63話 vs盗賊と金策
幻惑森林の中は雨期のようで小雨が降っていたが魔獣達には関係ない。
入るなり襲って来たブラッディーウルフを魔法で首チョンパして、自分が着替えてないのに気付いたが、今更遅い。
アイテムボックスにブラッディーウルフをしまった。
甘んじて飛び散る樹液で服が溶けるのを享受して、手袋を着けたら蝶々採り。
パフュームバタフライを大瓶に追い込み、青い蛾を地道に捕まえ小瓶に5匹ずつ入れてコルクで蓋をする。
いつもは無視しているパンジーみたいな小さな蝶々もかわいそうだけど捕る。
すると強烈な臭いがしてそれは、現れた。
お久しぶりです!デススパイラルスネーク様!
相変わらずキラキラしてて、めっちゃ綺麗ですね!
そうか!この小さな蝶々と共生関係なのか!
シッポ斬るとか、気の長いこと待てないから胴体をスパッと斬ってアイテムボックスに放り込むのを繰り返していると今度は黄金色に輝くお猿さんが現れた。
なんと、う○こを投げて来る。しかも群れで。
ベッチャリ付いたう○こに怒りを感じてウインドスラッシュで首チョンパしたら、100頭余りと乱闘に発展。
血祭りに上げてやったわ!はーはっはっ!
「クリーン」で体を洗うと妙に荒ぶってたのが落ち着いた。あのう○こだな。
黄金ザルをアイテムボックスにしまうと幻惑森林を出た。
するともう交戦中だ。
しかも数で押して来ている。
「残身」を使い分身して100人以上の軍勢に立ち向かう。
斬り捨て、斬り飛ばし、突き刺し、薙ぎ払い、受け流し斬りつける。
多少斬られたがどうって事無い範囲だ。
やがて立ってる者は、味方だけになった。
首だけしまうとギルドタグを回収してカルトラの冒険者ギルドに転移したら、冒険者たちが攻めて来る傭兵達と戦っている。
すぐさま参戦して鎧の隙間から剣を射し込んで仕留める。劣勢になってる冒険者たちを転移して手助けしていたら傭兵達のリーダーが一騎討ちを申し出た。
「そこのガキ!尋常に勝負しろ!」
「いいよ」
「かかれ!」
なんとなくわかりました。
私対全員だって。
向かって来る敵をウインドスラッシュで首チョンパした。本日2度目の魔力枯渇になる前に解体窓口へ転移して、搬入口にアイテムボックスの中身を投入。
あ、もう、私ムリ。
「コラ!ケイトス、また人間の首を持って来おって、って、また倒れとる!バラム様!ケイトスが倒れてます!」
目が覚めるとカルトラの屋敷の自分の部屋のベッドの上で、ベッドの側の椅子ではロベルトが居眠りしている。
「ロベルト、学校はどうしたの?あっ?!ギルドタグが無い!」
「バラム様から伝言。“ギルドタグは私が預かる。金は今日のお昼に取りに来い”ってさ。服がボロボロだったから、二人で着替えさせたんだぜ!
これ、コリンズから“伝達”で届いた手紙」
ギルドタグが無事ならばいい。
手紙の封を切って便せんを出して広げた。
リンディーの美麗な字で大きく書いてあった。
【いいから、来い!】
「うわ、めちゃくちゃ怒っちゃってるし、リンディー。早く着替えてギルド寄ってから行けよ。俺はもう寝るしな」
「私が倒れてどのくらい経ったのですか?」
「半日近くだよ。クローザー伯爵って人が朝お見舞いに来てた!そう言えば。猿がスゴイ値段になったって、言ってたっけ」
「オークションにかけたんだ…。ありがとうロベルト。学校休ませてごめんなさい」
「いや、今日は偶然武術と馬術の授業だったから、理由を話してお休みもらえただけ!他の学科だったらダメなんだよ。心配すんなよ、アレク様!じゃ、もうそろそろ昼だぜ!まずは、着替えてけよな」
床に降りると自分の体調が万全であることが確認出来た。
フラフラしないし、クラクラもしない。
着替えてギルドに転移した。
お昼時だからのんびりしてるかと思ったら事務員さんが忙しそうだ。受付窓口は1つしか空いて無くてちょっとした行列になってる。列に並ぶと冒険者たちにお前はあっちだと、特別な窓口へ追いやられた。
グレードが違う受付窓口は、賞罰登録とランクアップに使われるらしい。
私がギルドタグを照会魔導具に通すと全力疾走でルメリーさんが走って来た。
「身体は大丈夫?!」
「ああ、魔力枯渇だっただけです。ルメリーさん昼に居るのは珍しいですね?」
「こっちへ来てくれる?」
ルメリーさんの全然笑ってない笑顔に背筋が寒くなる。
イヤな予感がする。
応接室に行くと商業ギルドの制服を着た薄毛にメガネの幸薄そうな顔の中年男性と、私を手のひら返しで扱ったあの女がいた。
男性が、挨拶する。
「アレクシード=クロスディア様の今日から担当させていただきますジェファーソン=ラヴェルと申します。公用金貨1兆億枚の預金をいただきありがとうございます!つきましては…」
いっちょうおくまい?
