51話 無謀
残酷な表現があります。
無意識のうちに「暗視」を掛けてたらしい。
その目に信じられないものが移った。
私よりお兄ちゃんだが子供が2人で幻惑森林に入って来たのだ!!!
そして黙々と地面に落ちてたヘブンズマンティスの鎌を集めている。
うむ!たくましい!
仕方なく私は2人に駆け寄り声を掛けた。
「お兄ちゃん達もウワサを聞いて来たの?」
「うわぁあああ!出たあ!オバケ!!!」
「バカ!静かにしろよ!チッ、帰るぞ!セージュ」
「……ヘブンズマンティスの鎌集めるまでは、私が守ってあげるから、ここには2度と来たらいけないよ?」
帰ろうと言った方が私に触れる。
「お前いつからいた?」
「……静かに。夜はこの森、私でも危ないからそれ拾って帰りなさい!」
さっきのセージュの悲鳴がキッカケになったようだ。
囲まれた。
ヘブンズマンティスの鎌全部と、この勇気ある2人の少年をカルトラの冒険者ギルドに無理矢理転移させた。
私の魔力はほぼ空っぽに。
ブラッディウルフの群れがかかって来た。
剣で力の限り無双した。
殺す事しか考えられなくなりもうあれから何時間経ったかもわからない。
夜が明けて来た。
私は後数十匹になったブラッディウルフをきっちり片付けアイテムボックスに全部入れて、少しずつ復活した魔力でバースデイトーチを燃やして木の芽を採って大瓶に詰めていく。
「……トス!!!ケイトス!!!返事しろよ!!!」
「おーい!ケイトスぅ!生きてるかぁ!」
うるさいな!
「黙れ!!!また、いろいろ出て来るだろうが!!!」
「……あっちか⁈急げ!」
その日20人の捜索隊に裸でバースデイトーチを採ってるところを発見されたので巻き込んで皆でワイワイバースデイトーチを採り幻惑森林から出るとそこには大号泣してるセージュ達と縋り付かれてすっかり機嫌が悪いアスターがいた。
アスターに抱きついて私は寝落ちした。
〜sideアスター〜〜
結局、3人の少年たちが帰ってもベルリーナでリトワージュ門下生たちで盛り上がって酒も進んでいる。
私は、あまり醜態を晒したくないし、皆を送って行く必要があるのでジュースに変えた。
そこに真っ青な顔のルメリーさんが飛び込んで来た!
「アスターさん!!!ケイトスくんが!」
私は即座に給仕に公用金貨1枚を渡してルメリーさんとカルトラの冒険者ギルドへ転移した。
号泣してる2人の少年たちを大人の冒険者達が取り囲み優しく話を聞いている。
その足元には沢山のヘブンズマンティスの鎌。
少年たちに話を聞いているのはメリエレさん。
そんな凶悪ヅラで聞かれたら泣くしかないだろうが!!!
「……メリエレさん、私が聞きます。その間に20人くらい腕の立つ幻惑森林に詳しい人を集めて下さい!私が運びます!1人公用金貨100枚で捜索隊を編成して下さい!」
「アスター。アンタには悪いが、夜の幻惑森林に入って生きてるのはケイトスぐらいなもんなんだよ。昼間より精神系の幻覚が数十倍ぐらいになって、ケイトスがもし魔法を使った討伐をしてるなら、入ってすぐに死ぬ!コイツらが何で生きてるか分からないから、さっきから聞いてんだけども泣くだけで役に立たねぇ!」
「……アイツ死んじゃうの?」
「死なせたくないから君たちが幻惑森林に入った時から教えてくれるかな?」
兄の名前がジュール、弟の名前がセージュ。2人は母親違いの下級貴族の子だと言う。
家名はどうしても言わなかったから機転を利かせたルメリーさんが買い取りをするから、ギルドタグを出せと言って取って行くとラムズ領の幻惑森林に近い町に暮らしている中級貴族の子らしい。
「何故危ないのに森に入ったの?」
「父上が子供だと入っても大丈夫だって言ってたんだもん!だから、兄上と一緒に入ったのに!!!気が付いたら真っ暗で、ヘブンズマンティスの鎌だけ光って見えたから兄上と拾ってたら、あの子が声を掛けて来たからオバケだと思って叫んだんだ!兄上に叱られて帰ろうとしたら、拾っていいけどすぐ帰れって!夜は私でも危ないから!って言ったと思ってたらこんな場所にいたの!」
アスターは気分が悪くなった。
自分もやったことがあるが魔獣の住む森林や樹海から出るとかなり魔力を消費する。
加えて他人だけカルトラまで転移させるなんて無茶にも程がある!
