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64話 オークションα

ひとしきり笑い終えた3人が、機嫌が悪くなった私をなだめて、商談に入る。

オンタカさんが持っていた布袋から出されたのは黄金色のゴージャスな襟巻きと、金の鎖が付いた舞踏会用のバッグ。いずれも女性物だ。

ルメリーさんとバラムさんは襟巻きを代わる代わる首に巻いて頷いている。


「妻に欲しい!いくらだ?」


「ギルマス、オークションの値段次第ですから、そんなことを私に聞かないで下さい。乾燥に気をつければ長持ちしますが、気をつけないと3年で縮んで毛皮では無くなります。気をつければ末長くお持ちいただけます」


「最良品か!全くケイトスは金仙瓜だな!もうよそのギルドになんかやるものか!」


ちょっと変態が入ってるバラム様はほっといて、私も襟巻きを巻いてみた。

うわっ、気持ちイイ!

サラッとしてるのに温かい最高の襟巻きに違いない!

そう言うとオンタカさんが首を横に振る。


「温かさで言うと幻惑リスが最上級で、暖かくて見映えがするのがフェアリーウイングです。ヘキサゴナルの冬には黄金のお猿さんでもいいでしょうが、帝国だと我慢大会ですね。流行っても冬の入りと春辺りでしょうね。通年使ってる人がいたら、その人は余程の見栄っ張りです!」


「ルメリー、何人見栄っ張りがいるか賭けないか?」


ルメリーさんは楽しげに笑うと自信たっぷりで言った。


「購入者全員です!オシャレの我慢は蜜の味ですもの!皆が羨望の眼差しを自分に注ぐのですよ?それに買ってくれた夫の立場も考えると“寒いから止める”とは言えないでしょう!」


「そ、うか。贈るのを見合わせた方がいいか?いや、是非とも贈りたい!オンタカ商会長、一つ金毛猿の襟巻きを作ってくれ!」


「かしこまりました。お受け致します!では、今夜オークションなので、それまで少し休みます!失礼します!」


そういうと、慌ただしく帰って行った。

バラムさんに食事のお礼を言う。


「昨日も、今日も、ごちそう様でした!」


「さてと、ケイトス。レベル60ってなんだ?やたらと対人戦に慣れてたのと関係あるのか?」


「クロスディア辺境領に攻めて来た敵兵を討ってたらレベルが10ぐらい、上がっただけ。もともとアンデッドの討伐2年ぐらいしてたから、リッチでも、スカルドラゴンでも、ドンと来い!って感じかな?」


「ブラストが攻めて来たのか?!」


「いやいや、他領の騎士がね、父上の留守を狙って来て、1万ぐらいだったって聞いた。私が一人で応戦したんだ」


「助けを呼べよ!」


「今ね、アンデッドのスタンピードが10年単位で起こってて、そっちにかかりっきりなんだ。

それで、手が廻らなかったの。私も師匠殺されて頭に血が上ってたし。全員殺してやると思って戦ったら半日は持ったけど、返り血で目は見えなくなるし剣は斬れなくなるし、魔力枯渇寸前で勘だけで切って捨ててたら、後ろから左肩を突き刺されて、ようやく転移して逃げて気を失って、気が付いた時には戦は終わってた。殺人鬼の私は嫌いですか?」


「お前のお父さんは私に挨拶に来てたんだぞ?」


え?ウソ…そんなことちっとも言ってなかったのに!


「“無茶をする子なのでどうかよろしくお願いします”って。アイツは大丈夫ですって答えといたけど、戦いに突っ込んで行くな!一人で突っ走るな!魔力枯渇になるまで我慢するな!あのお父さんを泣かせるな!私が言いたいことはそれだけだ!」


「だって、皆死にそうだったんだもん!」


「それは…言えてる。すまなかったな。ありがとう」


丸く収まった!


「でも、ソレとコレは別だ!」


ごまかされなかった!

ルメリーさんが、クスクス笑う。


「魔獣研究所からの報酬は冒険者ギルドの口座に振り込んであるから大事に使いなさい!」


「何で私がお金の無駄遣いしてるみたいに、皆が言うのですか!」


「「気前が良すぎるんだよ!」」


怒られたし。


「ああ、そうだった!コリンズ=アーベルンから、“伝達”だ。ほら、見てみろ!」


コワ…!リンディーからかよ!ビビりながら手紙を受け取り、開くと心配してると綴ってあったので、バラムさんを見たらニヤニヤしてる。


「すまんな、今朝一番でギルド宛てにケイトスに“至急連絡求む”って手紙が“伝達”で届いたっていうから仕方なく私が開けたら、何で来ない!!の一言。約束してあったんなら言えよ!仕方なく今の状況を説明したら、礼状とその手紙が折り返して来たんだ。私に何か言う事があるだろう?ん?」


く、屈辱っ!この恥は地獄まで持っていく!


