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【前編】重圧と愛情

全2話構成の前編です。

世界観はシリーズ「おとぎ話の勇者 〜始まりの日〜

」に沿っていますが、内容は単体で読めるものとなっております。

よろしくお願いします。

 ーーいつからだろうか。

 親や周りの期待の眼差しが重圧に変わっていったのは。



 ーーいつからだろうか。

 君のことを道具のように思っていたのが、何よりも愛おしい存在に変わったのは。



ー・ー・ー



 人間と魔族が争うこの時代。

 少しばかり前、大魔王ガンダールと勇者ブラストの人智を超えた最終決戦の後、幾許かの年月が経ち、現魔王であるリンガルが再び人間界に攻め入ろうとしていた。

 


 その現魔王リンガルの息子である、私、リバルトは次期魔王筆頭候補として、厳しい日々の鍛錬や統治の勉学に明け暮れていた。


 幼い頃は剣も魔法も才覚に溢れ、同世代の中でも抜きん出ていた存在であったと思う。父や魔族の幹部どもからは期待の眼差しを受けており、その期待を受けるのに悪い気はしなかった。

 だが、母は私が物心つく頃には死去しており、家族愛というものを父からは感じたことはなく、あるのは父親にとって使える存在になれるかどうかの期待のみであった。


「リバルト様は流石ですな、これは父上も鼻が高いであろう」


「たいしたことはない。まだまだ父上には及ばない」


「これはこれは、本当に将来が楽しみですな」


 父の側近達は連日のように褒めたたえてきた。そんな日々を過ごしてくれば、調子に乗るのも無理はないだろうと過去の自分をフォローしておく。


「おい、貴様。私の剣を持ってこい」


「はい、リバルト様」


 またある時は…


「飯がまずいな、次期魔王である私にこんなものを出すのか!」


「も、申し訳ございません。ただいまお作りし直します…!」


 誰もが私の言いなりであり、父親が魔王だからと自分まで偉くなったのだと思い込んでしまっていた。

 しかし、その思いもすぐに崩れることになる。


 成長するにつれて、魔族全体の中でも上位に位置する実力を身につけると慕ってくる魔族も増えた。

 この時期に、今の私の側近である長剣を扱う魔族のカイザーや竜族のスナイザーなどが私の側近となった。


 だが、成長するにつれ、他からの期待が肩に重くのし掛かってくるのを強く感じるようになる。

 自分自身はまだ何も実績を残していない。ただ父親の権力を振り翳していたガキであったと。


ーー早く認められなければ、この期待を裏切らないように


 あの頃の私は、どんな小さなことでも武功を挙げ、周囲に認められるのに必死であった。


ー・ー・ー


「リバルト様、そろそろお父上様が人間界に攻め入ろうかとしているとのことです。我々も腕が鳴りますな」

 

 そんなある日、魔王である父上が人間界に攻め入るとの知らせが部下であるカイザーから報告があった。


 カイザーは時々戦闘狂な一面が顔をのぞかせる。私の部下の中でも血の気が多い方であるが剣技は私に匹敵する力を持ち頼もしい限りである。


「早く人間どもを沢山殺してぇな〜、あ〜楽しみだ」


 側にいたスナイザーは嬉しそうに言葉を発した。


 スナイザーは、少々思考が単純であるが、その凶悪性は見るものを恐怖させ、まさに魔王の側近に相応しい邪悪さを持っている。


「今回の侵略には、我々も賛同させてもらうように直訴してみよう。我らの力を敵味方に示すぞ!」


「「おお!!」」


 その後、許可を貰った私達は、魔王である父親に同行し人間の国であるハイアール国へ侵略を開始した。


 ハイアール国は歴史が古く魔法を専門的に扱う国であったが、身体能力も高く魔力も人間より多い我ら魔族率いる魔物の軍団にはなす術もなく続々と敗走していった。



「人間どもは殺せ!一人残らず探し出せ」


 火の粉が舞う城の中で、父上の声が響く。豪華絢爛でさぞ豪勢であったであろう煌びやかな城は見る影もなく、燃え盛る炎と獰猛な魔物たちの声で溢れていた。


「カイザー、名のある敵将は討てたか?」


「申し訳ございませぬ。敵兵の一団はリバルト様と共に打ち滅ぼしましたが名のある敵将とは出会えませんでした…」


「そうか、スナイザーはどうだ?」


「俺も出会えなかった」


「くそ、、」


 今回の戦争でリバルトの名を轟かせようとしたが叶わなかったか…。いや、まだ何かが隠れているかもしれん。そう思った私は、ここら辺を隈なく探し出すように部下へ命令をする。


