9話 ただいま
ぐっすり眠って起きたらもう乗船の時間まで半刻で、マリスと女将さんに挨拶すると船着き場に転移した。
船着き場で売ってたパンと魚の串焼きを買ってパンで挟んで食べていると皆に笑われたが結構イケる!
船に乗ると昼にはマルカン公爵領の船着き場に着いた。
1刻止まるらしい。皆さん川岸からそう離れて無い繁華街に足を運んでお買い物。
私はアスターと川岸のバチタの屋台で軽く食べる。
バチタは、小麦粉と卵を捏ねて広げた生地を細長く切って湯がいてチーズと牛乳と卵を混ぜたものを和えて食べるヘキサゴナル国の郷土料理だ。
ヘキサゴナル国は畜産と銀細工とチェルキア聖教が有名だ。
だから、チーズはめっちゃ安くて美味しい!
ただ、クロスディア領では、生き物の飼育を禁止している為クロスディア領だけチーズやベーコンの加工食品類がむちゃくちゃ高い!
師匠に聞いたから間違いないし、ホントだった。
ペタル子爵領では南東諸国連合国の色鮮やかな模様の温かいローブが綺麗だったので100着ほど買った。
アスターもタペストリーをお土産に買っていたが、私が買った服より高かった。
適当な食堂に入って食べたら激辛料理のお店でアスターの分も私が食べた。
結局、川岸の屋台でアスターだけステーキのチーズ掛けを食べることになった。
夜の内に川幅が一番狭い所からクロスディア辺境領へ転移した。
転移した瞬間から戦闘になった。私はアスターと自分に補助系魔法の暗視を掛けてアンデット達を剣圧で粉々に砕き火魔法で燃やして供養した。
聖魔法が無い私に師匠が教えてくれたアンデットへの対処法だ。
アスターに絶対私の前に出ないようにいい、父上のいる本陣へと魔石を拾いながら向かう。
100とは言わないくらい倒した。聖魔法陣が描かれている本陣へと着いたが皆死んだように寝てる。
「アスター、明日の朝食事持ってから来よう」
「……誰だ⁉︎」
シュガル様に見つかったのでアスターと一緒に出て行くと、斬られそうになった。避けてシュガル様の首元に剣を突き付ける。
「アレクシードですよ。シュガル様弱ってますね?」
「……アレク様?王都では?」
「用が済んで船でペタル子爵領まで帰ってからここに転移した。食べ物あるから、入れて」
「……どうぞ」
魔法陣の側に土魔法でバスタブを作って湯を入れる。
民族衣装を出し魔法陣の上に置いてシュガル様の代わりに見張りに立つ。アスターは簡単な料理をする。
「シュガル様からお風呂どうぞ、服も洗いますからこちらの民族衣装でお眠りになってください」
「……助かる」
髪から念入りに体を洗っているシュガル様。
その間に湧くわ、湧くわ!アンデットの群れが!
本気を出して「残身」で分身し、剣に魔力を載せてウインドスラッシュでバラバラにし、火魔法のファイヤーウォールで供養。何十回と続けてたら朝になっていた。
その頃には皆、お風呂に入り民族衣装を着てひとつの鍋を囲んでいる。
私は魔石を一生懸命に拾い大きさで分けて麻袋に入れた。
結構疲れたかも。
そこにスカルドラゴンが現れた。
はい、構えて、放つ!
