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異世界召喚された引きこもり、もう死にそう

初投稿です

駄文かと思いますがよろしくお願いします

「……どうしよ。ホントに成功しちゃった」

 などと呑気に、目の前の女性は呟いている。

 自分が何処にいるのか考えてみる。広がるのは、草原。三百六十度、どこを見渡しても限りなく何もない、草原。そこに、一人の女性と俺、そして俺の下にある魔法陣以外、特に目立つものは……え?魔法陣?え?え?なんで?あれ?これは現実だよな?自分の頬を抓ってみる。痛い、つまりこれは現実だ。

 同時に、記憶の中でこのようなシチュエーションの出来事を探ってみる。目を覚ましたら見覚えのない景色、自分の下に魔法陣、そして「ホントに成功しちゃった」という目の前の女性の言葉。ここから繰り出される答えは……。

「異世界召喚……!?」

 思わず、口に出してしまった。

 因みにここまで考えた時間は五秒ほどである。

「あ、初めまして。あなたは別の世界から来たのよね?」

「え?えーっと……多分、そうですね」

 初対面なので、一応敬語を使う。

「敬語なんて使わなくていいのに。だって……」

 その女性は、一拍置いて、言った。

「あなたは今から、私に食べられるんだから……ね?」

「……えっ」

 瞬間、目の前からとてつもない殺気。

 あっ死んだ……と、即座に理解した。逃げようと思っても逃げられない。なにせ、こっちは最近まで引きこもりをやっているのだから。足なんて階段を下りる時ぐらいにしか使わない。

「……って」

 目の前の女性は、急に殺気を収めた。

「あなた、全然お肉ないじゃない。こんなの絶対足りないわ」

「……はい?」

「ああ、えっとね、一から説明すると……」

 曰く、この世界は俺が住んでた日本がある世界とは異なる世界……つまりは異世界なのだと言う。まぁ、分かってはいたが。

 ここには、俺の居た世界にはいなかった生物(正確にはいないとされる生物)がいるらしい。

 例えば、ドラゴンとか、エルフとか、ドワーフとか。

「で、私がなんなのかっていうと、トロールって言う、人間のお肉が大好きな種族。あなたも聞いたことくらいはあるんじゃない?」

「いや、あぁ……うん……」

 それなら、俺を食べようとしたことも納得できる。

 でも、なんで俺を食べようとしたんだ?もしかして、この世界には人間が少ないのか?

「聞くけどさ、この世界って人間が少ないのか?」

「いや?私達が全員集まっても食べ終わるのに一週間かかる位には多いわよ?」

「なるほど分からん」

「簡単に言ってしまえば三十億人ほどね」

「なるほどお前らトロールがヤベーやつらだってことは分かった」

 なんで三十億人の人間が一週間で無に帰るんだよ、と頭の中でツッコミを入れる。

「やばい奴らってことはないでしょ。それでも一日中ずっと人間を食べるとするなら、よ」

「もう一つ質問。何故俺をこの世界に呼んだ?食べる人間は今の話を聞く限り沢山いるじゃないか」

「えーと……それは……異世界の人間の味を知りたかったからです。はい」

「はぁ……」

 こいつはあれだ。自分の欲望の為ならどんな事もする系のやつだ。

「ま、まぁでもね、私と同じで禁忌を犯してまで異世界の人間を食べようとするトロールなんていっぱい――」

「ちょっと待て」

 トロールが焦りながら放った言葉を、俺は遮った。

「今、禁忌っつったか?」

「そうよ、禁忌よ。この世界では異世界から何かを持ってくることは禁止されているもの」

 こいつ……!

