5話 誓い
何だかんだで、お昼になって一度宿に戻って一階の食堂でお昼を食べる事にした。
3人前注文してから前払いし、私だけ転移で部屋へ行くとアスターさんはソファに埋もれて本を読んでいた。
「かってにでかけて、ごめんなさい!しょくじにしようよ!」
「ちょうどお腹が空いてたんだ。じゃあ王都広場で買い食いしようか?」
本を閉じて苦労して柔らかなソファから立ち上がったアスターさんを転移する前に捕まえた。
「ラフネだんしゃくもいるから、おひるはここのしょくどうで。おかねはもうはらったから、いこう!」
「……ありがとうアレク様」
それからお小遣いを渡しておく。
ヨザック兄上にアスターさんは欲しい物があっても私が相手なら我慢するだろうから公用金貨10枚くらい先に皮袋に入れて渡せと言われた。
ウサギの毛皮の巾着に金貨15枚を入れて渡した。
「これは何ですか?」
「いらいりょうだよ。もうしわけないくらいしかないけど、ちちうえに てがみと、おみあげをとどけてもらいたいんだ。
たべものがたくさんになるから、アスターさまのふたんになるけどいいかな?」
突然アスターさんが私の足元にひざまづき頭を下げて自分の剣を私に差し出した。
ナニコレ?どうするの???試し斬り?
「……えっと、とりあえず、しょくじちゅうもんしてあるから、たべてからね?」
師匠こんなの教えてくれなかった!
わかんないから、後回しにする!
2人で転移するとアスターさんがひざまづいたままだったのでヨザック兄上を見た。
「……ああ、何となくわかるが、食堂でする事じゃねーよ!アスター、とりあえず食事を食え!後で、部屋に入ってからだ!」
ヨザック兄上が丸く収めてくれた!
アスターさんはガツガツとパンとひよこ豆と豚肉のシチューを食べ切ると部屋へ先に帰った。
「アレク。アスターが大事か?」
「あたりまえじゃない!!!こんなこどものおもりをなんにちもつづけられるって、スゴイし、アスターさまはいいひとだもの!」
「……アスターを守ると誓えるか?」
「それはわかんないよ。ちかくにいたらまもれるけど、わたしにはけんりょくもなんにもない」
ヨザック兄上は笑った。
「フハハハ!お前さん、正直だなあ!俺もアレクの事、気に入った!ヨシ!立会人になってやる!」
「けっとうなの⁈」
「……そうか、習ってないんじゃ仕方がないよな。さっきのはアレクに命をかけて守るって誓いだ」
それは分不相応だ。私はアスターさんに返すものが無い。
そう言うとヨザック兄上は真剣な顔でとんでもないことを言った。
「あのなあ、断わられた騎士は死ななきゃならないんだぞ?それでも断るか?」
「アスターさまがしぬのやだ!」
「じゃ、忠誠の誓いの受け方だけどな、剣をさっきみたいに捧げられたら、受け取って剣を抜いてアスターの肩に刃を乗せて『覚悟を見せよ!』と問う。たいがいが、髪の毛をひとつかみ切って『我が忠誠を貴方に誓う』と名前を入れて神に誓うから本当の名前でなければ意味が無い。…わかるか?」
「……きらわれちゃうね、きっと」
急に味がしなくなったシチューを詰め込むように食べた。
「俺はそんなことでアスターはお前さんを嫌いになったりしないと思う!むしろ、ま、直ぐにわかるさ」
「……はい」
ドン底の気分のまま食事を済ませ、部屋へと歩いて行く私を肩車してヨザック兄上は、忠誠の誓いの儀式の言葉と作法を口伝で伝えた。
さあ、部屋に着いた!
逃げられないぞ!
