73話 アクセサリーショップ
お通じの話があります。
気をつけて下さいませ。
結局その日は離宮ホテルの家具と絨毯、カーテンの搬入で公用金貨6000枚近く使ったし、大きな物をアイテムボックスに大量に入れて運んだので、アスターも私もクタクタになって早めに眠った。
ぐうぅ~~~。
自分のお腹の音で目が覚めた。
枕元の昨日買ってきた文机の上のランプに火をつける。
ランプの取っ手を持ってお腹を擦りながら、1階の厨房に転移すると厨房でコックさん達はもう働いていた。
そして厨房の調理台の隅っこでは、アスターが爆食いしていた。
「ごめんなさい、ロックさん、私にも1人前お願いします!」
「はは、晩メシ食い損ねたんだってな!余り物で良かったらあるよ!城主様」
「ルークでいいんだってば!あんまりおかしなあだ名だと上位貴族に何か言われても仕方ないから止めてね?」
「おっと、ソイツはヤベェな。わかったぜ!ルーク様」
見習いコックのセームが、ポトフとガーリックトーストを給仕してくれた。
「ありがとうセーム」
照れて逃げた。人見知りだという彼らは、技術は合っても一人立ちさせるのが、難しいので私の所にブチ込まれたらしい。
まあ、おいおい慣れるだろう。
「アスター帝都に一緒に行って欲しい」
「まだ、難しいですね。作らなきゃいけない物がたくさんあるんです。今日は採取組合長とその件でお話がありますから、ルメリーさんにお願いして下さい」
「荷物運ぶのは?」
「すみませんが、魔法建築士の方々が帰る日に一緒に行くと約束しますから、今日はご勘弁を」
「何作るの?そんなに」
「まず、兵士達の騎士服です。大急ぎで仕立てさせています。それから、迷路に無断で入られない為の塀。万が一迷路に迷って出られなくなった客を助けるための見張り台に、食堂の皿やグラスの手配」
「皿やグラスは私が卸売街で見てこようか?キャサリンと一緒に」
「お願いします!助かりました!食堂の規模は250人程度ですから、頼みます。後は、ランドルフ様の新しい住まいの中身を任されてます」
「お金が必要でしょ?虹証出して」
赤証を出したアスターに公用金貨5億枚程譲渡した。
「アスターも商業ギルドに投資してランクアップしてもらいなよ?」
「…また、貴方は無駄使いして…」
残高を確認して呻いてるアスターに言い返す。
「アスターは無駄使いしないよ。じゃ、市場に寄ってからお昼に帝都行きするね」
「ご無理はなさいませんように!」
流し台に洗い物を持って行くと奪われた。
「ありがとう。お願いします」
ランプを自分の部屋に戻すと火を消した。
部屋は薄明かりに照らされて食べてる間に結構な時間が経っていたのを知り、密かに驚く。
今日はブラッシュローズ伯爵領の市場に行く!
銀山近くの市場にはどんな物が並んでいるのだろう?
ロンデル川沿いに刻んでいろんな領の市場に買い出しに行くと王都より北では小麦粉や野菜が高い。慌ててチャトン伯爵領の市場に引き返して小麦粉や果物、野菜、ハム、ベーコンなどを買っていると、米を見つけた!たっぷり買ってホロイ邸に米を半分置きに行くと驚かれた。
そんなことを繰り返しているとお昼になったので開き直ってホロイ邸で昼ご飯のチャーハンを食べ、ワカメとネギのみそ汁を飲む。ん、満足した!
お昼になったら市場はダメだろう。
王都の工房を覗く事にしたが、確か、カリナさんと回った工房は今一つだった。
それ以外の工房を回ったが気に入った物が無い。
ダメだろうとは思いつつ各地の市場を廻ると、割と売れ残ってた!
銀細工のアクセサリーを中心に良い品だけ買って行く。
王都の近くでは、貴石をメインにした物が多かったが、銀山が近づいてくると銀だけの緻密な細工のアクセサリーが驚く程安い値段で売っているし、銀そのものも売っているが、メッチャ高い!
