58話 3人の父上
目が覚めたら、父上はもう居なくて夕方だった。ダンにベッドから追い出されてしわくちゃの服を着替える。
大食堂に行くとランドルフお父様とエイリーン兄上。
テーブルを挟んでカーメルさんとヒュージさん、サテル兄さんとハンナが席に着いていた。
「ハンナ!お手紙ありがとう!私はハンナの事好きだけど、ハンナは私をどう思う?」
ハンナは、仏頂面で私の額をペチリと叩いた。
「アンタ、こんなお屋敷に住むような貴族だったの?!」
「違うよ!ただの辺境伯の次男だから、父上の名義で買ったんだ!もちろん私が稼いだお金でだよ?」
「「「「辺境伯の次男がただの貴族の訳無いだろう!?」」」」
ハンナの家族全員にツッコまれて一緒に暮らしてた時みたいで、嬉しくなって笑う。
カーメルさんが席を立って私と目線を合わせて真面目な顔で口を開いた。
「私はケイトスに謝らなければならない。アスター様から家と道場だけじゃ無くアスムの街の移動税までケイトスが用立ててくれたと知った。恥ずかしい事だ!お前に恩知らずな真似をする所だった!許して欲しい。すまなかった!」
「じゃあ、遊びに行ってもいい?」
「ああ!来て良いぞ」
「じゃあ、ハンナとも会ってもいい?」
「かまわんぞ。ただ、明日のパーティーにも呼ばれてるんだが、衣装が無くて困ってる」
「ハンナの服は?」
「舞踏会向けじゃないわよ!」
「じゃあ、夕食の後連れて行くから、安心していいよ!」
そういうと、今度はランドルフお父様とエイリーン兄上にご挨拶。
「お父様、エイリーン兄上!ご挨拶が後になってごめんなさい。ご挨拶はレディからなの!」
ランドルフお父様とエイリーン兄上は私の頭を代わる代わる撫でて口を揃えて、女の子は大事だと言ってくれたが表情が硬い。
「どうしたの?2人とも変だよ?」
「高位貴族に呼ばれて、今までの自分たちの行いを反省してる所だ」
「逆の立場になって初めて自分たちがどれほど無茶ぶりしてたかわかったよ」
「ごめんなさい!!父上が呼んだと思わなかったの?!」
噂をすれば父上とルティーナ様がおしゃれして来た。
父上が叫ぶ私の肩に手を乗せて言い聞かせる。
「お世話になったので呼んだのです。分不相応な屋敷で驚いているのは、私とて同じです。どうか、今日は腹を割って話しましょう。先ずは食事をしましょうか。アレク、どこに座る?」
ホントは父上の側に座りたいけど、お父様達が心配になったのでエイリーン兄上の隣りに座ると、父上が私の頭をポンと叩いてお誕生日席にルティーナ様と並んで座る。
父上達が座った事で食事が始まった。
前菜は野菜のゼリー寄せだ。
透明だったので味が無いのかと思ったら、トメトの味がしっかり付いていて野菜ジュースみたいだった!
ハンナとサテルが苦労して食べてる中、上手にカトラリーで食べられ無くて父上がスプーンで食べさせているルティーナ様の姿を見て、サテルとハンナはスプーンで食べていた。
エイリーン兄上が、頬を染めて私に囁く。
「アレクの父上と母上は仲が悪いのでは無かったか?」
「ルティーナ様は1週間前に父上のお嫁さんになったばかりの第2夫人なの。かわいい人だよ。私の弟妹ができるのが楽しみです!」
「お祝いの品を忘れたぞ!」
「いらないよ?そんなの。父上にやきもち妬かれたいのお父様」
「しかし、何か送った方が良いだろう?」
「じゃあ、赤ちゃんが出来たら赤ちゃんの服ちょうだい」
「アレク、お前は何を強請っているんですか?妻への贈り物はいりませんから。私が全部してあげたいので楽しみを奪わないで下さい」
「ホラね!父上30億ぐらいならすぐに稼げるから、心配しなくていいよ」
「アレク、ここへ来なさい!」
皆の前でお尻を叩かれて恥ずかしかった。
ルティーナ様とカーメルさん家族全員が笑っていた。
お父様と、エイリーン兄上は呆然としている。
サテル兄さん笑いすぎだから!覚えてろよー!
父上にはお金を自慢するような事を言うものじゃない!と一喝された。
そんな風に聞こえたのなら反省します!
