81話 どうにかなりそう!(2)
残酷な表現のシーンがあります。
デルフィ工房から出て来た私の様子がおかしかったらしくて、皆に心配された。
ルティーナ様が食事中に私に給仕してたのも、起きて来たメリエレさんが、私を正気に戻してから、気付いた。
シロッコさんが頬をごちそうでパンパンにしながら、私を心配そうに見てたのも今更気付いて恥ずかしくなった。
*****
「はあ?!もうデルフィ工房から、仕入れが出来ないだあ!!」
「……うん、1ヵ月も次の仕入れまでかかるし、今後は店で売るので精一杯になるから、他の仕入れ先を今から探しておけって、言われた」
バフォア公爵領の自宅にシロッコさんとメリエレさんを連れて転移してラプナーも含めて私の部屋での会議はラプナーが怒髪衝天し、メリエレさんに宥められてる始末で、良い考えが浮かばない。
「マリスは調子に乗りすぎです!誰が工房を与えて、今の黄証になるまで支えて来たか、思い知らせてやりますから、王都の屋敷まで転移して下さい!」
「そんなことしたら、出て行くよ?お金も地位も獲得したんだからね」
メリエレさんがどういう契約を結んでるのか聞いたら私とラプナーは黙り込むしかなかった。
「ま、さ、か、何か?契約をして無いのか?!バカ野郎!!その為のパトロンだろうが!店の賃料くらいは取ってるんだよな?……そうか、そうか。今すぐ追い出す!転移しろ!」
いきり立つメリエレさんにシロッコさんが耳打ちした。
メリエレさんは大人しくなり、ラプナーを呼んで契約書を書き始めた。
3人が怖かったので、私はサイナムと一緒に夜中過ぎにリオラの観光船の船着き場へと転移した。
船着き場では、ナーテさん達、銀細工職人が身を寄せ合い不安と戦っていた。
「ナーテさん!迎えに来たよ!」
「ケイトスくん、ここにいるの全部宿舎の職人何だけど運んでくれませんか?」
「宿舎の札を出して下さい!拝見します」
サイナムがそう言うと暗闇に向かってほとんどの人が走り出した。
残ったのはたった3人。
サイナムはナーテさんに忠告した。
「ケイトス様を便利に使ったら、許しませんよ?」
「……すみませんでした!!」
「まあまあ、サイナム!宿舎の札も持ってることだし、たった3人なら大丈夫だよ!じゃ、転移します!」
無事宿舎に送り届けると足が重いが、自分の部屋へ転移した。
私の部屋には誰も居らず私は朝まで気絶するように眠った。
翌朝6時に起きると部屋にはメリエレさんが居て、ラプナーを王都まで運んで欲しいと爽やかにのたまった。
怖かったので、頷いた。
着替えたらもう6:30だ。
メリエレさんとラプナー、シロッコさんを連れてヤコフ商会のテントに行き、全部買いするとチャトン伯爵領の市場に行き小麦粉やら香辛料やらを片っ端から買い占め、アイテムボックスに入れて王都の屋敷に転移した。
朝ご飯をいただき満腹になるとリョウちゃんへのお礼に香辛料と小麦粉の一部をおいて行く。
ラプナーはマリスのお母さんとお話中。
何を話しているのか、2人の爽やかな表情からは伺いしれない。
「行くぞ!7:40だぞ?」
ルティーナ様の席まで行きご挨拶する。
「母上、帝国に行って参ります!1週間程で帰って参ります」
「はい♡わかりました!気をつけて行ってらっしゃい」
王都の廃れた市場に行くと橙証の銀細工職人の少女を探す。
「おい、ケイトス!ここはどこで何の目的があるんだ?」
「後で話す」
砂糖売りに買い物をしながら親戚の少女の事を聞くと銀細工職人を家の事情で辞めてしまったという。
「アアア!!」
思わずため息が出た。遅かったのだ!あんなに細い体で頑張ってたのに!
