60話 商談中
舞踏会の翌朝目覚めて鍛錬の後でお風呂に入れられた。
今日はちょっと良い服を着せられて髪はガチガチに香油で固められて右にバラン、左にアスター、後ろにメリエレさんを連れて1階の左翼の応接室で会食。
部屋の中の調度品のグレードが違う。
他の部屋は華やかな感じだが、ここはお堅い感じがする超高級な調度品や家具が揃っていて、椅子に座るのさえ怖い感じだ。
頑張れ!私。
今日はフルコースモーニング。
朝から重めだけど大丈夫!お腹は空いてる。
茹で鶏のサラダから始まって、ゴーガン商会さんとお話し。
まずは、水を向けて見るバラン。
「ゴーガン様はお若いのに酒蔵を持ってらっしゃるとか。大変なご苦労だったでしょう」
そういうとゴーガン様は、泣き始めた。
「強いお酒から弱いお酒まで、たくさん持って来ました!試飲しながら食事しましょう」
バランとアスターが困った顔をしている。
何でこの人を最初の面談相手にしたの?バラン!
ダメじゃない!バラン飲みなよね!
メリエレさんは飲む気満々だ。
「申し訳ございません。ゴーガン様。うちの者で飲めるのは私だけでして、後は一口づつ頂戴するという形でよろしいでしょうか?」
「構いません!」
「当商会の商品は、炭酸水や、白ブドウ酒で割って飲む甘いお酒ですから、ベルリーナ様で使って頂けたり貿易に持って行って頂けたらと、思いまして売り込みに参りました!」
へぇ、甘いお酒かぁ!私も飲めるかな?
アスターとバランにはショットグラスで、私には無し、メリエレさんにはフルートグラスで最初のお酒が出された。
メリエレさんが飲んでうなずく。
「南国の果実の味がしますね。女性やお酒が弱い方に良いと思います。ベルリーナで取り扱いましょう」
「ありがとうございます!他のも是非ともお飲みください!」
「ダン、私にもショットグラスで一杯だけ」
ショットグラスに半分くらいづつ出てきた。
別になんてこと無い美味しいジュースだった!
「これ美味しいですね!他のお店には置いて無いのですか?」
するとゴーガン様はしょんぼりして、また泣き始めた。
「こんな物など、酒では無いと言って取り扱って貰えないんです!だから、ブラッディウルフにもすがる想いでこちらに参りました!」
ブラッディウルフ、ね。
そう言えばガハト様が言ってたな。
街道沿いによく出るから子供でも知ってるって!
「では、私共とこのお酒に付いては専属契約を交わしませんか?」
「ほ、ほ、本当ですか?!」
「いいですよ。売れないなら売れるようにするだけです」
いろんな味のジュースみたいなお酒。
名前はなんて言うんだろう?
「お酒の名前は何ですか?」
「果蜜酒と呼んでおります」
「ぴったりですね!果蜜酒。上等です!」
後はバランとゴーガン様との細かい取り決めになるから別室へ行って貰った。
朝食後のお客様は、靴屋さん。
虹証の取得条件を話してあきらめて貰った。
靴屋さんは靴屋さんと言う業種があるので、雑貨店には置けないのだ。ごめんなさい!
しかも、服は雑貨には含まれないらしく私は、一人で、【服屋】【布屋】【雑貨店】【酒屋】の4店舗を経営しなければならなくなってちょっとお金が欲しい!
人材にはアテがあるので何とかなるだろう。
次から次へと商談相手が来るがヘキサゴナルの王都じゃないと帰ってしまう人とか、赤証だと判った途端良さそうな商談を撤回して悪態ついて帰る人とか、もう、昼食までに60社と破談した。
「疲れたね、アスター、メリエレさん」
「今から昼食ですが、もちろん商談込みです。まあ、知ってる人ですから、気が少しは楽でしょうがね」
アスターも少しヤケになってる。
言葉遣いが投げやりだ。
メリエレさんは一応虹証の制度を知ってるらしく、いろいろフォローしてくれた。
「ケイトス、とりあえず食って力を付けろ!バテたら食われるぞ」
「その通りです!アレク様。日が暮れるまでに何とか終わらせましょう!」
「サインズ商会のカインズ商会長がお越しです。お通しします」
カインズさん?ひょっとしてお父様のアスムでの執事だった?