相場が解らないので買わなかった。
その売り子の体格の良いおじさんに捕まってジタバタしてたら、紫証の銀細工店に連れて行くというので、流されてみた。
店の看板はサビだらけで読めない。ホコリを被った店内をクリーンできれいにしてから存分に見た。
ちなみにこの店は貴石を使っていたが、全部、紳士物だった。デザインがレディ向けではあり得ないのだ。
剣とか、魔獣の爪が水晶掴んでるとか、ドラゴンが水晶咥えてるとか、男の子のロマンが満ちるデザインなのだ!アイルの病気が深刻化したバージョン。
おじさんはうるうるお目々で私を見つめている。
「いくらいるの?」
「屋根と店の看板直したいから金貨1千枚分売りたい!」
「もうちょっと普通のも作ってくれたら、次も仕入れに来るから病気直して!つくるなら銀細工の蝶々作って!はい!虹証出して!」
慌てて出した虹証は藍色だった。
「紫証は?」
「王都では、緑のラインまで入った紫証だったんだ!本当だ!」
「…気持ちはわかるけど今は藍証でしょう?ウソ付いちゃダメだよ?食べ物あるの?」
「スープくらいは作れる!」
ハムと野菜と小麦粉と塩を1袋づつ出して渡すと私を抱きしめて号泣し始めた。
とりあえず虹証を重ねて公用金貨1500枚入金した。おじさんをなだめて店の商品の値札を見て計算しながら、アイテムボックスにポイポイ入れて行く。
1つ大体大金貨1枚か。
店のほとんどの商品を仕舞うとようやく、1500万超えしたので、その分も支払う。
「また、作っといて!じゃあね」
まず、帝都のハンナの家に寄って食材をアルマールさんに押し付けて屋敷に帰る。
厨房に寄るとオンタカさんに届けてもらった食パンがサンドイッチになって出てきた。アム!幸せぇ~。
食材を出すとハムとチーズは差し戻された。
「ルメリーさんにあげてくれ。アクセサリーショップ?大変だったらしいから」
赤ブドウ酒も付けられた。
「ルメリーさん来たの?」
「ああ、なんだっけな、ほら、エリエルさん?」
「ああ、メリエレさんね。どうしたの?」
「2人がかりで、俺の料理喰わせまくって酒とチーズとハムのカナッペで口説き落とせたらしいぜ」
「大変だったね、はい、これで皆でお酒飲んで」
公用金貨1枚を手渡した。
ヨランはニヤリと笑ってエプロンをつまんでカーテシーすると、他のコックさん達と盛り上がっている。
よし、よし。
メリエレさんの部屋を訪ねると、起きたばかりみたいで、侍従見習いの男の子がバタバタと忙しそうにしている。
「今から観光か?」
「ごめんなさい。それ無しでも口説き落とせたから、連れてこなかった」
「…寝る!」
「わー、わー!待って!アクセサリーショップがどうなったか聞かせて!」
すると、面倒くさそうにシャツとズボンを身につけて部屋の真ん中にあるテーブルの前に座って私が座れとアゴをしゃくる。
テーブルを挟んで座ると見習い侍従がメリエレさんにご飯を持って来た。今日はチーズカレーらしい。
私には緑茶が給仕されたので銀貨1枚渡しておいた。
メリエレさんはあっという間に食べ終わると水を飲んだ後話し始めた。
「中街の大通りに馬車止めがいくつもある古い魔導具店があったんだが、金さえあれば何時でも店を売るって言って早、四半世紀。ルメリー嬢が、聞いたら公用金貨2兆枚で売るって言ってたから買うって言った途端、値を吊り上げ始めやがった!」
「買わなくていいよ!そんな奴の店!」
「俺たちもあきらめたから適当に給仕して、帰らせるつもりだったんだけどなぁ、利害が一致したからあと公用金貨500枚出して魔導具も買い取ったんだよ。ほら、お前ら高級な便壺買っただろ?50個も」
「…悪かったね!」
「怒るなよ?その魔導具を便壺の中に入れておけば、勝手にクリーンで中身を消してくれるんだと!1万回は使えるそうだ。これでトイレの問題が解決しただろう?」
「2兆枚も掛ける価値があるの?」
「昨日使えるようになったから、ケイトスが置いて行った銀細工と、革細工のアクセサリー今朝飾って来た。今頃営業してるだろうから案内する」
ジャケットを着てネクタイを締めたメリエレさんと手を繋ぐと中街の大通りに転移した。
「どっち?」
「あそこの馬車が道にはみ出して止まってる辺りだ」
ポイズンバタフライの看板が掲げられたその店は大きな窓ガラス越しに女たちの戦場が見えた。会計係が10人もいるのに全く追いついてない買い物客に即座に私たちは戦略的撤退をした。
転移してカルトラの冒険者ギルドに行くとイイ笑顔のルメリーさんに捕まった。
「店まで行って逃げるって、どういうこと!?」
バレてるし、怒られた。