53話 こっそりと
2〜3日は新しい屋敷に引っ越したのに、屋敷の中の家具を配置したり、キャサリンの荷物持ちになって買い物したりと落ち着かない日々が続いてやっと、元の下町の家と道場を空き家に出来た。
私はアスムのアスター達の宿をラプナーに教えてもらって宿を訪ねると疲れてるアスターが玄関から入って来た。
「アスター!引っ越しできるよ!」
「……部屋で話しましょうか?」
アスターの顔が強張っていた。
私はアスターの手を握ってアスターと人目がない廊下に入ってアスターに転移してもらった。
部屋はベッドとサイドテーブルがあるだけの狭い部屋で私はアスターとベッドの端に座って私から話し出した。
「あのね!屋敷に引っ越したからハンナ達いつ来てもいいよ」
「……それが、」
アスターが言葉を選んでいたがはっきり言おうよ!
そこは!
「……魔石の売り上げが止まって資金が無く、ハンナさん達4人が引っ越しするお金が足りないんです」
ああ、こっちじゃアミュレット作れないから売れないんだ。
「私が出すよ!ハンナ達にはお世話になってるもの!公用金貨400枚くらい「増えたんです!10倍に!」…えっと、じゃあ4000枚?」
「はい。私達も街に入るのはタダなんですけど、街から出るのに公用金貨3枚いるんです。それで、バランが帰って来られなかったみたいで。……この街は地獄です!」
嫌悪に身体を震わせるアスターの背中を撫でてなだめた。
「この街に転移で入れなかったので街に入る行列に並んで直ぐに入れたのですが結界専門の魔法使いが5人はいます。正門からしか出入り出来なくなっています!」
「私は入れたよ?何にも感じなかったけど?」
アスターは私の顔をみつめ、そして笑い出した。
そして私達は引っ越しの手順を考え、即座に実行した。
ハンナ達4人はマークされているので転移で連れ出すのは不可能だとわかった。
私はカルトラの冒険者ギルドで公用金貨5000枚を引き出しルメリーさんにアスムの情報を流した。
ルメリーさんはイイ笑顔で任せろ!と丸いお胸さんを叩いていた。
その間にアスターはアスムの宿で1番高い部屋にハンナ達を一晩泊めて、バランが護衛に付く。
この時バランに手紙とお金を渡した。
私とアスターはハンナ達の家の部屋まるごと収納して、下町の家に転移して運んでは置くのを繰り返して家と道場の引っ越しを終わらせた。
さすがに5往復は疲れた私は屋敷に帰って寝た。
アスターはカルトラの自分の部屋で寝ると言って転移した。
翌朝日が昇る前にアスターをアスムの街の外まで転移して送って直ぐに屋敷に転移して帰って朝稽古した。
まだ、カーメルさんに合わす顔がない。
今日はお父様の門下生家族を招待してのパーティーだ。
メイド頭になったキャサリンが、新しくメイドとなった15人の元公爵家のメイド達と忙しく働いている。
…というのも王都の元ラムズ公爵家から逃げ出してくる使用人たちが跡を絶たないのだ!
侍従見習い達もこの屋敷に20人もいる。
侍従達は観光ガイドが出来るようなら、雇って、出来ないなら就職する間の宿として大広間にベッドを隙間なく入れてそこで休んでもらっている。
しかし、職探しもせずお父様とエイリーン兄上に自分を売り込むのに皆必死だ。
コックもまたたくさん逃げて来たのでヨランに預けたら口の端が引きつってた。
ルメリーさんに使用人が休む小さな屋敷を探してもらっている。
何ならそこをエイリーン兄上の屋敷にしてもいいし、潰れた道場とセットなら文句なしなのだが。
お昼過ぎにアスターがバランを連れてやって来た。
あまりの人口過密度に2人とも、眉根が寄っている。
「ご相談があります」
バランはちっとも笑ってない顔で私に貴族街への引っ越しを提案して受け入れさせた。
バランとアスターにハンナ達はどうなったか聞くと何だか2人とも機嫌が悪くなった。
「貴方がアイツらを気になさる必要はありません!」
「……う、そ、そう!わかった!」
「私の父のツテで入手できる屋敷があるのですが、広い上に中身が何にもないんで、家具やカーテンなども合わせて公用金貨10億枚程かかりますが、ルメリー嬢に聞いたところアレク様にとってはハナクソみたいな物だと言われましたから購入してください!」
ルメリーさん。ハナクソは言い過ぎだよ!!!
