が俺に覆い被さっている。腕は器用にも両脚で抑えられているので、身動きができない。
あとは齧り付いて食べるだけの姿勢だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!話し合おう!食べるだけで終わりじゃなくて、俺にはもっと利用価値とかあるはずだよ!俺をここで殺すのは惜しいはずだって!」
情けないことを言ってしまう。小悪党のようだ。
「ガウ!」
狼は俺に齧り付くことはしなかった。
「え?」
狼は俺の体の上に座ると、胸に顔を擦り寄せ始める。
「え……?食べないの?」
そんな情けないことを言うと、狼は頭を俺の顔に押し付けてくる。
「なんだ?もしかして、頭を撫でられたいのか?」
「ワウ」
狼は「そうだ」っと言っているような気がしたので、解放された手で頭を撫でてやる。
納得したのか、狼はそのまま体を俺に預けて目を閉じた。
退かしたいけど、召喚したばかりで信頼度が低いはずだ。噛まれるかもしれない。
「この状況をどうにかしてほしい」
メニューを開いて、エリーの召喚方法を探す。
召喚士のスキルを見てみると、契約召喚の文字が薄くなって使えないようになっていた。
その代わりに召喚のスキルが使える様になっている。
「これだな『召喚』エリー」
召喚陣が空中に描かれると、エリーが召喚された。
「召喚するの遅過ぎだよ!私が子どもだったら泣いてたよ!大泣きだよ!」
「ごめん、ごめん。召喚の方法が分からなくてさ」
「まあ、たしかに。初めての召喚だし、仕方ないけど……って召喚獣が増えてる!」
やっと狼の存在に気が付いたエリーがオーバーリアクションをする。
「召喚方法が分からなくて、召喚をどうしようか悩んで召喚を試したら、エリーを召喚しようとしたら間違えて契約召喚したら、召喚したんだよ」
「日本語無茶苦茶で何言ってるかわからないよ!」
「この狼の信頼度が低くて噛まれそうになるんだけど、どうやって上げれば良いんだ?」
「信頼度が低い?そうなの?信頼度は高いように見えるけど」
そんなわけはないと、狼のステータスを再度確認してみる。
「あれ?信頼度が8になってる」
「ワフ」
俺はどうやら何かの理由で、狼に気に入られたようだ。