「リバルト様!奥の部屋のタンスの中に一人、人間が隠れているのを発見しました!」


「でかしたぞ」


 武功を挙げることに必死になっていた私は、この知らせを受けて思わず口角が上がってしまうほどに喜びに満ち溢れていた。


 燃え盛る城に未だ残っていたということは、隠れていた人物が王族ではないかと思ったからだ。ハイアール国は、絶対君主制であり王族を神のように崇めていた国だと聞く。実際に城を攻め始めたばかりの頃に王族を逃す時間を稼ぐため 兵士達だけでなく執事やメイドまでもが身を粉にして大勢で撃って出てきた。

 そのため、この時まで隠れていた人物は王族以外には居ないと確信していた。


 奥の部屋に着くと、部下に囲まれており地面に座りながら下を向いていた少女が居た。


「面を上げよ。貴様は王族か?」


「・・・」


「リバルト様が聞いているのだ!答えんか!」


 部下が大きな声で恫喝のように声を荒げた。人間の小娘などこの声を聞いただけで泣き喚くだろうと心の中で嘲笑した。ところがだ。


「っつ、、」


 囚われている小娘は、声を一切出さずに私を睨みつけた。


 周りを凶悪な魔族に囲まれ絶体絶命の中でも、その凛とした姿に私は深い興味を抱いた。

 少女に近づくために歩く。


「貴様、名はなんと言う?」


 手を少女の顎に添え、強制的にこちらに顔を向かせる。


「・・・誰があなたに名前を名乗るもんですか…!」


 しばしの沈黙の後にそう力強く答えた少女の顔は、恐怖に怯えながらも、それを必死に隠しているのがわかった。


「言え、言わぬと殺す」


 有無を言わさぬ態度で迫る。


「・・・・・・サリア」


「サリアか、、、良い名だ。お前はこれから連れて帰る。私の元へこい。」


「え…」


「リバルト様!!殺して武功にしないのですか!?」


「ああ、気が変わった。者ども引き上げだ」


 この時の私は、睨みつける少女サリアに対し、まだ絶望に押しつぶされていないその顔を恐怖に染まらせたいと思っていた。


「サリア、これから貴様は家族を殺した奴の元で自由を拘束されながら暮らしてくのだ、早々と絶望するなよ。楽しみが減るからな」


 私は笑いながら下を向き表情の見えないサリアへと声をかける。


 今まで期待に押しつぶされそうになっていた自分が、この時は何故だか心が軽くなったのを今でも覚えている。


 ーー新しい遊び道具ができたから…と思っていた。


ー・ー・ー


「奴隷同然の貴様はこれでも食っておけ」


 我が領地に戻ってきてから数日が経過したが、サリアは何も食事を取ろうとしない。これではせっかく遊び道具を見つけたというのにすぐに死んでしまう。


 そう思った私は、自ら食事を持ち運び彼女の目の前に置いた。

 普段の彼女は、鎖は繋がれてないが自決をさせないように手錠をしており、最低限のものがある部屋に閉じ込めている。自分だけのうのうと生きているという実感を持たせることが狙いだ。


「食わぬか」

 

 一向に食事に手をつけない彼女に対し、私は手でスプーンを持ち、スープを掬い上げ彼女の目の前に持ってきた。


「・・・」


「ほう、この私がわざわざ食べさせてやろうとしているのに拒否するとは、、、これは痛い目を見せるしかないな」


 今まで頑なにこちらを見ようとしなかったサリアだが、私の発言を聞き突如狼狽出した。

 その光景に私は、心の中でニヤリとほくそ笑んだ。


「な、、なによ、、!?」


「お前にはこうしてやる」


 私はスプーンを持っていない手を伸ばし、サリアの脇腹をくすぐった。


「ちょ、、ちょっと、やめ、なさいよ…!あは、、ひひ、、」


「ほら食え」


 笑い出して口を開けたサリアに向けて、持っていたスープを流し込む。


「このまま何も食べなければ、私に復讐もできなくなるぞ。黙って食え」

 