「お前なんかお金にならないから嫌いだーー!!!」
渾身のウインドハリケーン。バラバラと落ちて来る骨燃やして供養したら、ひと抱えある魔石が出現した。蹴り飛ばしていると父上が来た。
「私が買うからそう邪険にするな」
「いらないからあげる!あ、そうだ、父上、お土産があるのです!」
サファイアの魔除けリングを父上の左手の人差し指にはめると父上が笑った。
「高かっただろう?ありがとう。大切にする」
「……それから、この魔石どう思いますか?」
デルフィ工房が欲しいと言う大きさの大人の爪ほどの魔石を見せたら父上はわずかに眉を寄せて答えた。
「残念ながら使い物にならないな、魔道具としては使えない、装飾品としても小さい」
「指輪にするにはちょうどいいそうです。これ1つを公用金貨1枚で買ってくれる工房と10年間契約して来ました!」
その時の父上の顔、一生忘れない。
「……アイツら私を騙していたのか!!!」
なんと、父上、タダでチェルキオ聖教に喜捨してたそうだ。年間何十万個という数。
「アレク!お前を騎士学校に行かせてやれる!」
「私は自分で稼ぎます!それは父上が使って下さい。ちゃんとした食事とちゃんとした服も買って下さい。自分の為に!」
「とりあえず、その工房に納品してしまいなさい。今あるだけで2万個はあるからそれはお前の物だ。このスカルドラゴンの魔石の代金の支払いにそれをあてる。それではダメか?」
自信なさげに私を見る父上に私は抱きつく。
「いいに決まってますよ!父上大好きです!これで王都でパーティが開けます!そうしたら、クロスディア辺境伯家の評価もマシになるはずです!」
父上が無表情のまま大量に湧いてくるアンデットを半径50メートル圏内消し去った。
「……アレク、お前がそんなことを考えずともよい。我が家の評価なぞ、もうどうでもいいのだ」
「……父上」
「夜の見張りも差し入れもありがとう。アスターはアレクの騎士になったそうだな。アレクに騎士が出来て本当に良かった。陛下には会えたか?」
「はい!機会を下さりありがとうございます!」
「……今日は一緒に屋敷に帰ろうか、洗濯してもらわないとそろそろ匂いが気になる。ネージュ!任せてもいいか?」
銀髪の騎士ネージュが振り返って手を振っている。
「転移してくれるか?敵陣のど真ん中だからな」
皆の洗濯物はアスターが異空間蔵に収納したらしい。
3人で屋敷に転移した。
裏庭に小屋が建ってる。
何だろうと思いドアを開けて食糧の倉庫だとわかったから買ってきた物をどんどん入れた。
「何をしてる⁈」
「私だよ、ランタナ。お土産買ってきたからここに置いておくね〜」
「アレク様⁉︎お帰りになったのですか⁉︎」
「いや、食べ物置きに来ただけ。また、王都に行くよ。それよりもランタナたくさんジャム買ってきたから皆で食べて!父上にも昼食にパンを付けて出してあげて」
「はい!チーズまである!ありがたい!これでいろんなパンが作れます!ああ!!!干した果物まで⁉︎…アレク様、高かったんじゃないんですか?」
「ウチの領で買うチーズより安かったよ?また買って来るからね〜」
「これで兵糧が作れます!たくさん買って来て下さい!」
「ベーコンとハムも買って来てたんだけど、皆で食べちゃった!ごめんなさい」
「……それはちょっとヘコみます」
「また買って来るよ!マメに!あ、そうだ、コレ。マヨネーズのレシピ!生野菜のサラダに付けて食べると美味しいタレなんだ!」
「……ほう、作って見ます!」
材料を持ってランタナは厨房に行った。
私は父上の部屋に行ったが寝ているとパレットに追い払われた。
アスターを探していると客間で寝ている。無理矢理起こしてモンタナ領に行こうと誘うと早速転移した。
アスターの部屋らしく、きちんと片付いているオシャレな布団の上のカバーを見てると頬を染め、幼馴染が縫ってくれたのだと言う。
「結婚しちゃえば?」
「……まだ、彼女が幼いので無理です!」
聞くと彼女、マルティナちゃんは9歳。アスターが18歳だから、9歳の年の差がある。
ドアがノックされた。そしてドアが開く。アスターそっくりの40歳くらいの女性が顔を見せる。
「アスター、帰ったんなら、お話聞きたいわ。あら?お友達」
アスターが私の背中に手を添える。
「初めてお目にかかります。モンタナ男爵夫人。アレクシード=クロスディアと申します。小麦粉の援助ありがとうございます。今日はアスターのことでお話があって連れて来てもらいました。玄関からお伺いしない無礼をお許しください」
男爵夫人の顔が引っ込みドアが音を立てて閉まる。
[あなたぁー!!!大変よ!若様がアスターの部屋にいたのよ!どうしましょう!]
「……嫌われたのかと思った」
笑って言うとアスターは私をベッドに放り込み自分も隣に寝た。
「後2刻は来ないから寝ましょう」
えー⁉︎初めて来たお宅で朝寝とか、出来ないよ!