その予測は外れてなかった。
「お久しぶりでございます。ケイトス様」
かくしゃくたる立ち姿、腰は低いが譲らない強さが垣間見える眼差しが懐かしい。
「お久しぶりです!アレクシード=クロスディアと申します」
「今日は、サインズ商会の宿のご利用のご案内に参りました」
「お座り下さいカインズ商会長様」
アスターの進めで席についたカインズ商会長は気負いが無い食事の作法でブラッディウルフのシチューを美味しそうに食べている。
「“ツアーガイド”と言う事業を始めたとランドルフ様から聞きました。
何でもお客様が泊まれる安い安全な宿を紹介するのが、難しいとか?」
「そうなの?アスター」
アスターが憮然としてうなずく。
「しかし、そちらのシルーランホテルでは、1泊銀貨3枚からとお高いではありませんか?お話になりません」
「契約して下されば1泊銀貨1枚で、50名まで受け入れましょう!」
「大銅貨5枚ですね」
アスター何言ってるの?!
もう半額以下何だよ!!
カインズ商会長も険しい表情を浮かべる。
「大銅貨までは。ムリです!」
「泊まれればいいですから、メイドも侍従もいりません。大銅貨6枚」
「わかりました大銅貨9枚!部屋にはありきたりな果物しかおけませんよ?」
「その果物いりません!大銅貨7枚」
「クッ、本当に紅茶を来たときに出すだけですよ!大銅貨8枚!」
アスターは微笑んでうなずく。
「いいでしょう。一泊大銅貨8枚で、契約成立です。メリエレさん、契約の部屋へカインズ商会長を案内して差し上げて下さい」
「はい。カインズ商会長様、こちらにどうぞ」
「アスター様、今度は負けません!」
「楽しみにしております」
笑顔で睨み合う2人。こ、コワイ!アスターはヘブンスマンティスだ!人間の血が流れて無いよ!
カインズ商会長が部屋から出て行く。
「あんな無茶苦茶な契約かわいそうだよ!」
「おや、止めなかった癖に文句ですか?」
うぐっ!これがアスターの本性…泣きそうです!
「良いんですよ。お客様がまるで無い宿なのですから、これでカインズ商会長も借金返済のメドが立つでしょう」
「そういうの、早く言って!アスターのこと誤解しちゃう所だったんだからね!」
「へぇー。どういう風にですかね?」
絶対、言わない!
怖い事になる予感がするから!
口をつぐむと、穴が空くほど見られたが、何にも言わない内に次の商談相手をメリエレさんが連れて来た。
「「ああああ?!」」
その人と私は顔を合わせた途端叫んだ。
「何だよ!貴族だったのかよ!」
「蝶々、高く買ってくれてありがとうございます。おかげさまで貴族らしい生活ができます」
待ち屋のおっちゃんだった。
相変わらずモジャモジャ頭だが、今日は小綺麗な格好をしている。
「冥府蝶、ものすごい高値でうれたから、商会や、工房相手のオークションのギルド立ち上げたんだよ!火曜~木曜の22:00からやってるから、競りに来てくれって言いにきたんだけど、ケイトスくんならお金がすぐに欲しい時に出品してくれないか?」
「はい!その際にはお願いいたします!」
「それから、ここからが本題何だけど」
何を言われるか身構えていると、意外な事を言われた。
「物件は押さえてあるから、ベルリーナの2号店を作ってくれないか?頼む!」
アスターが私を見た。私の返事は決まっていた。
「助けて下さった方をむげには扱いません。アスター、後の商談相手任せるね!店舗を買って観てくるね!「「待ちなさい!!それは、明日にしてもらいます!今日の予定は詰まってるんですよ!」」…うん、明日は予定どうかな?」
手強い番頭さん達が逃してくれませんでした!
だって、断られるだけの商談会。疲れちゃったんだもん!
そういうと10分だけ、時間を作ってくれた。
待ち屋のおいちゃん事ミモット=クローザー伯爵と明日の11時に冒険者ギルド前で会う約束をして、次の商談相手へ、鞄屋さんだったから是非ともお友達になりたくて、メリエレさんとアスターと私の3人がかりで、頑張ったら根負けしてくれた。
ありがたい!
布製品の冒険者向けの鞄や色鮮やかな女性向けの鞄まで、持ってきた物はありがたく全部買い取ったら、明日の昼からまた、在庫を持って来ると張り切って帰った。
ちなみに革製品の鞄は買わなかった。
革製品の鞄や靴、服などはヘキサゴナルでは当たり前だからだ。
しかも、フォレスト系魔獣の革製品しかないから、白か、黒か、茶か、よくて枯れた緑色しかないのだ。
白と枯れた緑色は高級品になる。
色鮮やかな布は高くて貴族の服にしか、使われないから帝国の安い布鞄は売れると思う!
