52話 お休み中の引っ越し
〜sideヨラン〜〜
道場が朝なのに賑やかなのでチラッと覗いてみたら、ベテラン冒険者達が旦那様と話している。
お昼は皆食うだろう。
さっき帰って来たアレク様が10頭分のブラッディウルフの肉を持って帰って来たのでウルフシチューにしようか。
「おーい!キャサリン!いないかーー!!!」
どうもいないっぽい。
アスター様にお願いして見よう!
そろりそろりと階段を上ってアレク様の部屋に着くと気配を読んだのかアスター様が部屋から出て来た。
「何か急ぎ?」
「アスター様、申し訳ないんですが、25人分のパンを買って来てくれませんか?」
「……忘れてました!ヨランさんに手間じゃないなら買って来るけどいいでしょうか?」
「50人くらいまでならいつ連れて来ても大丈夫ですぜ!ま、そう言う事でこれお金」
大金貨1枚渡す。
受け取ったらすぐにアスター様は転移した。
急いでブラッディウルフの骨と野菜を皮ごと切って水から煮込みながら、トメトペーストを作っておいた。
フライパンでエリンギをオリーブオイルで炒め、炒まったら取り出して大人のゲンコツ大に切った肉に焼き目をしっかり付けて赤ブドウ酒でフランベした。
今度は寸胴の鍋で炒めたエリンギとブラッディウルフの肉を混ぜて骨から取ったダシ汁と野菜、トメトペーストを入れて煮込む。
肉に合う香草ローズマリーを臭み消しに入れてスープが半分以下になるまでほっとく。
冷暗所で保存してた刻みニンニク入りオリーブオイルの瓶のフタを開けてスプーンで少しだけすくって舐める。
「ムハッ!ニンニク効いてる!」
ガーリックトーストができる!
シューがたくさんあるので簡単に出来る料理ザワークラウトもどきを作る。
発酵させてないし、ザク切りだからシューの浅漬けって感じだが、キュウリを乱切りして入れると色が綺麗だから良かろう!
クラッカーを焼く。塩味のプレーンな物だ。
卵を使わない荒削りな感じのクラッカーは、長方形に筋を入れて窯で焼けば直ぐに出来る。
チーズを乗せてその上にサラミのスライスを乗せる。ハムやバター、ひよこ豆のジャムや甘いのならポムのジャムを塗って。
夢中で作業してると時間はあっという間に進みウルフシチューの鍋からトメトと肉の煮える良い香りがして来た!
鍋の蓋を開けて見るといい具合に煮詰まってる。最後の仕上げに生クリームを足して、ローズマリーの枝を取り出来上がりだ。
いつの間に帰ってたのかキャサリンがテーブルを倉庫から出してきてソファをアスター様とセッティングしてる。
奥様の刺繍の作業机が酒樽置き場になっている。
「……すまない!アスター様、パンを調理したいんで出してくれませんか?」
アスター様は言いづらいのかややうつむき俺に頭を下げて謝った。
「すみません!普通のパンがどの店に行っても無くて干しブドウ入りとクルミ入りしかなかったから買えるだけ買って来た!」
うわぁ。コイツやりやがった!
大金貨1枚がどんなに大金かわかってねーな⁉︎
干し果物入りとナッツが入ってるパンは1個大銅貨1枚する。つまり、普通のパンの10倍だ。
たった、100個で足りる物か!
急遽揚げいもと、ポテトサラダを足して何とか昼食会に間に合わせた。
アレク様も起きて来て嬉しそうだからいいか。
〜sideアレク(ケイトス)〜〜
起きたらご馳走の山だった!
