61話 布屋雑貨店構想と服飾店について
ルメリーさんと熱き魂の誓いを交わした後はカルトラの冒険者ギルドで再びお話。
「思ってたより、ずっとヘキサゴナルって貧しいのねぇ…」
「ハンナも驚いてた。くすんだ柄の無い服しか着られないのかって」
「こっちじゃ当たり前なのが、ヘキサゴナルでは貴族の為の物なのが、何か腹立たしい!ケイトスくんやっておしまい!」
「ハイ!頑張ります!」
「銀細工を売る店舗は構えてあるの?」
そう言えば忘れてた!
「クロスディア魔石直売店で売って下さいませんか?」
「良いの?!アスター」
「委託販売のコーナーがあるのですけど、鳴かず飛ばず処か、商品が無いんです。芸術家は気まぐれで困ります」
「アスター、ありがとう!」
アスターに抱きつくとアスターは頭を押し返した。
「その香油でベトベトの頭を擦り付けないで下さいね」
「ごめんなさい、アスター!」
慌てて離れてアスターの手をハンカチで拭いているとルメリーさんが、いきなり立ち上がって応接室を出て行った。
「どうしたんだろ?」
「何か閃いたんじゃありませんか?雑貨店ですが、他に何を仕入れて行きますか?」
「香水とか、小さな瓶に詰め替えて安く売ったり、あとはノートを売りたいな!ヘキサゴナルでは、紙は高いから!安くてきれいな帝国の紙を広めたい!」
「良いですね!あとは、食器や簡単な家具などを仕入れてみましょうか。カトラリーなども安く買えますから、いいでしょうね。明日、大急ぎで仕入れてきましょう」
「後は…化粧品?とかかなぁ?」
「手鏡なども良いのでは?」
「いいでしょうけど、ちょっと聞いてくれない?」
いつの間にかルメリーさんが応接室に戻って来ていた。
手に分厚い資料を持って。
ルメリーさんはソファに座るとその分厚い資料をドンとテーブルに置いて挟んである水色の栞のページをめくった。
そこには雑貨店の種類が書いてあった。
*****
【登録出店舗種類/登録申請費用】
○食器屋雑貨店/金貨1枚と50万ステラ
○小物屋雑貨店/金貨3枚
○金物屋雑貨店/金貨5枚
○革物屋雑貨店/金貨10枚
○布屋雑貨店/金貨10枚
○家具屋雑貨店/金貨15枚
******
「まだ、ハンナさんの作る布小物とカラルフ商会の布鞄しか入手して無いんでしょ?布を、メインに売る布屋雑貨店、服も少しなら置けますが?!どうよ!!」
「布が置けるのはいいですね!服はそうですね、見本くらいに置きます!服はたくさん売りたいんで!」
「服は服で登録申請しなきゃならなくなるのに?めっちゃ、大金よ!なんと公用金貨500枚です!」
「何でそんなに高いの?」
テンションが下がった私にルメリーさんがささやく。
「だから布屋雑貨店にしておきなさい」
「ダメ!エメリヒ工房になんて言い訳するつもり?!公用金貨500枚なんて、鼻クソだよ!やってやる!」
とうとう自分から鼻クソ発言してしまった。
ルメリーさんはニヤリと笑う。
「まぁ、そういうと思ってたから、色々調べてみました!」
ルメリーさんはにこやかに、次の栞が挟んであるページをめくった。
「“服飾店について。以下の商品を売ることを許可する
1/身に着ける服、アクセサリー、靴、帽子などの販売を許す。
2/高い商品を売ることを許す(盗難されても市場は一切関与しない)
3/5つの場所を優先的に獲る事を許す(3つ以下になってはならない)”
どうよ?!それからね服飾店は場所代が決められてるの。1日1つにつき、1万ステラよ!つまり、銀貨3枚は払わなきゃいけないのよ!」
「売れば良いんですよ!頑張ります!ダメならもっと頑張ります!」
「それからね、最初から扱って無い商品は後々、大店になっても売れないそうだから、頑張れ、警備!」
「靴と、帽子の職人さん来てたよね?明日の朝、工房を訪ねて見ようか」
警備員はヨザック兄上の弟子に任せて、いくらかアルバイト代を出さなきゃだから、結構な出費になるなぁ…
アスターは、早くも靴屋さんと帽子屋さんに手紙を書いて「伝達」でお届けしている。
さすがアスター!
「クローザー伯爵には、物件は観たので店が完成してからお会いしましょうとお便りしました。さあ、帰って寝ましょうか。ルメリー嬢、貸し切りの件くれぐれもよろしくお願いいたします。では、また明日の夜お願いいたします」
そして夜中になり、お風呂タイム。
ハッシュにお世話されてお目々はトロ~ン。
何度も顔面から、湯船に浸かってハッシュに叱られた。
「あと少しですから、窒息しないで下さい!」
「気を付ける…」
私はあと2回溺れかけたので、髪を洗ったらお風呂場から強制退場させられた。
下着を着けたら転移してベッドにダイブした。
寝付きはよかったが、髪が濡れたまま寝たから声がガラガラになっていた朝!