それに、アレク様はご自分が幻惑森林まで転移してる。
「……転移、ここに来る寸前に周りの様子は分からなかったかな?」
兄のジュールが答えた。
「周りを赤い光の粒が踊ってた」
「……どのくらいいた?坊主」
「見える限り全部、だった」
「……疲れたな、寝ろよ?今週中には家に送るから。ルメリー嬢、コイツらを救護室で寝かせてやってくれ!」
「……アイツ、どうするの?」
「迎えに行きますよ!私が!」
「アスター、ちょっと寝てから来い。幻惑森林までは遠いから、お前の転移だけが頼りだ。眠れ」
メリエレさんが私に触れるとふわりと香る甘い花の香りがした。
〜sideメリエレ〜〜
「あーあー!素人にそんな真似して恨まれるぞ?メリエレ」
「バラム様」
冥夢香で無理矢理眠らせたアスターを抱き上げて応接室まで運び、長椅子に横たえる。
バラム様が向かい側のソファに座る。
「で、幻惑森林での夜の赤い光って何かわかるか?」
「……恐らくブラッディウルフの大群ではないかと思われます!」
「ケイトスはお前より強いんだよな?多分だけども私なら森林から外に放り出すだけで魔力が空になったから、それをここまで転移させた奴は魔力切れになってるのはほぼ間違いないな。
後は剣でどれくらい保つのか、って所だろうな!まあ、奴なら大丈夫だろう。Bランクの魔獣の群れか!
朝焼けと同時に行くからそれまでに用意しておけ」
「バラム様が行くのですか⁈」
「アスターが幻惑森林知らないだろう?それにアスムを視察する機会だと思えばいい。入り口までは送って行く。それからあの子供達の父親にキツ〜〜〜いお灸を据えてやらないとな。あの子供達のした行為はなすりつけに相違ない!罰金刑にしてやる!」
バラム様は書類を作成し始めた。
俺はいつもの採取仲間たちを集めてカケイ冒険者用品店に行き幻惑森林用装備を購入して1人1人に持たせる。公用金貨100枚あれば1週間分の稼ぎになる。
状態異常を治すポーションを作らせて全員飲む。
このポーションだけで、公用金貨100枚する。
素材の在庫があるからやれるのだが、数時間しか保たないからバースデイトーチぐらいしか獲れない。
幻惑森林は探索が困難なダンジョンなのだ。
冒険者ギルドの酒場で早めの朝食をとり、バラム様が来るまで椅子に座って寝る。
酒場の主人メイヤーが「坊主に」とハサミパンを渡してきた。
そういえばつい、最近ケイトスが貸し切りにしてたな。
ハサミパンをカバンの1番上に入れてダンジョンから出たら食べさせたいと思った。
寝ぼけているアスターを軽い平手打ちで起こすとメチャクチャ睨まれた。
「ケイトス様が亡くなってたらアンタを夜の幻惑森林に放り込む!!!」
「大丈夫だ!ちゃんとケイトスは生きてる。ただ魔力が無いから迎えに行くぞ!集まれ!」
バラム様が俺の困惑も、アスターの怒りも持ち去って行く。
ギルドの酒場に集合したのはあの少年たち2人もだ。
「転移!」
幻惑森林の外で日が昇るまで待つ。
山際から朝日が射す。
「……行くぞ!」
「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
朝もやがかかってる。運が悪い!