アスターに起こされるまではそう思ってました!
お昼は豪華な食事がテーブルいっぱいに用意されていた。野菜のゼリー寄せとか、ミートローフとか、アップルパイとか、食べたことないからたくさん食べた!
どれも素朴ながら、美味しくって夢中になった。
モンタナ男爵夫妻がニコニコしながら私を見てた!
恥ずかしい!
「……ごめんなさい!美味しくて目的を忘れてました」
アスターとアスターの兄上のマリクさんが吹き出してる。クソォ、アスター覚えてろよ!
「アスターを私の騎士にご家族の了解もなくしてしまったこと申し訳ありません!
アスターが私の側にいる限り守り抜くと誓います!私の剣に賭けて!」
「クロスディア辺境伯家に賭けて、とは言ってくれないのかな?」
「……私は家名を継ぐ者ではありませんから、唯一私が信じられる私の剣に誓います!」
そう言うと皆が拍手を送ってくれた。
「…ウチの村では今でも亜麻色の髪に緑色の目の子が跡取りの若様だと言われているよ」
ポンムのジュースを私のコップに注ぎながら、何気なくモンタナ男爵が呟いた。
私は聞かなかったフリをしてジュースを飲んだ。
明日の朝来るからと言って実家に転移すると、父上が少し早めに夕食を食べていた。
「アレクも食べるか?」
「アスターの家でいただきました。パレット紅茶を入れて」
「……楽しいだけではなかった様だな?何か言われたのか?」
「食べ過ぎてツラいだけです」
「紅茶は飲むのに、か?」
「父上が食べてるのに私は座ってるだけではマヌケでしょう?」
「別にそれでも良いではないか?そう言えばリトワージュ剣術の門下生をアレクが指導するそうだな?舐められるな。最初が肝心だから頑張れ!
住み込ませてくれるなら幾らか支払った方がいいな」
「…父上、それなのですが、私も小さな屋敷を買おうと思ってます。住み込みは2年間だけなので。家賃は支払っております」
「そうか、良かった!
私の事は心配しないでいいから、ちゃんと仕事をするように」
「はい、父上!月に2度は帰って参ります!アンデットの魔石を稼ぎに!」
「……そうか。向こう岸から転移するときは気をつけなさい。このマヨネーズは、美味しいな?野菜サラダも食べられる」
「私も、そうです!」
あ、父上に魔石の1割渡さないと!
昨夜から今朝までに拾った魔石をテーブルに少しずつ出して数えていると、父上が2万個の小さな魔石が詰まった木箱を私の足元に置いた。
「スカルドラゴンの魔石の代金だ。ありがとう。あの魔石があったら見張り無しで眠れる。古の森まで送ってくれるか?」
「数えてから送りますよ。兵糧も出来てないでしょうし」
「……厨房に確認してくる」
踵を返す父上の手を取って止めた。
「そんな事をしたら、ランタナに迷惑ですから少し待ってましょうね?」
「では、私も数えるのを手伝う。アレクは強いんだな。誇らしかったぞ!」
思わず微笑む。
「父上の自慢の息子になるよう頑張ります!」
父上が黙っているのでチラッと見たら泣いてる。
「父上、どうなさったのですか⁉︎」
「嬉しくて、な。すまない。驚かせたな。パレット、お前の生活魔法で魔石を読んでくれ」
パレットが読む前に魔石を全部異空間蔵から出しテーブルから距離を取った。
パレットの魔力がテーブルに盛っている魔石を包んだ。魔法が行使されパレットが口を開く。
「2605です。ここから261個分けます!」
「待て、魔道具になりそうなのを拾う。いいか?アレク」
「どうぞ!」
あんまり大きな魔石は需要があるかわからないから父上に任せておく。
私は厨房に行きランタナに兵糧は作れたか聞くと3日分のパンを作ったらしい。
今はパンにチーズとレテュを挟んでいるところだという。
「もうすぐ出来るんで、紅茶でも飲んでて下さい!」
食堂に引き返すと麻袋に魔石を詰め込んでるところだった。
手伝うと、時間が余ったので父上とお話しながら紅茶を飲む。
4半刻そうしてるとランタナが私を呼びに来た。
魔石を異空間蔵に入れて、父上も一緒に厨房に行く。
父上は干した果物を練りこんで焼いたパンや、クレームやジャムが入ったパンをつまみ喰いして、ランタナ達を褒めちぎる。
ランタナ達は恐縮してかちんこちんだ。
3日分のパンを異空間蔵に入れて、父上と古の森に転移した。
クロスディア辺境領聖騎士団の50名は満身創痍で戦っていた。
父上が聖魔法の「広域浄化」と光魔法の「パーフェクトヒールレイン」を使って騎士団の皆を回復させた。
本陣に引き揚げさせて食事を摂らせる。
皆、よく食べた。
干し果実が練りこんであるパンが人気で在庫が全部無くなった。
私は剣を抜いてアンデットの群れに突っ込んで行き思う様暴れた。
日が落ちたので暗視魔法を自分に掛けてウインドスラッシュを剣の一閃に乗せて放っているとヤバいのが来た!