 親の仇同然のものに施しを受け、さぞ悔しいことだろう。お前にはこれから言葉に表せないほどの恐怖を与えるからな。それまでに死なれたら面白くない。


ー・ー・ー


 それからというもの、私は時間を見つけてはサリアの元へ出向き、時には他の魔族の処刑を見せるなど外に連れ出したりもした。


「こいつらは、私の指示に背き黙って人間を殺した。侵略は我々魔族の領地を増やすことを目的としているが、単純な人殺しは敵を増やすだけだ。バカどもが」


「ひ、、、お許しを、、」


「ど、どうか寛大な処置を、、リ、リバルト様…!」


「許さん。死ね」


「・・・」


 処刑を目の前で見て恐怖のあまり声も出ていないサリアを横目で見てそっとほくそ笑んだ。


 ーー徐々に恐怖に染まってきているな。


 処刑の瞬間を見せたのは正解だったと内心思った。

 

「安心しろ、まだ貴様は殺さない。せいぜいいつ殺されるかわからない恐怖を味わうといい」


 サリアは、無言で顔を私から背けた。

 これからどんな風に変わっていくのか楽しみだと感じていた。



 それから少しずつ月日が流れていく。



ー・ー・ー



「貴様が私の元へ来てから1年経つか、人間と魔族では成長の早さが異なるのはわかっていたが、実際に見ると驚きがあるな」


 サリアが来てから1年が経っていたが、未だに恐怖で恐れる顔を見たことがない。

 1年前に比べて身体の成長が顕著に見られるからか、私への態度も少しずつ変わったように見受けられた。


「…あなたは対して変わってないものね」


 前までは、返事も一切せずにこちらが一方的に話すだけであったが、抑揚のない声ではあるもののしっかりと返事が返ってくる。


 遊びの目的である『恐怖に染める』というのは達成できていないが、何故だか嬉しさを感じていた。


「あの日、人間の少女を連れ出してからというものの、リバルト様はよくあの少女と一緒にいるな」


「ああ、すぐに殺してしまうのかと思ったがそうでもないらしいし」


 近くに立っていた側近のものが静かな声で話をしているのを耳にした。本来であれば、主君の護衛中に私語をしたものは処刑するのが常ではあるが、以前同じことをしようとした際にサリアに止められたからな。

 今回は見逃してやろう。だがいい加減口を閉じろ、と睨め付けてやる。


「「!!」」


 私の睨みを見た部下どもは直立不動の人形と化した。それを見ていたサリアが口を尖らしながら話す。


「…今睨んだでしょ、そういうのはダメだって言ったのに…」


「あいつらがコソコソと話してるのが悪いだろ」


「…それでも睨め付けるとあなたに対して敵対心が宿ると思う」


「それは確かにそうだが、、はぁ、もうよい。お前らは先に部屋に戻れ」


「はは!申し訳ございませぬ」

「承知いたしました。申し訳ございません」


 サリアに軽く一礼をし掛け出すように部屋から出た部下を見つつ、深いため息をつく。


 最近、何故だかサリアの言うことを拒否することができなくなってきている。それと同時に、サリアと話している時は心地良く感じ、周りの重圧を忘れることできる。


 サリアの恐怖に歪んだ顔を見たいと思うと同時に、そんな顔を見たくないと思う自分もいることに戸惑いを感じていた。



 それからさらに月日は経った。



ー・ー・ー



「カイザー、あなたはもう少し戦闘狂な一面を直した方がいいと思うわ」


「しかし、この性格は昔からでして、、」


「その一面を直さないといつかリバルトに迷惑をかけてしまう時が来るかもしれないわよ。それでもいいの?」


「う、、それはよくありません…」


「でしょ、そしたら少しずつでも直していくといいと思うわ。自分のことだけでなく主君であるリバルトのことを考えてみて」


「サリア嬢の言う通りだ…、これからは意識してみよう」


「はっはっはっ、カイザーもタジタジだな」


「あなたもよ、スナイザー」


「なに!?俺もか!?」


「あなたは猪突猛進すぎるわ、もう少し周りをよく見て行動するといいわね」


「はは、お前もサリア嬢に言われてるではないか」


 私の横で楽しそうにサリア達が話している。最初の頃は、お互い話すようなことは全くと言っていいほどなかったと思うが、徐々に話すようになっていた。


 サリアは、我々魔族に対しても遠慮なく指摘や自らの考えを言う。初めは、カイザーやスナイザーも聞く耳を持たなかったが、言っていることが的確であることを認識してからは会話し出すようになった。


