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第17話『絶望から希望から希望』

 なんなんだよ。俺の人生は……。

 目覚めたら記憶喪失になって、また目が覚めたら命を奪われないといけないのかよ。 


「ふざけんな!なにか役に立つスキルはないのか?!」


 ステータスを開いて、自分のスキルを確認する。

 格闘家のスキルには正拳突きしかない。召喚士のスキルには召喚のみ。残るは合成士のスキルだ。


 合成士スキル《合成》

『二つの物を合成する。成功すると上位の物を生み出す事ができる。成功率0.1パーセント』


 スキルの説明にはレベルを上げていけば、成功確率が増していくとも書かれている。

 そして失敗すれば、使用したモノは二時間使用不能になるとも書かれている。ここでそんな賭けには出れない。

 俺はなんて無力なんだ。戦えない。誰も守れない。

 力さえあれば、俺にみんなを守れる力があれば……!


「くそ……!くそ!くそお!!」


 俺は自分の無力さに苛立ってメニュー画面を何度も殴る。

 終わる。ここで全て終わる。エリーもスピカもナイトも俺も死んで、全部終わる。


「く、悔しい!自分の力の無さが……悔しい!」

「マリー……」


 涙目になっているエリーと目が合った。

 もう……これ以上仲間が傷付くところは見たくない。


「エリー、スピカ……ありがとう」


 俺は意を決して立ち上がる。


「マリー、急にどうしたの?」


 俺はエリーにニコリと笑った。


「バイバイ、みんな」

「待って!マリ」

「戻ってくれ」


 エリーが何かを言う前に、みんなを召喚石に戻した。

 戦っていた敵が居なくなったレッドオーガは、当然のように残った俺に向かって歩み寄って来る。

 ゆっくりと死が近付いてくるが、俺に恐怖はなかった。

 エリーたちを守れたことが誇らしく思えた。人生最後にできた善行かもしれない。


「グオオオ!」

「ぐあっ!」


 レッドオーガに棍棒で横殴りにされた。キーンっと金属を叩く音が聞こえた。

 地面に寝転がる俺にトドメを刺そうと、レッドオーガが歩いて来る。


「終わりか……」


 全てに諦めて目を閉じる。

 真っ暗なはずの世界にエリーの笑顔が見えた。


『目を閉じるたびに私の笑顔を思い出して、元気とやる気を出してよ!私の笑顔でどんな逆境も乗り越えれるよ!』


「ははっ……」


 初めて笑った日のエリーの言葉を思い出した。

 胸の奥から熱いものが込み上がり、涙が流れる。


「エ、エリー……!」


 いやだ!エリーとみんなと離れたくない!

 アイツを倒して、俺はみんなと一緒に生きたい!


「くっ……!」


 開きっぱなしだったステータス画面を見れば、持ち物に切り替わっていた。

 どうやら俺がメニュー画面を殴ったせいで、画面が持ち物に変わったようだ。

 その持ち物にあった、あるアイテムが目に入る。


 《加護の玉》(R10)

『使用するとランダムで加護を獲得することができる》


 このアイテムに頼る以外に道はない。俺は加護の玉を取り出した。

 野球の球ほどの大きさの、青いガラス玉を力一杯に握り締める。


「頼む!奇跡よ起きてくれ!」


 玉は砕け散り、粉々になった欠片が俺の体に入っていく。


『妖精女王の加護を獲得しました』


 《妖精女王の加護》

『確率に関わるスキルやアイテムは成功率が100%になる』


 だめだ……。こんな加護では勝てない。この状況で確率に勝てたところで意味がない。

 あの怪物がコイントスで勝負でもしてくれるなら話は別だ。


「ちくしょう!ハズレじゃないか!こんな加護があったところで!あったところで……」


 確率に必ず勝つ?

 この数分のあいだに、確率が関係するものを見たような?


「そうか!」


 思い出したと同時に、痛む体に力を込める。

 持ち物を操作して装備を槍使いに変更する。


「頼む……!俺は、みんなと生きたい!なんでもいい!俺に!!俺にアイツを倒す力をくれーー!!!『合成!』」


 俺は立ち上がると、頭の中で槍使いの装備とスピカを選択した。

 すると空中にスピカが召喚された。


「スピカ?」

「キュキュ?!」


 召喚されたスピカは浮遊しながら槍使い軽装備に吸い込まれていき、装備が発光しながら形を変えていく。『ピポーン』っと脳内で効果音が聞こえた。

 発光が収まっていくと、形を変えた装備の全貌が明らかになっていく。


「これが合成した装備か……?」


 自分の姿を確認する。

 全てがウサギを思わせる白い色に変わっていた。

 防御力など皆無のような白いモコモコに変化している。

 武器の槍も白くなり、槍の先端もウサギの形をしたスタンプになっている。


「もしかして失敗したのか?!」


 そんなはずはない。失敗すれば、槍使いの装備もスピカも二時間使用できなくなるはずだ。

 ならばこのふざけた装備は成功しているということなのか?