「早急に帰りたい」

「何で?ここはあなたにとっての異世界よ?ほら、『げーむ』というやつがあるじゃない、たしか『あーるぴーじー』だったかしら?それではモンスターを倒して自分のレベルを上げて魔王を倒す、っていう流れじゃない?この世界も全く同じ……とまではいかないけど、モンスターがいて、それを倒して、レベルを上げて、魔王を倒す、っていうことをやった人達はいるわ。モンスター……って言うかこの世界では魔物ね。魔物の例で言ったら……そこの大きい虫とか」

「そこの虫?」

 それは、急に現れていた。羽に光沢があった。昆虫に見えた。楕円形だった。よく見たことがあった。デカかった。クッソデカい。そう。あれは……

「ゴキだあああああああああああああああ!!!!」

 皆大嫌い、家によく出る天下のゴキブリ様である。

「あ、そう。あの虫の魔物の名前はゴキブロス。冒険者の中で一番嫌われている魔物ね」

「いやそうだろうよ!逃げたい!今すぐ!」

「無理よ。ゴキブロスは強靭な顎をもち、あの体型からは想像しにくいくらいの俊敏性がある。さらには顎の力は四十トン、速さは最高時速百五十キロメートルにも達すると言われているわ」

「もうこの世界嫌だ……」

 などと悲しんでいると、ゴキブリ――もといゴキブロスが俺達の方を向いた。

 ……嫌な予感がする。もちろん、その嫌な予感は的中した。ゴキブロスが、カサカサと音を立ててこちらに向かって来ている。

「ぎゃああああああ!!!どうすんだアイツ!」

「まぁ待ちなさい。この世界には魔法があるのよ」

 そう言いながら、トロールは何処からか杖を取り出した。

「『クリムゾンウォーター』!!」

 トロールがそう言葉を放った、刹那。辺り一帯に大洪水と言わんばかりの真紅の水が出現する。

 勿論、俺も巻き込まれる。ほぼ階段の上り下りにしか使ってないこの足では、泳ぐことすらできなかった。

「ギギギギィィィィッェエエエエェァァアアァアアァアアッッッ!!!」

 その虫とは思えない、黒板を爪で引っ掻いたような音で叫ぶゴキブロスに恐怖し、足がすくんでしまう。そんなとき、目の前に一つの手がでてきた。

「ほら!掴まって!」

 トロールが差し出した手を、すぐに掴んだ。

「あ、危ねぇ……」

「これが魔法。常時心臓に蓄積されている魔力を自身の肉体に巡らせて、杖………もしくは手に送る」

 杖でやった方が威力が高いけどね、とトロールは言う。

「魔法によって生成されたものは、魔力の巡りを解除するまで永遠に残る。今回は虫型の魔物に有効な水属性の魔法を使ったけど、他にも火属性、風属性、土属性の魔法とか、雷魔法とか氷魔法、神聖魔法、回復魔法、光属性魔法に闇属性魔法なんてのもあるわ。あと幻の魔法として爆裂魔法があるわね」

