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第13話『2年と融合した世界』

「今が二年後?そんなわけ……」


 俺は自分の身体を見る。

 二年も寝ていたら身体がもっと痩せているし、起きて直ぐに歩いたりできないはずだ。


「二年間も起きてこなかった患者が急に起きてきたんだ。看護師さんは驚いていなかったかい?」

「そういえば……」


 最初に話しかけた看護師さんが、幽霊を見たような驚き方をするわけだ。


「まあ、色々と君の聞きたいことを話させてもらおうかな」


 未来華來はベッドに備え付けてあった机をセットする。

 その机にノートパソコンを置いて、動画を再生した。

 画面に白いローブを着たお爺さんが映った。


『はじめまして、世界のみなさん。私は神です。この世界は非常につまらない。貧困、飢餓、紛争、難民、気候変動に環境問題。だが安心してほしい。私が神の責務として、世界を面白くしてやろう!今一番売れているゲームの世界とこの世界を融合した!さあ!世界よ!面白くなれ!』


 そこで動画は終わった。


「この動画は二年前……正確には世界が融合する五分前に配信されたものだ」

「世界が融合した?」

「そう。父が開発したアドベンチャーワールドとこの世界は融合したのさ」


 女性は窓の外を指差した。

 その指先には大きな塔が建っていた。


「あの建物は中はアドワの世界のようになっている。わかりやすく言うならダンジョンだ。世界中にダンジョンが現れた、日本にもダンジョンがある」


 俺の視線はその建物から動かすことができなかった。


「そしてもう一つ、世界だけじゃなく人も融合した。アドワのヘッドギアがプレイヤーの身体と融合して変えたんだ」

「つまり……」


 俺は自分の顔や髪を触る。


「そういうことだ。君の身体とヘッドギアが融合して、今の姿になったのさ。だから起きて直ぐに動き回ったりできたんだよ」

「そんなわけが」

「ステータスっと言ってみるといい。アドワのように表示されるよ」

「まさか?ステータス」


 目の前にアドワの時に何度も見たステータスが表示された。


「本当にアドワと融合したのか……?」

「ここは現実だ。もうみんなこの変わってしまった世界に、二年の間に受け入れて対応している。辛いかもしれないが、遊悟くん……君も変わってしまった世界と自分を受け入れるように頑張ってくれ」

「……はい」


 変わってしまった世界に取り残されたのは、どうやら俺だけのようだ。


「それと君が病院に運び込まれた時に、身体を隅々まで調べさせてもらったが」

「……はい?」

「君の身体には排泄器官や生殖器官もないので、遊悟くんは無性ってことになるかな」

「はい……?」

「汗もかいていたし、口内を調べたら唾液もあり、眼球を調べると涙も出るのも分かった。しかし君の身体はゲームのキャラクターのようになっている。排泄しないので、物を食べるとそれは全て君のエネルギーになると考えている」

「は?ええぇ……」


 勝手に身体を隅々まで調べられたのは恥ずかしい。

 でも今は俺の身体であって俺の身体ではないので、恥ずかしがることはないのか?


「それと起きた時に、君の体を守るように結界のようなものがあっただろう?」


 起き上がる際に割った、あの薄いガラスのことか?


「あれには感謝しないとね。変態医師から君の身を守ってくれてたんだ」

「え?」

「若い医師がね、君に良からぬことをしようとしたら、あの結界が出現して守ってくれたんだよ。それから君の体調確認は女性のみにされたから安心してほしい」


 あのガラスはそういった意味があったのか。

 でも簡単に割れたけど、本当に守ってくれていたんだろうか?


「さてと、話はこれくらいか。遊悟くん、これを」


 未来華來に一枚の紙を手渡された。


「この紙は今の君が日野内遊悟だと証明するものだ。無くさないようにね」

「はい」

「話はこれくらいかな。それじゃあ」


 紙を俺に渡すと、未来華來は部屋から出ていった。

 え?まだ俺が起きて直ぐに歩けたのとか、この世界について詳しく教えてもらってないんだけど!


