70話 品定め
翌朝早くゲンシンさん、アスター、ラプナー、ダン、私の5人で、バフォア公爵領領都リオラまで転移してリオラから刻んで豪商ホロイ邸まで転移した。
森に囲まれた避暑地。
そんなのをイメージしていた私の幻想を木っ端みじんに壊してくれた。
そこにあったのは王城より大きな城だった。
高くて白い塀の中に何もかもあるようで、金貨1千億枚で買えたのがウソみたいな規模だった。
しかもバイパスからの美しい東門と領都リオラからの大きな北門には兵士が左右と門の上にいる。
森に潜んで観てたら気付かれた。
「誰だ!?出てきたら攻撃はしない!」
転移して目の前まで行きホロイ邸の鍵を見せると、紋章が取っ手についていたので、中に招かれた。案内役の兵士さんの名前はジョイスさん。兵士の中では偉い方らしい。
「誰がここを買ったんだ?坊やのお父様かお祖父様かい?」
「私が買いましたが?」
「ハハハ、冗談だよな?」
「いいえ、本当です!私は帝国では、Bランクの冒険者でそれなりの稼ぎがありますから」
「ハッ、子供の稼ぎなんて泡みたいなもんだろう?」
面倒だから、橙証を出して預金残高を魔力を流して表示させて見せたらジョイスが固まった。
「泡みたいな、稼ぎでしょうか?」
公用金貨8千億枚強ある。
「ル、ル、ルークシード=クロスディア様!お待ちしておりました!!まずは、兵舎にどうぞ!」
手足がぎこちなく進むが口は滑らかでベラベラとよくしゃべる。
「実はですね、ホロイ様が亡くなってからも、屋敷を守ってるんですけど、雇って下さる方がいらっしゃるのをずっと待ってました!」
「食べ物はあるのですか?何人いらっしゃるんですか?」
「隊長の所に行ってから、隊長がお話しします」
それ以降はしゃべる事なく、お城脇の兵舎まで見事な庭園を横切って30分やっと兵舎に着いた。
「レギン隊長!金貨8千億枚持っているガキが来ました!どうしますか?!」
バキッ!ドゴーン!!
ジョイスさんが鼻血を吹き出しながら飛んで来たから避けた。
兵舎の入り口から青白い肌の美中年男性が出て来て私の両肩をつかんだが、力が入ってない上に震えている。
「大丈夫ですか?お医者さん行きますか?」
「お」
「「「「「お?」」」」」
「お腹…すいた。もう、限界」
王都に連れて帰ってリョウちゃんの料理を食べさせたら、15人前平らげ紅茶を飲んで茶菓子に舌鼓を打っているこの人はリチャードというらしい。
容姿端麗なクセに意外とやんちゃな口調でざっくばらんにホロイ邸の問題点を答えてくれた。
「俺らの給料さえ保障してくれりゃ、傭兵達は俺が納得させるからいいけどよぉ、庭師のフェイが面倒臭えんだよ!住むとこが裏庭じゃ気に入らないみたいでよぉ!」
「お風呂入って来たらどうですか?お湯の用意が出来たみたいですから」
「坊主も一緒に入れ!昨日、風呂入ってないだろ?」
思わず自分の脇を嗅いだ。
お風呂タイムにリチャードさんと背中の洗いっこしながら、フェイさんの事を聞くとフェイさんはホロイの愛した女性達の中の連れ子だったようで、離れで母親と暮らしていたらしい。
成人してから庭師になったら、その才能たるや他の追随を許さない程の鬼才で、前庭、奥庭、迷路の庭園、離宮の花の庭と4つの庭を完成させたが、奥庭に植える草木が気に入らないで、何度も植え替えしてるようだ。
ふ~ん?じゃ、日影でもよく育ってきれいな色の草木をプレゼントしたらいいかなあ?
思い立ったら吉日。バラムさんに聞いてみよう!
