79話 幻想庭園ショッピングモール
暗い内にメリエレさんとサイナムが私を起こした。
「出店するぞ!構えろ!」
「あい」
うなずくのが精一杯の私を布団から引っこ抜き、着替えさせ、髪を編み込み、顔を洗わせたメリエレさんは、昨夜用意した大量の荷物をアイテムボックスの中に入れさせて転移しろと促す。
外に出ると大荒れの天気だ。運が悪い。小さな天幕がズラリと並び露店主達がその下でおしゃべりしている。
屋根付きの区画でも小さな天幕がズラリと並んで、商品を雨から守っていた。
皆がキラキラした笑顔を見せている。
雨、止んで下さい!
明け方になると霧雨になり、陽も射して来た!
もう早くも売ってる店がある。
私はロトムを迎えに王都のドラゴンフレーバーのレストランに行き転移して幻想庭園に連れて来たら、ロトムが叫んだ。
「マジか?!スゲェよ!ケイトス!」
「屋敷の中も店だらけだから観てきなよ!」
「売り切れた後でな!」
さすがロトム!根っからの商売人。
ドラゴンフレーバーの料理人達はマスターの登場にテンションマックス!
ドーナツと焼き鳥が凶悪な匂いを放つ。特に焼き鳥の匂いと来たらもうたまらん!
「50本!」
「お前が並んでどうする?布屋地獄見てるぞ!早く帰れ!」
振り返ると布屋雑貨店にメッチャ女性達が群がってた!慌てて駆け寄るが、値段がわからない!ピンチ!
「反物一巻き15万ステラ!ボーッとするな!ケイトス!」
「カバン2つで4000ステラ!」
「ワンピース5枚!7500ステラ!」
頑張れ皆!頑張れ私!…お腹空いた!気が付けばお昼で売り切れたロトム達が私の所に来た。
「売り切れだろ?市場廻ろうぜ!」
メリエレさんとサイナムが私を追い出す。
ドラゴンフレーバーのコックさん達と市場を隅々まで廻って焼きトウモロコシ齧りながら、ヤコフ商会に到着。
「店の中の商品全部下さい!」
「ハハハ、威勢が良いね!」
ヤコフさんは笑ってるが本気と知ってるロトム達はドン引きしている。
橙証を出して公用金貨10枚を払うと本気と分かったらしい。慌てて計算して公用金貨5枚のお釣りを返して来た。アイテムボックスに店の中の物を接収。
ヤコフさん達に見送られて店を後にする。
「ケイトス、それ、どうするんだよ?」
「困ってた時に冒険者達に助けてもらったから、お土産ぇ~」
「ああ、ね。帝国なら大喜びだろ!ケイトスって外さないな!」
「ん~?そんな事無いよ。ただ、帝国では、食肉加工した物とか、チーズってめっちゃくちゃ高いからいろんな人にプレゼントしたら喜ばれたから、これだな!って、わかっただけだよ」
「ああ、ね。俺もお金なかった時に帝国の服を古着屋に売ったら信じられないくらい高かったから、その気持ちわかるよ!」
「危ない、危ない!危うくロトム達が布屋雑貨店になるところだった!」
「誰も獲りゃしねぇよ!そんな小さな儲けの貿易品。勝手にやってろよ!…所で金貨1枚の財布売れたか?」
「ハンナの全部売り切れちゃった。あと1ヵ月入荷しないのに」
「そういうのは、少しづつ出すんだよ!商売っ気無いな!ケイトスは!ま、そこが良い所だけどな!」
「ロトム、それ褒めてないよね?」
「最大限にほめただろうが!次は幻想回廊だ!ケイトス転移!」
照れ隠しかな?人使いもいつもになく荒い。
面倒だから、3階から降りようという案に賛成して3階の端に転移したら、凄い買い物客の群れに進めない!