「遊悟、これから大変だけどお母さんも協力するから頑張りましょう」

「う、うん」


 何も分からないままチュートリアルが終わってしまった。これからどうすればいいんだろう。

 世界はアドワと融合してまい、俺は少女になってしまった。

 それから精密検査をして、一週間ほどで退院の日となった。


「今日からは実家に住んでもらうからね」


 俺が二年間も起きてこないので、借りていた部屋は解約したそうだ。

 そこまで住んでいた部屋に思い入れもないし、ショックは ない。


「ここが私たちの家よ」


 病院から数十分ほどで実家に到着した。

 立派な一軒家だ。頑張って買ったんだろう。


「どう?何か思い出した?」

「……すみません、全く」

「そう……それじゃあ家の中を案内するわね」


 少しガッカリされたお母さんに、家の中を案内される。

 壁が回転したり、隠し部屋などもない一般的な普通の家だった。


「ここが遊悟の部屋で、ここが妹の凛の部屋よ」

「妹?」

「ええ、高校一年生になる妹がいるのよ。その着ている服も凛の御古なの」


 退院となった今日。水色のワンピースか、今着ているファンシーなピンクのシャツと黒いズボンの二択を迫られ、俺はこのダサい服を選んだ。

 やはり元男の俺がスカートを履くには抵抗があった。


「凛は今は、なんて言えば良いのかしら……冒険者の学校に行ってるから、たまにしか帰って来ないのよ」

「冒険者の学校?」


 なんだそのファンタジーな学校。


「私も詳しくは知らないんだけど、たぶんこれに書いてあるかも」


 お母さんが俺にファイルを渡してくる。

 ファイルを開けると、この二年間についてまとめた紙が数十枚閉じられていた。

 俺のためにお母さんがまとめてくれたのだろうか?


「これって?」

「未来華來さんが遊悟のためにまとめておいてくれたのよ」

「未来華來……さんが?」


 未来華來が俺のためにどうして?っという疑問があったが、ありがたく読ませてもらおう。


「晩御飯まで時間もあるし、これでも読んでおくよ」

「そうね。日野内家の夕飯は十八時が厳守だから、必ずその時間にリビングに降りて来なさい」

「はい」


 俺は自室に入ると、部屋の中を見回す。

 前に住んでいた部屋そのまんまだ。

 ベッドの位置に机の位置まで全て同じだ。


「ふぅ」


 ベッドに腰掛けて一息つく。

 お母さんに渡されたファイルを開いて内容を確認する。

 文字がぎっしりと書かれていて、内容が頭に入ってこない。

 詰め込んで書き過ぎだろ……。ペラペラとページを捲っていくと、ある記事が目に入った。

 世界が融合して数日すると、攻撃スキルや攻撃魔法をダンジョン以外で使うことを禁止する法案が可決された。


「現実で魔法やスキルが使えるようになるとはな……魔法が使える?まさか!」


 そうじゃないか!アドワの世界と融合した世界なんだ!なんで気が付かなかったんだ!

 俺は立ち上がり、空中に向かって手をかざす。


「『召喚!』エリー!」


 体から力が抜ける感覚がすると、空中に召喚陣が描かれた。


「やっほー!元気してた?!マリー!」


 エリーが現実世界に召喚できた……!


「もうひどいよ!二年以上も召喚してくれないなんて!いつ召喚されるか分からないから、映画もおちおち観れなかったよ!」

「え、エリー……」


 俺の唯一無二の友達の姿を見たら泣きそうになってしまう。


「ど、どうしたの、マリー?!もしかして映画観れなかった話のこと気にしてる?ウソだからね!冗談だから!ホントはスターウォーズとか全部観てたから!」

「そうか……そうか」


 冗談を言うエリーを見ていたら、結局泣いてしまった。


「もう二年ぶりにログインして私を見て泣かないでよ」

「ログイン?エリー、わからないのか?」

「え……?あれ?ここどこ?マイルームじゃないの?」


 エリーは世界が融合したことを知らないのか?


「どうなってるの?ここってもしかして現実世界?そんなわけないよね……?でもこんな場所アドワにはないし」


 混乱しながら、エリーは俺の部屋を眺める。


「ここは現実世界だ」

「本当に……ここが現実世界。マリーが生きている場所……」


 エリーが窓の外を見つめて言う。


「そうだよ、エリー。未来偉真が言ったように、世界は融合したんだ。アドワの世界とな」

「融合ってそういうことだったんだ……」

「世界が変わって、俺もこんな姿になって……どうしたらいいか分からなかったけどよ。エリーに会えたら悩みも吹き飛んだぜ」

「良かった!私も召喚された甲斐があったよ!」


 エリーと二人でなら、俺はこの世界でも生きていける気がしてきた。

 そう考えると、なんだかワクワクしてきたぞ。

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