メリエレさんが砂糖売りにチップを渡し、少女は良い職人だったので、幾らかのお金を支払って引き抜く予定だったというと今から連れて来ると馬を乗っておじさんが連れて来た少女は、ほとんど骸だった。
メリエレさんが鞄から出した、金箔で封をしているポーションを開けて飲ませたら少女は私の方を見て笑った。
「私が迎えに来ました。大好きな銀細工を好きなだけ作りましょう!一緒に行っても構いませんか?」
「でも、おとうと、が」
「大丈夫!連れて行きます!弟さんもこちらで育てるので連れて来て下さい!今までご迷惑をお掛けした生活費用なども支払うので、連れて来て下さい!」
シロッコさんが少女のおばさんと値段を交渉している。私はバフォア公爵領の自宅に転移してリンディーを探す。リンディーは部屋から飛び出して来た。
「落ち着いて!何事ですか?」
「来て下さい!」
「わかりました!行きます!」
リンディーの手を掴むと王都の廃れた市場に行き少女を見せたらリンディーが激怒した。
「何をしてたんですか!?親は!」
稲妻が広場を染めたような光が少女を貫き、リンディーが少女に「再生」魔法を掛けたことをしる。
リンディーは、少女の黒いフサフサの耳を撫でて優しい言葉で彼女を鼓舞した。
「生きて下さい!神は貴方を見捨てない!」
リンディーはヒールを掛けると倒れてしまったので、王都の屋敷にリンディーと少女を任せた。
少女はお腹が空いてるようなので、リョウちゃんに消化のよい食事をたくさん頼んだ。
また廃れた市場に戻り今度は獣人とわかる痩せてる3才児をゲット!ミャ~ミャ~泣きまくってたので王都の屋敷の食堂で爆食い中のお姉ちゃんに会わせると、爆食いモードに邁進した。
いつの間にかいたシロッコさんとメリエレさんに促されてブラッシュローズ伯爵領のクロウさんのお店へ。
メリエレさんが遅れた事を詫び事情を説明すると付いてなくて良いのかと心配されたが、今すぐどうこうならない事と移動させるのが良くないのを伝えて騒ぎは収まった。
「それに、今日アクセサリーを仕入れて帰ると言ってるので、お客様が並んで待ってるんです!」
「「「「そんなに売れてるの!?」」」」
「見たらわかります。皆さん手をつないで下さい!」
一瞬で帝都カルトラの私の店【幻蝶屋】の裏口だ。入って行くと店長が私を抱きしめた。
「この方々は?どなた様ですか?オーナー」
「銀細工職人さん御一行です」
「オーナーがお世話になっております!店長のアミカと申します!」
「シロッコと申します」
「クロウと言います。今日は、販売のお手伝いをさせていただきたいのですが?よろしくお願いしますね」
「こちらこそ!よろしくお願いいたします!では、店内へどうぞ!オーナーは、個室へ!」
個室で仕入れた商品を出すと従業員皆さん手を打って喜んでいる。
店内に入ったクロウさんとシロッコさんが縄張り争い中。クロウさんの娘夫婦はショーウィンドウにア然として外に並ぶお客様に顔面蒼白になっている。
メリエレさんはクロウさんとシロッコさんを捕まえるとローズ工房へと言ったから、有無を言わさず転移してザトー子爵に言った。
「紳士にして下さい!」
シロッコさんとクロウさんが逃げ出そうと出入り口を向けばお針子さん達がシャツとズボンを持って近づいて来ている。
ぎゃあああああ!!や、やめてくれーーー!
メリエレさんをエメリヒ工房に送って、屋敷に小麦粉のお土産。
冒険者ギルドの片隅にチーズとベーコンの山を築き、1人1個づつの大きな木札を立てると依頼を逃した冒険者達がチーズとベーコンを1個づつ貰って行く。
事務所で配っているとイエールさんが近づいてきて、5人分持って行く。
何故か待ち屋さん達がお礼に来た。
「「いつもお世話になっております!チーズありがとうございます!」」
「こちらこそ!困ったらまたお願いしますね!」
この人達のベーコンくすねたな?イエールさん。
ベーコンも渡すとメッチャ感激している。
いいんです。まだまだありますからね。
公用金貨1億枚引き下ろしてアイテムボックスに突っ込む。
ギルマスの部屋に転移するとバラムさんが立ち上がった。
「昼飯食って行けよ?」
お土産の小麦粉とチーズ、ベーコンを部屋の半分近くまで出す。
「テメェ!ここは倉庫じゃねー!」
「ごめんなさい!時間が無いからまた、後で!」
ローズ工房に転移する。