「ナニソレ!?聞いて無いよ!!!」
「落ち着いて、大きく息を吸って、吐いて……あのね、待ち屋の野郎、商業ギルドの口座に振り込んだらしいの。まあ、不幸中の幸いというか、ヘキサゴナルの素材採取組合で引き出し出来るそうなの。イヤだろうけど虹証バラム様が預かって来たから、金銭のやりとりが出来る機能を付けて貰ったの。それでね、ここからが問題なのよ!」
ルメリーさんにスゴイ顔で睨まれながらラヴェルさんはハンカチで額の汗をふきふき、羽虫の鳴くような声で商業ギルドの建物の立て直しに幾らか寄付金が欲しいと言ったのだ!
ふざけるな!
「素材採取組合で引き出しする審査料と思っていただければ、わかっていただけるかと」
「わかりました。いくら出せばいいの?」
借りは返しておくにこした事は無い!
「一口、公用金貨100枚から受け付けております!」
「建て直しにはいくらかかるの?」
「100億枚程です。最新式の魔導金庫が90億程かかりまして」
「じゃ、公用金貨1億枚寄付するけど、私のギルドタグに記載してある情報をペラペラしゃべったら預金を全部引き出すからね」
「は、ハイ!ご協力いただきありがとうございます!」
寄付金の額を確認してサインすると、契約書がほのかに発光して契約が完了したのを報せた。
ラヴェルさん達はそそくさと帰って行った。
その途端、ルメリーさんが大爆笑し始めた。
「公用金貨1億枚の脅しってどうよ!アハハハハ!奴等の顔見た!?めっちゃ、面白かった!はい、これオークションと指名依頼の内訳と新種発見の功労金が国立魔獣研究所から出てるから、ちゃんと見ておいて」
*****
ケイトス殿
新種発見の喜びと驚き、感謝に堪えません。
以下の品種の魔獣を新種として登録申請します。
【魔獣/サンプル数/申請金額】
○青い蛾/10匹/大金貨1枚
○小さな美しい蝶/5匹/大金貨1枚
○黄金の猿/1頭/大金貨1枚
【合計*大金貨3枚】
なお、合計11点のサンプルの購入額として、公用金貨30兆枚をお支払い致します。
ご協力ありがとうございます。
また何か新しい発見がありましたら、どうか当方にご一報下さいますようお願いいたします。
キスカ帝国国立魔獣研究所所長ファージル
*****
「30兆枚も国民の血税を無駄遣いしていいのかなぁ?」
「何、大人ぶってるのよ。次を読みなさい!」
書類を入れ替えた。
*****
指名依頼書
依頼主 事情により匿名
指名冒険者 カルトラ冒険者ギルド所属/ケイトス
依頼内容:蝶々をいっぱい集めたい!
場所:幻惑森林の蝶々が綺麗!
期限:ナディーネのお誕生日まで!
(調べきれませんでしたのでなるべく早く!)
