最初の声
「何がそんなに苦しいの?」
洗面所の鏡の前でなんとなく自分の顔を見ていたら、そんな声が聞こえてきた。
「!?」
「今鏡から声がしたような・・・」
「気のせい・・・かな」
鏡「人間なんだから、もっと楽しめばいいのに」
私「!?」
「鏡が喋った!?」
鏡「あら、やっと私の声を聞く気になったの?」
「今までずっと話しかけてたけど、あんたが聞く耳持たなかった だけでしょ」
私「え!?何!?」
「鏡がしゃべってんの!?」
鏡「そう」
私「そうですか・・・」
「じゃあそうゆうことで・・・」
私は自分がおかしくなったんだと思い、鏡に背を向けてその場を立ち去ろうとした。
鏡「また逃げるの」
「あんた小さい頃から逃げてばっかりね」
そう言われてムカッとした私はもう一度鏡に向き合い、そこに映る自分を見つめた。
私「小さい頃から?」
鏡「そうよ」
私「ずっと見てたの?」
鏡「そう。ずっと見てたし、ずっと話しかけてた」
私「じゃあ何で今まで聞こえなかったの?」
鏡「だからあんたが聞こうとしなかっただけっしょ」
私「だけっしょって・・・(笑)」
あまりにも普通に話してる鏡に、何だかおかしくなってきて、つい笑ってしまった。
鏡「あんたは笑ってる方がいいよ」
「せっかくこんなに楽しい世界なのにもったいない」
私「楽しい世界?」
鏡「人間は贅沢よね。毎日毎日、何がそんなに欲しいのかしら。」
私「別に欲しい物があるわけじゃないけど・・・」
鏡「じゃあ何がそんなに不満なのよ」
私「別に不満って訳でもない・・・よ」
鏡「私に映るあんたの顔、不平不満だらけよ」
私は、自分のことを良い人間だと思っていた。お父さんとお母さんにも良い子だと思われていた。不平不満など口にしないし、毎日真面目に仕事に行って、お父さんとお母さんとも仲良くして、平々凡々に生きてきたし、自分は何も不満なんてなくて満足していると思っていた。
でも、鏡に映る自分の顔は、不平不満の顔。
私はハッとした。
私「私、全然いい子なんかじゃないね」
鏡「気づけばいいのよ」
これが、物達の声が聞こえるようになった、私の不思議な日常生活の始まりでした。




