75話 宣伝
早朝にアスターに起こされた。
「アスター…また、寝てないの?」
「今日だけです。ヒュージさんが稽古するから起こすように言ったんです。起きたら大ホールに行って下さい」
鍛錬着に着替えていると、アスターが髪を結ってくれた。
木桶に水を溜めて顔を洗うとシャキッとした。
大ホールに行くと少なくない数の兵士達がヒュージ流剣術を習っている。
私も一緒に型を復習い、斬り結び稽古の相手になってやる。10人ぐらい潰したら、体術の稽古に型は割と簡単だったが応用するのが難しいので最初はヒュージさんが言うとおりに動いて反復練習する。
「おい、もう疲れただろ?今日はこれで解散だ!」
「「「「「「「「ありがとうございます!師匠」」」」」」」」」
稽古が始まってから4時間経ってる。
もう7時だ。
大食堂に行くと良い香りがする。
給仕してる予備のテーブルに木のトレーを持って並ぶ。
「汗臭いよ!お前ら!」
言われてみれば、汗だくだ。クリーンを唱えて爽やかになると、給仕された肉だんごのスープとキャベツのマリネ、バチタを山盛りというボリュームメニューをペロリと食べる私たち。
はぁ~!食べた、食べた!
「ケイトス、離宮まで走るぞ!」
「はい!」
庭園の中を駆け抜けるのは目に楽しく体力づくりに一役買っている。
爆走して1時間ちょっとかかる庭園って、大概だよな?前庭合わせたら2時間かかるかも。
体操して身体をほぐしてると魔法建築士の3人がルメリーさんと馬車で移動している。
「ヒュージさん、仕事行っていいですか?」
「おう!頑張ったな!また、明日も同じ時間にな!」
「はい!ありがとうございます!」
一礼すると、奥庭に転移した。
迷路と花の庭の角になる奥庭は朝でも日が射さない。
「庭師棟」と書いてある木造建築のL字型の建物は古くてもうボロボロだ。
マーズさん達の乗った馬車がやってきた。
「先に来ておったか!坊主」
「だから、私はケイトスですってば!アリーシャさん」
「うん、うん、わかった!坊主」
わかってないし。
マーズさんとルメリーさんは昨夜、庭師棟に入って中を見てきたらしく私の方に来て地面に、建築予定図を広げた。
「あれ?これは、壊さないんですか?」
「知らないというのは恐ろしいことだな。中の木がな、今では金貨数千万枚する物が使われているから、屋根と外壁だけ変えて保存する。
大事な客が訪れたときに泊まらせるくらいにしておけ。家具は嬢ちゃんに選んでもらえ」
「花の庭を見下ろせるのが、1棟建ての2棟ですか?」
マーズさんはニヤリと笑って肯定した。
「話したんだがな、倉庫は要らないから、商隊の者が休めるだけの部屋数が欲しいと言われたそうだから、食堂を大きく取ってオーナーの部屋を広く他の部屋は普通の宿並みに取ることにした」
「え?でも商品は?」
「幌馬車に乗るだろう?あとは商隊の護衛が交代で見張りすれば良かろうが!」
私って、マヌケだ。
「こっちの迷路側に建てる5棟の内、2棟が“メゾネット”とやらだ。荷馬車が入れる1階と3人が休めるだけの広さの2階に分かれておる。何だ?抱き付いてきて」
好き!私の言うこともちゃんと聞いてくれてる。
「よしよし、それで、職人棟だが、銀細工職人がまず多いからな、2棟100部屋を銀細工職人の部屋にした。もう1棟は服飾職人と革細工職人の部屋を30構えておる。1階は5棟の食堂だ。トイレは2つずつ各棟に構えるから便壺はいらん!わかったか?」
「わかりました!ありがとうございます!」
「では、木を切り出しに行くぞ!」
「おー!」
北側の馬車止めを広げた形でウインドスラッシュで伐採。アースティルで地面を柔らかくしてグラビティで切り株を抜き再びアースティルで地面を均す。
あとはマーズさん達にお任せ!
ルメリーさんの居る奥庭に戻る。
「買い物に行くわよ!」
「おー!」
離宮に転移してハンナと合流。
バフォア領都リオラの市場を楽しもうとしたら、後ろと前に看板を着せられた!前の板には私たちが名づけた「幻想庭園」の「前庭市場に行こう!出店者募集中!職人さん大歓迎!宿舎もあるよ!早い者勝ち」あとは締め切り日が書かれている。
後ろの看板は地図と緑の迷路の値段と出店者の申し込み用紙が木の箱に入っている。
ハンナがダメージを受けた私を気遣っている。
皆が私を見て驚いたり、笑ったり、しているが、くじけないもん!
