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第16話『絶望から絶望』

「レッドオーガ?オーガって鬼だったか?たしかに強そうだな」

「強そうじゃないの、強いんだよ。あいつには……私たちじゃ勝てない。レッドオーガは中級ダンジョンのボスで、複数人で戦うような相手なの」

「中級ダンジョンのボスだと?」


 そんなやつが、どうして初級ダンジョンに現れるんだ?


「私たちのレベルじゃ絶対に勝てない。どうして……どうしてこんなことになったの……!」


 エリーは頭を抱えて空中で蹲った。

 レッドオーガを見れば、不思議なことにその場からピクリとも動かない。


「……マリー、ナイトとスピカと一緒に戦ってみる。だからその間に離れたところで助かる方法を探して。スマホで連絡……はできないみたいだね」


 スマホを取り出して見ると、圏外になっていた。


「ならステータス画面からでも良いから、なんとかして見つけて」

「なに言ってんだよ!みんなだけに戦わせられるか!俺だって戦う!」

「言ったでしょ!私たち召喚獣を囮にしてでも生き延びてって!それにマリーは一度も戦ったことがないでしょ?今のマリーじゃ戦力にならないよ!」

「うっ……」


 エリーに言い負かされ、俺は言葉が出なかった。

 戦ったことのない俺が戦力になるのかと言われて、納得してしまった。


「大丈夫!時間をいっぱい稼ぐから、助かる方法を探してみて!きっとあるはずだから!」

「ああ……わかった!」


 俺は壁の方に下がり、ステータス画面を開いた。

 この状況を打開する方法を見つけるためだ。


「エリー、お前ってやつは……」 


 だがきっと助かる方法なんてない。

 エリーは少しでも俺に恐怖心や不安心を感じないように、まるで助かる方法があるように言っているんだろう。


「どうしたら良いんだ」


 エリーたちがレッドオーガと交戦し始めた。

 ナイトたちの頭上にHPゲージが浮かんでいる。

 先ほどまで表示されていなかったので、戦闘になると現れるようになってるようだ。

 俺はステータス画面越しにみんなの戦闘を見ていると、足元に白い塊があることに気が付いた。


「キュ、キュ」


 スピカが俺の足元で小さくなっていた。

 レッドオーガに怯えて、逃げてきたようだ。


「スピカ……」


 しかしこの状況でスピカを責めることはできなかった。スピカは臆病な性格だ。

 そんな性格のスピカに全員で束になっても敵わないレッドオーガと戦えと言うのは、あまりにも無理がある。


「ガウッ……!」

「きゃっ!」


 ナイトとエリーはレッドオーガに苦戦している。

 俺は眺めていることしかできないのか?