早速お風呂を出たら、アスターがバスタオル広げて待っていた。
「アスター、ちょっと帝国行ってくる!」
「分かりました。視察は済ませておきますね」
「お願い!」
体を拭かれて着替えると肝心なことを思い出して食糧庫をあさり、とりあえず明日の昼までの分の食事が作れるだろう量をアスターにアイテムボックスで持って行ってもらう。
「2~3日は帰らないかも!幻惑森林にも行ってくるから!」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ!」
過保護じゃないアスター。
…何かちょっとさみしいかも。
採取組合で5000万ステラ引き出して、流行ってない市場に行き露店を見て歩くと、宝石が小さいがきれいな銀細工の指輪とブレスレットが信じられない安値で売られている。
「全部で幾ら?」
「…へ?ええ?!今すぐ!計算します!」
「他の店観てくるから30分後に来るから、それまでに計算しておいて」
「は、ハイ~!」
小麦粉を20袋買ったりミルクやチーズを大人買いしてるとハムやベーコンも進めて来るから味見して、美味しいのだけ買い占める。
野菜も今が旬のキャベツを山と進めて来るから苦笑いして、買ってあげてると、一足早いトウモロコシが売ってるから買おうとしたら、店の人にとめられた。
「これは料理をしても固いから、駄目さ」
「教えて下さってありがとうございます」
「アンタ、帝国にでも行くのかい?」
「そうなんですよ。家人にお土産を買いに来たんです。何かおすすめはありませんか?」
「あっちの角で売ってる砂糖が安いらしい。皆が余所から来てわざわざ買って行くよ」
「ありがとうございます!」
1000ステラをチップにして、その場から最初に見た銀細工の露店に転移して行くと喜んで迎えられた。
「11万ステラになります!」
50点あまり売ってたったそれだけ?
やせ細った顔には隠しきれない疲れが出ている。
ハムのひとかたまりとチーズを一つとキャベツを一玉敷物の上に置く。
「ちゃんと食べてちゃんと寝て、自分もアクセサリー付けて身だしなみ整えて市場に来て下さい。また、買いに来ますから元気でいて下さい」
「あ、あの!ありがとうございます!」
照れくさいから急いでそこから離れた。
砂糖屋さんに行くとオマケしてくれた。
「良いんですか?」
「あのアクセサリー売ってるの姪っ子なんだよ!ありがとうな!坊ちゃん」
砂糖オマケするより、あの人に食べさせてあげられないのかな?
工房地区に転移してニカレ工房の革紐編みのブレスレットやネックレスを吟味して大量に買ったらバシバシ背中を叩かれた。
「水色と緑と黒と茶色か!ひょっとして帝国で売るのか?」
「そうです」
「んん?!アッ!ちょっと待て!これも持って行け!勉強しといてやるから!」
きれいな水色のキャッツアイとアクアマリンの大ぶりのブレスレットだった!
編み方も見事で、王様に献上しても良さげな感じだ。
「ルークシード=クロスディア、だろ?ありがとうな!お前さんが陛下にブレスレットを贈ってから、商売繁盛なんだよ!それにアンデッドの魔石優先して回してくれた。約束守ってくれたんだな、いくら感謝しても足りないくらいなんだよ。これから大変だろうけど応援してる!頑張れ!…ところで、商売でも始めるのか?」
「はい。何で私のことわかったんですか?」
それが不思議でしょうがない。
「俺はあんまり目が良くなくてね、人の判別は声でしてんだ。髪が長いけど多分そうだろうと思ってな!」
「え、でも、アミュレットやこの革紐編みの商品は?」
「ハハハ!伊達に30年もやってないさ!指が覚えているんだよ。銀細工はそこそこの物しか作れないけどな」
「そうでしたか。失礼しました」
「売れたらまた、来いよ!たくさん作っとくから!」
「はい、今度アンデッドの魔石を売りに来ますね」
「マジか?!なるべく早く頼む!数は1000個ぐらいで」
「そんなに切羽詰まってるんですか?」