立礼してヤケクソ気味に叫ぶ。


「私の為に尽力下さりありがとうございます!いずれこのお礼はさせていただきます!よろしく!!」


ルメリーさんとバラムさんはお腹が痛くなるまで笑って、片手でお腹を押さえながら、すねてる私に声を掛けた。


「ケイトス、お前、まだ、マナー習って無いだろう?今のはどう聞いても、仕返ししてやるから覚えてろよ、だけど、そうと知って、いろんな事に利用されるから迂闊な約束はするな?」


ルメリーさんが目尻に滲んだ涙を指で拭きながらうなずく。


「そうね。例えば連帯保証人にされたり、お金を制限無く要求されたり、ね」


「え?ちゃんとそう言う意味で言いましたけど?」


「「余計悪い!」」


「いいか?冗談にできる相手でもなり振り構わぬ状況になったら“あの時の借りを返して貰おう”なんて言われるのも片手では足りないくらい私は経験してる」


「懲りないんですね?」


「お前が言えた事か?!!」


「あら!閃いちゃった!その借りを返してもらいましょう!今夜」


ルメリーさんは歌うように言った。


「フェアリーウイングでも討伐するんですか?」


「待ち屋のオークションに殴り込みよ!」


思い切り物騒な借りの返し方だった。

…なるほどね。今度から気をつけよう。

バラムさんとルメリーさんは意気投合して私の意思など介在させる余地がない。

私はギルマス部屋でルメリーさんの添削を受けながらリンディーへの手紙を書いてギルドの事務員さんに大金貨1枚渡して3度に渡る手紙のやり取りのお礼をした。

屋敷に帰って夕食を取り、ハッシュに手伝ってもらってオークションに行くオシャレをしたら、メリエレさんが護衛に付いてくると言って引かない。

本日何度目かの仕方なくを発動し、右手にサイナム、左手にメリエレさんを連れて屋敷の玄関ホールで待っていると、8人乗りの4頭立ての豪華な馬車が玄関前に止まった。

私たちは直ぐさま馬車のドアの前まで転移してドアをノックすると、ウィルソンさんがドアを開けて、馬車の中に入れてくれた。


「何でこんなに馬車の中が広いの?」


そこはまるで走る応接室だった。


「いいだろう?ウチの一番良い馬車乗って来た。見慣れない護衛連れてるな、私はバラム=フォーリデンス。これでも侯爵を冒険者ギルドのギルドマスターと兼任している」


「侯爵様だったの?!度重なるご無礼お許し下さいませ。フォーリデンス侯爵様。この人はメリエレさんだよ?ルメリーさん笑ってないで、説明して!」


今日のルメリーさんは一段と派手な装いのドレスだ。淡い紫色のマーメイドドレスに大きなアメジストの付いた銀のチョーカーをこれでもかと見せ付けている。

ひょっとして貰えたのかな?


「メリエレ?!…お前そんな顔してたのか!っていうか傷治せたんだな!よかったな!ま、座れよ。ウチの護衛のキャッサバと、ボランタだ。略してサバとボラだ。よろしくな!」


「サバです。よろしくお願いいたします」


「ボラだ。よろしく頼む!」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。サイナムとメリエレです」


サイナム、如才ないね!

私はバラムさんと座る。


「何だか地味な感じの服着てんなあ?赤とか、着ろよ!見映えのする顔してるんだからさぁ!貴族は目立ってナンボだろうが」


バラムさんは真っ白のタキシードを着ている。

うん、目立つね。でも、この茶色のジャケットに黒のシャツ、ブラックホースの革パンは我ながらオシャレだと思ったのだが。

ハッシュが一生懸命選んでくれた衣裳に悔いはない。

ただ、アクセサリーがこれでゴージャスなら、と何度か言われたが、サファイアのブローチじゃダメだっただろうか?

