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とりあえず情報量が多いし展開が早いんだわ

前話の投稿半年前じゃんおもしろ

 街に行くことになった。理由は、冒険者としての登録をするためらしい。この世界では冒険者として活動するためには街のギルドで登録をしなければならないらしく、その登録がなければギルドにある討伐依頼などを受けても報酬がもらえないとのこと。まあ、要するに金がほしいなら登録しろってわけだ。一応、他に金稼ぎの方法がないわけではないらしいが、それはそれとして身分証やら色々と用意しなければならない。用意すればいいじゃんと思うかもしれないがよく考えてほしい。この歳になって身分証を貰おうとすると絶対色々怪しまれるんだ。だがなぜか冒険者登録にはそれが必要ないんだという。

 クリスの家は街からかなり離れているところにあるため、結構な距離を歩かなくてはならない。さらには途中で小規模な砂漠もある。

 で、その道中。砂漠で、魔法使いらしき誰かがぶっ倒れてた。

「いやー、助かったっす!まさかこんなところでうまいご飯が食べれるとは思ってなかったっすよ!いろいろとありがとうっす」

「いえいえ。こっちも少し多く作っちゃったと思っていたところなので」

「というか本当に美味いなこれは。ハトネ、これはどういうものだ?」

「それは米っていう俺の国の主食だな。……てかタメ口でいいのか?」

「問題ない。我はそっちのほうが関わりやすい」

 この世界の魔王は意外とフレンドリーなようだ。

「私、今までお米って食べたことなかったけど、こんな味するのね」

「まあ一様に米って言うけど、米自体はもち米と雑穀米とか玄米とか色々あるし、こういう白米にも品種があるからそれによって味とか食感とかも変わってくるんだよ」

「へぇ〜」

 なるほどね、と言うようにクリスは頷き、また米にがっつく。ちなみにこの米はクリスに日本から持ってきてもらいました。え、禁忌?いいだろ米が食べたくなったんだから。


 しばらくして、食事を取り終わり、自己紹介をしておこうということになった。

「――で、私たちは冒険者登録のためにフラットレディングに行くところなのよ」

「あ、ウチの目的地もそこなんすよ。ウチはスピカ・ベテルギウスって言って、ここ何年かずっと辺りを彷徨ってて、まあご覧の通り行倒れてたっす。あとは特にないっすかね、魔法が好きなくらいで。よろしくっすよ」

 スピカと名乗る少女は水色の内巻きワンカールでネコミミのようなものが生えており、琥珀色の瞳をもっている。いかにもな魔法使いらしく白のフードのついたローブを羽織っていて、鶯茶色のプリーツスカートを履いている。

