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どうしてこんなことに…

リズは腕の中にいる子猫を抱いて途方にくれた。

もうすぐこの学園生活の中で最も盛り上がり、そして思い出に残るであろう時が始まるというのに。


「にゃー」

腕の中の子猫はリズの想いなど全くわかっていないように、かわいい鳴き声をあげている。

「とにかく、この子を置いといても大丈夫なように準備だけはしないとね」

そういうとリズは、5年間生活してきた自分の部屋を見回す。

今までペットなんて飼ったこともないリズの寮の部屋には、もちろん子猫用のご飯もクッションも無い。

頼れる人を思い浮かべた瞬間、一瞬あいつの顔がよぎる。

「もう会場にいる時間だもんね」

一瞬よぎった相手を振り切るように首を振ると、リズは従弟のレオがいるはずの寮へと足を向ける。

「ねこちゃん、一緒においで」

腕の中の子猫をひとなでし、リズは自分の部屋から出ていく。

部屋には子猫が入っていたプレゼント用の箱と、「親愛なるエリザベスへ」と書かれた手紙を残して…


----------------


王立ブロッサム学園には、平民から貴族、王族までさまざまな地位の子供たちが通っている。

12歳で入学し、子供たちは地位を忘れてのびのびとした生活を送り、その後の人生のパートナーを見つけることになるのだ。


そんなブロッサム学園には「この学年のメンバーになりたかった」と誰もが思う学年がある。

それがリズのいる最終学年である。

ピンクブロンドの髪にアメジストのようにきらめく瞳を持ち、誰もが守ってあげたくなるようなかわいさを持つ第一王女。

さらさらの金髪に夜空のような濃紺の瞳を持ち、まるで物語の王子さまのような物腰の公爵家長男という見た目も麗しい将来のロイヤルカップルがいるからだ。

第一王女については、下に妹しかいないため公爵家長男を婿に迎えゆくゆくは国王に…と噂されている。

そんなロイヤルカップルを後ろからそっと見守る騎士も、王女の前でしか見せない笑顔が素敵だとファンクラブがあるとか。


だがしかし、実際は…


「ねぇ君、なんでそんな問題を間違えるの?」

まるで虫けらを見るかのようにリズを見下ろすのは、未来の王配と噂される公爵家長男アルフレッド・ウォーカーだ。

この5年間、リズはアルフレッドにテストで勝てたことがない。

なぜなら学年トップは常にアルフレッドだったからだ。

「うるさいなー!ここ!ちょっとプリントが歪んでて数字を見間違えたの!」

プリントの端をトントンと指さしながらリズはアルフレッドをにらむ。

本来であれば一般市民のリズがこんな口調でアルフレッドに話すことは許されない。

だが、この学園にいる間は「皆平等」の校則により、たとえ公爵家長男が相手でも、将来の王配候補だとしてもタメ口をきいてもいいのだ。


「言い訳はむなしいよ」

哀れな目をリズに向け、アルフレッドは満点のテストをひらひらと見せながら、教室を出ていく。

きっと3か月後に控えた卒業パーティーの打ち合わせをしに生徒会室に行くのだろう。

「くーやーしーいーーー!」

リズは満点まであと3点足らないテスト用紙をぐしゃりと握りつぶす。

「でも97点でもすごいって。どうせ今回も学年2位だろ?俺なんて52点だぜ」

笑いながらリズの隣に来たのは従弟のレオだ。

ほら、と言いながら見せられたテストには、前半はびっしり解答欄が埋まっているのに後半は空白の用紙。

「レオ、また途中で寝たのね」

あきれながらレオを見ると、レオは仕方ないよねという顔をしながらうなずいていた。

レオは本気を出せばリズくらい点数が取れるのだ。

でも眠いからという理由でいつも前半を埋めるとテスト中に寝てしまう。

「どうせ俺、就職先も決まっててテストの点関係ないしね」

最終学年になると皆就職先を意識していい点を取ろうとか、まじめな態度でいようと考える人が増える中、従弟のレオはすでに自分の家の男爵位を次いだ後、さらに男爵が趣味で始めたドレスショップも引き継ぐ予定だ。

といっても現男爵はまだまだ若く存命なので、見習いから始めるようだが。

「いいわね、お気楽で」

そういうリズは実家が一般市民向けの宝石商なので、実家で働くという手もある。

でもできれば王城で働きたい。

今の成績なら王女の侍女…までは無理かもしれないが、その近くで働くことができると先生からお墨付きをもらっている。

だって、卒業したらあいつのそばにはもういれない。

王城で働けば、運が良ければ少しだけ顔が見れるかも。

王配になるといわれているから、一番のライバルのポジションだけはそのままでいたい。

もしかしたらライバルだなんて思っているのは自分だけかもしれないけど。

そんなリズの乙女心を見透かしたかのように、レオはにやにやとしている。

「レオ、顔がうるさいわよ」

レオを睨みつけながら席をたつと、

「そういえばついに明日だな」

唐突に話題を変えてきた。


そうね、明日…明日、私を選んでくれる人がいるのかしら…

ふと浮かんだアルフレッドの顔。

だが、あいつには王女がいる。

100%叶わない恋心を隠しながら過ごした4年間。

もうすぐフィナーレを迎えようとしている。





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