第4話 初配信〜主観的より客観的に〜
奏に宣伝してもらってから数日がたった。俺たちのことは、奏の配信の切り抜きがSNSなどで、拡散され、かなり話題になっている。
俺はそれを見るたびに胃が痛くなってきていたが、雪は全く表情を崩さずニコニコとそんな様子を見ていた。改めてあいつの凄さを実感する。
そして今日は初配信当日。もうすでに俺は吐きそうなわけなのだが………。
「先輩、緊張してるんですか~?先輩らしくもない」
「当たり前だろ?というかこんなに人が集まって、緊張しないお前のほうがどうかしてるよ。はぁ、これだからやりたくなかったんだ」
そう。この配信、白崎ナコミの影響で、なんと同接人数4000人を超えていた。個人勢の初配信としては異例中の異例だろう。人気Vtuber恐るべし‼
「またまた~、そんなこと言って。本当はうれしいんでしょう?かわいい後輩と一緒にVtuberできて。わかってますから。ほらほら、言ってみてくださいよ。雪ちゃん大好き、って」
「誰が言うか!!」
俺はそう言いながら雪の頭にチョップを入れる。
「もぅ、わがままな先輩ですね。では何がお望みなんですか」
頭を押さえ、頬を膨らましながらそんなことを言う雪。控えめに言ってめっちゃかわいいが、本人にはそんなことは言わない。調子にのるから。
「何もお望みしてねぇよ。そんなことよりもう少しで始まるぞ?準備しろよ」
「はいはい、分かってますよ。先輩と違って私は完璧なのでもう準備オッケーです」
雪からの返答にに少しとげがあったが、俺はそれを無視して最終準備を終わらせる。
「では行きますよ?」
「あぁ」
雪の問いに短く返すと、雪は配信開始ボタンをクリックする。すると、コメント欄が急速に加速し始める。
「はい、ど~も~。雪の妖精メア・ホワイトです」
「え?ちょっ、俺そんな二つ名みたいなの知らないんだけど?え?台本?読め?えーと、漆黒の闇に覆われし魔眼の使い手、堕ちた大精霊ジン・ノービルだ。ってめっちゃ中二病じゃねぇか!おい!台本責任者笑うなし!!」
・キャラデザめっちゃいい!
・声可愛いし、かっこいい!
・へぇ、雪の妖精なのか
・あー、なるほど。元々大精霊だから『先
輩』なのか
・台本もらってなくて草
・草
・めっちゃ中二病w
・いや、開始早々www
・初っ端飛ばしすぎだろw
・見たらわかるおもしろいやつやん
「はい、ということで、先輩が中二病を見せつけたところでね、———」
「おい、見せつけてないが?どこがだ?」
「いや、でも先輩ノリノリだったじゃないですか」
「いや、それはネタだとわかったから言ったんだ。普通は言わん!」
「いや、普通に言ってたら私も引きますよ。多分その場合先輩と関わってません。……でも先輩、それって私のためにやってくれたってことですよね?台本書いたの私ですし。もぉー、先輩も素直じゃないですね~。もっと素直になってもいいんですよ?」
「ちげぇよ!リスナーのためだわ!」
そんな妙なことを言う雪に無駄だとわかっているが一応弁明を入れる。まったく、相変わらずの自信過剰っぷりだ。
しかし、最初の掴みとしては完璧だ。これを狙ってやったのか偶然のかは知らないが……。
・いきなりイチャイチャしてて草
・もしかして付き合ってる?
・ナコたんいわく、付き合ってないみたいだけど……
・てぇてぇ
「別に付き合ってないですよ。ただ、ちょっと仲が良いだけです!」
「そうそう。別にそんな関係じゃない」
俺たちはリスナーのそんなコメントに反応して答えていく。やっぱり男女でこういう活動やるんだったら最初にそこら辺はっきりしとかないと。後でトラブルになりかねない。
「まぁ、そんなことどうでもいいんですよ。配信時間1時間を目安にしてるので時間無いんです。とりあえず、いろいろ決めていきましょう!」
「ああ。そうだな。んじゃあ、まずは配信タグを決めるか。リスナーのやつら、なんか良い意見ない?」
・自分達で決める気無くて草
・配信タグか……
・カップル配信中
・ジンメアライブ
・メアンデルタールジン
「ろくなものがありませんね。というか、私たちはカップルじゃありません!!」
「メアンデルタールジンとか面白いけどな。まあ、無難にジンメアライブいっか」
そこまで凝ったものにしなくても、これくらいノーマルなもので良いだろう。
「そうですね。次は……ファンネームですかね?」
「ん、そうだな。というか、ファンネームこそメアンデルタールジンでよくねーか?」
「あ、たしかにそうですね。良いんじゃないんですか?じゃあ、今からみなさんはメアンデルタールジンです。分かりましたか?」
・爆速で決まっていく
・ジンメアライブか…良いんじゃない?
・新たな人種生まれてて草
・わいが適当にもじった言葉がファンネー
ムになるとは
・お前が戦犯か!
・今日から俺らはメアンデルタールジン!!
・普通にいやなんだが?
・もっと妖精国民とかあったやろ!
・堕ちし妖精の使徒とかどう?
・それはお前が恥ずかしくないか?
ファンネームの呼び方でメアンデルタールジンたちから抗議の声があがる。やはりメアンデルタールジンは嫌なようだ。そりゃそうだ、実際俺もリスナーの立場だったらいやだし。
だってあれだろ?もしリスナーの集まりみたいなものがあった場合、『メアンデルタールジンの集い』と称されるわけだ。架空の人種を主張してるやつらの集い。知らない人から見ればどう考えても、危ない集団にしか見えないはずだ。
まぁ、面白そうだし変える気はないんだが。
雪の方も変える気はないようで、コメント欄を眺めながらニヤニヤしている。
こうして、リスナー達の名前はメアンデルタールジンになってしまった。
後に『メアンデルタールジンの集い』は実際に開催され、その名前を見た人たちが開催場所に警察を連れて乗り込む、という事件が起こるのだが、今の俺達にはそれを知る由もなかった。
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