「よろしくね、スピカ。あなたもフラットレディングに行くんだったら、私たちと一緒に来ないかしら?この辺り、魔物が多いから危ないし」

「いいんすか?じゃ、お言葉に甘えるっす」

「まぁ、我がいるから魔物は寄り付かんのだがな」

 ボソッと、スパルが俺とクリスに聞こえるくらいの声で呟いた。

「何か言ったっすか?」

「「「いえ何も」」」

 見事にハモったのは言うまでもない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ここが……」

「フラットレディングっすね」

 途中サンドワームやマーシャルスコーピオンなどといった魔物が怖気づかずに襲ってきたりしたが、目的地に到着した。というよりかは門の前に来た。

「止まれ!」

 門の前にいた兵士に静止を求められる。

「何処の者だ。何をしにきた?」

「とある村の者です。冒険者の登録をしたくここまでやって来ました」

 そう、平気で嘘を付くクリス。

「そうか。では、検査を受けてくれるか?」

「なんの検査ですか?」

「人間、エルフ、ドワーフとそれ以外を判断する検査だ。特に異常がなかったらそのまま通ってよい」

 門番のその言葉に、俺達の間に沈黙が流れる。

「「どうするハトネ(ボソッ)」」

「いや知らねぇよ(ボソッ)」

「何すか?お二人は人間でもエルフでもドワーフでもないんすか?(ボソッ)」

「ん?あ、あぁ(ボソッ)」

「実はウチもなんすよね(ボソッ)」

 ん、終わった。冒険者人生、そもそも冒険者になれず終了。

「おい、何をしている?」

「い、いえ。何でもないです」

「そうか。なら早くしろ」

「と、取り敢えず最初に俺が行って、その後にスパルだ。大丈夫、変化だからバレない(ボソッ)」

「え。ウチら二人はどうするんすか?(ボソッ)」

「知らん(ボソッ)」

「「ひどい!(ボソッ)」」

「おい、早くしろと言っている」

「は、はい」

 一応、俺が先に出ておいた。

「では、この結晶玉に触れてもらう。お前の場合パッと見人間だから人間で通すが、人間であれば何も鳴らず、人外であればこの街に警報がいく」

 なるほど、触れたら速攻アウトってことか。駆け出しの街なのにしっかりしてんな。いや、駆け出し街だからこそ初心者がやられないように防衛をしてるのか。

 そう思いながら、結晶玉に手をあてる。結晶玉は特に何も変化することなく、シーンと

「よし。お前は人間という解釈でよさそうだ」

「あの、解釈でよさそうっていうのは……?」

「この結晶玉は、厳密に言うと『より人間に近い者』に反応しないようになっている。つまり、アンデッドなどにも反応しないということだ。まぁ、アンデッドなんざ見ればすぐに分かるから、実質的には人間とエルフ、ドワーフしかこの街に入れないということだな。あぁ、あと、一応聞いておくのだが。この中にトロールはいるか?トロールは全ての街を『人間を食べない』こと、『人間を殺さないこと』を条件に入ることができる。因みにこの掟を破ったトロールは問答無用でその場で処刑だ」

 ゾワッと、クリスの肩が震える。

「ん、何だお前、トロールなのか。この街に入りたいと言ったな。掟は守るか?」

「……はい」

 クリスは渋々言った。

「では、他二人。結晶玉に触れろ」

「「はい」」

 二人とも結晶玉に触れたが、結晶は何の反応も示さず、門番は頷いた。

「よし。行ってよし」

「はい」

 そう返事をし、俺達は街に入った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ……どうしようか。この状況。

「君達、もしかしてこの街に冒険者登録に来たのかな?それなら今日は僕の経営している宿に泊まっていくといいよ!部屋は広いし食事も美味しいし。料金お一人たったの八千ヘルデル!」

「いや、こんなやつのところに泊まるなんて勿体無い!うちは少し狭いけど料理には凝ってるし、宿泊代も安いよ!なんと六千ヘルデル!安いでしょ〜?ささ、うちに泊まってって!」

「どうするっすかね、これ」

 やれ「こんなやつとは何だこんなやつとは!」やら、やれ「うるせぇ黙れ!」やら「黙るのはそっちだ!」やら、宿屋の店主が俺たちに構わず喧嘩を始める。

「食べちゃう?」

「処刑される覚悟があるならどうぞ」

「分かってるわよ。人間は食べない」

「「えっ」」

 言い争っていた宿主二人が素っ頓狂な声を上げる。

「お、お嬢さんトロールなのかい?」

「え?あ、はい」

「「……すいませんでしたー」」

「……えっ?」

 サーッと、そそくさと逃げていく宿屋の店主たち。それにクリスが困惑している中、俺は近くにあった別の宿屋の入り口に貼られている紙をみてクリスに告げる。

「あー…どうやらだな。この街の宿全部トロール断ってるらしいぞ」

「えぇ!?じゃあ私はどうしたらいいの!?」

「ま、そん時はそん時で。冒険者ギルド行くぞ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「冒険者の登録にいらっしゃった方ですね。では、ここにご自身のお名前をご記入ください」

