62話 ヘキサゴナル王都へ!
ラプナーを連れて屋敷に帰ると父上達はもう居なかった。
アスターがしまったとぼやく。
「なあに?アスター。何かナイショの話?」
「いえ、まさか、昨夜の今日でヘキサゴナルに行くとは思ってなかった物ですから、若干冷や汗をかいています。飛空挺借りられたんですね。ルメリー嬢」
「何故私には後日報告なのかな?剣での話し合いが必要な案件だね?」
「アスター様!逃げられました!申し訳ございません!」
「何でダンが知っていて私が知らないのかなあ?」
これって怒っていいよね?
腰に提げていた剣を抜き、アスターを一刀両断して見せた。
「「「「「「「「「「「「きゃあああああああ!」」」」」」」」」」」」
アスターの着ていた服は一刀両断されて、アスターは素っ裸になった。
物見高いメイド達が顔を赤らめて絶叫する。
ラプナーが慌ててアスターの前に立つ。
アスターは思いもよらぬ攻撃に真っ青な顔を真っ赤にして私とラプナー、ダンを連れて自分の部屋へ転移した。
着替えるよりも先にアスターは私を捕まえ尻叩きした。身体強化腕に施して叩くから痛い!
でも、負けるものか!
許してやらないんだからね?!
1時間に及ぶ意地の張り合いは、アスターが根負けして謝ったので、ようやく決着が付いた。
アスターが部屋着に着替える間にダンが食事を持って来てくれた。
お尻が腫れていて椅子に座れない。
リンディーの部屋へ転移してお尻が痛いと言うと直ぐに癒してくれたのでお金を支払おうとしたら急に頭が割れるように痛くなった。
「何の契約したんですか?」
「いくらか早く言って!」
ダンが変な契約するから、頭が痛いんだよ!
「いりませんよ。もうたくさんもらいましたし、ね」
頭痛が止んだ。
「何でお尻が痛かったんですか?何処かから落ちました?」
お尻が痛い理由を全部言うと、リンディーはイヤな話をしてくれた。
「貴族が飛空艇に乗る場合は、周りに知らせてはならないという規則が出来たのですよ。大々的に発表されて、そのせいで念入りに殺され掛けたマヌケな貴族の為だけに!ですから、恨むならその貴族を恨んで下さいね。アスター様に八つ当たりしてはいけませんよ?」
背中に冷や汗が流れた。
アスターは全部飲み込んでいたんだ。
「ありがとうリンディー!半年くらいいないから!」
「ハァ?!ちょっと待ちましょうか!説明をお願いいたします!」
最初から話した。
エイリーン兄上の親友がヘキサゴナルのゴタゴタのあった国内では曰わく付きの領地を治めることになったけど、銀細工工房は軒並みお取り潰しにあい、名産品は隣の領地の方が安いし、無いに等しいので恩ある私が恩返しにショッピングモールを作りに行く事を言うとリンディーはコワイ笑顔で言った。
「ソレはどのくらいの恩ですか?」
「宮廷騎士学校に入学出来て、公用金貨450億枚分稼げるようになった恩です!」
「なるほど、それは凄い恩ですね。明日出発するのなら、私もお連れ下さい!私もその恩返し手伝います!」
「…どうやって?騎士学校はいいの?」
「学校は私は1年生の学習過程を終了していますから、自由登校なのです。これでも、杖術は学年でも1番ですし、剣も少しなら使えます!」
「ごめんなさい。帝国と違って“結果よければ全てよし”ではないので、斬ったり殺したりしないで下さい!」
「ドゥルジー市国では、斬り捨て御免だったんですが?」
「あそこは特別なのです。他の場所では、例えば切り傷を付けただけで憲兵隊に連れて行かれて鉱山奴隷として刑が明けるまで、働かなければならないと聞きました」
「…ヘキサゴナルから宮廷騎士学校に来る者達が弱い訳がわかりました。まさか、そんな安全な場所から来たとは、思ってなかったです」
「ただし、その恩返しの相手が治める領地には、ならず者の腕の立つ騎士や傭兵達がたくさんいますから、憲兵隊も賄賂で何でもやるので気をつけて下さいね」
「まず、法律書から読みますか、ね。では、明日の朝8時出発でお願いいたします!」
「えっと、リンディー明後日じゃダメ?1度に3人しか連れていけないんだ。もう、3人決まってるし、ね?」
「…仕方ないですね、何て言うと思いましたか!連れて行きなさい!」
リンディーは横暴だった。忘れてたよ。この支配される感!
そして翌朝もう一人増えていた。
コリンズだ。
「何で?!」
「一応、私も自由登校なのです。ご恩返しの旅について行きます」
「二人共、飛び級したら?」
二人共に顔色が悪くなった。
「「もう2度と飛び級なんてしません!」」
事情を聞くとリンディーとコリンズは初等科の時に派手に飛び級して今の高等科に入ったらしい。
その時の飛び級の代金が公用金貨1億枚だったようだ。
通りで頭の良い2人が入学金が高かったわけだ。
ちなみにロベルトはそこまで成績が良くないようだ。
努力家なのにね。ロベルト。
ドラゴンフレーバーのドーナツ買って来てやろう!
サレタ村までは順調に転移出来た。
話し合って、ラプナーとアスターが先に行った方が良いと言う結論に達したので、サッサとヘキサゴナルの王都の屋敷に転移したら、大人が1人しか居ない。
ラプナーが駆け寄って行って最悪の事態が発生したのを知る。
「え?ヨザック兄上が、門下生を騎士にして騎士団作って連れて行った?!」
…と言うことは、素材採取組合長が変わったと言う訳で頼みの綱が(それも太い奴が)無くなった。
あ?!カリナさんが居れば楽勝だ!