「へ〜」

「これでゴキブロスはやられたみたいね。流石最上級魔法だわ」

「……ん?」

「どうしたの?」

「最上級魔法?」

「ええ、そうだけど。あ、言っておくけど人間が習得するには一般的には二百年くらいはかかるわよ。と言っても、才能があれば話は別だけど」

「トロールの寿命ってどれくらいなんだ?」

「ざっと千年くらいかしらね?私は魔法で毎年若返ってるから寿命は延びてるけれど」

「……あんたは?」

「女性に年齢を聞くなんていい度胸ね」

「ああ分かった。分かったからなんか詠唱するのやめてくれめっちゃ怖いんだが」

「『フローズンサンダー』!」

「いやどっちだyああああああああああ!!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「んぁ……」

 重たい瞼をこじ開け、目を覚ます。

 ここはどこだ、と考える。

 恐らくは、どこかの家だろう。高級そうなシャンデリアがぶら下がっている。

 辺りを見渡す。そして気付いた。

 あのトロールが膝枕してくれていたということに。しかもそのトロールは熟睡している。

「えーっと……起きてもらってもいいでしょうか……?」

「ん〜……美味しそうな人間の匂い……」

 ありゃ、だめだこりゃ。そう思った時、右手の人差し指に生暖かい感覚がした。

 その生暖かさの答えは単純明快。……トロールが、俺の人差し指を口に入れている。勿論甘噛で。

「……二度寝するか」

 そう呟いてから、俺はまた深い眠りへと落ちていった。




「あ、おはよう」

 目を覚ました直後、トロールがそんなことを言ってきた。

「よく眠れた?」

「あぁ、お陰様で」

「そう、よかった」

 トロールはそう言っているのと裏腹に、何かソワソワしていた。

「なぁ、そんなにソワソワしてどうしたんだ?」

 俺が質問をすると、トロールの肩がビクッとなる。

「いや、あの……ごめんなさい。その、人差し指……」

 人差し指?人差し指って言ったら昨日(?)このトロールに甘噛されたくらい……しか……こいつやりやがったなちくしょう。

 俺の右手の人差し指は、綺麗に第二関節のところで途切れていた。

「おい……」

「ごめんなさい……なんか美味しそうな人間の匂いがしてたし、私、口の中に何か入ってると噛み砕いて飲み込む癖が……」

「今すぐ治せその癖」

「無理よ。でも、癖を治すことができなくても、指を治すことはできるわよ?」

 ……え?

「マジで?」

「えぇ。やってみるから包帯外して頂戴」

 俺は言われた通りに、包帯を外した。指が赤く染まっている。切り口がなかなかにグロい。

 ぶつぶつと、トロールが詠唱する。

「『リプロダクション』」

 トロールがそう言って魔法を使った瞬間、ボコボコと、指が再生する。はっきり言ってちょいグロい。だが。

「「治った……」」

 ホっと安堵する。……ちょっと待て。なんでこいつまで安堵しているんだ?

「いやー、よかったわ治って。実はこれ、最近覚えたばっかりで。試そうと思ってもほら、私強いから。魔物が攻撃してくる前に倒しちゃうのよね。かと言って自傷する訳にもいかないしね。だから丁度良かったのよ」

「殴っても誰も文句言わないよな?なぁおい」

「知ってる?トロールってちょっと力が強いのよ?あなたのヒョロヒョロな腕なんか簡単にポキって折れちゃうから」

「すいませんでした」

 俺は頭を床につけて土下座する。

 デリカシー?んもんない。俺は生きてさえいればそれでいい。

「ま、こんな茶番してないで、自己紹介しましょ。私はクリステッド・アグリム。気軽にクリスって呼んでくれるとありがたいわ。種族は前話した通りトロール。使える魔法は火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、土属性魔法、雷魔法、氷魔法、回復魔法と、まあかなり時間を費やしてきたから大体なんでも使えるわ。特技は翻訳で趣味は人間の狩りね」

 そう自己紹介をしたクリスを改めてじっと見る。艶のある鮮やかな黄緑色の髪に、大きな黄色の瞳。髪型はいわゆるハーフアップと言われるもので、RPGの村娘のような服を着ている。顔立ちも整っていて美人ではあるが先の出来事諸々を含め考えると残念美人といったところか。

「俺は水無月(みなづき)羽利根(はとね)。特技はまあ特にはないな。趣味はゲーム、体力はちょい多いくらい。最近まで引きこもりだった。ってかクリスが日本語バンバン喋ってる俺と会話が出来てるのって俺の言葉が翻訳出来てるからなんだな」

「え?違うわよ。だけど前読んだ文献によると、書く言語は違うけど話す言語は同じって書いてあったから、まあそれじゃないかしら。で、なにはともあれ」

 クリスが手を差し出す。

「よろしくね、ハトネ」

「こちらこそよろしく、クリス」

 俺はその手を握り返した。

「ささ、朝ごはんにしましょ。あぁ、トロールは生で食べるけどちゃんと人間に合う味付けにするから」

「えそれって人肉――」

「さーて作るわよ。っとその前に。これ付けて」

 話反らしやがったな。

「……なにコレ」

 見る限り首輪にしか見えないソレを取り出すクリスに俺は疑問符を浮かべる。

「っ?首輪だけど」

 不思議そうにクリスは言ってきた。いや、首輪だってことはわかるよ?なんで俺が首輪つけんの?

