72話 絆
屋敷の在庫から夏物をアイテムボックスに入れて、アクセサリーを出して、ヘキサゴナルの王都の家に転移したら、また、私の部屋が無い。
こんなことをするのはアスターだ。
私はホロイ邸に転移した。
どこら辺にアスターがいるのかわからないから兵舎に顔を出したら確認の為に名前を言わされた。
「ルークシード=クロスディアです!」
「付いてきて!おじさんは、メキス!よろしくな!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ところでクロスディアって、あの、クロスディアか?」
「多分、皆さんご存知のクロスディアです」
そのまま話すこと無く人の気配がなくなった屋敷の中を進んでいるといきなりの抜刀からの鋭い切り払い。
後ろに飛んで避けながら双剣を抜く。
「ホロイ様の敵め!死ね!」
話しかけて来るとき以外は油断できない敵だった。
殺さないのが難しくて、剣をさばくのが大変だった。
1時間近く剣を交わしてどちらの服も剣圧でズタボロだった。
最後の一撃が来る!
上段からの鋭い振り下ろしを双剣で受け止めたらヘキサゴナル製のメキスの剣が折れ私の額を掠めて飛んで行った。
「メキス、許せとは言わない。私のことを憎んでてもいい。ホロイ邸を守ってくれませんか?」
次の瞬間、メキスが折れた剣を自分の首に突き立てようとしたのを私が剣で払い、落ちた剣を遠くに蹴る。
「わぁああああああ!何で殺さない!お前は悪鬼だろう?!何故優しくする!何故!どうして!」
「私も先の戦で師匠をマルカン公爵の騎士に殺されたから、その胸の痛みのいくらかは解る。私は1万の騎士に魔法使い、マルカン公爵に連なる者全てから恨まれても仕方ない。いつでもかかってこい。簡単には殺されてやらない!」
一応、自害防止の為に折れた剣を回収して上の階に転移したら、アスター達が最上階でバタバタしている。
パルミと目が合った。片手を上げるとリンディーを連れて来た。
「また、ひどい格好して!」
文句言いながら治癒を掛けてくれた。
傷は直ぐに治ったが着替える前にアスターに見つかって怒られた。
「お風呂に入って下さい!リンディー洗いなさい!」
自分でお湯を用意して入ったお風呂は何だか目に染みて涙がこぼれる。顔を何度も洗って誤魔化した。
夕飯は王都の屋敷から取ってきてから兵士も私たちも庭師も皆で食べた。
自己紹介の途中で涙が止まらなくなった私をバカにする者はいなかった。
庭師のフェイさんは思ってたより、優しい人だった。
だが、反ホロイだっただけだった。要注意。
ただ、給与交渉が進むと、割と利己的な人だとわかったので、飲める要求には全部応じた。
離宮の昔住んでいた部屋に住みたいというのも場所を聞いてOKを出した。
というのも離宮が馬鹿みたいに広くて全部の部屋が面倒見切れないから離宮関係者全員離宮に住ませることにした。
ホロイ邸を観光地にするというと庭師は喜び、兵士も一部は賛成した。
反対者の筆頭がリチャードだったので、これはホロイ邸を保存して行くために必要な収入源だといい、警備兵士も増やしていいというと、ようやく頷いてくれた。
ちなみに、話は大食堂でやったのだが、皆さん食べるのに夢中で、話をあまりにも聞いてなかったので、食べ終わってからもう1度した。
夜になってリチャードがわざわざ4階まで上がって来てメキスの事を謝った。
「嫌われるのはさみしいけど仕方ないよ。それだけの事をしたからね」
「…実は、皆観てたんだ。アンタがどうするか」
「そう。それで私をどうするの?」
リチャードは私の前にひざまずくと剣を捧げた。
「ごめん、立会人を呼ぶから待って!アスター!ちょっと来て!」
転移して来たアスターは状況を見ると言った。
「明日の朝1階のロビーでやりましょう。皆さんに観てもらうべきです。明日の朝までに決意が変わらなかったら、誓いを受けます。さあ、夜も遅いですし、帰って寝て下さい」