 冒険者ギルドにて。やはりトロールは入れないらしく、クリスはギルド外で待機している。

「これでいいんですか?」

「はい。大丈夫です。えっと、ミナヅキハトネ様、スパル・キネム様、スピカ・ベテルギウス様。問題ございません。では、ステータスを確認させて頂きます」

 それぞれの名前の入ったカードを受付の人に渡した。

「ステータスは、体力、腕力、俊敏、跳躍、魔力、幸運、知能の七つです。それらのステータスから、職業を選ぶことができます。まず、ミナヅキハトネ様。体力は……普通。腕力、俊敏、跳躍共に少し高いです。魔力は……っ!?何なんですかこの数値は!これだけの魔力があるんだったら最上級魔法も連発できますよ!」

 ギルド内が一斉にザワつく。

「あれ、でも幸運はちょっと低いですね。知能も少し頭の回転が早くなるくらいですし」

 つまり魔力以外平凡……いやだとしてもなんで魔力多いんだよ。クリスとの特訓の成果か?

「続けて、スパル・キネム様。……え」

 受付の人が固まった。

「こ……これは……」

「だ、大丈夫ですか?……え」

 別窓口の受付の人が、またもやスパルのステータスを見るや否や固まった。

「こ、このステータスは……下手したら魔王を討伐したあの伝説の勇者パーティ全員のステータスを合わせても届かないくらいですよ……!」

「む?そんなに凄いのか」

 スパル。お前がそんなに疑問に思っている理由はわかる。だがな、お前が戦ったことのあるのは高々幹部の実践練習とかしかないだろう。しかも幹部だから勇者より普通に強い。でもお前は自分のステータスは普通よりちょっと高いくらいだと思ってたんだろうが。仮にもお前は魔王。そんくらいのステータスになるのは当たり前だろう。

 ギルド内に歓声が起きる。

「あ、でも幸運が結構低いですね。ですがそれを除けば申し分ないステータスです。最後、スピカ・ベテルギウス様。……さっきのスパル様のステータスを見た後ですからあんまり驚けないんですけど、魔力がずば抜けて高いですね。その次に俊敏と跳躍、その次に体力が高いです。それ以外は普通です。それで、外にいるトロールの方もそうなんですよね?」

「あぁ、はい。でも多分腕力と魔力が高いだけだと思いますよ」

「そうでしょうね。トロールは腕力と魔力がとても高いと言われています。それで、職業はどうしますか?冒険者を始め、盗賊、魔法使い、騎士、探検者、僧侶など、様々なものがありますが」

「じゃあ、ウチはウィザードでいいっすか?魔法を扱うのが得意なんで」

「わかりました。スピカ様がウィザードですね。お二人はどうされますか?」

「む……では、私にオススメな職業はあるか?」

「スパル様でしたら、ステータスが偏っていないので冒険者がいいと思われます。ミナヅキ様も同様、魔力に偏りがありますが、それ以外は特に偏ってはいないので」

「じゃあ、自分はそれにします」

「なら、私もそれで頼む」

 今気付いたけどスパル一人称私になってんだけど。違和感なさすぎ。

「では、ミナヅキ様、スパル様共に冒険者ですね。………はい、登録終了です。カードを返却いたします。元から覚えている魔法やスキルなどはこのカードに反映されませんが、新たに覚えた魔法やスキルは掲載されます。あと、クエストを受けて料金を貰う際には、このカードを本人確認のためお渡しください」

「ちなみに、他の人のカードに触れるとどうなるんですか?」

 そう質問しながら、俺は近くにあったスパルのカードに触れてみた。

「他者のカードに触れた場合、触れた人の身体には電撃魔法が―」

「痛っ!」

  ギルド内で「最後まで聞けよ」的な感じで呆れた声が次々とでてくる。

 今回は俺が悪いけど、それでも覚えとけよお前ら。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お金が欲しいっす!」

