71話 ほんの気持ちです
夕方までの間、屋敷に帰って少し眠って魔力回復させる。夕方前に冒険者ギルドに行き解体主任のイエールさんにぶちギレながらお説教される。
やっぱり数が数、だったので、相当神経使ったようだ。
お品書きをもらい、何頭いたか、確かめて見る。
*****
帝都カルトラ冒険者ギルド本部所属
Bランク
冒険者名 ケイトス
【魔獣名/ランク/討伐数/報酬額】
○幻惑リス/A/326頭/持ち帰り
○フェアリーウイング/S/209頭/持ち帰り
*なお、解体費用は肉と相殺しました。
*****
指名依頼書
依頼主 キスカ帝国王宮厨房
指名者 帝都カルトラ冒険者ギルド本部Bランク/ケイトス
○依頼内容:明日の9:00までにバースデイトーチを山ほど採ってきて、下処理した状態で引き渡すように!
○場所/幻惑森林
○日時/即時
○依頼額/量による
これでは、足りないではないか!私たちを馬鹿にしてるのか!!
よって、報酬は無しだ!
*なお、報酬はありませんが、バースデイトーチの煮出し液(毒消し)がありますので、冒険者ギルドから換金されております。
○バースデイトーチ/C/653個/公用金貨653枚
【合計*公用金貨653枚】
今回は不本意な結果に終わりご迷惑をお掛けした事を深くお詫び申し上げます。
どうか、これからも冒険者ギルドをよろしくお願い申し上げます。
*****
「クソが!」
夜の幻惑森林に行って一人裸祭りまでやったのに、報酬は無しだとー?!
ふざけやがって!!!
王宮からの依頼なんかもう受けない!
指名依頼書をビリビリに破いてゴミ箱に棄てるとルメリーさんがおそるおそる近寄って来て殺気と威圧を止めるようにと言い去って行く。
毛皮をイエールさんから受け取り、アイテムボックスにしまうと屋敷に帰ってお風呂に入った。
落ち着くまで湯船に浸かり、風呂を出て夕食を取る。
お子様ランチだったので喜んで食べた。
落ち着いたので馬車に乗ってネウチ毛皮店まで、行くとオンタカさんは、オークションに行ってるらしい。
「では、望みの品が手に入ったと伝言お願いします」
「お待ち下さい!直ぐに呼び戻しますので、ほんの少しお待ち下さい!ケイトス様ですよね?」
「はい。ご迷惑でなければこちらで待たせて下さい」
「よかったら、毛皮を出していただいてもよろしいですか?品質をチェックしないと金額も付けられませんので」
そりゃそうだ。とりあえずフェアリーウイングから取り出すと皆が真剣な顔で1枚づつ丁寧に調べている。
職人さんの作業を見るのは楽しい!
今回のフェアリーウイングはかなり大きな個体も混じっていたので私がしくじって無ければコートに出来るはずだ。
紅茶がケーキと一緒に運ばれてきた。
久しぶりのケーキ。遠慮なくいただく。
作業場が騒がしくなったと思ったらオンタカさんが帰って来たらしい。
裏口から作業台を避けながら紺のタキシードに身を包んだオンタカさんが私に近づいてくる。
「ケイトスくん!本当に持って来てくれたんだね!ありがとう!」
「幻惑リスもたくさんあるけどどうなさいますか?」
「安くなるけど構わない?」
「いいです!買い取って貰えるだけで光栄です」
「出してくれる?」
「326頭分あるから、どこに出しましょう?」
「そんなに…。ごめん、明日の朝また納品に来てくれる?」
「何時くらいに来ましょうか?」
「朝食を一緒にどうかな?7:30に来て下さい」
「ご相伴に預かります!楽しみにしてますね!」
帰ってメリエレさんにカルトラの観光案内を頼むと引き受けてくれた。
ダンジョンプランツの案内も頼むと「金は過剰に持っていろ」とバラムさんと同じような事を言った。
翌朝ハッシュに起こされて着替えて、身支度するとネウチ毛皮店に転移。
朝から皆、元気いっぱいでフェアリーウイングの襟巻きを作っている。魔導機械を使わず手縫いで仕立て上げる職人さんの技に見惚れているとオンタカさんの顔がこちらを見た。
「皆!朝食にしよう!よく来てくれたね。ケイトスくん。2階に上がろうか」
そう言って私を2階への階段に案内した。
とても急な階段で落ちたらケガすること間違いなしだった。
2階に上がったらそこはごちそうの山で店の人達もテンションが爆上がりしている。
「さあ、お好きな物から好きなだけ食べて下さい」
「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」」
まず、私は分厚く切られ軽くトーストしてある食パンにバターをたっぷり付けてから他のおかずを少しずつとり、食べていると遠慮してるのと勘違いしたオンタカさんにいろいろ盛り付けられお腹が張り裂けそうなくらい食べた!
バナナ美味しかった!
