第1話『優勝した話と事故』
人には得意なことが一つや二つある。っと誰かが言っていた。
サッカーが上手い、ピアノを弾ける、絵が描けるなど誰しもが自慢できる得意なことがある。
その誰かがお前の得意なものはなんだ?と聞いてきたとしたら、俺はゲームと答える。
ゲームと言ってもボードゲームとかではなく、機械を使って遊ぶゲーム……所謂テレビゲームだ。
こう答えると興味のない人は怪訝な顔をして、別のことにもっと時間を使えと言うだろう。
実際に言われたこともあるが、俺はめげずにゲームをし続けた。その結果、俺はVRMMORPGで優勝した。
俺が見事に優勝した話をする前に、VRMMORPGを知らない人の為に簡単に説明させてもらおう。
VRMMORPGとは頭から顔まで覆うヘッドギアを被り、ゲームの世界に入り込めるというものだ。
もっと詳しくVRMMORPGについて説明したいが、したところで誰も真剣に聞かないので省略させてもらう。
知らないわけではない。ここで俺がもし「ヘッドギアに搭載されたXJOシステムが脳のデムダスに作用してシナプスにアクセスして……」っと説明しても誰も理解できない。
説明しようものなら原稿用紙五十七ページの長文になってしまう。なので俺が説明したところで、どうせ読者は頑張って七ページほど読み「意味分からんから別の小説読も」っとなり、途中でやめて二度と読まなくなるのは想像ができる。
話を戻すが、世界にはVRMMORPGのソフトは数多く存在する。そのうちの一つである【アドベンチャーワールド』通称アドワというゲームで俺は優勝した。
最後の大規模イベント、アドワ最強決定戦で優勝した。何千、何万という猛者と競い合い優勝した。
ここまで話して何が言いたいのかというと、アドワの続編が発売する。
アドベンチャーワールド2。通称アドワ2は特別なのだ。
優勝したから俺にとっては特別なゲームとか、心理的なことを言っているわけではない。それは最強決定戦の優勝商品にある。
優勝したプレイヤーは、続編で願いを一つ叶えてもらえる。さすがに最強にしろだ、無敵にしろなどの自身を強化するのは不可能だが、俺はある願いをした。
それはゲームをしてからの楽しみである。
軽い足取りで家の帰路につく。
俺が華々しい優勝をしてSNSでトレンドにもなり、盛大に祝福されてから半年が経った。高校一年生の三学期が終わり、明日から春休み。
春休みというだけでもテンションが上がるのに、家に帰ればアドワが届けられている。投函をされているはずだ。
ドキドキと心臓が高まっている。歩き疲れているからではない、テンションが上がり過ぎているからだ。
このテンションの上がり方は異常だ。家に帰ることに対して緊張している。もう逆に家に帰りたくない。
学校に居る時は、あんなに家に帰りたかったのに、なんで家に帰りたくなくなってんだろ。テンションが上がり過ぎると、こんな変な症状が起きるとは知らなかった。
スーパーに寄って買い物をして帰ろう。そこでクールダウンだ。一週間分の食糧を買い込んで明日からゲーム三昧。
この状況でもし隕石が落ちてきて地球が滅亡とかしても逆に何とも思わない。逆にアドワする前で良かったっと思う。
そんなアホなことを考えながら、歩行者信号を渡る。青だったので進んだ。
後ろから叫び声が聞こえると、右を見れば車が目前まで迫っていた。
「うそだろ……」
信号無視した車に轢かれる直前、景色がスローモーションになる。
何かの漫画で読んだが、これがタキサイキア現象ってやつか。小学生の時にジャングルジムの天辺から落ちて以来だ。
そして前言撤回。死んでも逆に良かったなんて思うわけがない。
「ふざけんな……!」
そんな言葉を発したと同時に、俺の身体を衝撃が襲う。
身体が後方に吹き飛ぶと、景色がスローモーションに見える。二度目のタキサイキア現象だ。この短いスパンでタキサイキア現象を体験したのは、日本人で俺が初ではないだろうか?
周りの人が驚いた顔で事故を見ている。二人の人間がこの事故を目撃したのだ。俺を轢いたヤツは逃げれないだろう。俺の最後の願いはお前が捕まることだ!
後頭部が地面に打つかり、激痛が走ったと同時に俺は意識を失った。