第19話『笑って許して』
『レッドオーガの心臓×1、レッドオーガの角×1、レッドオーガの魔石×1を入手しました』
『プレイヤーマリーのレベルが上がりました』
格闘家のスキルを解除すると、脱力感が襲ってくる。
「勝ったんだ……本当に、本当に良かった。くううぅ……」
頭の中に今だに聞こえるアナウンスで、戦いが終わったことを理解したと同時に涙が溢れてくる。
その場で泣き崩れてしまう。
「この合成した装備のおかげだ」
泣き終えた俺は合成した装備を改めて見るが、よくこんなふざけた格好で勝てたものだと思ってしまう。
頭を触るとウサ耳のカチューシャが付いていた。
「そういえば、スピカはどうなったんだ?この装備を脱いだらスピカと分離するのか?もしかして一生このまま……」
無我夢中で合成してしまったので、その後のことを考えていなかった。
俺はスピカが戻ってくると願いながら、装備を見習い召喚士に戻してみる。
「やった!戻ってる!」
ステータスを開いて確認すると、スピカが召喚できるようになっていた。
「なら『召か」
召喚しようとしたが、考えてしまう。
みんなを強引に戻してしまったので、きっと怒っているに違いない。
エリーには説教をされ、スピカにはツノで突かれ、ナイトには噛まれるだろう。
「俺が無理矢理戻したのが悪いし、仕方ないか『召喚』エリー、スピカ、ナイト」
エリーが居ないので召喚のスキルを使用すると、MPが減る脱力感を感じる。
空中に一つ、地面に二つの召喚陣が描かれる。さて……なんと言って許してもらおうか。
「みんな!本当に」
「マリー!!」
「キュキュー!」
「ガウガウ!」
「うわっ!」
俺が謝ろうとすると、みんなが飛び掛かってきた。
エリーとスピカは受け止めることに成功したが、最後にナイトが飛び掛かられてバランスを崩して倒れた。
さすがに自分よりも大きいナイトを受け止めるのは無理だった。
「マリーのばかー!おたんこナス!あんぽんたん!なんであんなことしたの!」
エリーに泣きながら怒られる。あと言い過ぎじゃないか?
「それよりも!レッドオーガは?!」
泣いて怒っていたと思えば、周りを確認するように飛び回る。忙しいやつだ。
「やっぱりピンチになったから私たちを召喚したんでしょ?!レッドオーガはどこにいるの?!」
スピカとナイトも俺の上から退くと、戦闘体勢を取る。
「ふっ、なにを言ってるのかな?お嬢さん」
「どっちかって言うと、見た目的にお嬢さんはマリーでしょ!」
そんなツッコミをしたエリーの動きが止まる。
「レッドオーガが居ない……?どうして居ないの?」
「倒したからに決まってるだろ?お嬢さん」
「ええぇー!!どうやって?!ナイトでも勝てないような相手に、マリーが勝てるわけないよ!」
「ふふん。たしかに、俺みたいなチビクソガキが勝てるわけ……って誰がチビクソガキだよ!」
「自分で言って怒らないでよ!でも本当に倒したの?!どうやって?!」
エリーにこのまま合成士のスキルで装備を合成した上に、格闘家のスキルで強くなって勝ったんだよ。っと言いたい。
しかしここで口で説明して、お試しで見せて何が楽しいのか。
俺はここでは黙っていることにした。そして戦いになった時に、合成して驚かしたい。
「まあエリー達がだらしないから、良い加減にしろ!ってビシッとレッドオーガのやつをぶっ飛ばしてやったんだよ」
「えー!絶対に嘘じゃん!」
「最後の方とかレッドオーガもちょっと泣いてたんじゃないかな」
「もう!本当のこと教えてよ!」
さすがに納得しないエリーがしつこく聞いてくる。
強引にでも話を終わらせてしまった方がいいな。
「勝ったんだから良いじゃないか。ほら帰ろうぜ」
「……ちゃんと家に帰ったら教えてもらうからね!」
「あれって宝箱か?」
部屋の中央に、木製の箱があった。
「ボスを倒すと宝箱から装備やアイテムが貰えるんだよ」
「そうなのか!なら早速」
俺は部屋の中央に現れた宝箱を開けた。
『聖騎士の装備一式を手に入れました』
「おお!装備だ!」
名前的に強そうな装備だし、合成のレパートリーが増えた。
「良かったね!でもマリーは装備できないから、売った方が良いかも」
「何言って……あ〜」
そう言えば、エリーにユニークスキルを持っていたことを話していなかった。
ユニークスキルの《冒険者》があるので、なんでも装備できる。
あれ?そうなると、最初のスライムも槍使いを装備したら倒せたんじゃないか?
「外に出る魔法陣だよ!」
空になった宝箱の横に、光り輝く魔法陣が出現した。
「ここに入れば入り口までワープできるらしいよ」
「らしいって」
きっと検索した情報だろう。俺は意を決して魔法陣の中へと入る。
体が光に包まれると、浮遊感が襲う。
気が付けば、初心者用ダンジョンの前に立っていた。
「はは……」
外に出れた喜びから笑ってしまう。
「ニャリー!!良かったー!」
若干噛みながらエリーが俺の顔に飛びついて来る。
「誰がニャリーだ」
「そんなのどうでも良いじゃん!外だよ!外!もう二度と見れないって思ってたよ!」
「おいおい……」
なにを大袈裟な……。そう言いそうになった。
だけどエリーの言う通り、俺たちは絶対に死んでいた。二度と太陽は見れないはずだった。
「ああ、本当にな」
泣きそうになったが、外で人も居るので堪えた。
「うええええーーん!!良かったよーー!!」
俺が泣かなかった分、エリーが泣きまくる。
受付の職員さんが微笑ましい顔で俺たちを見ていて恥ずかしい。
「あれ?スピカたちが居ないぞ?」
「ダンジョンから出たからね。基本的に召喚獣は建物から入ったり、出たりすると勝手に戻るんだよ」
「へえ」
エリーが戻っていないのは、お気に入りにしているからか。
「それにしても……どうして初心者ダンジョンにボスが居たんだろうな?」
帰り道でずっと思っていたことをエリーに質問した。
泣き止んだエリーは、飛行しながら腕を組んで唸る。
「う〜ん……アドワってゲームと融合した世界だから、もしかしたらバグみたいなものかも。この世界はまだまだ分からないことばかりだね」
「そうだな」
エリーが考えても分からないなら、俺が考えても仕方ない。
俺は家でお母さんが作ってくれているであろう、晩御飯のことを考えることにした。