「おばよう゛。アズダー」
アスターは、ポーションを出して私に差し出す。
「飲みなさい!」
「ばい!」
腰に手を当て一気に飲む。ぷはぁ!最高にマズイ!
でも、喉の詰まった感じが無くなった。
「アスター、ありがとうございます!」
「まさか、タダだと思ってませんか?」
公用金貨100枚をあげると90枚が戻ってきた。
「もうちょっとポーションの事も勉強しましょうね」
「ハイ!アスター様!」
「ふざけてないで1軒目、行きますよ!」
アスター、なんか機嫌悪くない?
取引先と何かあったのかな?
「アスター。相談に乗るよ!」
アスターは苦笑して私と目線を合わせた。
「すみません。八つ当たりしてしまいましたね。…実はラプナーが、アレク様の委託販売料金をいただくというので、先ほどまで揉めていたのです」
「ありがとうアスター。気持ちは嬉しいけど委託販売料金は支払うよ。魔石売れないなら委託販売料金はもらわないと損になるよ」
「しかしながら、1割は大きいかと…」
「アスター」
まだ、自分を責めるアスターの瞳を見つめて私は確固たる意思を伝えた。
「ヘキサゴナルの銀細工を私は安売りするつもりは無いよ?覚えて置いて」
アスターはハッとして、私にひざまづき頭を下げる。
「申し訳ございませんでした!では、委託販売料金の契約書にサインをお願いします」
アスターは私と共にラプナーの元に転移した。
ラプナーの書いていた帳簿は赤い色で埋まっていて困窮しているのが、見てとれる。
「ラプナー、一割で良いのかな?」
「ケイトス、申し訳ないけど2割で頼みます」
「いいよ。お互い商売だから、腹を割って話そうよ」
「よかった!ケイトスがわかってくれて。アスターさっきはすみませんでした」
「いや、私が悪かった。許してくれるか?」
「ええ!…すみませんね。私が経営に詳しければこのような事態には陥らなかったのに!」
「ごめんなさい!そんなに困ってると思わなかったから、ハンナの家と工房と道場買わせちゃったし、許して貰えますか?」
「ケイトス、良かったら私たちに公用金貨10億枚投資してくれませんか?もちろん、委託販売料金はいただきませんから!」
「ラプナー!無礼が過ぎるぞ!「いいよ、その条件で良いのかな?」…ケイトス様!?正気ですか!」
「投資って言うか、委託販売料金の前払いって言う事にして欲しい。計算が大変だけどラプナーなら大丈夫でしょう?」
「ええ、大丈夫ですが、そんな好条件でいいのですか?」
「うん、お互い損にならないし、いいよ」
アスターが精神魔法かけている時の幻惑リスみたいな顔してる。
「契約書を作って下さい。また、夕方に来ます!」
アスターが転移したのは貴族街近くの中街にある小さな靴屋さんだった。
まだ、朝早いのにもう開店していて私たち二人への期待の高さが垣間見える。
ガラス越しの見本の靴は埃を被っているが、オシャレで可愛らしい!
リボンやフリルをあしらった女性用の踵が高い靴はなるほど帝国では売れないだろう。
雪道を歩けないような踵の細いオシャレな靴はヘキサゴナル向きだろう。
玄関から、靴屋さんが出てきた。
「本当にいらしてくださったのですね!さぁ、中に入って下さい!」
オシャレなデザインのシャツにニットのベストを着た白髪混じりの金髪の靴屋さんの名はニコルさんと言う。
「表に出してた商品を全部買います。色違いやサイズ違いもあったら、それも下さい」
「他の商品も見て下さい。アトリエへどうぞ」
靴工房と店が一体化しているアトリエを探検するのは楽しかった!