1階は玄関のドアが開かないくらいテーブルが並び、私は真ん中の席に座ってるアスターの隣に座ってキャサリンに赤ちゃんのように食べさせられている。
お父様とエイリーン兄上は捜索隊の皆に酌をするのに忙しい。
たったまま返杯されて飲むのを繰り返していると酔っ払いが2人出来上がった。
「キャサリン、パン食べたいです」
「クルミ入りでよろしいですか?」
「バターたっぷりでお願いします」
「……なあ、ケイトスよ、貴族なら貴族街で暮らせばいいんじゃないか?」
「私のお金がない時に無理して買った家だから、文句言わないでください!もうすぐ引っ越して屋敷に住みますから引っ越し祝いに来ますか?
……と、言っても下町ですけどね」
「いつだ!」
「私が動けるようになってからですね。あと、10日ぐらい下さい。それから捜索隊の報酬の1人公用金貨1000枚は口座に振り込んでありますから、豪遊してください!」
「……いいのか?そんなに貰って」
「だってメリエレさん達1日でそのくらい稼ぐでしょう?まあ、豪遊しては冗談だけど、Aランカー達に右往左往させたお礼とお詫びです!」
「この家売ってくれ!」
ファインさんに謝る。
「……ごめんなさい!私のお世話になってる人がアスムから避難してくるのでその方達に差し上げるんです」
「アスムかぁ!逃げるにも1人公用金貨100枚いるらしいな?俺の知り合いも長いこと住んでるけど、あんな綺麗な街知らなかったのに今は女、子供が外を歩けないような、治安の悪い【ならず者達の街】だそうな。それでも騎士団が頑張ってるから、何とか生活できてるってさー」
「……父上」
「エイリーン。私達に出来ることはない!」
お父様はそう叫び、自分の部屋に入って行った。
「兄上、夕方には稽古でしょ?ちゃんと食べなよね?」
エイリーン兄上はうなづくと、食事をし始めた。
ファインさんが話題を変えた。
「そういやあ、ケイトスのお母さんは?」
「私が2歳の時に亡くなりました。あまり覚えてないので女の子とお話するといつも緊張します!」
「……ほお、女の子に慣れるには積極的に話しかけろ」
「「「「「「「「「「「メリエレさん誰にも話しかけてないでしょう?ウソ教えないでください!」」」」」」」」」」
「…俺だってジェンナとは良く話す!!!」
「……それって花街の売れっ子でしょう?」
エイリーン兄上がシチューを吹き出した。
アスターが素早く掃除をする。
それから何か盛り上がってたけどキャサリンに耳をふさがれて何も聞こえなかった。
エイリーン兄上が赤い顔をして焦っていて、アスターが何か耳打ちしてるのが印象的だった。
私はいつの間にか寝てたらしい。
ベッドの中で目が覚めた。
隣にはアスターが眠って居て、どうやらアスターの部屋に連れて来られたようだ。
爽やかな香りが部屋いっぱいに広がっている。
暗いけど今何時だろう?
「……お腹空いた。トイレ行きたいけど介助されるのはイヤだなぁ…」
「起きましたか?ケイトス様」
ラプナーさんの声がして一瞬後には「灯火」の魔法で部屋がほんのり明るくなった。
「さて、トイレに行きましょうか」
意外と力のあるラプナーさんにあっという間にズボンと下着を脱がされてトイレで介助される事に。
また一つ私の中の何かを失った。
サンドイッチと香草茶を交互に食べさせてくれるラプナーさんは弟が1人いるのでお世話なら任せでください!と売り込んできた。…というのも。
「アスター明日から出張なの⁉︎」
「だから、私がお世話しますね。ケイトス様には早く元気になっていただかないと体術も教えられませんからねー」
「お世話のお礼はアルバイト代で」
「助かります!何かと物入りで若干困ってました」
「……食費?」
ラプナーさんは照れながら話してくれた。
「妹が生まれまして、実家が裕福でないので仕送りしてるんですよ」
「おめでとう。ラプナーさん!しっかり払わせてください!」
「ケイトス様、眠くないですか?」
「ケイトス、でいいよ。寝てばかりだから眠くないです」
「私もラプナー、とお呼び下さい。では、ケイトス。少し、話をしましょう。紅茶を入れて来ます」
ソファに私を座らせると膝掛け代わりに毛皮をかけてラプナーは台所でお湯を沸かして紅茶を入れて来た。
うん、渋い!