報酬:公用金貨1兆億枚
お嬢様は大変満足なさいました。
ですのでミストオークションギルドへの手数料は私どもが、支払わせていただきます。
どうか、また新しい蝶々を見つけたら、お声掛け下さい。
【報酬*公用金貨1兆億枚】
*****
「あれ?指名依頼だけでこの値段なんですね。えっと、オークションは?」
「今すぐしたいんだけど、品質チェックしてるの。ネウチ毛皮店にサンプル2つ渡して商品化出来るかどうか調べてるの。もうすぐサンプルが出来て来るからそれまで待ってなさい。それから、幻惑森林での護衛代はケイトスくんの口座から1人公用金貨1億枚ずつ支払ったからね」
「ありがとうございます!気になってたんです」
「ホホホ!抜かりなしよ!お昼食べた?」
「ギルドの酒場で食べましょうか?奢りますよ」
「ここは奢られておきなさい。バラム様が無理させたって気にしてるのよ!」
バラムさんのせいじゃないのに。
ルメリーさんは、ハンバーガーを5つとフライドポテトをたくさん持って来た。
「バラムさん!いただきます」
「本人に会ってから言いなさい。ここで叫んでも聞こえないよ」
ルメリーさんは口を大きく開いているのに下品ではない食べ方をしていて、感心した。
「でも、解体窓口のイエールさんは叫んでバラムさん呼んでましたよ?」
「あれは、通信の魔法使いなの!でも、魔力量が少ないから発声で足してるわけ!はぁ~、あ、そうだ!Bランク昇格おめでとう!賞罰登録は済ませておいたからね!」
ルメリーさんは3個目のバーガーを頬張ってる。私は慌てて2個目のバーガーを確保した。
「そう言えば何で冒険者ギルドが襲われてたんですか?」
「幻惑森林に入った冒険者の上前をはねてたのが、割とメジャーな貴族でね、昨日のお昼までにバラム様達に下っ端があぶり出されたからヤケになって冒険者ギルド襲って証拠隠滅しようと思ってたけど、夕方近くだし、冒険者たち帰って来てたから数は負けてなかったんだ。ただね、人殺しのスペシャリスト達相手でしょう?段々と劣勢になってたその時!どこかから現れた白い髪の少年が、バタバタと傭兵達を倒して行き、どこかに去って行きました!…皆が助けられたお礼を言いたくて探してたけど、本人は搬入口に頭半分突っ込んで気絶してました、とさ!」
「ゲホッ!ケガした人は大丈夫だったんですか?」
ルメリーさんは口の端に付いたケチャップを舐めて汚れてなかったのにすると、テーブルの上を大急ぎで片付けた。
「大丈夫。治癒魔法使いが治したから。今からネウチ毛皮店のオンタカさんが来るんだけど真面目な人だから、極力ツッコまないように、ね?」
「ハイ!」
バーガーを食べ終わると私はハンカチで顔中拭いて身だしなみを整えた。
いきなり応接室の扉が外れる勢いで、開いた。
目を血走らせた青年が袋片手に入って来た。
「30秒遅れました!申し訳ありません!お二方」
なるほど、融通が利かなそうだ!
ルメリーさんはにこやかに微笑むと私とオンタカさんを残してお茶の準備に行った。
「お疲れ何じゃありませんか?」
「いえ、お構いなく!仕事ですから!」
会話が終わりました。
どうしよう?
仕事内容はルメリーさんと一緒に聞くしなぁ、酷いがこれと言って共通の話題はない。…ん?待てよ!ある!
「幻惑リスの毛皮を買い取っていただきありがとうございます!おかげさまで、最初の家が買えました!」
「ひょっとしてフェアリーウイングも貴方が?」
「はい、大変ありがたかったです!」
「また討伐して来て下さい!幾らでも買います!」
「何回か幻惑森林に行ってるんですけどなかなか出会え無いんですよ。半年は、ヘキサゴナルを中心に活動しますから、12月から冒険者活動しますね!」
「何とか8月末に毛皮を大量に欲しいんですが!」
「…じゃあ、3日ぐらい頑張ってみます。幻惑リスでも構いませんか?もちろんフェアリーウイングを討伐する努力は惜しみません!」
「お願いします!」
「任せて下さい!」
冒険者活動は順調なのに、人件費と事業の運転資金に結構なお金がかかる。
そう言って相談すると、一緒に悩んでくれたオンタカさんは、眉間にシワを寄せて言った。
「最初は僕も仕入れにお金が掛かって正直死のうかと思った時もあったぐらい騙されて安い商品を高値で買わされたりしてね。おかげさまで目利きになれたし、毛皮ならウチだって言ってくれるお客様も増えた」
「私も良い壺だと思って買ったら貴族の便器だったんです!」
応接室の扉が開いてバラム様とルメリーさんが入って来た。
そして爆笑する。
「お、お前、それは、ダメな、奴だ!ハハハハハハ!」
「ほ、他で言ったら駄目よ!便器貴族とか、便器商会とか、言われるわ、あーはっはっはっ!お腹痛い!」
「…便器貴族はイヤです!そんなに笑わなくてもいいでしょう?!オンタカさんはわかってくれますよね!」
笑うのを必死で堪えていたオンタカさんを見てかなりヘコんだ私だった。