そこら辺を聞いて見ると、何故か皆に大爆笑された。


「わかった!若様のお忍び風衣裳な訳だ!アハハハハ!」


「確かにアクセサリーがゴージャスなら!セレブの仲間入りね!うふふ」


「自分にアクセサリーを買って下さい。ケイトス様」


「メリエレさん、笑いたいなら笑えば?」


「あーはっはっはっはっは!傑作だな!お前の侍従見習い!花丸をやる!俺が若様のお忍び風セレブアクセサリーを選んでやるよ!」


また爆笑。

今日は笑われてばかりだ。

ご機嫌も斜めになる。

婚約者の前で胸を寄せて私を誘惑して誤魔化そうとするルメリーさんはちょっとどうにかしてるんじゃ無いだろうか?

教育的指導をウィルソンさんにお願いしたら、ウィルソンさんは昏い笑みを浮かべ「わかった」と頷いた。


「やだ!何言ってるのよ!ウィルソン、この子女の子の胸に関心があるから、からかってただけよ!」


ウィルソンさんの視線がコワイのでちゃんと誤解を正して置いた。


「私がこんな顔しても無視してるから、レディにしてはいけない事をして反応を見ただけです!」


鼻に指を突っ込んで口が裂けるくらい伸ばして白目をむくと、バラムさんとウィルソンさん以下護衛全員が笑い転げた。


「や、止めろ!その顔を!ブハッ!」


ルメリーさんは白いパーティーバッグから出したハンカチで私の指を1本ずつ冷静に拭いて身だしなみを整えさせた。


「せっかく、綺麗なんだから、女の子の前でそんな顔しちゃ駄目よ!幻滅されるから」


「ハンナは笑ってたよ!」


「ハンナちゃんは、まだ幼いからよ!レディになったら恥ずかしい思いをするので、もう、やっちゃ駄目よ!」


「そうなのですか?バラムさん」


バラムさんは「今度、やってみようかな…」なんて、アゴに手を当てて考えている。

ウィルソンさんは、何気なくルメリーさんに私のしたイタズラを聞いて私にニッコリ笑って言った。


「ブラッディウルフのエサが良いですか?それともサーベルタイガーのエサになりますか?」


いきなり、BランクとSSランクの魔獣を並べられたが今私は生きて来た中で一番のピンチを迎えている!


「今、ウィルソンさんのエサになってます!すみませんでした!2度とやりません!」


「わかってればいい。私は子供だからといって容赦しないからな」


「心狭っ!着いたぞ、さあ、ケイトスから降りろ」


ニヤリと笑って言うバラムさんに逆らう気も無くドアを開けられて一番最初に降りるとクローザー伯爵がお出迎えしてくれた。


「どこの貴族かと思ったら、ケイトスくんか!ようこそミストオークションギルドへ」


「えっと、知り合いも連れて来たんだけどいいかな?」


「構わない!どう…ぞ」


馬車から降りて来たメンバーを見て固まるクローザー伯爵に、申し訳ない気持ちが込み上げたが、これは私の借りを返す方法なのだから仕方ない。


「ケイトスくん?君はどう言う目的で連れて来たんだ?ソイツらを」


「大きな借りを作ったので返してる所です。目的はそれです。あと、どんな物売ったらいいか、勉強にです。ダメですか?」


涙が出るなら尚更いいが、私の目はパッキリ乾いている。ジッとクローザー伯爵を見つめると、クローザー伯爵はポンと私の肩に手を置き次からは、先に報せる様言って私たちを案内する。


「ドリンクは無いのか?」


あーもー、無いとわかってて嫌がらせしてるんだから!バラム様ってば!

クローザー伯爵は、引きつった笑顔で返事をする。


「訪れる工房からはパンフレット代も頂いてないのです」


「なるほど、歌劇場は少し直せたんだな。競りには参加しないが見たいという奴らをどこに入れておくんだ?」


「見学の貴族の方はボックス席と決まっております。くれぐれも野次など飛ばさぬようお願いしますね?」


クローザー伯爵とバラムさんは握手をにこやかに交わすと案内係の青年に交代してボックス席へと案内された。ルメリーさんとバラムさん、私がソファに座り、普通の座席には割といっぱいの業者さん達。

オークションはすぐに始まった。

糸を染める原料の虫や、シルク系の糸を吐き出す魔獣、飼い葉の大量購入など、いろいろだがルメリーさんが真面目な顔でメモを取ってるし、バラムさんとウィルソンさんは競りに降りて行った。

70種類を数えた所で小休憩。

目玉商品が出されると会場がざわめいた。

変異種の白いサーベルタイガーの毛皮だ。しかも長毛種。

バラムさんとどこかの貴族が途中まで競り争っていたが、スゴイ落札価格で豪商がさらっていきバラムさんとその貴族は地団駄踏んで悔しがっていた。


「公用金貨100兆億枚が道楽に出せる人と競り合っちゃ駄目よ。バラム様も子供っぽいでしょう?男のロマンって面倒くさい」


「ルメリーさん。バラムさんには言っちゃダメだよ?」


「フッ、男って弱いからね」


いえ、ルメリーさんが強すぎるんです!