「……おかしいなあ?アスターがしてた通りにしたのに」
熟練度の差だろうか?
ラプナーに料理の才能はないに等しい。
「ミルク足したら?」
「そうします」
半分ほど気合いで飲み、ミルク足したらいい感じになった!
それから夜明けまでラプナーの1日のルーティーンを聞き朝稽古の時は寝ることにした。
昼に起きると、アスターは既におらず、昼食の薬草がゆが枕元に置いてあったが、物凄くマズかった!
「これが、問題の料理見習いの腕前ですか」
震撼した。
ちょっとは動けるようになったのでリハビリ程度にベッドの上で身体を動かす。
腕立て伏せ10回しただけで凄い負荷が掛かった。
気絶するように寝るのを繰り返してラプナーに怒られた。
「そんなにヒマならコレをお読み下さい!」
魔獣図鑑を渡されて大喜びで読む。
薬草樹海や、初心者森林や、氷河森林、銀冠山脈の麓、永久凍土、など他にもいろいろあるが、皆10枚以上あるのに、幻惑森林だけ、異様に薄い枚数で私が討伐した以上の魔獣が載ってない!
密かに憤慨してると恐怖の薬草がゆが運ばれて来た。
少し冷まして勢いよく口にかき込むと、気に入ったのと勘違いされて2杯目が用意された。
「お代わりはもういいです!」
根性で優雅に食べた。
うう〜〜!胃が重い。
それを三日続けたら、普通に動けるようになったので公用金貨3枚をラプナーに渡してお家に転移して帰ったら、若い力のある冒険者達が荷車に家具を積み込み新しい屋敷に引っ越しの最中で、ルメリーさんが指揮を執っている。
「ルメリーさん屋敷できたの?」
声をかけるとルメリーさんは嬉しそうに微笑んでお祝いをしてくれた。
近くの流行ってるお店で中華風料理を食べてお腹いっぱいになると新しい屋敷に荷馬車で移動した。
クロスディアにある屋敷より大きくて、くすんだ煉瓦の周りの家から浮いてる綺麗な白亜の豪邸に目が点になった。
広い庭と馬房まである。
「まだ、外装は終わってないから白いんだけど飾り彫したらこのままでも充分だし、費用も抑えられる。どうしたい?ケイトスくん」
「これ、直ぐに汚れるなら、煉瓦を貼ってください。汚れないなら、庭にお金を掛けたいので飾り彫で仕上げて下さい!」
「魔法加工するから、汚れは10年ごとに魔法をかけ直して貰えばいいから心配しないで」
ルメリーさんは早速、魔法建築士に相談している。
魔法建築士はルメリーさんと話しながら私の方に来た。
「すまない!煉瓦が明日届くんだ。使わないなら、少し安くなるが売ろうか?」
私はうなづく。
「お手数をお掛けしますがお願い出来ますか?」
「構わない。色々楽しめたよ。ありがとう!私はマーズという」
「名乗らず失礼致しました!アレクシード=クロスディアと申します。素敵な屋敷をありがとうございます!」
「また何かあればマーズ建築商会へ声をかけてくれるかな?」
「はい!あー、出張とかしてますか?」
優しい魔法建築士のおじいさんはアゴに生えてる白髪を触って首を傾げた。
「何年もかかるものかな?」
「この屋敷の10倍ぐらいな店をヘキサゴナルに建てたいんですけど、ダメですか?」
「……ほう!ヘキサゴナルか!死ぬまでに行って見たかったんだよ!詳しい事が決まったらルメリーちゃんに話してくれ!」
「はい!そうなるよう5年程頑張って見ます!」
いいね、ありがとうございます!
嬉しかったです!