部屋の真ん中に立っていたアスターさんが私が近づくとひざまづき頭を下げて剣を私に捧げる。
私は左手で鞘ごと剣を受け取って剣を右手で抜き、切っ先をアスターさんの肩に乗せて泣きそうになりながら告白した。
「わたしにはせいまほうのさいのうがなく、3さいのまよのぎしきのさいになまえをかえました。
わたしのほんとうのなまえはルークシード=クロスディアといいます。
わたしにはなんのちからもない。
でも、ちかくにいるかぎりアスターさまをまもるとちかいます。
【覚悟を見せよ!】」
貴族の印でもある長髪をうなじでぶつ切りした、アスターさんは誇らしげに宣言した。
「【我、アスター=モンタナは主人たるルークシード=クロスディア様の剣となり盾となり一生お側にいる事を神に誓います!】」
「……【許します】」
ちょうど窓から日の光が入ってきて何だか、アスターさんが輝いてる。剣を鞘に収めてアスターさんに返したら儀式は終わりだ。
アスターさんが剣を受け取って剣帯に戻すと空気になってたヨザック兄上がアスターさんの後ろ髪を揃えてやり、風呂に追いやる。
部屋付きのメイドが3人入ってきてお風呂を沸かしたり、ベッドを整えたり果物や飲み物を用意したり世話してくれるのでチップに1人1万ステラをあげるともらい過ぎだと言って5000ステラづつ返して来た。
メイドが出て行くとヨザック兄上はため息交じりに言った。
「チップなんて千ステラで十分だからな?明日の予定は?」
「……ししょうにわたされたテガミのはいたつかな」
「頑張れよ」
「きょう、アミュレットうってるおみせにいきたいんですが!」
「早く言えよ!」
「てんいできるから、ドルクさまのいたこうぼうでアスターさん「アスター、な?主人なんだから!」アスターに、けんをかってあげたいんです」
儀式で見たアスターの剣は刃がガタガタのボロい作りだった。
「……それもだけど、髪押さえを付けてやれよー、髪が短いと平民と勘違いされるぞ?」
髪押さえ?何それ?
説明を聞いてやっとわかった!カチューシャだ!
父上の側近のネージュ様が付けてる銀冠櫛だ。
大事な人からもらったのだとニコニコしながら話してくれたっけ。
「かみおさえをいちばんさいしょにかいます!どこでうってますか?」
「……ちょっと待て。買い物の順番を考える」
ヨザック兄上のつぶやきを拾うと忠誠の誓いを立てた騎士専門店には貴族でも高級な服でしか出入り出来ないらしい。
まず、高級貴族服を買い、着替えて騎士専門店に私とアスターで行く。
次に、その格好のままアミュレット専門店に入って買い物して、着替えてから庶民の服屋で買い物して剣を買う。
あー!頭痛い!
アスターがお風呂から出て来たが実家で着てる服を纏っている。
「おお!久しぶりに見た!懐かしいな!麻のシャツ」
「洗濯したいのですが、どこですればいいですか?」
「……【浄化】、ほれ、着替えたら行くぞ!」
いそいそと外出着にアスターが着替えると宿に頼んでいた馬車に3人で乗り込んで高級仕立て屋ロンドウェーブに行きおのぼりさん丸出しで店内を見回すが服を置いてない。はて?
クスクス笑う貴族たちの洗礼に1刻耐えて居ると
ようやく首にメジャーを掛けた職人さんが来て私の採寸をして、既製品を何着か持って来たので無難に紺のスーツにした。
「陛下と会うには地味過ぎます」
アスターに叱られた。
しかし、この一言だけで店員達が焦り出した。
アスターから情報収集し始めたのだ。
クロスディア辺境伯家の名が出た途端ににべもなく追い返されること5軒。
最終的に庶民の仕立て屋に行き、この店で1番いい服を、というとびっくりするくらい手触りのいい式服が出て来た。
眼鏡の奥の糸目の店員は何を考えているかは分からなかったが皮と骨ばかりのか細い体を包むスーツは上等で、白髪頭を撫で付けている香油の香りからは彼のプライドを感じた。
アスターの真紅の騎士服は過不足なかったけど、私の式服はどんな所にどんな用で着て行くのか、やっぱり聞かれたので、一生懸命ごまかしながら説明した。
「……おじいさまに、はじめてあいにいくのだけど、たずねていくのはみぶんがたかいひとたちがたくさんいるおしろなの。おじいさまは、みんなからあたまをさげられるみぶんがたかいひとなの」
「……なるほど。式服はやめておいた方がいいですな。ん???ドルクの剣帯じゃないか⁈
それなら、いい服がある!私はフランチェスカ=ラッカという。紹介状は持ってないのか?」
ラッカ様⁉︎あるよ、あるよ!師匠の手紙が!