「……私にとっても大金ですが、この屋敷にはいられませんから、引っ越します」
騒がしすぎるし、落ち着かない!
「侍従と侍従見習いをヘッドハンティングして参ります」
バランは雑魚寝部屋に入って行った。
アスターと私の部屋に入ってハンナ達の事を聞くとカーメルさんはヒュージさんと道場をどうやって経営するか話し合ってるし、ハンナは注文を片付けるのに必死だし、サテルは早速家庭教師のアルバイトを始めてるし、自分達の事で精一杯で、あれだけ支援してた礼も言わないその無礼ぶりにバランがとうとうキレて
「そう言う態度を取られるなら今後一切、支援しません!」
そう言いすてて、ここに転移して来たらしい。
「ありがとうアスター。ハンナ達に良くしてくれて」
アスターは、苦笑して忠告した。
「それ、バランに言ったら半日以上のお説教されますからね」
「……肝に命じます!」
そんなバランは嫌だ!
部屋のドアがノックされた。
「私が」
手で私を止めてアスターがドアを開けるとキャサリンがメイド10名と入って来た。
「「「「「「「「「「「私どもはアレク様について行きとうございます!」」」」」」」」」」
「許します。良く仕えておくれね」
パーティーの最中にもどんどん増えて行くラムズ公爵家の使用人達。
お父様は知っている顔を見つけたのか壮年の男性と私室に入って行き出てこなくなった。
夜になって冒険者ギルドを訪ねるとルメリーさんが駆け寄って来て私の手を引いて応接室に連れて行った。
「今度住む御屋敷は大豪邸だからね!!!公爵家の息子さんに『あれは分不相応だ』なんて言わせるような!」
バラン!!!それを何故私に勧める!
「……ただね、庭師さんがついてて、年収公用金貨2000枚を渡してたみたいで大丈夫かしら?」
「何人いるのですか?」
「3人よ」
「……仕方ないですね。受け入れます」
「はい!今から旧ケルヒャー侯爵邸はケイトスくんの物です!アスターさんがさっき来てたから公用金貨2億枚は渡しておいたから。土地込みの屋敷代が8億枚だけど振り込んでおいたから!
鍵はアスターさんが持って行ったし、ケイトスくんはドーンと構えて待ってなさい!」
「……あの、身分的に私が住んでも大丈夫でしょうか?」
「それは、クロスディア辺境伯家の名義にしてあります。そこら辺はちゃんと考えてあるのよ。任せておいて!」
「ありがとうございます。ルメリーさん」
「そうだ!これ、渡しておく。オークション昨日終わったから、今日来てくれてちょうど良かった。あとこれ、ローゲンツ領立救護院の院長さんからお礼のお手紙よ。返事はバラン様が書いて出したから大丈夫よ」
バラン、ご迷惑をお掛けしますね。
何から何までありがとう!
お礼状から読んだ。
******
ケイトス様。
この度このような貴重な品を5つもくださりありがとうございます。
また、バースデイトーチを素晴らしい状態で届けてくださった事、感謝しかありません。
採取中お怪我をなさったとか、お見舞いにも行かず申し訳ございません。
些少ですがお見舞いの品を送らせていただきます。
ご笑納下さい。
よろしければまた、指名依頼を受けてくださるようお願い申し上げます。
ローゲンツ領立救護院院長 シューターズ=ローゲンツ
******
「ケイトスくんが子供だからこそ、わかりやすく書いてるけども普通は貴族の手紙ってもう何が目的かわからない書き方してるから、バラン様に聞きなさい」
「はい」
「それから、お見舞いの品は生菓子でね、日持ちしない上に大量にあったからご自宅にお届けしたら冒険者ギルドで皆で食べてって、エイリーンさんに言われたから美味しくいただきました!ありがとう」
「いえ、こちらこそ助かりました!悪くなる前に食べて下さって良かったです!」
さてと、報酬はどうなってるかな?