「ごちそうになりました!いろんな物が美味しかったです。食パンとバナナが特に美味しかったです」
「食パンはカルトラで一番美味しいパン屋から取り寄せたんだよ。そうか、食パン好きなんだ?」
「はい!大好きです!バターをたっぷり付けて食べると夢見心地です」
「プッ、そんなに好きなら余ったの持って帰る?」
「良いんですか?!持って帰ります!」
「帰りに用意しておくね。じゃ、1階に降りようか」
「はい!」
「残念なんだけど、フェアリーウイングB級品が15点もあってね、それは安くなるけど、随分大きな個体がいたんだね!コートが26点も作れるよ!それには、色つけるね!」
「色付けられないんじゃないですか?黒いから」
「ああ、報酬額アップするって事だよ」
恥ずかしい!そういう意味だったのか!覚えておこう!
1階に降りると2つの作業台をくっつけて場所を空けて用意しているから、そこに乗せられるだけ幻惑リスの毛皮を乗せた。
皆が目をキラキラさせて査定を始めた。
「乗りきらない分はどこに出しましょう?」
「ちょっと待ってね。直ぐに場所を空けるから」
縫っていたフェアリーウイングの襟巻きを片付けると倍の広さの場所を空けたオンタカさんに促されそこに在庫全てを出した。
オンタカさんは、応接室に私を連れて行き、緑茶を出してくれた。
「実は、恥ずかしい事に、幻惑リスを買い付けるお金が足りそうにないんだ」
「来年でもいいですよ。今、お金に困ってないんで。フェアリーウイングの分も売れてからでいいですから。というか、その方が良いです。余分なお金が入ると使うだけですから」
「その代わりと言うのはおこがましいけど、B品を優先してリダル商会に卸すよ。これが契約書ね」
「でも、今までお付き合いのあった商会に悪いですから、いいです。あんまり、欲張るとロクな事になりませんし。よかったら、パン屋さんの名前を教えて下さい」
オンタカさんの目が大きく見開かれる。
苦笑交じりにこう言った。
「普通の方法じゃあ、買えないから、お金を支払うまでの利子として毎日パンを配達させるよ」
「本当に?!嬉しいです!貴族街のクロスディア家までお願いします!それから注文なんですけどフェアリーウイングの襟巻きを一つ頼みたいんですけど」
「…ちょっと待った!君、貴族なの?!」
「はい、本名はルークシード=クロスディアと申します。貧乏な田舎貴族なので、冒険者してます!」
「そうだったんだ。お父さんたちは?」
「領地でスタンピードが起こったんで戦いづくめでしたが、領地が没収されたんでもうすぐ帝国に仕事に来るんです」
「貴族じゃなくなったって事?」
「いえ、新しい領地の領主になったんですけど、降格処分ですね」
「何したの?」
オンタカさん意外と食いつくなあ…
「あー、私と弟だと思ってた、子供の名前を入れ替えただけです!ただ、王家を騙す事になったんで、領地を没収されて、こじんまりとした領地でやり直す事になったんです」
「よく、それで済んだね?」
「まあ、皆、クロスディア家には、負い目があったからじゃないですか?」
「スタンピードなのに、ほっとかれたの!?」
「はい、4800年程、ですかね」
「悪いが理解出来ない!」
「私も最近そう思うようになれました。話しすぎました。幼い私の解釈では間違ってる所もあるでしょうから、内緒にしておいて下さいね。パンは、5人分でお願いします!もう、毛皮はいいですか?」
「幻惑リスがあと200ばかり欲しいです」
「わかりました。コツコツ貯めときます。昨日みたいに襲われて撃退することは2度と無いよう祈ってます。朝食ごちそうになりました!では、失礼します!」
転移してハンナのウチに行くと誰も居ないのに玄関は開いてる。
「ハンナー!居ないの?居るのー!」
[待って!ケイトス!染めてる最中だから!]
工房か。元のランドルフお父様の部屋に入って行くと糸を染料に浸してグツグツ煮ているハンナがいた。
「ハンナ、お土産持ってきた!」
「食堂のテーブルの上に置いといて。4日後に来て」
「わかった!またね!」
あんな風に腕まくりしてやってるのなら、ブレスレットは、ダメだな。
デルフィ工房で買った小花の銀細工が5つ並んでいる物を置いて道場にヒュージさんを訪ねると、試合中だった。カーメルさんが近寄って来た。
「お土産を出せ!」
「また、4日後に来るから、その時にして下さい。道場の許可取りましたよ」
「4日後にヒュージをヘキサゴナルにやるようにしておく。お土産はハムやチーズが良い」
それというのも、門下生達が良く食べるらしい。できれば、家政婦を紹介して欲しいというのでメイドとコックを直ぐに連れて来た。
ランドルフお父様達が住んでいた下町の白亜の屋敷から通うよう言って食費を公用金貨1枚渡して置くとコックのアルマールは私と買い出しに。
調味料がてんで足りなかったらしくヤケになって買っていた。野菜にお肉に小麦粉、卵をたくさん買って大金貨2枚分使ったら気がすんだようだ。
ハンナの家に帰って昼食作りを手伝う羽目に。
お昼はお好み焼きに焼きそばと味噌汁が付いたボリュームメニュー。
お好み焼きひっくり返すの楽しかった!