「早くつけなさいな。私とハトネは今()()()()()()()みたいな関係なんだから」

「……は?」

「……トロールが人間をペットにするのは決して珍しいことではないけど?」

「俺にとっては珍しいことなんだよふざけんな」

「まぁまぁ、そんなこと言わずに。首輪つけたとしても特段変なことが起こるわけでもないし。私特製だからデザインとかサイズとかもちょちょいと変えられるし」

「……俺は絶対につけない」

「そ。じゃ、寝てて」

 ドッと、音がする。1瞬なにをされたか分からなかった。だが今分かった。クリスが俺の首の後ろを叩いて気絶させようとしている。

 そして、俺の意識はだんだんと遠のいていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「――い。―ト―?お――」

「……ん」

「おはよう、ハトネ」

「……どんくらい時間立った?」

「んーっと……三十分くらい?」

「あー、おっけ」

 重たい身体を起こす。

「……ん?」

 首元になにかがついている気がする。

 ……クリスお前やったな。

「うん、似合ってる似合ってる」

「なんとなくお前俺を気絶させて首輪つけてくるだろうなーとは思ってた」

「さて何のこと?ハトネが自分でつけてたわよ?そんなことよりご飯できたから冷めないうちに食べちゃって」

 目の前に並ぶのは美味そうな料理。(あくまでも美味そうなだけなのだが。)

 ……人肉は使ってないよな?そういえばこっちって家畜とかいるのか?

「なぁクリス。これって人肉は使ってないよな?」

「使ってるのもあれば使ってないのも」

「よしじゃあ使ってないのだけ食うか」

「栄養素が偏るから却下」

「断でゅっ!?」

「あぁ、忘れてたけどその首輪、私に反論したら低確率でピコピコハンマーでてきて頭叩くから」

 笑いながらクリスは言ってくる。

 ……これはガチ目に殴っても誰も文句言わないよな?

「はぁ。食えばいいんだろ食えば。不味かったら1発殴らせろ」

 そういいながら、人肉料理を口に――

「殴るわ」

 なんだこれは物凄く不味い人が食べていいものじゃないなんだろうなこの味はまるで雨の日に彼女に振られてそのまま泥酔した後排水溝にゲボ吐いてそんまま嘔吐物に顔面付けた時みたいな味がする酒飲んだことも彼女いたこともないから知らんけど。

 ……要するにはバチクソ不味い。

「あれ?味付け間違ったかしら?」

「いや、味付けはいいんだ。……人肉ってこんな不味いのでっ」

 おいピコピコ。なんでここでくる。もしかしてあれか?(トロールにとっての)人肉の旨さを否定したからか?

「人肉の美味しさを分かっていないなんてまだ子供ね」

「うっせークリス殴らせろ」

「食事中に席を立たない」

「でっ」

 ピコピコハンマーの出現率高くないか?今のところ三連続で殴られてるんだが。

「仕方ないわねー、人肉料理は私が全部食べてあげるから」

 そう言いながら、クリスはパクパクと人肉料理を食べ始める。

 俺も別のやつ食うか。そう思って料理に手をのばすと、

「あ、それ人肉料理」

 これは人肉料理だった。別のものに手を出す。

「あ、それも人肉」

 ……別の。

「それも」

 ……

「あ、それもそう」

 …………

「そことそこのも」

 …………全部人肉じゃねぇかふざけんな。

 唯一人肉を使ってなかったのは水の代わりに(俺の)血を使ったパンだった。

 はっきり言って不味かった。



 朝食の後、俺はクリスに呼び出された。クリスは椅子に座りながら、書類や本の積まれた机で俺を待っていた。

「あなた、魔法が使えるようになりたいと」

「思う」

「かなり食い気味ね……」

 仕方がないだろう。なにせ、異世界といえば魔法。男子たるもの、格好いい魔法の一つや二つ覚えたいはずだ。……そうだよな?俺がオタクだからそういう思考になってるだけじゃないよな?