アイテムボックスから出した私の虹証の色は【赤】。
カリナさんが居るのは青のブース。
終わった…
アスターを見ると必死で考えている。
そうだ!私が弱気でどうする!
「アスター、明日の昼に採取組合に行って見よう!」
「今、いくらほど公用金貨をお持ちですか?」
「それほど持ってないよ。いくらいる?」
アスターは耳元でささやいた。
「200億枚お願いいたします」
それほど引いたら後戻り出来ない。
残高約255億枚と少し。
笑え!私。ダメなら冒険者稼業で稼げば良い!
「ん、わかりました!3日待っていてください!」
帝国の王都カルトラに転移したら、まだ朝のラッシュで窓口もいそがしそうだ。
魔力枯渇気味でちょっと辛いから、解体窓口の待合いベンチに横たわらせてもらおう。
気が付いたらギルマス部屋で、不機嫌なバラムさんと目が合った。
「ふう、お前どんだけ魔力量あるんだよ。その無駄な隠蔽魔法を一時的に切っておけ。ギルドタグは預かって金庫の中だ。で、何しに来た?」
「200億枚引き出したいんです!」
「ああ、市場か!開くだけで5億枚かかるらしいから、気合い入れて行けよ?」
「私にとっては、鼻くそです!!」
「そんな下品なこと言うのはルメリーだろ?飯食え!泣くなよ。チビ。鼻くそ何だろ?」
私は情けないことに泣いていた。
ヨザック兄上の不在で心が折れていた。
加えて半年くらいの幻惑森林への立ち入り禁止。
お金の供給の見通しが立たない内の投資がこんなにコワイなんて知らなかった。
メソメソ泣き言を言うとバラムさんは、ソファの隣りに座って私に胸の内を吐露してくれた。
「仕方ないよ。私でも未だにギルマスとしての判断が怖いんだからな」
「バラムざんもいっじょ?」
「ああ、眠れない日もあるくらい毎日が怖いな。でもな、頑張ってる冒険者を見ると、やってやるって気になるんだ。ケイトスもそうやって周りから元気とやる気をもらえ!大丈夫だ。皆一緒に歩いてくれるから、自分の騎士の前でそんな情けない顔するなよ」
「ん、眠い」
「食ってから寝ろよ。すぐ来るから」
リ~ンゴ~ン♪リ~ンゴ~ン♪
聞き覚えのあるチャイムの音と同時に部屋のドアが開き秘書のお姉さんがワゴンを押して入って来た。
食事を配膳しながら今日のバラムさんの予定を言う。
「食事の後、面会の予定が入りました。待ち屋のバカが特別な文句があるそうです」
「もう、来てるのか?」
「はい、大人しく待っています」
「飯食いながら聞くから呼んで来い!」
「よろしいので?」
「いい、どうせ、例の事だろうからケイトスがいた方がいい」
いきなり、私の名前が上がって驚いてる間に待ち屋こと、ミモット=クローザー伯爵が秘書のお姉さんに連れて来られた。
私はフライドポテトを夢中で食べていた。
「本日はお忙しいところをお邪魔して申し訳ございません…ああ?!居たー!!ケイトスくん!指名依頼受けないか!!珍しい蝶が欲しいって依頼なんだが、パフュームバタフライさえ採って来られない腑抜けっぷりに、依頼主が怒っちゃってオークション自体が止められたんだよ!」
バラムさんを見るとクローザー伯爵に条件を出している。
「護衛を5人Bランク以上を雇うのと、即金で金が出せるか?急ぎなんだが」
「公用金貨1兆枚までならすぐ用意できるが、護衛は何の為ですか?」
「ケイトスが命を狙われてる。幻惑森林から出てきた所を狙って掛かって来たらしい。返り討ちにしたがな。それで、幻惑森林への立ち入り禁止にしてたんだが、ケイトスがいないと、釣れなくてな。微妙に困ってたら、今来たからついでに、と、思ったんだ」
「なるほど。護衛のアテはあります。いつ行きますか?」
私の答えは決まっている!
「30分後にギルド前に来て!ごちそう様!バラムさん。ちょっと支度して来る」
カケイ冒険者用品店に転移してガラス瓶をあるだけ購入した。手袋は持ってるし、問題ない。
会計しているとファインさんに捕まった。
「この前はありがとうな!充分、来年の春までしのげる。今日も採取か?」
「うん、今日は蝶捕るから連れていけない。ごめんね」
「俺はそんな命知らずじゃねぇぜ!頑張れよ」
手のひらに紙を握らされた。
冒険者ギルドのギルマスの部屋の前に転移して、紙を見ると荒い筆跡で書いてあった。
【この店は見張られてるから、幻惑森林行くなら気をつけて行けよ。ファイン】
バラムさんが出てきたのでメモを見せると店の名前を聞いてまた、窓から手を出して空へ向けて魔法を爆発させていた。
「面白くなってきたな」
嘘つきめ!日常的にコワイとか言ってたの、ウソじゃない?!
優しい嘘つきさんには何かご褒美を持って帰ってこよう!
ギルド前に転移するとクローザー伯爵が護衛達と待っていた。
「はあ~?!この子がケイトスくんかぁ!よろしく、ラグンです」
「リッターだ」
「パンテオンです」
「ライガー」
「トトムだよ!さ、行こう」
皆さん、凄腕に見えない所が凄い。
バラムさんが慌てて私のギルドタグの付いたネックレスを持って来て私の首に掛けた。
「あっ」
「何だ?」
「隠蔽魔法…使ってない」
「もう、諦めろ!頼んだぞ!」
「「「「「ハイ!」」」」」
幻惑森林へ転移したらいつもよりずっと楽に転移出来た。