悪の黒幕的ダンディズムを感じさせるクロウさんと、スーツに着られているシロッコさんが居て私は笑いを堪えるのに苦労した。
ザトー子爵に公用金貨2枚のお支払い。
靴屋に行って革靴を買い物して履かせるとようやく商売人らしくなってきた。後はお屋敷のメイドにお任せした。
私は最近ネクタイや、スカーフ、ループタイや蝶ネクタイまで、趣味で集めている。
イキニシア組合長のループタイが格好よかったからだ。
ちなみに全部大人サイズなので、メイドさんに2人の物を選んでもらったら、クロウさんにネクタイだった。
するとクロウさんはネクタイピンを付けて髪をうなじでまとめて銀管を付け、指輪を2つ左手の薬指と中指にはめ、シロッコさんは大蛇が自分の尾を咥えている華奢で美しいブレスレットを付けた。
クロウさんがガン見している。
シロッコさんが正装が似合わないのでシャツのボタンを1つ外し腕まくりしてヤンチャな感じだ。一応ベストは着させた。
パフュームバタフライの香水を手首の内側と耳たぶの後ろにシュッと一吹きしてあげたら、幻蝶屋の裏口に2人を連れて転移した。
2人が店内に入って物色してるけどお互いを認め合ったようで、仲良く話している。
クロウさんの娘夫婦は、ショーケースをハンカチで拭いている。
「オーナーはやる事あるのでしょう?帰って良いですよ」
「ありがとう。店長さん。頑張って!」
「頑張ってますとも!シッシッ!」
野良猫並みに追い払われた。
冒険者ギルドのギルマス部屋に転移するとバラムさんの仲間達がお土産分配中。
私を捕まえると撫でまわす、肩を叩く、背中を叩くとやり方は様々だったが、喜んでいるらしい事は解った。皆で酒場で昼ご飯。
ハンバーガーセットにミルクをオーダーした私をバラムさんが笑う。
「この酒場でミルク飲むのお前くらいだぞ。大きくなれるといいな?」
「バラムさんも大きくなれるといいでしょうから、飲めば?」
「テメェ、憎たらしくなりやがって!覚えてろよ!」
多分、忘れる。
食べるとここでも追い払われた。
バラムさんにお礼を言うと変な顔をされた。
「いいから、お土産配って来いよ」
カーメルさんの道場に乗り込んで、お土産をたくさん渡すと型を見てくれるという。
早速着替えてヒュージ流体術の型を復習ってたらカーメルさんが組み討ちして来たので必死に迎撃する。
忘れてるかも知れないけど、「攻める」のが基本なので、防御は無い。技を技で相殺するのだ。
手足を使った激しい攻撃戦に、ギャラリーが増える。
その中にハンナの姿を見つけて隙を与えて、ボッコボコにされた。
「アホ!余所見してるからだ!お土産くれたから、ハンナと話して行けよ。今日は、特別だ!」
「ありがとうございます!」
「ところで模擬戦何度目だ?」
「初めてです。やっぱりカーメルさんには勝てませんね」
カーメルさんと弟子たちがどんな顔をしてたかなんて見てなかったがハンナに抱きしめられたら、どうでも良くなった。
ポーションを飲ませてもらうとあばら骨が何本か、ヒビが入ってたみたいで、お腹が痛いのが治った。
金貨10枚を払うとハンナがブツブツ文句を言いながらも貰っていた。
カーメルさんの稽古は荒っぽいらしくポーション代がかさむのだとぼやいていた。
「ハンナの商品初日に全部売れたから明日持って来るね!メリエレさんって言う茶髪に綺麗な緑色の眼をした40才くらいの男の人が来るから受け取ってね」
「何だ。ケイトスじゃないの?」
「私は明日はヘキサゴナルに行かなきゃいけないから、来られないよ」
「そう……お茶でも飲めば?」
「お茶はいいからお話しがしたいな」
「そ、そう!昼食食べててもいい?」
そんなに時間が無いんだ。
「うん!いいよ。私はさっき食べたからね!」
ハンナの工房で食事しながらおしゃべりした。
「ハンナ、今度 婚約指輪を見に行かない?」
「なあに?婚約指輪って?」
あ!チェルキオ聖教じゃないから知らないのかな?
「結婚を前提に付き合ってる恋人同士が約束の印に着ける簡単な指輪だよ」
ハンナの顔が真っ赤になった。
「そ、そ、そ、そう!……素敵ね、でも、ごめんなさい。指輪は駄目なのよ。糸を染める時に触媒になって染色が上手く行かないから、ネックレスを贈って欲しい!」
「前のは気に入らなかった?」
「え?いつ、持って来たのよ!」
ハンナの力は強い。襟を持って絞めないで欲しい!降参です!