「じゃあ、まずはあなたがどの属性の魔法に適正があるのか見ましょうか」

「適正?」

 気になったので聞いてみる。

「ええ、魔法と言っても、そもそも魔法を使えるだけの才能があるのか、使えるとしてどの魔法を使うと威力が高くなるのか、どの魔法が一番正確に使えるのか、そういうのを確かめた方が後々大変な目にも合わないし」

「なるほど」

「そこで、これよ」

 クリスはそう言うと、机のなかからタッチパネルのついた機械のようなものを取り出した。

「……なにそれ」

「これはね、その人と最も相性のいい属性の魔法を教えてくれる魔具よ。ここにパネルがあるでしょ?ここに手を翳すとね」

 言いながら、クリスはパネルに手をおいた。すると、正面にはホログラムのようなものが映し出され、そこには俺の読めない、おそらくこの世界の文字が書かれていた。

「こんな感じで、適正魔法を教えてくれるの」

「おお、なんて書いてるのかわからんが凄い」

「でしょ?これ私が頑張って作ったのよ」

「へえ、凄いな、本当に」

「え、ハトネが素直に褒めるだなんて……さっきまでのツンツン具合はどうしたの……!?」

「いや、お前は何に期待してんだ。そもそも、この首輪も中にピコピコを収納できてるって時点で技術力は相当あるってわかるんだよ。だからその辺りはちゃんと褒める」

「……調子狂うわね」

「なんでだよ」

 意味のわからないことを言うクリスを横目に、俺はそのパネルに触れる。そこには、やはり俺の読めない字で文字が表示された。

「これ、なんて書いてるんだ?」

 俺がクリスに聞くと、クリスは「何を言っているんだ」という顔をした後、合点したようにああ、と声を漏らす。

「そう言えばハトネはまだこの世界の文字を読めなかったわね。あなたの適正魔法は土属性よ」

「……土かあ」

「なに、不満なの?」

「いや、魔法が使えるのは別にいいんだが……土って地味じゃないか?」

「そんなことないわ、確かに火属性や風属性とかと比べると確かに見劣りするけど、土属性の魔法はかなりすごいわよ。練度を極めれば一瞬で土の壁を作ったりできるし、なんなら臨時の家だって作れる。まあ、創造力とか汎用性が高いのよ」

「ふーん、んじゃ、頑張って極めるか」

「わかったわ。他の魔法はいい?」

「ああ、汎用性が高いなら、それ一点に集中すれば、他の魔法使いよりも練度は上がるだろ」

「効率的な考え方ねえ。じゃ、着いてきなさい。庭にいい練習場があるの」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 クリスに言われた「いい練習場」の近くにまで来た俺は、自分でもわかるくらい引きつった顔をしていた。