「そっか」

 スピカのそんな言葉をさらっと無視する。

「という訳で依頼を受けたっす」

「用意周到だなぁおい!?」

「む?依頼か。幹部の部下の手下が迷惑を掛けていなければいいのだが……」

「残念ながら迷惑掛けちゃったっぽいっすね。ゴブリン、コボルト、オークの三種の集落が街の近くにできちゃったっぽいっす。報酬は五万ヘルデル」

「ん?あぁ、それならいい。あいつらは手下でも何でもないただの馬鹿だからな」

「それはそうと……スパル、お前いつまでその姿でいるんだ?」

「それはもちろん、この街に居るときはずっとだぞ?なにせ我は元の姿では簡単に魔王と分かってしまうからな。それにもうこの姿に慣れすぎた。戻るには一ヶ月ほどかかるだろう」

 じゃあこの魔王はほぼずっと十五歳前後の少女姿ってわけか。

 なんかウケる。

「じゃ、遠慮なく爆発魔法ブッパしていいっすよね?」

「あぁ、勿論構わなi―……スピカ。お主今何魔法と言った?」

「え?爆発魔法っすけど……」

「爆発魔法というと、あの幻の爆裂魔法の下位互換の……?」

「そっすね。仮にもリッチーなんで。覚えるのに五百年かかったっすけどあれはまぁ威力がえげつないんすよ。試しに近くにあったオークの集落に打ってみたら集落の根本から天空までごっそりもってって」

 こいつサラッと爆発魔法なんて言ってんだけど。つかリッチー?え、こいつリッチーなの?あとさらに聞き捨てならないこと言ってきたんだけど。根本から天空までごっそり?え?なに?それ爆裂魔法の下位互換なの?下位互換で根本から天空までごっそりもってくの?何?この魔法考えたやつ馬鹿なの?

「いやー、あれはストレスが大分なくなったっすね。音はうるさいっすけど」

「ほう、リッチーなのか。そういえば、幹部に物凄い魔力を持つ魔法使いがいてな。そいつも確かリッチーだった。お主とあいつ、どちらが勝つか気になるな」

「その人の名前ってなんすか?」

「カペラ・ベテルギウスという、お主と同じ姓をもつ者だ」

「……えっとすんません、なんて言ったかもう一回言ってもらっていいっすか?」

「カペラ・ベテルギウスだ」

「……その人、ウチの兄なんすけど」

「え」

「『え』?」

 もう何がなんだかわからないんだが。スピカがアンデッドの王とも言われるリッチーで?その兄のカペラ・ベテルギウスが魔王の軍の幹部で?しかも幹部一の魔力持ち?ベテルギウス家はどうしてそんなに魔力が高いんだ?

「ま、会いたいか会いたくないかで言ったら会いたくないっすね。まだウチのデザート食べてきたこと根に持ってるんで。さ、早く集落潰しに行くっすよ。いつまでもあんぐりとしてないで」

「あ、あぁ。すまん」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「じゃ、爆発魔法を発動させる準備をするんで、お二人はなるべく三種を一箇所に寄せてほしいっす。集落は恋の三角関係的な位置にあるんで、その中心に集めてもらうって感じで」

「おけ、例えが変だったことについては触れないほうがいいか?」

「そしたらウチが三つの集落ごと爆発させるんで」

「了解した」

 さらっと無視しやがったよこいつ。

 そういや俺この世界でまだコボルトとオークは見たことねぇや。

「何も知らなさそうな二人に言っておくっすけど、コボルトは普通は大人しいんすけど、この時期になると活発になるっす。単体での強さはそんなに強くないなーくらいなんすけど団体で来ると地味にいい頭を使って蹂躙してくるんで気をつけてもらって。ゴブリンやオークはメスがいなくて、人型の生物でメスだったら追いかけ回されて捕まって、それで苗床にされるっす。なんで、スパルは変化を解除したほうがいいっすね」

「む。そうか。では解除しておこう」

 そう言って、スパルは変化を解除した。

 そういやこいつ解くのに一ヶ月近くかかるやら言ってなかったか?