ぐったりしたら、ハンナに今度は揺すられて目が廻る。
ようやく手を離して貰って言った。
「ハンナが染色してた日に持って来て、ダイニングテーブルの上に裸で置いといたんだけど?」
「……それは盗まれても仕方ないな」
入り口で盗み聞きしてたらしいカーメルさんと弟子たちが、うんうん頷いた。
「道場から戻ると空き巣と戦って警備隊に突き出したのが、片手じゃ足りないくらいあるからな!」
「え?でも、私達が居た頃はそんなこと1度もなかったのに…」
「ウチは居間が留守にしてる時間が多いから、なるべく玄関を施錠してるんだが、いつの間にか開いてるんだ。ハンナの顧客が遣いを寄越すこともあるし、何とかしたいんだが、どうにもならん!家人を増やすほど余裕もないし。そうかぁ。そんなものが、不用心に置いてあったらそりゃあ入って来るよな!」
「ごめんなさい!私のせいで迷惑お掛けして!冒険者に依頼を出して置きます!もちろん私がお支払いします!」
「そうしてくれ。さっさとアクセサリー買って来いよ。ハンナも一緒に行け」
という訳で転移で幻蝶屋への行列の後ろに並んでオシャレしたハンナと焼き栗を食べながらおしゃべり。
「すごくない?この行列。お店入ったら何もなかったりして」
「大丈夫!いっぱい仕入れて来たから1人一つか二つでしょう?何か残ってるよ」
「仕入れ大変じゃない?」
「思ってたより、腕のいい職人さん探すのが大変で毎回あっちこっちの市場に出向いて腕のいい職人さん探してるんだけどね、今の所自分で見つけた職人さんが4~5人で、1人は栄養不足で死にかけてて、今朝市場に行かなかったら、死んでたね」
今朝引き取った橙証の子の話をすればハンナの目は怒りに燃えいつもの決めゼリフを拳を握りながら言う。
「そんな親戚ぶちのめしてやる!」
「ハンナの優しい気持ちがわかる子だといいね」
ハンナのお話は前庭市場のことに。
「いいなあ~!私もヘキサゴナルで出店したいなぁ。虹証って燃えるよね!」
「今、店にいるお兄さん達が元紫証だから、話を聞くといいよ、あ、入店できるよ」
ハンナの手を取ってエスコートして幻蝶屋に入るとハンナが恥ずかしいのかモジモジしている。
ハンナってレディーの扱い受けると恥ずかしがるけど喜んでるよね。
女の子は難しい!
皆さん接客で忙しいみたいで私達がショーケースに近づいて行くまで気付かなかった。
店長さんが気付いたが、まだ、接客して無いお客様がいるのでそちらを指さすと会釈してそちらに行ったので、ハンナの見るまま気ままに店内をブラブラ歩く。
どうも、ハンナの好みはクロウさんの夢とロマンが詰まった病気の作品みたいで、私は空き巣に盗まれた花のアクセサリーが手に渡らなくてよかったとホッとした。
「この3つならどれが良いと思う?」
どれって、スゴイ病気にかかってる奴ばっかじゃないか!
「……ハンナ、これ、指輪だよ?」
「ヤダ!馬鹿ね!私じゃないわよ!サテルにお土産よ。あの子こういう感じのが好きなのよ」
「ああ、そう言えば木剣の柄にかわいいトカゲ彫ってたね」
「職人は諦めろってヒュージおじさんに言われてたから、大笑いよね?」
サテル兄さんごめんなさい。私も同意見です。
「指にはまるか、どうかじゃない?ケースから出して貰おうか」
店の前に1台の馬車が急停止して、中から覆面姿の男達が剣を手に現れた。行列に並んでいた女性達は逃げ出していたが、1人の貴婦人が捕まり人質になった。
「商品と金を出せ!!」
「ハンナ、ちょっと行って来る」
「ケイトス気をつけて!」
ハンナは試合の応援くらいにしか思って無いからよかった。うわ、今日は、剣を着けてないや。
ま、いいか、店に人質の首元に剣を突き付けて入って来た男の手首を右足で蹴りながら剣を貴婦人から遠ざけ体を回転させて左足で男の顔を思い切り蹴ると後ろにいた仲間達に男はふっ飛んで行きストライクした。
貴婦人をお姫様抱っこしてシロッコさんに押し付ける。
男達はショーウィンドウを破壊して店に押し入って来たので1人目の前に立ち塞がって、本日の稽古の成果を上げる。ちょっと行儀が悪かったが壁を駆け上がり蹴ると2人目の男の肩に乗り、剣を奪い利き腕を落とす。
汚い悲鳴が男の口からあがる。
「このクソガキ!!死ねぇ!」
私は向かって来た3人の男達を次々斬り伏せ無力化させた。
店長さんが荷作り紐を持って来たのでハンナと2人で手足を縛って猿ぐつわをしてから馬車に放り込み警邏隊の事務所に持って行く。
ハンナが御者になってくれた。
事情聴取が真夜中までかかり、私はまた、カーメルさんに出入り禁止にされたのだった。