「ここって……」

「魔法訓練所、別名ゴブリンの巣よ」

「絶対そっちがメインだろ!?」

「私にとっては訓練所よ。とは言ってももう弱っちいから訓練でもなんでもないんだけど」

「俺にあの緑を倒せと?」

「ハトネ、倒すんじゃないわ。殺すの」

「もっとやだよ」

「覚悟を決めなさい。人間、やらなきゃいけないときが必ずくるのよ」

「絶対今じゃないと思うけどな」

「おだまり、食べるわよ」

 最大級の脅しをされてしまった。

「……わかったよ」

 渋々と承諾し、クリスに向きかえる。

「で?どんな魔法を教えてくれるんだ?」

「そうね、まずは簡単なものからいきましょうか。うーん……」

 クリスはそう言いながら、考える素振りをする。そして思いついたのか、俺の方へと向き直ってきた。

「これかしらね、『マニュピレイト・ソイル』」

 クリスがそう唱えると、クリスの周りから俺達を覆うようにして土の壁が作られていく。

「おお……」

「どう?これが土属性魔法の基本よ。まあ、幼稚に言えばただの土遊びだけど」

 クリスが言うと、土の壁は元の地面に戻っていった。

「さ、やってみなさい」

「いやできるか」

 俺は冷静にツッコミをいれる。というか誰だってそうだろう。例えると百点満点のテストの答案用紙を見せられてから「これと同じように満点取れ」と言われているようなものなのだ。

「さっき……じゃなくて。昨日のゴキブロスのときに言ったでしょ。魔力を全身に巡らせて、多くを手か杖に送るって」

「まあ言ってたけど。そんな一回の説明だけでわかる奴なんてそうそういないだろ」

「いるわよ、ここに」

 そう言いながら自身に指を指したクリスを本気で殴り飛ばしたくなったが、逆に俺が飛ばされるので勘弁する。

「そうね、なんて言えばいいのかしら……こう、なんていうか、魔力を水に置き換えると、心臓に溜まっている魔力は貯水タンクに溜まってる水になって、放出先の手は蛇口になるのかしら。タンクから蛇口に水を送るには水道管っていう立派な通り道が必要じゃない?魔法も同じで、心臓から手に送るには血管とか神経経路とかの、なんでもいいから体の中にある何かを通すものを通り道として使えばいいの。血管と神経系はそれこそ全身にあるからどこからでも魔法が撃てるし、本当の天才だと組織液を通じて魔力を通すヒトもいるらしいわ。それと、魔法を撃つならその魔法の名前もいいなさいよ、威力がへっぽこになるから」

「つまり、魔力を液体として考えろと?」

「ざっくり言うとそうね」

「なんとなくだけどわかった、やってみる」

 俺は深く深呼吸をした後、魔力を全身に流すイメージをする。血管を、神経を、管のようにして、手に集中させる。

「……『マニュピレイト・ソイル』っ!」

 その魔法を詠唱する。すると、先ほどまで平坦だった地面が、ちょっとした坂のようにボコッと浮かび上がった。

「…………思ってたのと違う」

「あら、そう?」

「俺はなんかこう、クリスみたいにどかーっと上げたかったんだが」

「そうなの、なら教えておくわね。いい?まず前提として、魔法は才能が九割、努力が一割の完全才能主義よ」

「……で、俺は?」

「安心しなさい、ちゃんと才能はあるわ。微々たるものだけれど。ああ、それについても安心していいわ。才能さえあれば、常人より努力と経験を積み上げたら格段に強くなれる。で、続きなんだけど、さっきのハトネはね、ちゃんとした『イメージ』ができてなかったの」

「イメージ?」

「あなたは今魔法を撃つとき、どんなイメージで魔法を撃ったのかしら」

「それは……何も考えてなかったな。取り敢えず、ぐわーっと土が盛り上がるんだろうなと思いながら撃ったと思う」

「そう。いいこと?魔法の大半はイメージの具現化よ。魔法を撃つとき、その魔法がどのようになるのか、例えば、ただの『ファイア』だったら、火の玉みたいに飛んでいくのか、それとも指の先から出ていくのか、蝋燭の炎みたいに小さい火なのか、同じ一つの魔法でも、それぞれのイメージで全部が変わる。だから、今の『マニュピレイト・ソイル』だって、あなたがしっかりと地面が盛り上がって土の壁になるっていうイメージをしながら撃てばしっかりと発動するの。見た感じ、あなたの魔力量は多いしね。まあ、私みたいな上級者だったり天才だったりだと、その工程も詠唱も全部すっ飛ばせるけどね」

