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第3話『銀髪幼女とツンデレAI』

 気がつけば真っ白な空間に立っていた。

 どこまでも広い果てのない真っ白な空間。そこにポツンと置いてある謎の白い板。

 あの世があるのならば、もしかしたらこんな場所なのかもしれない。真っ白で何もない無限地獄のような場所。

 ……え?俺って死んだのか?精密検査に異常はなかったけど、後々の後遺症で死んでしまったのか?

 それならここは死後の世界で納得できる。そもそも記憶喪失の人間が死んだ場合、天国に行けるのだろうか?一応悪いことはしていないが、記憶を失くす前の俺が最低の人間なら地獄に行く可能性もある。

 それと気になっていたけど、この板は一体?…………いやダジャレとかじゃなくて。


「ん?」


 気のせいか視線が低くなっているような気がする。

 まあ気のせいだろう……俺は目の前に置かれた謎の板を見ると、日本人離れした銀髪の可愛らしい少女が映っていた。

 十歳くらいの小さな女の子だ。絵とかではなく動いている。もしかしたらこの板は、テレビ電話のようなものなのかもしれない。

 少女がこちらをジッと凝視している。格好は短パンと白いシャツという三月には肌寒そうな格好だ。こちらもジロジロと見ているだけなのは怪しいので、行動を起こしてみる。

 ニコリと俺が笑うと、少女も可愛らしく笑って返してくれた。

 俺が手を振ると、少女も手を振り返してくれる。


「こんにちは」


 少女に挨拶すると、俺の喉から子どもの声のような高い声が出た。


「あれ?」


 この情けなく驚いている声も子どもの声だ。


「どうなってんだ?これ?あー、あーー」


 やはり子どもの声だ。本来ならもっと渋みのあるミステリアスでダンディな声をしていたはずだ。

 目の前の少女のことを放ったらかしにしていたことを思い出す。


「ごめん!なんだか声が……」


 板に写っている少女も俺の真似をして頭を下げている。

 続けて少女に弁明しようとしたところで気が付いた。

 少女が俺を真似て頭を下げているのではなく、その板に写っている少女が同じ動きをしているのだ。


「鏡だ……」


 そう言いながら鏡を触ると、ガラス特有の冷たさが手から伝わってくる。

 鏡に映る自分と手を合わせて、改めて身体が少女になっていることを実感した。

 手を離して、自分の顔を触る。撫でればすべすべのたまご肌で、掴めば大福のように柔らかい。

 腰まである長い髪を掴んで目の前で凝視してみる。その髪は微妙に青みがかかった銀髪。

 サラサラのふわふわだ。引っ張ったりしても取れないので人工じゃない、頭から直に生えている毛だ。


「いや意味がわからない……。俺はどうして女の子になっているんだ?」

『私が教えてあげてもいいわよ?』

「え?」


 突然どこからか可愛らしい少女の声がした。


「さっき誰か喋ったよな?気のせいか?」


 返事は返ってこない。やはり気のせいだったようだ。


『私が説明してあげるって言ってるのよ。感謝しなさいよね』


 気のせいではなかった。この何もない真っ白な空から声が聞こえた。


「えっと……君は誰なのかな?」

『はぁ?そんなことも忘れちゃったの?まだ半年も経ってないのに忘れちゃうなんて、本当にミジンコ並みの頭ね。もしかして豆腐の角に頭でもぶつけて記憶全部失くしちゃったわけ?』

「いや、まあほぼその通りなんだけど、えっと……それで君は?」

『全くそんなことも忘れちゃうなんて、ホントにどうしようもないんだから!仕方ないから優しい私がもう一度教えてあげるから、その忘れっぽい脳味噌に私のことを刻んでおくのね!私はサポートAIのマリアよ!』


 AI……?AIって人工知能ってだよな?凄いな、まるで人と話しているようだ。

 それにしてもどうしてこんなにツンデレ風なんだ?声質も高いので、ワガママなお嬢様みたいだ。


「その前に聞いておきたいんだけど、サポートAIっていうのは君みたいな性格が基本なのか?」

『勘違いしないでよね!私の性格はアンタが設定したんだから!』


 このツンデレに設定したの俺かよ!記憶喪失前の俺の趣味のクセがすごい!


「そうか……なら俺はどうしてこんな姿になっているのかを教えてほしいんだけど」

『良いわよ、教えてあげるわ!』


 不思議とこのツンデレ風に言われるの嫌いじゃないんだよな。記憶を失くしても、こういう趣味は変わらないのかもしれない。


『そうね、なにから説明しようかしら……じゃあ面倒くさいけど、順序よく最初から説明してあげる。先ずここはキャラクターエディットルームで、自分の使うキャラクターの見た目や職業を決めたりできるのよ』


 キャラクターエディットか、まるでゲームのキャラクター設定みたいだな。

 ゲーム?……そうだ!思い出した!


「ここってゲームの中だ!」

『はぁ?今さら何言ってるの?』


 マリアの反応を見るかぎり、本当にゲームの中のようだ。


「ゲームの中に入って遊ぶゲーム?どこかで聞いたことがあるような……そうだ!思い出した!VRMMORPGのアドベンチャワールド!」


 俺はこのゲームをしたことがあることを思い出した!些細な記憶だが、思い出せたことは嬉しい。

 この調子でこのゲームをやっていたら、記憶を取り戻せるかもしれない。


『ちょっと!私の話聞いてるの?!』

「ごめんごめん。聞いてる聞いてる』


 そういえば、俺がアドベンチャーワールドをしていたことは思い出したけど、そもそもこのゲームってどんな内容なんだ?


「アドベンチャーワールドってどういうゲームなんだ?」

『アドベンチャーワールドⅡを始めたくせに、そんなことも知らないの?ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイオンラインロールプレイングゲーム、通称VRMMORPG。魔王が君臨し、世界に魔物が蔓延る異世界をリアル体験するゲームよ』

「へぇ、ありきたりでベタな設定だな」

『うっさいわね!』


 怒られた。声が可愛いので、怒られても嫌な気にならない。


『それで話は戻すけど、アンタはアドベンチャーワールドの最後の公式大会で優勝したのよ』

「公式大会で優勝?俺ってすげえな」

『それでアンタは優勝商品で貰ったのがそれってわけ』

「それ?」


 俺は自分の姿を鏡で改めて見る。


「はぁああ?!この姿が優勝商品?!」


 自分を指差して叫んでしまう。


『そうよ。アンタは優勝商品でキャラクターの外見を貰ったのよ』

「キャラクターの外見……?そんなものが優勝商品って変わった大会だったんだな」

『何言ってんのよ。優勝商品は優勝したプレイヤーが決めれるのよ。つまり、その姿はアンタが選んで決めたんじゃない』


 呆れながらマリアが言う。

 記憶喪失前の俺は銀髪の少女になりたい願望があったのか……ショックだ。


「俺って変態じゃないか……」

『そうでもないわよ』

「え?」

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