「やはりこっちは動きにくいな。戦いが終わったらもう一度使うとしよう」

「じゃ、お願いするっす」

「任せろ」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「あああああああああああああああああああああああ!!」

「喋るなハトネ!声に釣られて馬鹿どもが出てきてしまうだろうが!」

「うるせー!!」

 えー、今現在。集落に吐息一つ入れたら否や、集落にいた全てのゴブリンが襲いかかってきて、逃げてたらまさかのコボルトとオークの集落にも足を入れており、集落に居たもの全てに追いかけられている。その数パッと見三百ほど。

 クリスが連れてってくれたときのあの集落とは明らかに数が違う、てかなんで一集落に百いるんだよ密度やば。

「頼む!スピカ!早く!」

 スピカは俺の言葉を受けてくれたのか、その魔法を放った。

「『エクㇲプㇿージョン』!!!」

 刹那。最初にきたのは、とてつもない、体が吹き飛ばされそうなほどの爆風。

 続いてきたのは、轟音。鼓膜が破れた。

 最後に、クレーター。それはもう、小さな村一つくらいにデカかった。

「――――!―――――――――――!」

 鼓膜が破れているため、なにも聞こえなかった。というか、何故かなにも感じなかった。あ、そういえば俺って爆発したところのほぼ中心に居たよな?

「……あれ?これってもしかして俺死んだ?」

「死んでないっすよ。早く起きるっす」

 スピカのその言葉に、俺は耳を疑った。というか、何で鼓膜が破れたのに音が聞こえるんだ?

「普通の人間ならば木っ端微塵になるはずだが……まあ、運がよかったのだろう」

 因みに全魔物が死んだことを確認すると、スパルはすぐに変化の魔法を使った。


「はい。コボルト、ゴブリン、オークの討伐と集落駆除の賞金五万ヘルデルです」

「ありがとうございますっす」

 スピカは受付の人に賞金を貰うと、こんなことを聞いた。

「すいません、ウチらが受けれるクエストってまだありますかね?」

「それでしたら、アンデッドの討伐、最近この辺りに出現した大精霊の確保、あとはツァイッドマッチリームの討伐ですかね」

「その……ツァイッドマッチリームってのは?」

 スピカが聞くと、受付の人は引き出しからボードを取り出し説明する。

「漆黒の毛皮を身にまとう、虎型の魔物です。冒険者になりたての人たちを多く襲うため、旅立ちの街としても有名なここでは、こうして討伐依頼を出しているのです」

「じゃ、それでお願いするっす」

「了解しました」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「強いと思ってたのに、意外とそうでもないっすね」

「お前が強いだけだよ」

「え、えーっと……依頼を受けてもらってから、まだ三十分も経っていないのですが……」

 そう。その通り。まだ十分しか経っていない。

「あ、それがですね。街を出たところに、丁度ツァイッドマッチリームが待ち伏せしてたんすよ。そのまま魔法打ったら倒せたんで、討伐の証として毛皮の一部と牙を持ってきました」

 「おぉ……!」と、ギルド内が少し騒ぐ。

「では、討伐賞金の十万ヘルデルと、あと牙と毛皮も売ってもらってもいいですか?」

「はい、いいですよ」

 そう言って、俺はバッグからツァイッドマッチリームの毛皮と牙、ついでに爪を渡した。

「こ、こんなにもらっていいんですか……?」

「俺は大丈夫ですけど……二人は?」

「大丈夫っす」

「あぁ、問題ない」

「ということで、もらってください」

「あ、ありがとうございます。では、毛皮が一万ヘルデル、牙一本千ヘルデルが六十六本で六万六千ヘルデル。爪一本が同じく千ヘルデルで八本なので八千ヘルデル、合計十八万四千ヘルデルです」