「お前やっぱうざい」

「あっそう?でも、慣れてくればすぐに魔法は撃てるようになるわよ。だからそれまでここで練習してちょうだい?」

 クリスがそう言うと、俺の服をガッとつかみ、ゴブリン共のいる場所まで投げ飛ばしてきた。

「ウガァ?」

「ゴグァア?」

 そして、投げ飛ばされた先にはちょうど二体のゴブリンがいた。

「――はひっ」

「ハトネー!しっかりやりなさいよー!」

「黙りやがれえ!!」

 俺が大声を上げてしまったことが原因なのか、それとはまた別なのか、その大声をゴブリンは威嚇だと勘違いしたようで、俺を鬼の形相で睨みつけていた。

「……っ!」

 幸いまだゴブリンは俺のことを警戒しているだけだ。なら、今一度ちゃんと発動する時の注意点を思い出す。

 魔力は水だ。それを手に運ぶだけ、さっきやったこととなんら変わらない。詠唱を忘れるな、最悪死んで終わる。魔法はイメージ、想像しろ、周りを巨大な土の壁で覆う想像を……!

「――『マニュピレイト・ソイル』ッ!」

 瞬間、俺の周り――ではなく、ゴブリンたちの周りの地面が起き上がり、土の壁となってゴブリンたちを囲い、包み込んだ。

「……え、なんで?」

 俺は確かに、地面が盛り上がって土の壁になる想像を……あ、でも「誰が」壁の内側にいるかは考えてなかったのか。なるほどなるほど。魔法ってくっそ面倒くせえ。

「上出来じゃない、ハトネ」

 後ろからそんな声が聞こえ振り返ると、拍手をしながらこちらにやってきているクリスがいた。

「いい加減にしないと殴るぞ、マジで……」

「でも、いい経験になったでしょう?」

「それはまあ、そうだけどさあ」

「それに、あなたにはまだまだやるべきことがあるわよ」

「――へっ?」

 俺はクリスの言葉に、素っ頓狂な声を上げた。

「だって、今の『マニュピレイト・ソイル』はただの防御・建築系の魔法なだけであって、攻撃性能は皆無だもの」

「……まさか」

「ええ、そのまさかよ」

 クリスはニコッとした笑みを浮かべ、俺がゴブリンを囲んだ土の壁ごと、地面から大きな結晶を生やしてゴブリンを殺す。

「今からコレ、習得するのよ」

「……はー待て待て、嘘だろおい」

 クリスが生やした結晶は軽く五メートルほどはある。クリスは自身のことを天才だと自称していたが、これを無詠唱で出したとすると、その言葉は間違ってないのではないかと思ってしまう。

「魔法を極めたいのでしょう?」

 クリスは俺に、そう問いかける。

「ならせめて、あなたの適正魔法くらい全部覚えなさい」

「……それは一体どこで練習を――」

「ここに決まってるじゃない」

 そうして、俺はいつ死ぬかもわからない地獄のような日々を送ることになったのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ハトネ、今日は実践練習よ。一番最初に見つけた魔物に魔法を打ってみなさい。私はここで待ってるわ。危なくなったら呼んで」

「へいへい」

 俺は辺りを見渡し、複数の魔物を連れているやつを見つける。丁度いい。あいつらは俺に気付いてないみたいだし、あいつらに打ってみることにする。

「『マニュピレイト・ソイル』」

 土を隆起させ、岩ほどの大きさまで上げたら止め、かがんで相手から自分の姿が見えないようにする。そして、深呼吸をし、その最大火力の出せる魔法の詠唱を始める。

「あ、ハトネ。そこの魔物を引き連れてるヒトは攻撃しちゃ駄目よ」

 そんなクリスの言葉をさらっと無視し、詠唱を続ける。

「あのヒト、魔王だか――」

「『ピァースィングプリズムロック』――!」

 魔物とそれを引き連れているものに、結晶が突き刺さる。

「決まった……でっ」

 またピコピコで叩かれた。しかも結構強めに。

「決まった、じゃないわよ!何普通に魔王さんに魔法打ってんの!」

「え?」

 魔王……?

