76話 ケジメ
それから3日間領都リオラと北門の間に行きと帰りに泊まれる宿場町を作ったマーズさん達は、帰る日になって魔力枯渇で寝込んだ。
冒険者ギルド専属の運び屋ジェラルドさんとルメリーさん、ハンナの3人と王都の工房地区まで転移してアイルの工房で仕入れてると他の3人がうろうろし始めた。
「2時間後ここに集合ねー!」
「「「わかった!」」」
アイルに突っ込まれた。
「お上りさん連れて来てんじゃねぇ!迷子になるだろ?」
「転移出来るから大丈夫。虹証出せよアイルさん」
「なぁ、俺の知人の銀細工職人がお前紹介しろって言うから会ってくれねー?」
「腕はどう?」
「お前…厳しいからなぁ。緑証でそれなりだよ」
「今、会える?」
「いや、今日は親方の仕事手伝うって、言ってたから無理」
「じゃ、2日後のお昼にこの店で!それからは予定詰まってるから私がムリ」
「あ~、わかった!言っとくわ。商品も見てくれるか?」
「一応ね、じゃ!」
デルフィ工房の店内はお客様で賑わってた。
ランドルフお父様の連れて来たメイド達が売り子をしてる。
工房に入るとマリスが私の両手をつかんで問う。
「帝国で売れた?どうだった!」
「半日で全部売れたから、たくさん作って下さい」
「「「フォオオオオオー!!やった!」」」
「何か出来てない?」
「店の商品全部持って行くから、あの時大変だったのよ!次は1週間後に来て!」
追い出されてニカレ工房に行くと「そんなに出来てないんだが」と言いつつ50点程売ってくれた。
「お願いが、ある、が、断っても構わん!」
「1時間なら時間あるよ?」
「クソ、悪運の強い奴め!ポート!!お前の待ってたルーク様が来たぞ!」
工房から出て来たのはニカレそっくりの顔の青年で、私を確認後、銀細工のアクセサリーを山盛り持ってきた。いずれもペンダントトップで花模様なのだが、今一つ足りない。20個に1つ良いのがある位で仕入れが5つだと言うと泣いていた。
対象的にニカレは大笑いしていたが。
「ホラ見ろ!それ見ろ!駄目だって言ったろう!ガハハハ」
「花びらに小さな宝石を露に見立てて付けると売れるかもしれないよ。なるべく色んな宝石を使ってみて。あと、チェーンは必ずいるからね?」
「はい!ありがとうございます!ルーク様!」
「ふーん、俺も手伝ってやろうか?」
「うるせー!クソ親父!」
しかし、困った。数が足りなさ過ぎる。
「ニカレさん、腕の良い銀細工職人さんを紹介してくれませんか?工房地区の店はダメだったんで、誰かの弟子とか噂話だけでもいいですから、お願いします!」
「ん~!わかった!クレイビー男爵領のシロッコって、男を訪ねろ。あとはルーク次第だ」
銀山のふもとだな。小さな村なら何とかなる!
「ありがとうございます!」
ニカレさんと話している内にポートが花模様のペンダントトップに宝石の露をつけて来たのだがセンスが無い。
「大きすぎるし、何でカットしてある宝石付けるの?目障りでしょ!」
ニカレさん笑死寸前。
あ、もう時間だ。
「ニカレさんまた1週間後に来ますから」
「ありがとうな!」
アイルの工房に行くとしょんぼりした3人がいた。
「良いの無かっただろ?ハンナ」
「何か違うし、ちょっと良いと思ったらやたらめったら高いのよ!」
「今から夕方まで仕入れに行くから王都の屋敷で待ってて」
「ドゥルージ市国行ってもいい?」
「食べ物も店も何にもなくて行列に並んでウンザリして良いなら行けば?」
「「やったね!行こうよ!」」
哀れジェラルドさんは引っ張って行かれた。
まずブラッシュローズ伯爵領まで転移してロンデル川超えしてツイード子爵領を横切り、クレイビー男爵領には入る。銀冠山脈がそこだからか、冷える。
人も居ないし尋ねる事も出来ない。
カフェがこんな村にあるなんて珍しい!