「くそっ!」


 足元に落ちていた木の棒を掴む。


「ふざけんな!仲間にだけ戦わせるかよ!」

「キュ?!キュ!」


 スピカが足元で走り回るが、それを跨いでレッドオーガに向かって駆け出した。

 上手く背後を取り、その背中に木の棒を叩きつける。


「マリー、なにしてるの?!」

「くらえ!」


 殴った木の棒がボキッっと綺麗に折れた。

 それほどまでレッドオーガの筋肉は硬かった。


「折れた?!」

「グオオオ!!」


 レッドオーガは力任せの裏拳で俺は殴られた。キーンっと金属を叩く音が聞こえた。

 吹き飛ばされて地面を転がりながら、先ほどまで居た場所に戻ってきた。


「がっ……は!」


 殴られた右腕と、地面で転がったので身体中が痛い。


「マリー!」


 心配そうにエリーが飛んで来てくれた。

 俺は大丈夫と言い、その場に座り込む。


「す、すまん、エリー。なんの役にも立てなかった……!」

「ごめんなさい、マリー!!私がもっと慎重に行動していたら良かったの!」

「それを言うなら、俺だってそうだろ」

「それだけじゃないの!私が本当のことを言っておけば、マリーももっと慎重になっていたはずだったの!」

「本当のこと?」

「マリーの職業、本当は全部……ハズレの使えないジョブなの!」


 地面に降りたエリーは涙を流しながら頭を下げた。


「アドワは武器を装備して戦うのが当たり前なのに、格闘家は武器を持てない。合成士は錬金術師の欠陥版の職業なの!」

「そうだったのか……」

「それに……それに召喚士は召喚に運の要素もあるし、進化するまで召喚獣は役に立たない。全部!全部ハズレの職業なの!」

「キュ!キュキュ!」


 心配そうにスピカも駆け寄って来てくれた。


「本当のことを言ったら、召喚獣を嫌いになるんじゃないかって怖くて!私が嫌われる覚悟があればこんなことにならなかったんだよ!」


 レッドオーガはナイトが食い止めてくれている。

 その間にエリーとスピカに最後の会話をしよう。


「エリー……俺はガッカリだよ」

「っ……」

「俺がその程度でエリーのことを嫌いになると思われていたことがな。俺はこの職業にして良かったと心の底から思っている。特に召喚士に関してはな」

「マ、マリー……!」

「俺は記憶喪失で一人ぼっちだった。お前たちが初めての友達なんだ」


 俺は最後の言葉のように、エリーとスピカに向けて言う。

 ようにではなく、本当に最後なんだろう。


「だから二人とも、もう戦わなくていい」

「キュイ?!」

「俺たちは……いや俺はここまでだ。二人まで、痛い思いをしなくていいんだ」


 怯えながらスピカは、俺とレッドオーガを交互に見る。


「すまなかったな、スピカ……こんな弱い召喚士に召喚されて。もしも次に召喚されることがあれば、もっと強いやつに召喚されることを願ってるよ」

「キュ……」

「召喚士としての最初で最後のお願いだ。そこから動かず黙って俺の勇姿を見届けてくれ」

「マリーだけに戦わせない!ナイト!壁を作ってマリーを守って!」

「キュキュー!!」


 エリーがナイトに指示を出すとスピカが吠えた。


「え……?」


 あんなに臆病だったスピカがレッドオーガの前に立っている。


「キュキュキュー!!」


 スピカがさらに吠えると、体が発光し始める。


「キュキュキューーー!!!」

「なんだ?!どうなってんだ?!」


 体の発光現象が治っていくと、体が少し大きくなっていた。それにフワフワしていた毛が減って、戦闘に向いたスマートな体型になっていた。

 一番驚いたのは、スピカの額には今までに存在していなかった十センチ程の立派な角が一本生えていた。


「これって……?」

「進化だよ!ナイトが倒したゴブリンの経験値がスピカにも加算されたんだよ!それが今になって進化に繋がったんだ!」

「進化?そういえば、進化するってステータスに書いてあったな……。そうか!これが進化か!」


 スピカのステータス画面を確認する。


 ・スピードホーンラビット 『スピカ』 Lv1/10 信頼度10(MAX)〈R6〉

  HP/600 STR/200 VIT/200 AGI/600

 スピードラビットの上位種。スピードラビットの幼体が稀に進化して上位個体になると言われている。残り進化1回。


 アビリティ『加速』

【8秒間だけAGIを2倍にすることが出来る 。使用後3分間は再使用不可】



「キュイキュイ!!」


 レッドオーガの横腹に頭突きを食らわす。

 相手の意表をついて、完璧に攻撃が入った。クリーンヒットというやつだ。


「や、やった!」


 大ダメージを与えたかに思えたが、レッドオーガは何事もなかったかのようにスピカに棍棒振るった。

 進化したスピカの攻撃は全くダメージを与えてない。


「そんなのって、ないだろ……」


 スピカが勇気を振り絞り、それに応じるかのように進化をした。

 これが少年漫画であればスピカの勝利で大大円だろう。


「どうすればいいんだよ……。これで本当に終わるのか」


 スピカが棍棒で殴られ、ナイトが走り出すのを呆然と眺めるしかできなかった。

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