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もっと遠くへ

作者: 花瓶

とにかく遠くへ行きたい。

どこまでも遠くに行きたい。


窓の向こうに広がる景色に指を滑らせ理想に馳せる。俺は、理想を持って電車に乗った。

その理想とは、数時間後に「海」を見ている、それだけ。

別に、春先の柔らかい風を感じながらとか、夏が来る前の〜とか、深い詩的な理由はない。

こういうどこかに行きたいという願望は、よく湧いてくる。けれど、全てを叶えられるほどの力はない、だから叶えやすいものばかりを叶える。

側から見れば、叶えやすい願いというのは、叶えにくいものよりも、安く軽く感じる人が多いのかもしれない。

しかし、俺はそうは思わない。

叶えやすくとも、叶えにくくとも、願望であることに変わりはない。叶えやすさにくさに、安いも高いも、軽いも重いもない。

俺は、願望というものに同じ程度で向き合いたい。

今向かっている海だって、人によっては軽くて安いかもしれない。

けれど、俺は「遠くへ行く」という多くある願望の一つとして、同じ程度で向き合う。

こんな志を持って海を待つ。


長い時間が経ち、海が近づいてきた。

電車が駅に停まり、ドアのボタンを押して電車を降りた。階段を軽快な足取りで降り、改札へ向かう。改札には強い日差しがさしていた。冬の寒さが嘘みたいだった。

俺は強い日差しを退けながら海へ向かう。

海のある場所は森の向こうだった。

森の中に一本の道が通っていて、その先に海がある。海につながる森は、駅からは少し離れていた。

俺は、海のことばかり考えていた。だから海を目指す前に、森を目指すなんて考えていなかった。

去年の夏以来に、熱く熱く熱されたコンクリートの上を歩く。ひたすら歩く。そこまで距離はないはずなのに、遠く遠く感じる。

まだ冬が明けたばかりで、そこまで暑くないはずなのに、すごく暑く感じる。夏を感じる。

それでも確実に海は近づいてきた。

気づけば森の中を歩いていた。さっきよりは暑くない。けれど、ちらちらと太陽が生い茂った葉の隙間から俺を狙っている。俺は、木の陰に縋りつきながら海へ向かう。

しばらく歩くと、海が見えてきた。

少し早歩きになる。

気づけば、靴の隙間から砂が入っている。

気づけば、熱々のコンクリートを超え、緑が香る土を超え、きめ細かい砂の上に立つ。

気づけば、「海」をみている。

気づけば、「遠く」にきている。

手が届いた。やっと届いた。

海がある。海にいる。

波のうねり、砂浜を食らう泡、岩を穿つしぶき、全てが俺を魅了した。


こうして俺の「遠く」へ行きたい、「海」をみたいという願望は満たされた。

やはり、何かを満たすことは気持ちがいい。

次はどこへ行こうか。

理由なんていらない、どこまでも行こう。

俺たちならいける。

死よりも貪欲に生きよう。

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