寝ようと思ったら、今度はゲンシンだ。
「賄いのコトデご相談が」
「入って下さい」
ゲンシンはソファに座ると今日だけの食費をメモして提出した。
ほぼ大金貨2枚の賄いに言葉を無くす。
「アスター、兵士も庭師も何人居るの?」
「…それが、合わせて200人程います。私たちをあわせると250人になります」
「これでも、節約して、デス。普通に作ると37万ステラカカリマス」
3日で公用金貨1枚超え…
「ありがとうございます。報せて下さって助かりました。大丈夫ですよ。冒険者ギルドで稼ぎますからね。これでも1度の稼ぎが金貨100枚はありますから、任せて下さい!ゲンシンさん!」
ゲンシンはホッとしたようで部屋から出て行った。
アスターと私は顔を見合わせて言った。
「「どうします?」」
「これじゃ、職人さんを育成するのが難しいかも。兵士も増えるしオマケに賄い専門のコックを雇わなきゃでしょう?」
「駄目なら駄目な時です。その時に考えましょう!明日から森の伐採が始まります。そこは切り株を退けて整地して馬車止めにします。作業を手伝って下さいね。それから朗報です。奥庭要らないそうですから、職人さん以外も宿泊出来るよう何棟か建てましょう!」
「そんなに大工さん余ってるの?」
アスターはニヤリと笑う。
「市場とは関係無いんですから魔法建築士でもいいんですよね?」
「アスター頭いい!ルメリーさんに伝達で、3日後にマーズさんをヘキサゴナルに連れて行くからって報せて置いて」
「かしこまりました」
「アスター、露店の場所代いくらにする?」
「宿題です。明日までに考えましょうね?」
アスターが従者部屋に入って行くと私は広い部屋に一人になった。ベッドと会議用の机しかないさみしい部屋。
ベッドで転がりながら考える。
ただの露店は大銅貨1枚だって決めてある。
問題は屋根付き!
大口露店は1口銀貨1枚だって決まっているから、良いとして。
橙証の子達を無理させられない。大銅貨2枚だな。
賄いは仕方ない!太っ腹な所を見せてやる!
庭園と迷路は小銅貨5枚で楽しんで貰う。
よし!寝るぞ!
朝は早く起きて鍛錬する。
しばらくしてなかったから念入りにしてるとコリンズが来たので模擬試合する。
木剣の音でアスターが起きて来て2人とも、怒られた。
「部屋で暴れないで下さい!全く!」
クリーンを掛けてこざっぱりして持って来てる中で一番上等な服を着る。
今日は新しい騎士を迎える日になるかもしれない。
まあ、ならないかもしれないけど。
アスターが髪を結ってくれた。
「はい、出来ました!参りましょう!」
アスターは赤の騎士服を来てるし、リンディーとコリンズも藍色の騎士服を着て正装している。
1階のロビーに降りると、兵士達がほぼ全員集合していた。列になって、並んでいる。
皆が一房だけ髪の毛を短くしているのが気になった。
私が一人だけ列から飛び出してるリチャード隊長の隣へ行くとリチャード隊長は兵士達全員と一緒に私にひざまずいた。
リチャード隊長が口上を述べる。
「我ら全員、ルークシード=クロスディア様に命と剣を捧げる!」
そしてリチャード隊長の剣を捧げる誓いの儀式。
ヘキサゴナルの騎士の誓い通りに儀式をすすめるとなんと髪を切る時にうなじでばっさり切ったのだ。
そしてメキスが持って来た木箱には全員分の一房づつの髪の毛がどっさりと入っていた。
リチャード隊長の分もその中に入れた。
無事誓いの儀式が終わった後でアスターがリチャード隊長の後ろ髪を揃えてあげてたので、銀冠櫛を付けてあげた。
アスターの予備に一つ買ってたのだ。
「兵士達の数は?」
「152名だ。倍にしたいがいいか?」
「構わないよ。その中から市場の警備兵を10人くらい回して欲しい」
「任せとけ!じゃ、リオラに行っていろいろ告知してくる!明日帰って来る!」
「気をつけて!」
「おう!」
リチャード隊長は、幌馬車隊で領都リオラに出かけて行った。