「ここら辺なんて、商会が入ってるんだ?!ケイトス!」
「ティンキー・ティンキーって言う看板取り付けたけど?」
「化粧品の店だ!2階行くぞ!」
不思議なくらい2階は空いていた。
入口から覗いて納得した。
商品がもう高価なものしか無いのだ。
それも数えるくらいしかなくて、入口に「明日もご贔屓に」の看板とチェーンが掛けられていた。
1階は食べ物屋さんがまだ、頑張っていたがドラゴンフレーバーの屋台ほど、盛況ではなかった。
「きゃあ!ダーへナ商会がある!ロトム様、観ていいですか?!」
ああ、あのパンフレットみたいな冊子のいっぱい置いてある店か。
ドーナツ屋の売り子さんと入ろうとしたら、気が付けばロビーに転移させられていた。
「いいか?ミスミの後には決して付いて行くな!でないと、いつの間にか男達のヒロインにされるぞ!」
鳥肌が立った。
何かわからないけど、ヤバい気がする!
うんうんうなずくと、背後から声を掛けられた。
「ケイトスくん!この前はありがとう!今日も頼めないかい?」
ハッサムさんか!
「いいですよ!って事で今から仕事だから、王都まで、送って行くよ!ロトム」
「そうか、じゃ、お前ら頑張れ!」
「「「「「「「はい!マスター!!」」」」」」」
王都のドラゴンフレーバーのレストランに着いたらお昼ごはんを奢ってくれたのでチーズとベーコンを幾つかあげた。
アイテムボックスから「ビー、ビー、ビー」という音が聞こえて、元を探すと虹証だった。
ロトムがそれを見て慌てて駆け寄る。
「それ、採取組合長からの呼び出しだぞ!早く行って来い!」
ええ?!イヤな予感がするぞ!
「ロトムも行こうよ!」
「ハァ~。あのな、個人的な呼び出しだから、多分俺が行っても隔離されるぞ?1人で行って来い!」
ロトムのケチ!しばらく会ってあげないんだからね!
転移して採取組合長がいる紫証のドアから入ろうとすると虹証を出すよう言われて出すと音が鳴ってるのに気付いた職員が橙証の入口から入るように言って他の職員に組合長へ橙証のフロアに行くよう伝言していた。
仕方なく橙証の入口まで、行くと待ってたとばかりに職員さんに応接室へ連行された。
廊下を走る十数人の足音が聞こえて、ドアが開いた!
「幻想庭園に連れて行って下さい!2日前から呼び出ししてたのですが、貴方もタルドも無視していたでしょう!」
「さっき気が付いてロトムに採取組合長からの呼び出しだって言われたから来ました。ごめんなさい!」
でも、ナジムさんは知ってて無視した気がする。
イキニシア組合長以下12人の職員さんは分厚い閉じ帳と魔導ペンと背中に大きなリュックを背負っていて一見冒険者みたいな装いだ。
とりあえず幻想庭園に転移すると皆がキラキラした目をして市場に散って行ったが、イキニシア組合長はナジムさんの元に連れて行くように言った。
幻想回廊の1階の事務所に連れて行くと2~3日前よりゲッソリ痩せたナジムさんの部下たちがいた。
ナジムさんはリチャード司令官とお話中。
場所取りでいざこざが何十件かあったらしい。
2人とも疲れ切った顔をしている。
しっかりご飯は食べてるようで、空になった丼がテーブルの片隅に山になっている。
話が終わるまで応接セットのソファに組合長を座らせてお茶とロックさんのスコーンを出して待ってもらい、汚れ物の山を厨房に持って行くと悲鳴が上がった。
お詫びとして小麦粉や売れ残っていた野菜を買って来てベーコンとチーズと共に出すと皆の顔が輝いた。
ふう、またお土産買わなきゃね。
やっと、ハッサムさんの所に行くと心配してくれていた。
「組合長じゃないですか?連れてきたのは」
「はい、ここに連れて来るように言われて採取組合の職員さんも10人くらい連れて来たんです」
「視察なら良いけど、監査ならややこしいな」
「連れて来なきゃよかったかなあ?」