「チェルキオ様のお祭りで在庫が空なんだよ!」
「今すぐ持って来ますけど、私から売るのはこれが最後になります。1000個でいいですか?」
ニカレさんはしばらく悩んでいたが、「2500…個」と唸りながら言った。
屋敷の大会議室に転移して絹袋の中にニカレ工房の欲しい大きさのアンデッドの魔石を入れて「計数」の魔法で数えて2500個分いただいていく。
【2500個分売りました。ルークシード】
メモを置いて、ニカレ工房に戻るとニカレさんが、体格では劣るそばかすの青年にガッチリ肩を組まれて困~~った顔をして待っていた。
「スマン!借金の申し込みをしたら、コイツも指輪の魔石が欲しいって、言うんだがあるか?」
「これが本当に最後ですからね?いくつ欲しいんですか?」
「僕はアイル!銀細工工房を開いたばかりなんだ。僕もお祭りでアンデッドの魔石の指輪が全部売れて困ってたんだ!5000くれる?」
「ごめんなさい、気に入った工房にしか、大量には卸してないんだ。商品を見せて下さい」
するとニカレさんがニヤリと笑う。
「どうする?アイル」
「うおおおおーっしゃ!燃えてきたぜ!来るなら来い!」
言った瞬間に転移させられていた。
「アルフォンス工房」と書かれた看板は新しいが、店は古い。でも、お客さんで賑わってる。
邪魔しないように店内に入り指輪をはじめとするアクセサリーの銀細工をじっくりと見る。
蛇やクモなどの縁起物から花や蔦などのモチーフの細かい細工物まで、生き生きとして今にも動き出しそうな躍動感がある商品が展示販売してある。
「どうだよ?」
「花とか苦手なら止めれば?」
心が折れたらしい。動かない。
「僕だって、わかってるんだ。でも、売れ筋なんだよ!」
「トカゲとか、ドラゴンとか、向いてる物を極めたら?」
「極めてるよ。あそこの人集りがドラゴンのモチーフの物だよ」
「卸せて3000個だね」
アイルさんは、拳を振り上げ叫んだ。
「よっしゃあああ!」
裏口のドアが開いて女の子が出て来た。
「おにいたん!どこいってたの!ママおこってるよ?」
「アニス、仕入れに行ってたんだ。クロスディアさんいつ来る?!」
「30分後に」
急いでニカレ工房に転移してアンデッドの魔石とお金のやり取りを虹証ですると、ニカレさんの紫証の虹のラインが1本増えている。
何だか自分も誇らしい。
「また、来ます!」
「アイルも悪い奴じゃないんだが、バカなんだよ。売れ筋とかにこだわってもしょうがないのにな!」
「はい、心を折って来ました」
「ガハハ!やるじゃねーか!客が来たからまたな!」
また屋敷に帰ってアンデッドの魔石を数えてアイルに納品して虹証を交わす。
青証だった。若いのにすごい。
ま、絶対言わないけどね。
蛇と鳥、ドラゴンのモチーフと涙型のネックレスの花の物をザッと50点程買う。虹証で支払う。
最後はデルフィ工房で仕入れ。
花や蔦のモチーフが美しい。100点程仕入れてマリスの虹証と合わせてお支払い。
おや、橙証になってる!
「昨日なったんだ!やっと、店売りできる!」
「よかったね」
「どんどん作るからバンバン売れよ!」
「はいはい。じゃ、帝国行って来ます!」
隠蔽を外してキスカ帝国の王都、カルトラの屋敷まで転移して、疲れたから自分のベッドで寝た。
夜中に起きると厨房に食材を置いて冒険者ギルドに行くなりルメリーさんに捕まった。
「獲ったどーー!」
獲られたぞー!
「ごめんなさい!急ぎでバースデイトーチが必要なの!今から行って来て!」
「欲しいの明日?」
「晩餐会に使うそうなの!お願い!」
「一人じゃそんなに摘めないよ!せめて朝になって人手を集めてからじゃないと厳しい!」
ルメリーさんは舌打ちした。
「クソが!無茶ぶりしやがって!それが、茹でた状態の物が9時までに欲しいそうなの!」
茹でるのに2~3時間かかる。
「断れない?」
ルメリーさんが耳打ちした。
「王家なの!」
王家なんか嫌いだ!