しかも結構大きいカフェだ。
入ると村民皆が居るんじゃないかと思うほど混み合ってる。
カウンターの空いてる席に座るとショコラ・ショーを頼んだら笑われた。
「そんな洒落たもんシロッコが置いてるはずねー!」
へー。今はカフェやってるって事は訳ありだな。
ちょっと閉店まで待とう。
目の前に置かれたのは生クリームがタップリ乗ったホットミルクだった。シロッコさんは意外にも青年だった。
スプーンで生クリームをすくって食べてミルクを飲むとお腹が鳴る。
「夕食下さい!」
「そんな時間か!カカアに怒られちまう!シロッコ!金置いとくぞ!」
シロッコさんは知らんぷりして何か作ってる。皆が帰り始めた。そして私一人しか店に残ってない。
出て来たのは目玉焼きとパンケーキとカリカリに焼いたベーコン。同じ物が隣に置かれてシロッコさんが隣に座る。
「こんな所までどうして来た?」
「シロッコさんを訪ねて来たのです」
「…ハァ、またか。俺は今はもう紫証じゃない!」
「いや、関係ないし。作品見せて下さい」
「その前にお前はどこの誰だ!」
「帝都の冒険者で商人のケイトスと申します」
蝶の焼き印が入ったリダル商会の木札を渡すとちょっとだけ興味を引いたらしい。
「わかったが、食事の後で、だ」
先に食べ終わったので、幻想庭園の市場の事や職人さんを何とか助けたくていろいろしてること。帝都で銀細工を売ってる事や宿場町を作って幻想庭園に客を呼びこもうとしてること。とりとめもなく色んな事を話した。
「帝都で売るのは良いけど、ヘキサゴナルでは売るな!」
「わかりました!」
「どういう感じのが欲しいんだ?」
すごい事言うなあ!何でも来いの人かな?
「今足りないのは女性物の綺麗なのからかわいいのまで。値段は気にしないからなるべくたくさん欲しい」
席を立ったシロッコさんは私の手を引き2階へと上がった。
壁一面がリングケースが展示してあって目移りする。
男性向けもあったが、シロッコさんは女性向けの物が得意みたいだ。うわあ!木の葉のリング。シンプルなのに目を引いた。
他の物も綺麗で申し分ない!
「ネックレスありませんか?」
「…下手なんだよ」
見て分かった。使えそうなものを選んで仕入れ、指輪は女性向け全部買うとシロッコさんは呆れていた。
ネックレスはアドバイスしておいた。
「垂れる形なら、チョーカー風に。花模様なら、Vの字にするとか、してみて下さい。女の子はドレスアップした時しか首は見せないから丸首のシャツから出てる範囲でどれだけおしゃれに見せられるかが勝負何です!」
「はぁ、それなら解るかも!やってみる!」
「あと、ドレスアップした時のネックレスを10点お願いします。さあ、虹証を出して下さい」
一応、黄証だった。
「幾らですか?」
「1000枚にしといてやるよ。ネックレスは試作だしな」
魔力を流し支払うと、シロッコさんが残高照会してうなずく。
「また、来い。作っておく」
「じゃ、1週間後に今度は男性向けとネックレスを」
「………そんなに売れないだろう?」
「300点が半日で売れたよ。ヘキサゴナルの銀細工売ってるのウチだけだからね」
「お前はリッチだろう!」
「アンデッドは倒す方だよ。例えられるのは不愉快です。じゃ、頑張って!」
転移して王都の屋敷に戻るとまだ、戻って来てない3人にやっぱりなと思いながら2度目の夕食をルティーナ様と取る。
「ハンナちゃんは?」
「忠告無視してルメリーさんとドゥルージ市国に行って帰って来てないんです」
「…あの行列には泣かされたわ。まあ、ちょっと休んでなさい。貴方のいた部屋ゲストルームにしてあるから」
「では、遠慮なく休ませていただきます。母上」
「うふっ!おやすみなさい」
転移してゲストルームに行くと眠気が押し寄せて来た。
ぐっすり朝まで眠った。
朝にはグッタリ疲れた様子の3人が私に謝っている。
「ケイトスの言った通りだった!ごめんなさい」
ハンナの次はルメリーさんだ。
「あれは地獄だった!それに王都に入る検問の列が長過ぎるでしょ?!もっとちゃんと仕事しなさいよ!お役所め!ケイトスくん、ちょっと休ませて。今帰って来たばかりなの」
「すぐ帰れるから帰ってから休んで下さい」
有無を言わせずまずカルトラの冒険者ギルドに転移してジェラルドさんとお別れした。報酬はヘキサゴナルで渡したし問題無い。
次にルメリーさんを屋敷まで転移させて、最後は、ハンナ。
カーメルさんが玄関で仁王立ちして待ってた。
「遅くなって申し訳ありませんでした!ハンナをお預かりしているのに、約束を守らず私は最低な男です。しばらくの間、出入りしません」
「ちょっと~!何言ってるのよ!私たちが勝手に観光に行ったから遅くなったのよ!ケイトスが謝る事ない!」
「ハンナ、私はケイトスにお前を預けた。お前が、どんなやんちゃしようが、ケイトスに責任がある!1ヵ月会うのを禁止する!」
「はい、誠に申し訳ありませんでした!」
ハンナは無理矢理家に入れられて玄関のドアが荒々しく閉まった。
怒らせてしまった。
次はアクセサリーショップに転移して裏口から店内に入ってショーケースを見るとある種の病をこじらせたデザインの指輪やネックレスが少ししか残ってない!