「1週間呼び出しを無視すると降格処分の対象になるから、無視は無理だよ。さあ、リップル男爵領に頼むよ!」
3往復して家具をたくさん補充すると10万ステラ貰って事務所に行くと咆哮しているドラゴンの幻影を背中に背負った組合長と牙をむくサーベルタイガーの幻影を背中に背負ったナジムさんのO.HA.NA.SIが続いていた。
リチャード司令官が私を手招く。
「監査官達の宿あるか?今のうちに作っておけよ」
離宮に行くと宿はいっぱいだった。
仕方なく自宅部分の幻想回廊の4階の使って無い部屋をクリーンをかけて余った絨毯を間に合わせに敷き、余った便壺を設置。
ベッドはハッサムさん御用達の工房にお邪魔して12脚の椅子と12人用の大きなテーブルと一緒に購入すると、パーティションもトイレを仕切るのに買い、幻想回廊の4階へ。
男部屋と女部屋と会議室を作り、今度は王都のクロスディア家御用達の布団屋さんと調度品の店へ。
絨毯と私くらいある花瓶とルメリーさんに鍛えられた審美眼で、何とか及第点の美術品をえらび、自宅へ転移してラプナーとメイドさん、フェイさん達庭師に花や絵画を飾り付けて貰ってる内に組合長以下監査官12名をお部屋にご招待すると、テーブルを求められて、会議室にご案内。
さすがに疲れた。
しかし、まだ夕食を食べてないらしい組合長達に厨房から出前した。
今日はベーコンとチーズをあげたからか、チーズたっぷりのバチタとサラダだった。私たち4階の住人もダイニングテーブルで皆で食事した。
機嫌の悪いナジムさんが何故か4階に上がって来た。
そして私を小脇に抱え、組合長達の会議室へ案内させる。
イヤな予感はマックスだ。
手荒いノックをして返事も聞かずに中に入るナジムさんにおいおいと思ったが、呼び出しを喰らったくだらない内容にそんな態度でも仕方ないね、と呆れた。
「何故2日も呼び出しを無視したのです。本来なら、市場が開く前にそちらが呼ぶのが当たり前でしょう!?」
「それは物理的にも精神的にも余裕が無かったので無理でした。紫証の市場にふさわしい物を作ろうと精一杯で誰もが駆け回っていて、1人として休んでいる者はいませんでしたが?」
「わかったかボケェ!?」という副音声が聞こえた気がする。
その後1時間による事情聴取の後に罰則が決まった。
「4000億ステラの商業ギルドへの寄付で今回は収めてあげましょう!」
ハア~?!何で罰金そんなに払わなきゃいけないんだよ!ふざけるな!
私が口を開くと同時にナジムさんが私の口を手で塞ぎ爽やかな笑顔で監査官の女性に自分の紫証を渡した。
「私共の仕事を認めて下さってありがとうございます。今後ともよろしくご指導お願いいたします」
私の頭を掴んで礼をさせると、監査官の滞在期間などを聞いている。
例の水晶の読み取り機でナジムさんの罰金の支払いが済むと信じられない言葉を監査官が言った。
「1ヵ月滞在します。離宮ホテルにも宿泊して使い心地を試したいので人数分予約をお願いします」
「わかりました。14日程先になりますがよろしいですか?」
「よろしいです。それから、庭の迷路ですが、至る所にゴミが落ちていて見苦しかったです!もう少し何とかなりませんの?!」
あ、ナジムさんの手が外れた。
「申し訳ございません。ゴミ拾いをさせているのですが迷路には食べ物の持ち込みはさせてなかったのですが、一体どのようなゴミがあったのでしょうか?」
「ゴミはゴミでも、人間のクズよ!!何であんな所でデキちゃうのよ!信じられない!」
意味がわからないから、ナジムさんを見るとナジムさんも呆気にとられた顔をしている。
ナジムさんもわからないんだ。
人間のクズって事は、強盗とかが居るって事だろうな!
「明日から兵士を迷路内に巡回させます。それでは駄目でしょうか?」
ナジムさんも監査官の女性もうなずく。
「「それがいいでしょう!」」