「グオオオオ!!」


 レッドオーガが俺に棍棒を振るう。


「え?」


 俺は驚いた。攻撃の威力に対してではない……その速度の遅さに驚いた。

 振り下ろされた棍棒を、俺は体を僅かに逸らして躱す。


「どうなってるんだ?」

「グウオオオ!!」


 棍棒が当たらなかったことに腹が立ったレッドオーガは、次に拳で殴りかかってきた。


「よっ!」


 俺はその拳も難なく避けた。レッドオーガの動きがスローモーションに見える。

 もしかしてこれが合成した装備の力なのか?

 ステータスで能力とスキルを確認する。

 このスピカと合成した装備の能力は、俺の速度を何十倍も速める力があるようだ。


「ふっ、はははは!!これなら勝てる!」


 俺は持っていた槍で、レッドオーガに攻撃する。

 戦った事がないはずだったが、不思議と身体が動く。

 まるで以前から何度も戦ったことがあるような感覚だ。


「グ、グオオオ!」

「効いたか?!」

「グオオオオオ!!!」


 レッドオーガはお構いなしに棍棒を振るった。


「効いていないのか?!……だったら攻撃しまくってダメージを少しずつでも与えてやる!」


 俺は高速で移動しながら、レッドオーガに攻撃していく。

 相手の攻撃は当たらないが、こちらの攻撃も通っている気がしない。

 まるで大きな岩をスプーンで削っているようだ。


「まだ足りないのか……!これだけしてもまだ力が足りないのか!」


 俺はガムシャラにレッドオーガに槍を当て続ける。

 まだ何か足りない。あともう一押しあれば!


「倒れろ!倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ!!頼むから倒れろよお!!」

「グオオオオ!!」

「がはっ!」


 攻撃に夢中になっていた為、レッドオーガの攻撃を避け損ねてしまった。キーンっと金属を叩く音が聞こえた。

 目の前に藁人形が現れて、バラバラと崩れた。


「まだだ……!」


 突然現れた藁人形のことは気になるが、そんなことを気にしている暇は無い。

 俺は立ち上がって、ふらふらと体勢を保つ。


「負けてたまるか!絶対に俺はお前を倒す!」


 俺は再びレッドオーガに槍で攻撃を当てる。

 だがレッドオーガにダメージは入っていなかった。


「グオオオ」

「ちくしょう……!」


 これだけしてもダメージが入らない。もうここまでなのか……。


【条件が達成されました。格闘家のスキル『身体強化』を覚えました】


「なっ、え?条件?身体強化?」


【ステータスにエネルギーゲージが追加されました】

【格闘家スキル『エネルギーコントロール』が使用可能になりました】

【格闘家スキル『エネルギー弾』が使用可能になりました】

【格闘家スキル『衝撃拳』が使用可能になりました】

【格闘家スキル『舞空術』が使用可能になりました】


 頭の中でアナウンスが何度も流れる。


「ちょっとタイム!」


 高速でレッドオーガと距離を空けて、獲得したスキルを確認する。


 格闘家スキル《身体強化》

『自身のステータスを倍にする。20秒間ごとにEG(エネルギーゲージ)が1ずつ減少していく』


「はっ……ははは!揃った!最後の一押しが揃ったぞ!早速使わせてもらうぜ!格闘家スキル『身体強化!』」


 スキルを使用すると、青いオーラが俺を覆った。


「これが身体強化のスキルか……力が漲ってくる!」

「グオオオ!!」

「おっと、待たせたな。タイムは終わりだ!いくぞ!ここからが俺の本気だ!」


 槍で突いて攻撃をする。

 先程とは違い。スタンプが触れた腹部が、ジュウっと熱した鉄を当てたような音がした。

 レッドオーガはヨタヨタと攻撃された箇所を手で抑えて、後退する。


「おいおい、どうした?!さっきまで平気そうだったのに痛いのか?!装備一式スキル『ウサギの判子(ラビットスタンプ)!」


 俺はレッドオーガの棍棒を持っている手にスキルを当てる。

 肉の焼ける音が聞こえると、痛そうにして棍棒を手から落とした。


「その棍棒でスピカを殴ってくれたな。エリーやナイトも殴ってくれたよなあ!!」


 俺は腰を落として槍を構える。


「千倍にして返してやるよ!装備一式スキル『超加速!』」


 スキルを使うとレッドオーガの動きが止まったように遅くなった。

 そう見えるほどに、俺の速度がスキルによって上がったのだ。


「装備一式奥義」


 これで終わりにする。エリー、みんな……俺は勝つぞ!

 ウサギの形をした槍の先端が燃えた。


ウサギの大群(ラビットホード)!!」


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああ!!!!」

「グオオオオオオオオオオオ!!」


 何度も……何度も何度も何度も何度も燃えた槍をレッドオークに当て続ける。

 止まっているレッドオークの腕や足、胴体にウサギのスタンプが押されていくたびに亀裂が入っていく。


「うりゃああああああああああああ!!倒れろーーー!!」

「グ、グオオオオオオオ……!!!」


 レッドオークの体全体に亀裂が入ると、ガラスの玉を壁に打つけたように粉々に砕け散った。


「はあ、はあ……、やったのか?」


 攻撃の手を止めると、恐ろしいほどの脱力感が襲い。膝から崩れ落ちてしまった。


「か、勝った……勝ったぞーーー!!」


 俺は喜びで喉が裂けるほど大きく叫んだ。

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