 十一万九千。これだけあれば一ヶ月はまともに生活出来そうな気がする。あくまでも気がするだけだが。

「大分お金がまとまったっすね」

「だな。…………あれ?そういえばクリスは?」

「クリステッドなら、つまらないと言い捨てて家に帰ったぞ。結構前にな」

 ……絶対あいつ人肉食いたさに戻っただろ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『警告!警告!只今前門の前に魔王軍の幹部が出現しました!住民はただちに避難を開始してください!繰り返します!只今前門の前に魔王軍の幹部が出現しました!住民はただちに避難を開始してください!』

 急に、フラットレディング全域にその警報が鳴り響いた。

「おい、お前の手下がここに来てるぞ。早く城に戻してやれ」

「何を馬鹿なことを言っている?我がこの騒動を止めたら我が魔王だということがバレてこの街に居られなくなるではないか」

『冒険者の方々は、至急前門前に集まってください!』

「呼び出し食らったな。よし行くぞ」

「「は?」」


「初めましてだな諸君!私はカペラ・ベテルギウス!魔王軍一の魔力を誇るエルフリッチーだ!」

 フラグ回収されたよ。前にスピカが会いたくないって言ってたから来ちゃったよ。スパルがめっちゃ呆れてるよ。

「まぁ待たれよ冒険者諸君。いずれ敵対する仲だとしても、この度は危害を加えるつもりはなく、諸君に聞きたいことがあってだな。おい待てプリースト達!神聖魔法の詠唱をするな!本当だ!本当に諸君に危害を加えるつもりはない!だからやめろ!詠唱をやめろプリースト!」

 カペラのその言葉と必死さを見て、僧侶たちは一度詠唱を止めた。

「あ、あぁ。感謝するよ、プリーストの諸君」

「なぁ、スピカ」

「な、なんすか…?」

「お前の兄貴、クッソ格好悪いな」

 バスン、と音をたてて蹴られた。

「うるさいっす」

「お、おう。すまん」

「さて、聞きたいのだが」

 カペラが口を開く。

 冒険者たちはどんなことをしてくるのか警戒しつつ、カペラの話を聞く。

「…私の愛しい妹と尊敬している魔王様が今どこにいるか知っている者はいるか?」

 その問いに、冒険者全員が一斉に吹き出した。

 もちろん俺も例外ではない。

「おい!何故諸君らは吹き出すのだ!どの街でもそうだ!私が言っている言葉がそんなにおかしいのか!?ただ単に私の愛しい妹と尊敬している魔王様がどこにいるか知っているか、と聞いているんだ!単なる人探しだ人探し!」

 そんなカペラに同情したのか、一人の冒険者が口を開く。

「俺らとしては、その妹と魔王のヤローの見た目を教えてくれればいいんだけどな」

「ん?あぁ、なんだそうなのか。魔王様は如何にも魔王って感じの見た目だぞ。妹は私より十センチくらい背が低くて、年がら年中長袖長ズボンと意味のわからない格好をしておる。服の色はクリーム色っぽい感じだったな。少し色白で瞳は深い黄色、髪色は水色だった気がする」