4階の部屋に入って冒険者の装備に着替える。
アスターが転移して来たので話を聞くとロトムにあげた屋敷の家具の搬入が今日らしい。
「取りに行こうか?」
「いえ、やる事なす事たくさんですから、業者に丸投げしたので大丈夫です。朝食の前に市場に買い出しにいきましょう!」
「…それが1番の問題だよね」
「氷室も大きいのがありますから1週間分買いますよ!」
転移して連れていかれたのはピューター侯爵領の港町イルスホルンの朝市魚をこれでもかと言うほど買ってもあんまり大した値段じゃない。
次はバフォア公爵領のお隣のチャトン伯爵領の市場に転移して、その規模の大きさにあ然とした。
「小さな領地で田舎なのに凄いでしょう?アクセサリーもまあまあなのが、安い値段で売ってますよ。買いますか?」
「買う!」
アスターと別れてアクセサリー屋を一つ一つ吟味していると、いくつか良いのがあったので大人買いした。
子供たちがお小遣いで買えるものからちょっとお高めの物まで、幅広い値段で売っているが、高いのはアルフォンス工房の花細工より劣る。
無論そんな物は買わない。
ビーズアクセサリーがこの領地では主流らしくて、大作が安いのでそれも買って行く。
まだ見てる途中だったが、アスターに捕獲されてホロイ邸に転移した。
もう北門、東門の木が伐採されている。
慌てて厨房に食材を降ろして倉庫と氷室をギュウギュウにすると、朝食を王都の屋敷に取りに行くアスター。私は帝都から持って来た売り物を4階の自分の部屋のテーブルの上に出しておく。
朝食を取りに大食堂に向かうと知らない顔のコックさんが6人いて、おかずを盛り付けて兵士達に渡している。
メキスに邪魔だと食事ごと追い出されたので4階の皆で使う部屋に行くとアスターもそこで食べていた。
「賄いのコックさん6人もいるの?」
「5人は見習いだから、給与は安くて良いそうですが先払いです。後で王都に行きましょう!その前に切り株です」
朝から煮込みハンバーグ。鳥のミンチらしくて優しい味がする。
食べ終わったら、厨房に洗い物を持って行ってから切り株取りにまずは北門から。
ウインドスラッシュで木を切ってるようで、もう充分な広さの場所が確保出来ていた。
アースティルという農耕魔法を使って地面を柔らかくし、重力魔法のグラビティで、切り株を引き抜く。
また、アースティルで地面を平らに均す。
「スゲー!あっという間じゃないか!仕事一緒にやろうぜ!」
えっと、勧誘しないで下さい!
「切り株燃やしていいですか?」
「いい、これは持って帰って薪にする!」
冬はどうするか考えとかないとなぁ。
辺境領より暖かいだろうけど、雪降るかなぁ?
薪も一応作った方がいい?
「あー!わかんない!」
グチャグチャ考える間に東門の馬車止めも出来ました!やるな?私!
アスターが私を王都の採取組合に転移させてドラゴンフレーバーにお金の振り込みとホロイ邸にいた兵士達と庭師全員分の半年分の給与を引き出して組合の個室を借りて分ける作業をアスターと2人でした。
なお、お金を入れる巾着は買った!
1人に公用金貨200枚を198人分とリチャード隊長とフェイさんの分は他の人より月公用金貨2枚分大目に。
公用金貨2万4枚とドラゴンフレーバーに年間で公用金貨1900枚の支払いを済ませてスッキリ!
「家具屋に行きましょう。橙証の職人さん達の作業用の机を頼んでありますから」
アスターが家具屋さんに私を転移させる。
依頼してある家具は120個。
「何で多いの?」
「誰かさんみたいに商品を全部買うお客さんがいると2~3日休んで商品作らなきゃいけないみたいなんで、その間に誰か他の人が出品出来るでしょう?
それに誰かさんが目に掛けたらその人はお抱え職人になるでしょう?ほら、たくさん机が必要です!」
「アスターって…」
「何ですか?」
「ずる賢いんだね」
アスターは1時間口を聞いてくれなかった。