むむ!これはお仕事ですよ、と浮かれる自分に釘を刺すこと14回。
さすがにアスターにたしなめられた。
「遊びに来たのではありませんよ?アレク様」
「ごめんなさい。とりあえず紳士物を50足と女性物を100足下さい。年齢層は成人~青年層まで。サイズはお任せして良いですか?」
「年齢層の幅が狭いです。市場は割と中年女性も行きますよ」
ニコルさんの指摘に確かにおばさんも買い物してたなと、思ってお願いした。
「じゃあ、そのようにお願いしますが可愛らしいデザインの物をお願いします。色は黒と茶色以外で」
「茶色は持って行くべきです!色違いで全身コーディネート出来るのはお金持ちだけです。何にでも合わせられる茶色の靴は一張羅です!」
「じゃあ、それもお願いします。足りない所を足してくださってありがとうございます」
「いや、ワシはいつも文句を言うと妻に怒られるんです」
直立不動の上、真面目な顔で言われてアスターと二人で思わず吹き出した。
一足大銅貨9枚となかなかのお値段だったが、店に出してる靴は銀貨1枚と大銅貨4枚する。
これで卸値なのだ。
一足銀貨1枚分払って150足買って行く。
木箱に布にくるんで入れてアイテムボックスに入れて、帽子屋さんに行くと、帽子はベレー帽が多い。
ここは平民の男性向けの店らしい。
行くなり、女性向けの日よけ帽を始めとした在庫を買わされた。
その数500個。
アスターが値切って公用金貨1枚で買い取ったら、何と次の不良物件を紹介された。
そうやって新古品をドンドン集める事に。
集めた数5900点超。支払ったお金、公用金貨350枚。
季節商品だから売れない~高値にし過ぎて売れないまで幅広い商品が集まったが、アスターも私もアイテムボックスがいっぱいだ。屋敷に転移して使ってない中会議室に全部在庫を吐き出すと、昼から来ると言ってたカラルフ商会さんと会う前に食事をした。
朝食もまだだったから出された物全部食べてもまだまだ入るアスターに給仕がドン引きしている。
私はサラダをドレッシングで和えて食べ、驚きの大きさのバタートーストをフレジのジャムを付けながら楽しんだ。
ポムのジュースを飲むとお腹いっぱいだ。
ダンが食事が終わったのを見計らって声を掛けてきた。
「中会議会議室にあった、山のような荷物は、何事ですか?」
「仕入れてきた在庫。あの部屋で保管しておいて」
「片付けてもよろしいでしょうか?」
「お願いダン。よろしくね。これ、毛皮とかあるから洋服掛けや、簡単な棚なんか、買って適当に片付けて置いて」
ダンに公用金貨100枚を絹袋に入れて渡したら、10枚だけ受け取って私に残りを返して来た。
「大金をみだりに他人に渡してはなりません!わたくしだったから、よかったようなものです!」
「え?だってダンは他人じゃないでしょう?」
「クッ!だまされません!そうやってうやむやにするおつもりでしょう!」
バレたか。私の演技に問題があるんですね。
「はーい。わかりました!次から気をつけます!」
「本当にですよ?!」
迂闊にお金を他人に預けない事を契約書に書かされた。なにゆえに?
お昼からのカラルフ商会での仕入れは簡単に終わった。
カラルフ商会の商会長のイフルさんは、私の買い求める物を良く知っていて一つとしてハズレがなかったのだ。
恐るべし、商売人の勘!
しかも安く卸してくれた。
たすかるが何故だろう?
「ウチの客は冒険者がほとんどで、色鮮やかな鞄は山と在庫になっとりますえ。売って貰えると助かるんどす。まさか、無茶言ってる工房にいらないとは言えんしなあ…。またのお買い上げ待っとるえ!」
「ヘキサゴナルでは、宝の山ですよ?」
「この値段の物を売るのに越境税と輸出税と飛行艇の運賃は払えんえ!お好きにどうぞ!!でも、言うときますけど、大銅貨2枚が上限ですえ?欲張ったら恥かく覚悟しとき」
「売り値まで教えてくださってありがとうございます!」
「なんや、気が抜けるわあ。あと1時間あるからザッと見たるから出してみ?」
中会議室に転移すると、中の様子に呆れているイフル商会長さん。
「まぁまぁ、な仕入れやなあ。このツボは、貴族の便器え。自分が使い。毛皮のコートはヘキサゴナルでは、ちょうどええかもなあ。50万ステラぐらいしかせんえ。けど、この靴はええなあ!家で履くのにええわあ!」
「よろしければ、何足かどうぞ。勉強させていただいているお礼として」
イフル商会長さんは豪快に笑うと試し履きして3足持ち帰る様なので絹袋に入れて渡したら、また笑っていた。
「何でも持ち帰る冒険者さんは、目利きは出来へんのに気遣いは2重丸え!気に入ったワ!あと30分、従者にメモを取らせながらちゃんと聞くんえ?」
「はい!お願いします!イフル商会長様」
耳から脳みそが漏れそうなくらい知識を詰め込まれた。
無事、焼き菓子を手土産に見送ったら、ラプナーの部屋に転移した。
「店から帰ってないですね。少し待ちましょうか」
アスターが目頭を揉んでいる。
「疲れた?アスター」
「いえ、高価だった壺がまさか、便器だったと知った時程は疲れてません」
「アレは、がっかりしたね。めちゃくちゃ高かったもの。私たちの勘違いを良いことに売りつけた奴等、どうしてやろうかな」
アスターによしよしされた。
「後は概ね良好な卸値で買い取れましたね」
「うん、それは幸運だったね」
「ポムがたくさん手に入ったからジャムに加工して売りましょうか。一度、王都の屋敷に行った方が良さそうですね。採取組合との契約書のやり取りなんかもありますし。私とダンが行きますのでサレタ村からヘキサゴナル王都まで、お願いしますね?」
「すみません!遅くなりました!魔石直売所をグレンシード辺境伯爵の指示で今年いっぱい休業にしてたのです。私もヘキサゴナル王都へ行きますよ!全力でサポートいたします!」
ラプナーが帰って来たけど、ナニソレ?!
父上、何してくれてるの!