「「「「「いやわかるか!!」」」」」」

 複数人の冒険者の声が一致する。

「せめて名前も言え名前も!」

 最初にカペラに物申した冒険者がそんなことを言った。

 あれ、これ結構やばくね。

「わかったわかった!わかったからプリースト!呆れたように神聖魔法の詠唱をするな!いいか、言うぞ。まず妹の名前はスp――」

「『エクㇲプㇿージョン』ッッッ!!!!!」

 スピカが大声を上げ、カペラの周りだけに本気のエクスプロージョンを発動させた。いや、気持ちはわかるが。

「あーっ!なにしてくれてるんだ!」

「せっかく聞けそうだったのに魔法打ち込むな!」

「うるさいっすうるさいっす!これは私の問題だから手をツッコまないで欲しいっす!」

「いたた……人が話そうとしているところで爆発魔法を打ち込むなど酷いではないか!何処の誰だ!」

「『エクㇲプㇿージョン』ッ!!『エクㇲプㇿージョン』ッ!!『エクㇲプㇿージョン』ッ!!『エクㇲプㇿージョン』ッ!!『エクㇲプㇿージョン』ッッッ!!!!!」

 そこまで打って、スピカは倒れた。

「す、すげぇっ!伝説の爆発魔法、しかもそれを連発するなんて!」

「おいちょっと待ちたまえ!そいつは恐らく私の妹だ!スピカ!おいスピカ!聞こえているか!?」

「こっちのリッチーもすげぇぞ!爆発魔法を六発打たれてもまだ生きてる!すげぇよ!あんたらすげぇよ!すげぇから今日はもう終わりにしよう!な!」

「!そ、そうだな!終わりにしよう諸君!だから待ちたまえプリースト!諸君らの脳には弱肉強食の文字しかないのかこの脳筋が!あ、待て!頼むから待ってくれ!悪かった!私が悪かったから!詠唱を止めろ!いくらアンデッドの王でもこの人数の僧侶の魔法を受けたら流石に消える!やめろ!というかなんで駆け出しの街にこれだけプリーストがいるのだ!私は逃げる!もうこの街はいやだ!」

「「「「「『エキスティングリッシュアンデッド』!!!!」」」」」

「やめろ!本当にやめろ!スピカも消えるじゃないか!」

「よしスパル。スピカ連れてどっか行け」

「いや、一応我もアンデッドだから地味に消えかかってるのだが……」

「連れてけ。俺はカペラとかいうやつを連れてくから」

「はぁ。分かった。ついでに言うと、カペラは恐らくスピカの話をすれば付いて来ると思うぞ」

「サンキュ」

 俺はスパルに礼を言いつつ、カペラに近づいた。

「えと、あんたカペラだっけか?あんた、スピカの兄なんだろ?」

「!そ、そうだ。私は確かにスピカの兄だ。だが何故お前のような者がスピカを知っている?」

「仲間だからだよ。会いたいんだったら付いて来い。お前の尊敬してる魔王様にも会えるんだからよ」

「それは本当か?本当なんだな?よしわかったお前に付いて行こう」

 こいつチョロっ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「スピカ!おいスピカ!あぁ、この再会をどれほど待ちわびていたことか!…ちょっ、スピカ、抱かせろ!大人しくしろ!」

「うるさいっすうるさいっす黙るっす!大体何すか再会して早々抱きしめようとするとか!普通に気持ち悪いっすよ!」

「それは重々承知している!だからこそこうやって―」

「承知の上だったら余計にたちが悪いっすよ!」

 ……こいつを連れてくるべきじゃなかったと、心の底から後悔した。

 こいつはスピカに再会し、それからずっとこの調子である。

「おいカペラ。そこまでにしないか。スピカが困っているだろう?」

「申し訳ありません魔王様。このカペラ、妹君との再会で気が狂っておりまして」

「あぁいや、自覚があるのならばよい」

「それは、まだ追いかけてもいいということで?」

「何を言っているのだ馬鹿め」

 ……今、スパルからのカペラの好感度はゴブリンと同レベルになった気がする。

「そういえば、なんでカペラは変化の魔法を使ってるスパルを魔王だって見抜けたんだ?」

「私にそれを聞くのか?そんなの簡単な話だ。この魔王様の御姿が、アンデッドになる前の魔王様の御姿であるからだ」

「「……えっ?」」

 なにそれ。初耳なんだけど。

 つまりはあれか?カペラとスパルはスパルがアンデッドになる前から面識があったってことか?