驚いていると2階から木剣を持って店長が降りて来た。
「オーナー!仕入れて来ましたか?!」
「うん、いっぱい仕入れられたよ。次は10日後にね」
「出して下さい!」
「はい、はい」
全部出すとめっちゃ喜んでいる。
「ところで病気が入ってたアクセサリー、売れたんだ?」
クスクス笑って店長は言った。
「男の子の夢が詰まってましたね。あれはあれで需要があるんですよ?冒険者さん達が、目をキラキラさせて買ってました」
「冒険者も来るの?!この店」
「彼女さんに強請られて来たらしくて、女の子のが売り切れだとしり入荷日聞いてたら気に入ったのがあったらしくて買って行って冒険者ギルドで広まったようでここ3日で随分来ました」
うわあ~。何とも言えないな。
店長としばらく一緒に品出ししてると、店の前に行列ができ始めた。
他の店員も出勤して来て、私を追い払う。
「今の内に帰らないと骨まで齧られちゃいますよ?」
「帰ってヘキサゴナルで仕入れて来て下さい!」
「頑張って下さい。精一杯仕入れて来ます」
転移してエメリヒ工房に行くと工房長のメリクさんが応対に出て来た。
「幌馬車で全部持ってったぞ?もうここには何も無い」
「ありがとうございます!口座に振り込んでおきますね」
「すごい値段だが、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ご安心下さい。いっぱい作っておいて下さいね!」
転移して屋敷まで帰るとロビーでメリエレさんとサイナムが待っていた。
「昨日帰るはずじゃなかったのか?アスターは、どうした!」
「朝ごはん食べながらでいい?お腹が空いてるんだ」
大食堂でメリエレさんとサイナムはお茶しながら、食パンにバターをタップリ付けて食べてる私から事情聴取。
「アクセサリーショップの仕入れに時間がかかったんだよ。あちこち転移してたら、疲れて朝まで寝てたんだ。遅くなってごめんなさい」
「で?アスターは!」
「アスターは、ちょっと厄介な問題の仲介に入ってて、今回は来られなかったの」
「幌馬車5台分の荷物はどうするんだよ!」
「持って行けるだけ私が2度に分けて持って行くから」
「仕方ねえなあ。今から行けるか?」
「行くよ!幌馬車5台はどこに止めてるの?」
「直ぐそこだ」
食べ終わるとすぐ、幌馬車5台の所に行ったのだが、荷台を見て絶句した。
「これ…どうやって積めたの?」
荷台の天井までいっぱいの衣装箱に隙間には巻かれた反物が押し込まれていてギュウギュウだ。
とりあえず手当たり次第にアイテムボックスに入れる。
幌馬車4台分は入った。
「メリエレさん、行こうか?」
「いや、まだ持って行く物買わなきゃいけないから次の便待ってる。いつ来る?」
「明日の夜」
「わかった。アスターに伝言だ。“そろそろ帝国に戻って来て下さい。バラン”」
時間切れか。アスターを引き留め過ぎたな。
「了解です!サイナム行きましょう!」
サイナムは荷物を取って来ると私の手を掴んだ。
ヘキサゴナルの幻想庭園の母屋の倉庫に転移してアイテムボックスの中の物をとにかく出した。
「限界…」
私の部屋のベッドに転移して気絶するように寝た。
起きたのは夜中で、お腹がヤケに空いてる。
アスターの部屋から明かりが漏れている。
ノックするとアスターが出て来た。
騎士服の襟をくつろげて、随分疲れた顔を微笑ませて私を部屋の中に招いた。ラプナーとダンがいて、二人ともひどく疲れた顔をしている。
「3人とも大丈夫?アスターとダンはもう、帝都に帰らなきゃいけないから今日帰るよ!大丈夫、クロスディアの人達は私が説得します!」
「……難しいですよ?」
「ウチの領民だもの!私が何とかしなきゃ、でしょ!」
アスターが私を抱きしめる。
「貴方の気持ちが通じますように」
「…あのう、ケイトスはクロスディアの関係者な訳ですか?」
アスターがトレーでラプナーを殴る。ラプナーは左腕で防御する。
「チッ!」
「いきなり、何をするんです?!アスター」
「いつまで呆けてる!この方はルークシード様だ!髪と目の色が変わったくらいで解らなくなるんじゃない!」
理解したラプナーは「ケイトス」にした無礼を30分程陳謝した。
「では、冒険者というのは嘘で、魔石を売ってるお金だったのですか?」
「いや、冒険者で稼いでるのはホント。私、精神魔法耐性が強いから、そういうダンジョンで大儲けしてるのです。付いて来ちゃダメだよ?」
「大切なお金を散財させて申し訳ありませんでした!」
地の底まで落ち込んでるラプナーに私は正直に言った。
「いや、面白かったし、どこまでバレないか挑戦するのも楽しめたし、何より皆と友達になれたのが楽しかったんだ」
「「「ルークシード様…」」」
「ケイトスと友達で居てくれてありがとう。今日からもよろしくね!」
「はい!ルーク様」