幻惑森林の朝もやには状態異常のポーションの保ちが悪い。30分持てばいい方だ。
「ケイトス!!!どこだ!聞こえたら返事しろ!!!」
皆が知っている道を奥に進んで叫びながら進んでいるとやっと、返事らしきものが聞こえた。
うるさい!だの黙れだの言ってかなり怒ってるようだ。
「……バースデイトーチを採ってるみたいだな」
全員駆け足で行くと剣帯に2本剣を提げた裸でバースデイトーチを摘んでた。
腕や足は咬み傷や引っ掻き傷や肉を持って行かれた所もある。バースデイトーチの麻酔作用で痛みを感じてないのだろう。
皆がその凄惨な姿に言葉をなくす。
するとバースデイトーチが上手く摘めないとボヤくので採取を皆が手伝ってやった。
よく見たら右手の平の半分が食い千切られて無い。
皆、泣きながら急いで採取して、ポーションの効き目がある内に俺はマントにくるんでケイトスを幻惑森林の外へ持ち出した。
ケイトスはアスターを見つけると微笑んでその欠けた手を伸ばした。
アスターは直ちにケイトスの家に転移した。
「ケイトス下町に住んでんのか?」
「奥の道場で待ってて下さい!再生魔法掛けてもらいますから!」
そう言って家に入って行くアスターを見送る。
〜sideケイトス(アレク)〜〜
「ギルド行かなきゃ!」
何故かお風呂の中だ。
「……ちょっと身体を温めてから、出ましょうか?」
怒ってるリンディーの顔色が優れない。
「リンディー?気分悪いなら今日は学校休んだら?」
「学校はそう簡単に休める物じゃありません!ちょっとだけ魔力切れになってるだけですからお気になさらず!」
「お父様の具合が悪いのですか⁈」
額を平手打ちされた。
「……痛いよ!リンディー!」
「後日、治療費は請求させていただきます!」
「……何?状態異常にかかってた?」
「馬鹿!!!もう知らない!」
そんな怒ってるハンナみたいなこと言われて置き去りにしなくてもいいんじゃない?
あったまったし、出るか!
私は足に力を入れてみた。上手く入らない。
今度は手に力を入れてみた、ちっとも力が入らない。
…この感覚は覚えがある。
「再生」の聖魔法をかけてもらった時、こんな風になった。
噛み付かれたのが思ってたより重傷だったのだろうか?
確かにそれなりに痛かったが構ってるヒマはなかった。
風呂場の引き戸が開いてアスターが風呂場にシャツを腕まくりしながら入ってきた。
「偉かったですね、今度は貴方も一緒に逃げて下さい」
「はい!」
「お返事だけはよろしいのですね?それから幻惑森林に夜は行かないでください!」
「1人なら大丈夫だよ?」
「……それから、自分が討伐した物は自分が責任を持って片付けましょうね?危うく私は少年たちを殺す所でしたよ?」
「アスターはそんな事しないよ」
「大切な人がぼろぼろだったけど、生きてるから我慢出来たんです!死ぬ時は老衰でお願いします」
アスターは私を湯船から抱き上げて出すと脱衣所で身体を拭いてくれて服も着せてくれた。
して貰うばかりで悪いが、カルトラの冒険者ギルドまで連れて行って貰った。
ルメリーさんに抱きしめられて心配させたなと、思って謝罪した。
「ルメリーさん、ごめんなさい。心配かけましたね」
「……身体に力が入って無いですけど、毒でも喰らった?」
「【再生】の副作用で、1週間ほど動けないそうです」
「…死にかけてたんじゃない!!!今度は自分も逃げて!」
「はい!」
「わざわざ来たってことは、納品に?」
「はい。アスター窓口で紙貰わないと」
「解体窓口で待ってて!すぐ持って行くから!」
「ありがとう!ルメリーさん」
アスターは解体受け付け窓口に私を運んで行くと私を待ち合いのベンチに座らせて、ギルドタグ付きネックレスを私の首から取りルメリーさんが来るのを待った。
幸いルメリーさんはすぐに来てアスターから私のギルドタグを受け取り、私達を連れて窓口の横のドアから中へ入った。
薄暗い廊下に出て1番奥の部屋にノックして、ルメリーさんはそのまま入って行く。
私を子供抱っこしたアスターもそれに続く。