私は箸で焼きそばを食べてると不思議な顔をされたが、お好み焼きが争奪戦になっていたので、さほど気にならなかったらしい。
「入門金いくらでしたか?」
隣の青年に声をかけると「公用金貨20枚」と返事が返って来た。やっぱりな。申請しといてよかった!
後片付けを手伝ってクロスディア魔石販売所に行くと何と!営業している。
玄関から中に入ると絵画やら彫刻やらが、展示販売されている。
それを接客している落ち着いた紺のスーツ姿の紳士2人の手が空いた隙に話しかけた。
「すみません、こちらで委託販売する契約を結んでいるリダル商会のケイトスと申します」
「お掛けになってお待ち下さい」
ヤケに待たされたが、お茶の支度に手間取ったのだろう。
「申し訳ありませんが、お引き取り下さい」
はあ?!
「こちらで取り扱う商品は、クロスディア魔石販売所が支援してる芸術家の作品だけです。例え、契約書があろうとも、冒険者如きに空ける場所はありません!」
そっちがその気ならやってやろうじゃないですか!
「わかりました。契約書は破棄して下さって結構です!残念です」
その足でカルトラの冒険者ギルドへ転移したら、バラムさんにギルマスの部屋に転移させられた。
「何だ?!忙しいけど聞いてやる!」
今日も山のような書類と戦っているバラムさんにさっきの事をぶちまけると、バラムさんはニヤリと笑う。
「父上とアスターを連れて貴族の装いでもう1度訪ねてやれ!いい憂さ晴らしになるはずだ。店が必要か。ルメリーが来るまでそこのソファで茶でも飲んでろ!」
秘書のお姉さんが紅茶を持って来た。デザートはプリンだ。
ん、美味しい!
「ギルドタグ忘れて行っただろう?預かってる。やっと、物騒な気配じゃなくなったな。うまいか?」
「美味しいよ!そうだ!お土産にこれあげる!お姉さんにはこれね!」
オニキスに銀の蛇が這ってる指輪をバラムさんに、秘書のお姉さんには、デルフィ工房の花のイヤリングを渡すと2人とも、大はしゃぎしている。
「これが噂の紫証の仕事かあ」
「いや、バラムさんにあげたのは青証のお店の仕事だよ。お姉さんの方が紫証の職人さんの仕事」
2人とも、互いに見比べて首を傾げている。
「わからんな。違いが。ありがとう!気に入った!店が出来たら行く!」
「私もありがとうございます。夫に自慢出来ます!」
「お姉さん旦那様居るんだ!」
「私はヘレナと申します。解体主任のイエールが夫なの」
「アネクメルネみたいだね!」
「まあ!お口が上手ね」
アネクメルネは帝国で実在した美姫の事で国一番の武骨な服職人さんに嫁いだ女性である。
歌劇で今も人気がある演目なのだ。
「何でイエールさんにしたの?」
「年忘れの会で、私のステーキを上手に切ってくれたからよ!」
「…なら、仕方ないね!」
「イエールにお前ら謝れ!」
ワイワイ騒いでいると、ルメリーさんがやって来たが無茶苦茶、機嫌が悪い。
私たち3人は黙った。
「ル、ルメリーさん?どうしたの?」
「あの、馬鹿野郎に恥をかかされたからよ!!」
ウィルソンさんは、無理をしてドレスとチョーカーをとある貴婦人から借りてオークションに間に合わせたらしい。
しかし、ルメリーさんに借り物だと今日まで言えずにいたらしい。
返却の催促が来てやっと今日のお昼にルメリーさんに言えた⇨ルメリーさんが怒る⇨そして今。
「何でウィルソンさんはそんなにお金が無いの?」
これにはバラムさんが答えた。
「アイツ11人兄弟姉妹の長男で、お財布替わりなんだ」
「何それ?!初めて聞いた!そんな事情なら、欲しくても言わなかったのに!馬鹿なんだから!」
ルメリーさんは、そう言ってはらはらと涙をこぼす。ヘレナさんが温かい紅茶を入れると一気に飲み干した。
涙をブラウスの袖口でグイッと拭うと私の顔を睨んだ。
「それで、今日はどうしたの?」
「それがね、アスターの店が委託販売しないって言ってるから、アクセサリー屋さんの店舗探して欲しくて来ました!」
「え?おかしいでしょう!あの時アスターさんハッキリ言ってたのに、何故?!」
「多分、父上が雇った店員で、私のこと知らないんだと思う。だから、辞めてやったの。後で父上とアスター連れてご挨拶に行くけどね~」
ルメリーさんがキョトンとした後大爆笑した。
「性格の悪いお坊ちゃまに必ずやこのルメリーが最高の店を探して見せます!」