******
帝都カルトラ冒険者ギルド本部所属
Cランク
冒険者名 ケイトス
【魔獣名/ランク/討伐数/換金額】
○パフュームバタフライ/C/257匹/公用金貨5枚大金貨1枚銀貨4枚
○ブラッディウルフ/B/17014頭/公用金貨170枚大金貨1枚銀貨4枚
【合計*公用金貨175枚大金貨2枚銀貨8枚】
○指名依頼報酬○
*ポイズンバタフライ/A/20匹/公用金貨220億枚
*バースデイトーチ/B/100個/公用金貨200枚
【合計*公用金貨220億200枚】
☆☆☆☆☆オークション☆☆☆☆☆
【魔獣名/ランク/出品数/落札価格】
☆ポイズンバタフライ/A/12匹/公用金貨108億枚
☆ミラージュバタフライ/S/7匹/公用金貨1400枚
【合計*公用金貨108億1400枚】
大変貴重な品をありがとうございます。またのご出品をお待ちしております。
【全合計*公用金貨328億1775枚大金貨2枚銀貨8枚】
******
「……10億なんてハナクソでしたね」
ルメリーさんが吹き出した。
「品が無かったと認める。でもね、公爵家だの、辺境伯の息子だの貴族の息子がゴロゴロいて下町じゃ、さすがに馬鹿にされても仕方ないから諦めて」
「観念しました」
「よろしい!何か相談はある?」
ある!
「お父様達にいくらかお金を渡そうと思ってるんだけど100億あげたらどう思われるかなあ?」
ルメリーさんはオーガだった。
「馬鹿なの?ケイトスくんは。ギルド経由で【再生】魔法の取り立てが来てたのよ。公用金貨1億枚。
たった1度の討伐でこんなにお金がかかるのよ?さらに貴方は捜索隊に2億枚支払ってるし、お世話になってる方には無償で5000枚出費してる。
お父様達には援助しても10億ぐらいにしておきなさい。わかった?」
「……わかりました。私は金食い虫です」
「そこまで、落ち込まなくてもいいんじゃない?
普通にあの幻惑森林で無双してなさいよ」
それで思い出した!
アイテムボックスから幻惑森林でお骨を供養した時に見つけたギルドタグ6個をテーブルの上に置いた。
「幻惑森林の人間の骨を埋めてたら出て来ました」
「……そう。ありがとう。ケイトスくん。これで遺族に貯金が渡せるわ」
「1人に公用金貨10枚付けてあげて下さい」
ルメリーさんは私の額を平手打ちした。
ペチリと優しい音がして私はルメリーさんを見た。
ルメリーさんは苦笑していた。
「ありがとう!本物の騎士様。今回は受け取るけど、ギルドタグ見つけるたびにこんな事してたらビンボーになるよ!駄目だからね?」
「本当はもっとたくさんのお骨があったんですけどこれだけしか無かったんです」
「あれだけ忠告したのに行った奴らが悪いのよ!冒険者は自己責任!自業自得よ!」
私が幻惑森林で稼いでるからだ。
「コラ!落ち込んでるんじゃないの!ケイトスくんのせいじゃないんだから!!!それともお前のせいだって言って朝日が昇るまで馬乗りして往復ビンタし続ければいい?」
想像して笑った。
「綺麗な人は怒らせると怖いから、落ち込むのはやめます」
「わかってるじゃない!こんなので落ち込んでると、自分もそうなっちゃうかもしれないから、気をつけて」
ルメリーさんは心配していた。
そんな人を何人も知ってるのだろう。
そこにノックの音が聞こえ、私はルメリーさんにお辞儀して仮住まいに転移した。
もう夜中でパーティーの喧騒の名残もないダンスホールでお父様が一人で鍛錬に励んでいた。
声はかけない方がいいだろうとそっと私の部屋へと転移したら部屋の中は空っぽだった!
「アスターめ…」
苦笑してると、部屋の扉が開いた。
見習い侍従の少年の1人だ。
「……やっとお戻りになりましたか。直ぐにアスター様がいらっしゃいますので、どうぞ5分程この部屋でお待ち下さい」
そう言うと椅子を持って来てくれた。
「ありがとう、これ、ほんの気持ちだけど皆と美味しい物でも食べて」
公用金貨1枚渡すと何故か紅茶が出て来た。
美味しいけど身体が冷えてるから熱くて飲めない!
冷ましてる内にアスターが転移して来た。
アスターは息を荒くして私から紅茶のカップを奪うと飲み干して侍従見習いの少年の持ってるトレーに置き私を連れて新しい屋敷に転移した。
また、携帯が壊れたのでしばし、お待ちを!