 なぜだろうか、最近カイザーやスナイザーと話すサリアを見ていると胸の奥が少し痛む。

 きっと、サリアを恐怖に染まらさせようとしているのにも関わらず、私の部下が仲良さげに話しているのが気に食わないのだろう。

 自分にそう言い聞かせつつも、イライラが募りそれが表に出てしまう。


「お前たち、遊んでないで任務の準備をしろ。近々勇者の生まれ変わりが出てくるかもしれんのだぞ」


「「ははっ」」


 そう、この時期から勇者ブラストの生まれ変わりが現れると予言がされていた。

 この勇者を見つけ殺すことが我々魔族の目標でもあった。


「そういえば、最近あなたに妹ができたと聞いたのだけど本当なの?」


「まったく、、どこで聞いたんだそれを…。ああ、本当だ」


「あなたの部下の一人がそっと教えてくれたわ。でも本当だったんだ」


「父上がそいつの素質を大きく買っていてな。そいつは、魔族でありながら私の憧れでもある大魔王ガンダール様を殺した勇者ブラストと共に旅をしていたやつだった。憎いことこの上ないわ」


「そうなのね、魔族と人間が共に…。まるで私たちみたいね」


 少し嬉しそうに笑ったサリアに私は不覚にも心が動じた。


「一緒にするな、お前はあくまで私の遊び道具にすぎない。私の一存でお前の命をすぐにでも消えるのだからな」


 私は今まで感じた気持ちを封印し、冷たく言い放つ。

 すると彼女は、


「そうだとしても、貴方は私のことをちゃんと一人の人間として扱ってくれているわ。貴方はとても優しい方よ」


 この時ほど衝撃を受けたことはかつてないだろう。

 今まで恐怖に染まらせるように接していたはずなのに優しいなどと言われるなど本来あるはずがないからだ。


「な、なぜ私のことをそのように言えるのだ…!私は貴様の故郷を…、家族を殺した敵だったのだぞ…!」


「貴方は知らなかったのかもしれないけど、、、」


 そう言ったサリアは一度言葉を飲み込んだ。


「私は、生まれた時から何もない部屋に閉じ込められていたの…。私の母はメイドをやっていた人でね。本来、私は生まれてきてはいけない子だったわけ…」


 私は静かにサリアの言葉に耳を向けている。


「だから、私はずっと居ないものとして扱われてきた。貴方たちが攻めてきた時に私だけ城に残っていたのは見捨てられていたからなのよ。」


 サリアは、一呼吸置いた。


「私からしたら、祖国の人たちは家族でも何者でもない。ただの他人。むしろ敵みたいな存在だったわ。貴方は自分のことを仇であると言ったけれど、私にとって貴方は狭い部屋で閉じ込められていた私を助けてくれた存在なのよ…」


 少し恥ずかしそうに顔を赤く染めているサリアを見て、私は先ほど感じた以上の衝撃を受ける。


「だからこそ、本当はもっと早くこのことを伝えて感謝をしたかった。でも貴方はそんなこと微塵も思ってないようだからずっと我慢してたの…」


「…...そうだったのか」


「そう、…あの時、私のことを救ってくれて本当にありがとう」


 今まで見たこともないような笑顔を浮かべながらサリアは私の胸の中に飛び込んできた。

 私はあまりの衝撃に固まってしまう。だが身体を締め付ける彼女の腕の力が、これが現実であることを告げている。

 