今買わなくていつ買うのだ!
カラルフ商会さん、ありがとうございます!
後はめぼしい商品無かったので、赤証から始める事を説明すればドン引きして帰って行った。
結果250人と商談して契約まで、こぎ着けたのはたった4社だった事にどっと、疲労を感じた私たちだった。
夜は父上達と食事をして、父上とルティーナ様も商談を受けていた事に驚いた!
そのほとんどがアンデッドの魔石目当てだったらしくて、父上達はご機嫌斜めだったが、グチは一切こぼさなかった。
20時に部屋に戻るとアスターが待ち伏せしていて、捕まえられてカルトラの冒険者ギルドに転移した。
ルメリーさんがイイ笑顔で待っていた。
あれよあれよと言う間に応接室で契約書を挟んで契約。
そうだった!シェフをもらわないといけなかった!
「ルメリーさんお仕事増やしてごめんなさい!」
「それは良いの!ただね、あの待ち屋の依頼だってのが、引っ掛かってるだけよ!だってギルドの敵じゃない?!」
「待ち屋さんが大きくなっただけだよ。どうしてもお金がすぐに欲しい時以外は冒険者ギルドに卸すから大丈夫です」
「ありがとう!ケイトスくん!約束よ?」
「心配症ですね。ルメリーさん」
「結構な数の冒険者達が向こうに、流出しちゃってるから、心配症にもなる!」
ルメリーさんはため息交じりにそう言うと契約書の移しをアスターに渡した。
「行くよ!」
「どこにでしょう?」
「ベルリーナ2号店によ!アイツが来たときに店舗は買ったの!そこに今から行くよ!」
アスターが住所を見て、知ってる物件だったらしくて
転移して連れて行ってくれたが、こんなお屋敷とは思ってなかった。
「メイドさんが要るね。アスター」
「そうですね、部屋数が多いですから、一部屋に2~3人は配置した方が良いかもしれませんね。今、ランドルフ様から預かってるメイドもあまり気味で困ってましたからちょうど良いと思うのですが、このメイド達の住居が困りますね」
ルメリーさんが打開策を切り出した。
「余ってるんだから3階の部屋に入れちゃえば良いのよ!それに、一部屋、接客するのに3人も要らないわよ!コックは近くの下宿を探して歩いて帰らしゃいい!」
ルメリーさん酔ってる?
アスターがなだめるように言う。
「素晴らしい提案ありがとうございます!持ち帰って検討して観ます!」
鍵を開けて入れば玄関はさほど仰々しくなく、こじんまりとしていて、左右対称に8つの小さな部屋がある。
玄関から、正面右手に2階への階段があり、それを上るとまた小さな部屋ばかり、6つある。
3階は屋根裏部屋で埃が積もっている。
「入るのやめましょう。多分、ここは倉庫だった所だから、埃っぽいのよ!」
ドアを閉めると埃が舞う。
「ギルドに掃除と家具の搬入の丸投げしてくれない?!ケイトスくん!!」
多分、薬草樹海にいけない冒険者があぶれているのだろう。
私はルメリーさんにお願いした。
「私が薬草樹海の【樹王】討伐でもらった報酬を全部使って良いので、こまめに来年の春まで依頼を出してあげて下さい!」
「本当に?!ありがとう!ケイトスくん!助かる!ブラッディウルフの討伐させて、ベルリーナにせっせと運ばせる!」
「余ったら屋敷にもお願いします!」
アスターってば、ちゃっかりさん。
ルメリーさんが他にもいろいろ便宜を図ってくれた。
看板屋さんには特急で注文してるようだし、ルメリーさん御用達の家具工房には明日、取りに行くと報せて在るようだし、コックさん6人、1カ月の契約書をさくさくっと作ってくれたし、ルメリーさん大活躍中!
ルメリーさんにも、お土産買ってこようかな。
何がいいだろう?
聞いてみると怒りながらルメリーさんは言った。
「銀細工のアクセサリーたくさん、仕入れて来てちょうだい!!必ず買わせてみせる!」
そう言えば指輪一つもない。
駄目男だね、ウィルソンさんは。
「必ずや、仕入れて参りましょう!」
私たち二人は拳を振り上げ誓うのだった。
「あぁ、お気の毒に…」
アスターが何かぼやいていたが、知るものか!
遅くなりました!
申し訳ありません!