今日はウルフカツカレーだった!はるか下座で食べてたアスターだけが辛さに悶えていた。
あ!サイナム来てる!バランと話しながらお茶してる。
ハンナとサテル兄さんはお代わりして夢中で食べている。
私は結構カツが大きめだったので、ギリギリ一皿食べられたが父上とルティーナ様は3皿目だ。
お父様が手招きしたので、食後のお茶と共にお父様の隣りに移動した。
「何か困ってる事はないか?アレク」
「無いよ!出来たら相談してもいいですか?」
「貴族内でのゴタゴタの片付け方は知ってるから相談して来なさい」
それを聞いてた父上がお父様を別室にさらって行ったのでエイリーン兄上とルティーナ様、カーメルさん一家全員で話してたら剣術の話に。
なんと、カーメルさん相手に道場破りが来たらしくてその話で盛り上がる!盛り上がる!
アスター達私の騎士全員が近くに来て聞いていた。
バランとサイナムは護衛の話をしてるようで、アスターに聞いておいてと言ってたらしい。
カーメルさんが身振り手振りでどうやって道場破りを追い出したかを話し終えると拍手喝采が侍従達からも飛んできた。
カーメルさんは浅黒い顔を赤らめて、「大したことない奴だったからな」とツンデレしていた。
「でも、お父様達が道場していた時には来なかったのに何でだろ?」
そう言えばルメリーさんが言ってたね。前もヒュージ流剣術の道場だったって。
ヒュージさんが答えてくれた。
「貴族街の中にヒュージ流剣術の道場があるからだろう。要するに嫌がらせだろう。前の道場もそれで辞めたって近所の人達が心配してたから。」
「2~3日でヒュージ流剣術を習ってた奴らが入門金片手に随分増えたからな。それでだろう。」
「変な暇つぶししてる間に鍛錬すればいいのに」
私がつぶやくと皆がその通りだと口々に言う。
父上とお父様が大食堂に戻って来た。
お父様は皆にまた明日会おうと言ってエイリーン兄上と急いで帰って行った。
「父上、お父様達に何相談したの?」
「領地の経営の仕方だ」
なるほど!父上、お金関係ザルだものね。
ハンナが私の手を引く。
「明日の衣装!」
忘れてた。
慌ててカーメルさん家族全員を連れてローザ工房へ転移した。
ザトー子爵達が吹き出してるのは何故だろう?
「来ると思ってた。これで最後か?」
忘れてた!あと、2人いる!
エメリヒ工房でメリエレさんを捕獲して、屋敷に転移してサイナムをさらってローザ工房へ転移すればザトー子爵含めたお針子さん達が悩んでいた。
「この人達、護衛兼売り子!明日の舞踏会にも連れて行くから、よろしく!」
「君、メリエレくんか?!顔の傷治ってよかったな!売り子って事は、冒険者辞めるのかい?」
「とりあえず半年は休業してヘキサゴナルで服を売ります。まだ、ウチは布地織ってる状況なので、まともな服2~3着と貴族の護衛用の服を1着、コイツと俺にお願いします!」
「ケイトスくんの恩人の御家族の衣装をどうしようか悩んでいてね。メリエレくん、一緒に選んでくれないか?」
「名誉市民辺りの装いでよろしいのではないかと…」
「なるほど!それがあったね!幸いお嬢さんが、採寸して下さってるからすぐに作業に取り掛かれるよ!ケイトス、特急料金貰うよ!」
「お願いします!じゃ、」
下町のカーメルさん達の家に転移したら、ハンナの工房へ連れて行かれた。
簡素な衣装入れを開くと、ハンナの一から作った財布や、小物入れ、バッグなどが200点以上ある。
「ヘキサゴナルで売りなさいよ!安く売ったら承知しないんだから!」
「ありがとうハンナ。また作っておいてね。一カ月に一度は帰って来るから。大好き」
アイテムボックスにしまった。
ハンナが私の手に紙幣用の長財布を置いた。紫と紺と白と緑の糸で仕上げてある美しい財布と中には貨幣が入れられる不思議な金具が着いた丸い袋が入っていた。
「今、帝都で流行ってる“がま口”よ。」
「そうなんだ。ありがとう!ハンナ」
額にハンナの顔がくっつく。
すぐに離れたハンナの顔は真っ赤だった。
「帰って!」
「ハンナ何怒っているの?私のこと嫌いになった?」
言ってる内に悲しくなって泣いてしまった私をハンナがぎゅっと、抱きしめる。
ハンナの匂いがする。ホッと一息付いてもう大丈夫だと、小声で伝える。
ハンナは、工房の入り口に目を向けると、私にまた顔を近付けて来た。
口と口がくっつく!
え?これってキス?!
ハンナの顔は真っ赤で、私の顔も多分真っ赤だ。
「ハンナ、大好き!また、明日ね!」
私は屋敷の部屋まで転移して恥ずかしくて、嬉しくて、ベッドの上でゴロゴロ転がって床に落ちて、頭を打って泣いた。
部屋に入って来たアスターに何があったのか聞かれて順番通りに話すとアスターは「いいなぁ、好きな子からのキス」と呟いている。
お風呂に入って寝たら、翌朝メリエレさんとサイナムにローザ工房に放って帰ったのを怒られた。