 自然と身体が動いていた。

 両手を彼女の背中に回し、同じように抱きしめる。


 言いようのない幸福な気持ちが溢れでくる。


 ーーああ、これが愛おしいという気持ちなのか。


 今までサリアに感じていたずっと不思議に思っていた感情の答えがようやくわかった。


 幼い頃に母を亡くし、父親からは使える駒としての存在としか認識されずに一切の愛情を受けなかった、この私が初めて『愛』というものを知った。


「私を見つけてくれた時から、ずっと貴方のことが気になっていた。けど、今まで他の人と普通に話したことがなかった私はなかなか貴方と話すことができなかったの」


「そうか、だから最初の頃はずっと無口だったというわけか」


「それに貴方はどこか変だったし…ふふ」


 サリアは抱きしめたまま笑った。


「そ、それは、お前にどうやったら恐怖を植えつけてやろうかと考えてたから、でな」


「最初から恐怖なんてないのに…、貴方は私にとっての白馬の王子様よ」


 抱きしめる力が強くなる。


「…白馬の王子様?なんだそれは、、、まあいい。

それよりも、なら何故最初、睨め付けたり恐怖を押し殺した顔をしてたのだ…?」


「ああ、それは……」


 そこまで言うと、サリアの声が聞こえなくなる。

不思議に思った私は抱きしめながらそっと声をかける。


「サリア、どうした?」


「……恥ずかしかったのよ」


「?、、すまん、どういうことだ?」


「…だから、長い間閉じ込められてた私を救ってくれた貴方がとてもかっこよく見えたのよ…!だからすごく恥ずかしくて、せめてもの抵抗で睨んでいたってわけ…!」


「そうだったのか」


「そうよ…!今まで恋なんてしたことなかったから、名前を言うのも恥ずかしくて、つい冷たい態度取っちゃったし…。今でもあんな態度取ってたの後悔してるのよ」


 あ〜もう、とサリアは、ぐりぐりと頭を私の胸に(うず)めている。

 たまらなく愛おしく感じた私は、より強く抱きしめる。



 永遠に感じるほど幸せな時間の中、胸に(うず)めていたサリアがふと顔を上げているのに気づく。

 

 少し濡れているように見える大きな目を上目遣いにしてこちらに向けている。

 その大きな目も可愛いなと改めて思ったが、サリアの何かを期待するような目を見て、私は覚悟を決めてサリアの顔に近づく。


「…サリア、一生私の側にいろ。愛してる」


 初めての口づけ。


 柔らかいだの、甘いだの、そんなことは何一つ感じる余裕のないぐらい頬が熱く感じる。


「ふふ、私もよ。愛してる、リバルト」


 初めて見る満面の笑みを浮かべる彼女を見て思う。


 ーーこの笑顔を守り続けると。


 無事結ばれた私たちは、この後カイザーやスナイザーなど、大勢の部下から祝福の言葉を受けた。

 なんでも、部下達からするとやっとくっついたかと気を長くして待っていたそうだ。

 自分では無意識であったが、特別な態度をお互いが取っていたことが丸わかりだったらしい。恥ずかしい限りだ。


 それからというもの、サリアという心の支えをできた私は魔族の中で確固たる地位を築き上げていった。


 もともとサリアは客観的な意見をカイザー達に伝えてくれていたが、この意見を私にも話すようになってくれた。

 今まで、私に話してくれなかったのは恥ずかしかったからだそうだ。そのことを聞いた私は、サリアをそっと抱きしめたのだが、それを部下に見られて恥ずかしい思いをしたのは記憶に新しい。

 魔族ではない彼女の客観的な意見や愛する者ができた心のゆとりにより、破竹の勢いで実績を積み上げることが出来た。


 だが、実績を上げる過程で人間達との戦いも避けることはもちろん出来ない。実際に人間達と戦争をしていく中で、このことに関してサリアは何一つ言及はしてこなかった。

 気になった私は、隣で私に寄りかかりながら本を読んでいたサリアに声をかける。


「サリアは私が人間と戦うことに反対しないのか?」


「う~ん、そうね。特に反対はしないわね。正直、私は人間だからとか魔族だからとか気にならないのよね。人間の怖さも知ってるし...」


「そうか、なら良いが。私は、サリアを通して少しは人間の良さというものを分かった気がするな。ただそれで人間と戦わないというのはまた別だが」


「ふ~ん、私を通して何を知れたのかなぁ~?」


 ニヤニヤしながら訪ねてくるサリアのおでこを軽く手で弾く。


「いったぁい!……なにすんのよ...」


「今のはお前が悪い」


 お互いの気持ちを打ち明けた日から、色々な顔を見せてくれる。

 そのことに嬉しさを感じつつ、この日々を守り抜くと一層身を引き締める。

 魔族の中でも多数の派閥があり最近きな臭い噂も耳にする。人間であるサリアをよく思わない輩もいるだろう。


「お前は何があろうと守るからな...」


「急にどうしたの?嬉しいけどさ」


「気にするな。言ってみただけだ」


 言葉にすることでより固く決意する。


 これから、父の後を継ぎ魔王となるために様々な障害が襲ってくるであろう。

 だか、隣にいるサリアとなら、どんな困難が待ち受けようとも乗り越えていけると心の底から思う。


 愛する者とともにこれからも歩んでいくと心に誓った。



ー・ー・ー



 こうして、リバルトはサリアやカイザー達と覇道を突き進む。これから先どのような道を歩むのかまだ誰も知る由もない。


ーーそして、運命の日がやってくる。

 

 リバルトが感じた一抹の不安が現実となってしまうのか、それとも…



 

 





 








 











ここまでお読みいただきありがとうございました。

全2話構成の予定です。

後編もお読みいただけると嬉しいです。


また、シリーズ内の他の作品も繋がっているのでぜひ読んで見てください。

よろしくお願いします。


よろしければ評価していただけるとありがたいです。

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