「うぐぐ……やるではないか」

 あっこれマジの魔王じゃん。魔王じゃなかったらこんな早く結晶が刺さった箇所の治癒をしてここまで来ることなんてできないだろ。いやできる奴もいるかもしれないけどさ。

「魔法の威力も申し分ない、命中率も高い、さらにはこれを撃ってなお魔力がまだ残っている、……なるほどな」

 魔王はしばし考える素振りをして、やがて俺の手をガッと掴んで言った。

「お主、我の計画に協力せんか?」

 ワーなんか勧誘されたー。

「いや、ちょっと侵略とかそういうのはちょっと……」

「何を言っている?侵略など争いが発生しそうなことはせぬぞ?」

 は?なに言ってんのこの魔王さん。争わない?普通魔王率いる魔物達を勇者とか魔法使いとかが力を合わせて勝って元凶の魔王倒してハッピーエンド、ってのが普通じゃないの?

「我がお主に言っているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()に協力せぬか、ということだ」

「……はい?」

「あぁ、ハトネ。この魔王さんはね、心優しいヒトなの。それも人間にも、人外にも。ね、魔王さん」

「ん?あぁ、いつぞやのトロールか。久しいな」

「そうですね〜。七百年くらい前でしたっけ?」

「ぬ。百年違うな。八百年前だ。それと、敬語はなしでいいと前も言ったはずだ。我の方が十歳年下だからな」

 なんの話をしてんだこいつらは。百年を一年と勘違いして話してないか?

「あらそう?じゃあ、お言葉に甘えて」

「あーっと……魔王さん?」

「ん?なんだ?」

「クリスと知り合いなんですか?」

「あぁ。八百年ほど前に一度出会ってな。その時は我が魔王を継いで間もないころだったのもあってか、我の提案を聞き受けてくれる者が少なくてな。そこで、我の考えを尊重してくれた数少ない者の内の一人がこのトロールなのだ」

「ちょっとー。トロール呼びはやめてほしいんですけどー。私にはクリステッド・アグリムっていう立派な名前があるんですけどー。」

「ん?そうだったな。すまんなクリステッド。で、だ。人間、我と協力する気はあるか?」

 あの、魔王さん、ちょい近いっす。

「待ちなさい。ハトネは私が飼ってるの。私が許可を出さなきゃハトネは渡さないから」

「ならば我がお主らの仲間になればその問題は解決するな」

「……いいの?」

「なにがだ?」

「仲間になっても」

「何も問題は無い。強いてあるとすれば我がパっと見で魔王だと分かってしまうことのみだ。だがそれも問題ない」

 そう言って、魔王はなにかの詠唱を始める。

「『デェィスカェイス』」

 次の瞬間。魔王の姿は……

 ……十五歳前後の少女に変わっていた。

「「……ふっ」」

「笑うな!自分の姿を笑われるのは癪に障るのだ!」

 いや、声まで変わってるとなると全くの別人にしか見えないな、これ。絶対魔王だってバレない。魔王は白髪のストレートで黄緑色の瞳をもち、路考茶色の服とロングスカートに身を包んでいる。身長はかなり低くなり、おそらく百五十センチほどだろうか。

「取り敢えず!これでいいだろう?」

「え、えぇ。全くもって問題はないわ」

「そういえばまだ名乗ってなかったな。我はスパル・キネムと言う。よろしく頼む」

「「あぁ(えぇ)、よろしく」」

いかがでしたでしょうか

諸事情により不定期で更新していきますので、お気に召しましたらブックマークやお気に入りに追加してくださるとありがたいです

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