そこは広い作業台がある応接室だった。
「ポイズンバタフライとバースデイトーチを出して下さい」
バースデイトーチは果実酒でも漬ける大きなガラス瓶に5つとポイズンバタフライはピクルスが入ってるような卓上サイズのガラス瓶に8本詰めてある。
「……あら、随分どっちとも多い。品質はSね。申し分ないけど、ポイズンバタフライ余った分どうする?ケイトスくん」
「依頼主にオマケだってあげて下さい」
「「いや、それは有り得ないから!」」
「……じゃあ5匹はオマケで。後はルメリーさんに任せます。バースデイトーチは100個依頼分で、後は捜索隊の方が採って下さったのでその方達で折半する形でお願いします」
「……アイツら何してるのよ!」
「ケイトス様の手が食い千切られたので手伝ってくれたのでは無いかと思います」
「あー、だから、摘みにくかったんだ!皆に手伝ってって言ったらいっぱい摘んでくれたんだ。ルメリーさんお願いします!」
「……そう。わかったわ。希望に沿うように頑張ってみます。また、バースデイトーチを採りに行ってくれる?」
「1カ月毎に採ってくるように努力はするけど半年以上ヘキサゴナルに里帰りしたいからその期間はメリエレさん達にお願いします」
「アイツら、バースデイトーチだけは採らないって冒険者ギルドと契約してるからダメよ!」
「……じゃあ、1カ月に1度は帰りますね」
「幻惑森林関係の採取、討伐物の一覧を作っておくから、心置きなく儲けて!!!協力は惜しまないから!」
「夏にお金になる物が欲しいんだけど?」
「蝶々系は間違いなくお金になる!パフュームバタフライは間違いない!ミラージュバタフライも良いお金よ」
「7匹獲ってきたよ」
「今回はオークションに出しちゃいましょう。ポイズンバタフライも残りの12匹はオークションで。
指名依頼の分は振り込んであるから、捜索隊への報酬は振り込んでおきましょうか?」
「1人公用金貨1000枚振り込んでおいてください」
「ホホホ!ホント、ケイトスくんって太っ腹よねー。わかった!振り込んでおく。…ねぇ、このブラッディウルフ1万7千頭って、持ってるの⁈今」
「持ってる。お肉欲しいんだけどいい?」
「……まさか、食べるの⁉︎」
「うん、ベルリーナのウリなんだ!」
「……比喩的な何かかと思ってたけど違うのね!!!食べちゃった!美味しかった!ああ!!!」
「帝都以外では、普通に食べられてますよ?」
そう言ってアスターが笑う。
「帝都は輸入牛肉が安く手に入れられるから魔獣を食べる習慣が全く無いのよ。どおりでお安いはずだった」
「ケイトス様、お肉は何頭分必要か、店に聞いて来ましょうか?」
「そうだね、アスターお願い出来る?」
「今、聞いて来ます」
アスターは転移して行った。
ルメリーさんにパフュームバタフライをたくさんとバトルスワードを2匹見せるとニコニコうなづく。
「今日は幻惑リスは?」
「睨んでたけど昼間だったから無視して討伐しなかった。今、討伐し過ぎると冬に居なくなってるかもしれないから保護する方向で」
ルメリーさんは私の口元に切ったキウイの実をサーヴしたので遠慮なく食べる。
…お腹空いた。
1個完食したら、アスターがベルリーナから転移して来た。
「今日すぐ50頭分欲しいそうです!近くの街の食堂で売って来ます!」
「……いいよ。また、獲ってきたらいいし」
「肉が捨てられるんですよ?食べられるのにもったいないです!」
さすが畜産農家生まれの次男坊。
「そうだ!そう言う依頼を出して売らせる依頼を出せばいい!!!…どうする?ケイトスくん」
「お願いします」
ルメリーさんは依頼書を作成しながら私達にブラッディウルフを搬入口に出して来いと命令し、解体場を大混乱に落ち入らせるのだ。
私はご機嫌なルメリーさんに後日、報酬の書類は受け取るからと、ブラッディウルフの肉が売れた分だけ、冒険者の儲けでいいと言うと、アスターと2人で呆れていた。
「「もっと欲張りなさい!」」
そんな事言われても、お金使い切れないくらいあるもの!!!