聖魔法の「浄化」でしか倒せない実体がないゴーストというアンデットだ。
慌てず本陣まで転移して戻り父上に報告すると皆が笑ってる。
「スケルトンの方が厄介なんですがね」
「私が行こう」
父上と2人で戦場に転移したら父上が来た途端逃げ出したが逃がす父上ではない。
「【ホーリーアロー】」
幾千の光の矢が星空から降り注ぐ。
あっという間にゴーストの群れを殲滅した。
転移して本陣に戻ると皆、焚き火で暖をとっていた。
私のお土産の民族衣装を普通の服の上に重ね着して、地面に直に寝ている。
私は1人に一つ銀細工の魔除けの指輪を渡して身に着けてもらった。
いろんな石があるがその騎士の瞳の色に近いものを取らせた。シュガル様は婚約者の瞳の色にした。
最後の方はそういうわけにも行かなかったが皆嬉しそうに指輪を左手の人差し指にはめていた。
私は屋敷に帰るフリをして師匠に会いに森の中に転移した。
いつもの大木のウロに師匠はいた。
「師匠!お久しぶりです!」
「霊害は治ったようだな。良かった」
師匠はウロから出て来た。
私は異空間蔵から粉タバコの箱を取り出して師匠に渡す。
「モリアーティナ男爵家から、1年時間をいただきたいとのことです!」
「……のんびりな事だな!!!腹立たしい!」
「まあ、まあ、師匠落ち着いてください。師匠の子孫にあたる方の所に住み込ませていただくことになりました!紹介ありがとうございます!」
「そうか、それは良かった!どんな奴だった?」
ヨザック兄上の説明をしていると大規模聖魔法を父上が放った波動が伝わってきた。
心配してると師匠が私の頬を骨ばった手で撫でて落ち着かせる。
「アレは1日に20回くらい【ホーリーレイン】を使う。心配しないでいい。アレが簡単に死ぬものか」
師匠は父上を「アレ」と呼び、エメラダ親子を「クズ共」と呼ぶ。
そろそろ父上を許してあげて欲しい。
「……師匠、そう言えばルークは父上の子ではないようです」
「ふむ、詳しく話してみなさい」
王城で王家の血が流れる者が入れる道に弾かれたことを話すと師匠はご機嫌な声でこう言った。
「ザマァ見ろ!手紙は全部渡したか?」
「はい!ラッカ男爵にステキな服をいただきましたし、ドルク様にはお安く剣を売っていただきました。師匠ありがとうございます!」
服の残りの代金払わなきゃな。
朝まで師匠と話していたかったが、師匠はここら辺のアンデットを狩ってるらしい。
ゴーストばかりだから、足手まといだと言われて仕方なく屋敷に帰って寝た!
朝になってランタナに起こされた。
「……何ぃ?」
「アレク様に本陣にスープを持って行って欲しいんです」
「起きる!」
屋敷で着る服は紐が多いので上手く着れない。
リリシア達侍女とパレット以外の使用人は実家に帰ったらしい。
パレットが見かねて服を手直ししてくれた。
本陣にスープを運ぶと皆喜んで、パンとスープを楽しんでる。
父上は作戦会議しながら食べていた。
父上に王都に旅立つというと抱きしめられた。
「道中気をつけて」
「父上達もお怪我しないよう気をつけて下さいね」
お読みくださりありがとうございます!
いいね、感想などの応援お願い致します!