「そうだがなにか?」

 心を読まれた。

「心を読まれた?その程度で驚くではない。私はアンデッドの王リッチー、さらにその中でもエルフから成ったとされるエルフリッチーだぞ?心読魔法や爆裂魔法はとっくのとうに覚えとるわ。あとお前魔王様の私に対しての好感度どうこうも聞こえているぞ」

「それに知ってるっすよね?エルフは元々長寿。人がリッチーに成ることでも限りなく不老になるのに対してエルフの長寿も加わるとなると、一万年は確定で生きるっすよ。私はちょっとは反対したんすけどね、憧れの爆発魔法を覚えられると思うと、ちょっと好奇心のほうが勝っちゃって……」

 あぁ、あれだ。

 多分ベテルギウス家馬鹿だわ。

「私達の家系に文句があるというのならいくらでも爆裂魔法を放ってやるぞ?」

「おっとストップ止めて下さいお願いします」

 そうだったこいつ心読めるんだった。なんで一分も経ってないのに忘れてるんだ俺は。

「それは単にお前の記憶力が極端に悪いだけだ」

「おい心読んで会話を繋げようとするな。人見知りが見え見えだぞ?」

「人見知りだったら先々刻のような大勢の人間がいる場所で大声など出さぬわ馬鹿者が」

「話がそれているが。そもそも何故カペラは我を探していたのだ?城に滞在しておれと幹部全員に命令しただろう?」

「それがですね魔王様。魔王様がいなくなってから二日ほど経ったある日、ギルティヅが魔王様が心配で心配で仕方がないといい初めまして。他の幹部……まあ、キヲやパイク、アンシュといった女性陣の賛同もあり私がちょうど暇して――エフン、大した仕事もなかった私が探しに行くこととなりまして。命令違反になるぞと言っても『魔王様の安全が第一だ』と押し切られ……ついでにスピカも探そうかと考えまして今に至ります」

「……わかった、心配してくれたのはありがたいが。後でキツく言っておくとしよう」

「わ、私がついで……」

 スピカが今にも泣き出しそうな顔をしている。

「あぁ待てスピカ!私が言ったのはそういう事ではなく……いやそういう事なのか?と、取り敢えずすまないスピカ!なにか欲しいものがあったら言うがいい。私が持ってきてやろう」

 スピカはそう聞くと、手で覆っていた顔の覆われていない部分から不適な笑みを浮かべた。

 …こいつ、ここまで計算してたのか。

「じゃ、使い切らないマナタイトが欲しいっす」

「……本気で言っているのか?そもそも、マナタイト自体が希少な鉱物なのだ。それの使い切らない版だと?一体何年かかると思っているのだ」

「千年」

「なにを言っている∞だ。そもそも無限に使えるマナタイトがあるわけなかろうが」

 スピカとカペラが揉めている、その時。

「ミナヅキハトネ様方。一階オフィスに来客が来ています」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 誰だろう、と考える。思い当たる節と言ったらクリスだが、クリスは宿に入れない筈だ。

「ミナヅキハトネ」

 小さな声で、カペラに呼ばれた。

「この先にはお前が会いたくないであろう者がいると、心読魔法を使う私は予想する。それは魔王様もスピカも、私も変わらない。それでもお前は行くか?」

 少し考えてから、言う。

「面倒くさいことになりそうな予感は俺もするが、それでも俺は行く。本当は行きたくないが」

「……そうか。私は忠告したぞ」

 そうして、階段を降りて、オフィスに着いた時。

 ……手錠を持った人達がいた。

「ミナヅキハトネ一行!お前等には魔王と共に行動したとして、魔王軍のスパイではという疑いがある!よって現行犯逮捕、留置所まで来てもらう!」

 ……拝啓。御父様 御母様。

 私は、この異世界で暮らしていける気がしないです。

このすばに展開が似てるだって?知ってますよそんなことだってこのすばにハマってるときに書いてたんですもんこの辺り

あと次回から短い話ポンポン上げる感じでいきます、+この作品多分めっちゃ更新頻度遅いです

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