ゴニョゴニョ話している間に「黄金猿の毛皮」が舞台上に出て来た。


「新種の魔獣です。バッグにしてもよし、襟巻きにしてもよしの最高品質です。50頭分1枚、公用金貨10枚から始めます!」


「1500!」


オンタカさんが言うと、シン、と静まり返る。

木槌が叩かれた。

進行役の紳士が落札されたことを高らかに宣言する。


「公用金貨1500枚で、落札されました!次の商品は、鑑賞用の新種の蝶です。ご覧になりたい方は舞台上に上がって下さい」


わぁ、あの蝶、オークションにもかけるんだ。

ルメリーさんが舞台上に上がって来た人を魔導眼鏡で見て一人一人紹介する。


「今、舞台上で見てる3人は栞職人のテレーゼさんと標本作家のヨシュアさん、もう一人はコレクターのラジェットさんね」


「何で栞職人さんが?」


「小さな綺麗な物なら何でも栞にするの。栞のコレクターもいるから多分高値が付くわよ!でも、何故今まで採取出来なかったのよ~」


「デススパイラルスネーク呼ぶからだと思うよ。採った後たくさん出て来たから。わたしはデススパイラルスネーク大好きです!めっちゃ、綺麗だから!」


「めっちゃ、危ないから気をつけて。そう、デススパイラルスネークを呼ぶんだ。後でデススパイラルスネークも出て来るけど、あんまり期待しないでね」


「何で?毒袋は守ったよ?」


「何それ?!」


「頭と胴体の境目に毒袋があるんだって。それが良いお金になるって聞いたよ?」


「転移、転移!転移!!今すぐ待ち屋の所まで転移して!」


「はいはい」


舞台袖にいるクローザー伯爵の所に転移するとルメリーさんは驚いているクローザー伯爵の襟首をつかんで揺さぶった。


「デススパイラルスネークの毒袋が首にあるって知ってた?!」


「し、し、死ぬぅ!苦し、首」


「ルメリーさん、クローザー伯爵が死んじゃうよ!」


ルメリーさんはやっと手を離した。

クローザー伯爵は、咳き込むと私たちを半眼開きで見て今出て行ったデススパイラルスネークを見送った。


「知っています。アスムの街にいたガハトさんって言う腕の良い解体師を雇ったんで幻惑森林の魔獣は把握してるけど、防具と、アクセサリーにしかならないから大きなのより、小さなのを捕って来て下さい。パーティーバッグや、財布に加工したいっていう工房からの要望が多いんです」


「よかった~。ガハトさん就職先決まったんだあ!わかりました!今度小さい子も討伐して来ますね」


「小さいのも蝶々捕ってたら出て来るの?」


「違うよ、巣穴探して討伐するの!」


ルメリーさんもクローザー伯爵も周りの人もドン引きしている。


「…気をつけて下さい。ケイトスくん」


「はい!気をつけます!おっきいウロコはどうするの?」


「粉にしていろいろに使うんだよ。ドレスには砕いた物を貼り付けたりしてキラキラさせたりするんだ。落札されたよ?革が、公用金貨10枚で、ウロコ1頭分で公用金貨20枚、肉はね、もう昨日売れたからちゃんと冒険者ギルドの口座に振り込んでおいたよ」


「お肉食べられるんですか?!」


「ホントは食べたら、お腹壊すんだけどね。微弱毒があるから。冒険者達は、胃がある程度毒に慣れてるから、すごく美味しいんだって!突き抜けた人だけが食べる珍味らしいよ」


「どこのお店で食べられるんですか?」


「や、め、な、さ、い!怒るわよ!さ、ボックス席へと帰りましょう」


その日、オークションが終わってルメリーさんを送って行くとバラムさんちに招待された。

遅くなりました。申し訳ございません!

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