ルメリーさんに市場を1週してくるよういわれたので、開き直りハンナとデート。
時々、申し込み用紙が取られるのがわかり、思わず振り返る。
「ところで書いたらお前に渡すのか?」
「うん!夕方までいるから、持って来てね!お兄さん」
「宿舎はいつから入れる?」
「1週間後だよ、一日夜ご飯がタダで食べられるよ」
「朝と昼はよ?」
「市場を利用してね!」
「宿舎にはいつまでいていい?」
決めてない!
「大体3ヵ月くらいかな?専属になったら、ずっといていいけどね」
「つ、つまり、パトロンって、事かよ!」
「腕がよければ店を構えるくらいの援助はしてあげるけど、デルフィ工房抱えてるオーナーさんだからかなりお抱えになるには条件も厳しいよ?頑張って、お兄さん!」
話してる間に垣根が出来ていたが皆が職人さんだったらしく次々、申し込み用紙が取られていき、夕方には書き込まれた申し込み用紙の束が私の手元に出来た。
ルメリーさんも成果があったらしい。
ご機嫌だった。
ホロイ邸改め幻想庭園に帰ると奥庭にはもう7棟の棟上げまでが出来ていた。
庭師棟はリフォーム完成していて、ルメリーさんが怪しく笑っていた。
「宣伝が足りないのよ!これじゃ出来ても客が来ないなんて笑えない話になる!港に何とか看板を建てられないかしら?」
「リオラから幌馬車で何日かかるかな?」
「ケイトスくんか、アスターさんが連れて来れば?」
「アスターは無理。ショッピングモールとチェルキオ教の教会たてるのに忙しいからいないよ」
「貴方も1ヵ月二回ぐらいは冒険者ギルドの依頼をこなして欲しいしねー」
「じゃあ、不定期で良いなら転移輸送しますとも!」
離宮の食堂で会議しているとアスターが転移してやって来たので転移輸送の件を話すと転移輸送陣を敷くという話になり、アスターは転移して出掛けた。
夜も遅くなったので、部屋着に着替えて寝た。
翌朝も朝稽古、朝食、走り込みが終わるとルメリーさんはアスターと一緒に王都の家具屋や画廊に行ったが気に入った物が無かったらしくご立腹で私に帝国まで転移させて調度品や絵画やソファにテーブルを買いあさり持って行くよう言われたが、私にも限界がある。
ちなみに絨毯まで合わせて公用金貨30億枚使った!
冒険者ギルド専属の運び屋と家具や調度品を半分こしてヘキサゴナルに転移して運び、まず、離宮ホテルから調えて、庭師棟に絨毯、ソファ、テーブル、天蓋付きのベッド、文机にランプ、絵画、高級便壺。パーティションに、カーテン、小さなシャンデリア。庭師棟はゴージャスな帝国風貴族の部屋になった。
冒険者ギルド専属の運び屋さんは、ルメリーさんと一緒に帰ると言っていろいろ一人で遊びに行っていたが、2日目からはルメリーさんとハンナが足に使っていた。
お気の毒様です。
私はアスターとラプナー、ダンと久しぶりに話し合い。
「リオラからの中間に村って無いのかな?」
「あったらバイパスなど引かないでしょう」
アスターが代替案を出す。
「宿場町を作りましょう!最初は民宿で5組程からですが何軒も集まってやると50人程が確保できます!魔法建築士がいる、今の内に作りましょう!ケイトス様!」
「住人はどうしよう?」
ラプナーが挙手した。
「クロスディア領からの避難民を使ってはいかがですか?」
「バフォア公爵領にいるの?!」
「廃村に住み込み慣れない農作をしてるようです。ペタル子爵領との境目に住んでるので明日にでも訪ねてみましょうか」
「わかりました!誠心誠意を込めて説得に当たります!」
「魔法建築士の皆さんはお土産さえ何とかなれば稼ぐのは問題無いとおっしゃってるので避難民達の説得にはアスターと私が当たりますので、宿場町の建設をお願いします。ケイトス」
そうだよね、住む所が無いと話も立ち消えになるよね。頑張るぞ!