異空間蔵から慌てないように出して渡すと、その場で封を切って読み始めたが、読み終わる頃にはコメカミ辺りに血管が浮き出るような殺気を纏っていた。
「値段の心配はしなくていいから、なるべくいい服を着ましょう!」
採寸したら、店の奥から優しい白のシンプルなシャツと体に沿うように仕立てた黒に近いブラウンのズボン、同色に銀糸の刺繍が美しいボレロ。
「お似合いです」
「いくら?」
「そうですね!出世したら払ってください!なぁに、あと20年くらいは生きてますからご心配無く!」
「とりあえず、手付け金だけでも払わせてくれないか?」
ヨザック兄上がそう言うと金貨100枚を言ったのでめっちゃ高いんだこの服、と思って震撼した。
虹証でお支払いして、騎士専門店へと馬車で乗り付けて白金の髪押さえを買いついでに剣帯も買った。
金貨500枚も使った。
馬車に戻ってそう言うと、ヨザック兄上に無駄遣いを怒られた
ドルク様のお世話になってる工房に行って剣を見立てて貰ったら、工房で1番安い剣を買わされた。
お値段金貨100枚したが、アスターがそこそこの腕しか持ってないから仕方ないと言われた。
見た目だけめっちゃ美麗な剣だ。
アスターによく似合う!
アスターは嬉しいのか私をギュッと抱きしめてしばらく離れなかった。
ヨザック兄上が説明してくれた。
「主君から剣を賜ることは騎士にとって一番の栄誉なことなんだよ。アスター、アレクが困ってるから離せ」
アミュレットは明日にすることにした。
すっかり遅くなって店が閉まってたのだ。
庶民の服屋さんも場所だけ教えてもらって明日の朝に行く事になった。
案内のお礼に夕食に誘うと、ヨザック兄上は用があるからといって馬で帰った。
宿の部屋で気兼ねない服に着替え、夕食をとる。
「……随分お金を使わせてしまいました」
「いいの!アスターのことはわたしがやるの!きにしな〜い。フフ、アスターはわたしだけのきし!う〜れし〜なぁ!!!」
「増やしましょうね!僕の清らかな心の主君の幸せを祈って乾杯!」
「カンパイ!」
おお!大人みたい!
今夜のメニューは分厚い牛肉のステーキ!チーズがたっぷりかかってる。
お肉用のナイフじゃ切れなかったから、アスターが夢中で食べてるのを確認して、解体用のナイフでこっそり切った。
一口お口に入れると、お口の中はパラダイス!
あー!こんなに美味しいお肉食べた事無いよ!!!
チーズが垂れるのもなんのその!
汚してもいいようにナフキン襟にたくしこんでるから、平気さ!
この、チーズって美味しいなあ。
モグモグ、ハフー。ステーキだけでお腹いっぱい!
パンが余ったなあ。もったいない!
そう思ってたら、アスターが全部食べちゃった!
「……スープが無いのが残念です」
まだ、食べられるの⁉︎
…じゃ、今まで我慢させてたね。
それなのに文句も言わないなんて、アスター良い子!
明日の朝から2人前食べさせよう!
私だけ、お風呂に入り、夜着に着替えてアスターの隣りに座った。
今日買った剣の手入れをしてるアスターはご機嫌だ。
「そういえば、なんでおひるからじゃないとおてがみとどけちゃダメなの?」
「王都の貴族は昼まで寝てるからです」
「……びょうき?」
ウケてる。アスターはニコニコで、剣をしまいながら私に説明する。
「夜はパーティーで、夜更かしするからです。寝るのが日の出前くらいなので、起きたら昼前になるというだけです」
何だ!堕落してるだけか。
もう少し円やかに言うとアスターは、真面目な顔でそうでもないことを私に説明した。
「人が集まる場所というのは情報も集まりますし、身分が高い方の主催するパーティーには出てないと恥をかきます。流行も、評判もそこで作られるからです」
アレ?って事はウチもパーティーを主催する方じゃない???
「……そうなのですよ。エメラダ様が王都の屋敷に来てからというもの、1度も開かれてないそうです」
「どのくらいおかねいるの?」
「そうですね、一晩で1億ステラ以上はかかるでしょうね」
「つまり、それだけムダづかいをしてるんだ!」
「……そのようですね。これはグレイシード様にお伝えせねばなりません!」
「ちちうえ、たいへんなのにかわいそう…」
「……1度、クロスディア領へ戻りましょう!これはルーク様のお手には余ります!それに、僕達2人で帰れば騎士団の分の糧食も持ち帰り出来ます!」
私はアスターに抱きついた。
「うん!そうする!!!わたしのことはアレクってよんでね?ルークはナイショだよー」
アスターはニコニコして私の頭を寝るまで撫でてくれた。
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