「行って来ます」
幻惑森林に転移すると幻惑リスがお出迎え。ソードスラッシュで一気に片付けるが、まだまだまだ出て来る。
小1時間格闘して、魔法を使わず何とか倒した。
アイテムボックスに全部しまうといつも蝶々を捕ってる広場に移動した。
上空からすごいスピードで何かが襲って来たから条件反射で次々倒すとお久しぶりのフェアリーウイングだ!上空で様子をうかがう群れを見つけてアイテムボックスから弓を出して1頭づつ撃ち落とす。
最後は、群れで襲って来て乱戦になり、双剣で戦った。もちろんアイテムボックスにしまう。
懐中時計を見ると3時。
バースデイトーチに行く小道にはイラクサが生えていたから、バースデイトーチまで転移して回避した。
刺さると返しが付いてて痛いのだ。
今度昼に駆除する!
バースデイトーチをファイヤーウォールで燃やして芽を摘む地道な作業を6時まで進めると私の敵シャドースワンが、来たが今日は時間切れで私は帰るからゆっくり食え。
幻惑森林から出て直ぐにカルトラの冒険者ギルドに転移したら、解体主任が玄関で待っていた!
「ケイトス、全裸だぞ?」
「瓶持って行くの忘れてた」
「バースデイトーチだけ出せ!鍋で受け取る」
搬入口でバースデイトーチだけをアイテムボックスから出す。
窓口から、解体主任が出て来る。
「少ねえなあ」
「お婿さんに行けない…」
またかよ、私。一人裸祭りしちゃったよ!
「なんで少なかった?」
「昨日は幻惑リスとフェアリーウイングに襲われて撃退するのに時間がかかったんだよ!獲りたくて討伐した訳じゃないから、品質に問題があるかも。毛皮は全部持ち帰りで!」
「待ち屋の野郎の所に持って行くのかよ?!」
「オンタカさんに直接売るの!約束なの!」
「そうかあ、オメェは義理堅いな!搬入口に出せ!」
出したら、叫び声が聞こえて来たが知るものか!
ギルドタグを窓口の血まみれ兄さんに預けて、夕方に来ると言って屋敷に帰って冒険者の服に着替え再び冒険者ギルドへ。
酒場でちびっ子が何人かで1皿分け合っていたので人数分注文して支払いマスターに持って行ってもらう。
今日は幻惑リスのシチューだった。
美味しいんだよね。幻惑リス。
柔らかくて噛めば噛むほど味が出る。
食べたらギルドマスターの部屋に転移。
「大変だったな!幻惑リスに襲われたんだって?冬ならお宝の山だったのにな。フェアリーウイングは良い値になるんじゃないか?
で、何の用だ?今日は忙しいからサクッと言えよ?」
「日影でもよく育ってきれいな植物知りませんか?」
「ダンジョンプランツっていう会社があるから、そこで見てこい!メリエレが知ってる。ただ、高いぞ?」
「庭師を口説かなきゃいけないんです。少しぐらいの出費には目をつぶる事にしました」
「庭師を口説くねぇ。割と難しいぞ。植物で釣るのは。それより好きなもので釣れ。女の子とか、だ」
「連れ子さんが居ても恋愛の障害にならないくらいきれいなお母さんだったらしいです」
バラムさんの書類を書く手が止まる。
「酒か、菓子だな」
「仕事が好きみたいです!」
「本人をダンジョンプランツに連れて行けよ!こだわりがあるだろうよ」
「そうかあ!ありがとうございます!バラムさんに聞いてよかった!急な指名依頼は断ってね!」
「断って陛下に頭下げられたら、受けるしかないだろうが!私だって半日前に言うような急な依頼は軒並み断ってるワ!」
「えらいえらい」
「ホレ、用は済んだろう?帰れ。ありがとうな!あ、待て!今度はいつ帰って来る?ひょっとしたら、連日バースデイトーチを採るハメになるかもしれない」
「お昼の内にメリエレさんにでも頼んでよ。私の頼みだって言ったら断れないからというか、言っておく!」
「お前はブラッディーウルフか?!」
「バラムさんに言われる筋合いはない!」
自分だって幻惑リスのクセして!