46話 楽しい(?)お買い物
お昼過ぎにローザ工房に来た私達は大歓迎されて、早速採寸。
男の人達が巻尺を持ってアスターとエイリーン兄上をささっと細かく採寸するのは見ていて楽しい!
アスターは慣れてないのに、エイリーン兄上は慣れ切っていて比較すると余計に面白い。
ついでに私の騎士服も青紫色を1つ注文して、アスターとエイリーン兄上が生地と色を選んでる間にザトー子爵と内緒の値段交渉。
アスターの服の方がやっぱり高いらしい。
上下揃いで大金貨7枚だと言われたので式典用の騎士服を2つを入れて公用金貨200枚まででズボンを30着と上着をいろいろないろでヘキサゴナル風に仕立てて欲しいとザトー子爵にお願いすると資料を引っ張りだして目を通していた。
エイリーン兄上が騎士に仕官する為に着る勝負服を7着仕立ててくれというと、窘められた。
「2着くらいしか使わないのにたくさん作るのはお金の無駄遣いだ。騎士になってから私服を仕立てに来なさい!」
「はい!心得違いを正してくださってありがとうございます!」
「……で?こんなに頼んだらケイトスの騎士に怒られるんじゃないか?」
「いいの!一生着る物だから!!!」
「公用金貨100枚分にしておかないと嫌われるぞ?」
「ムゥ!!!いっぱいあげたいのに!」
「それにな、別の騎士から妬まれるぞ?」
そ、それはイヤだ!
「……普通は何枚ぐらい仕立てるんですか?」
「式典用のをハレの日と葬式用の礼服を1点づつ。私服に着る服をジャケットみたいな上着は2つ。ズボンは何にでも似合う色を4本。シャツかブラウスは本人の好みによるが、アスターくんは見映えのする顔だからブラウスを7枚とシャツを3枚仕立てて、騎士服の普段着は2〜3着あったらいいだろうよ!」
「それじゃ、ザトー子爵様にお礼にならないね」
ザトー子爵は優しく微笑んだ。
「充分なお礼じゃないか。Cランク冒険者は稼ぎが違うんだな」
「あ、今日は来てないんですけど、兄上と同じ体格の人の式典用の服を2着。身分はヘキサゴナルの公爵家の次男で髪はダークブラウンに目はサファイアブルーです!その人の服を今、兄上が着てます!」
ザトー子爵はエイリーン兄上に向かって言い放つ。
「服を脱げ!」
エイリーン兄上は体に当ててた反物を退けてもらうとその場で脱ぎ始めた。
私はその向こう側でシャツの色を選んでいるアスターに声を掛けた。
「バラン、この服、普通に着れてた?胸のボタン飛ばなかった?」
アスターはピンクの反物も似合うね〜。
「それは大きめのを買ってたから本人を連れて来た…ら騒ぐな、うん。エイリーンさんの胸板と二の腕が今脱いだその服並みで作って下さい!」
アスターは仲間が増えて嬉しいのか、早速注文した後に1人づつ犠牲者をリトワージュ流剣術の道場から連れてきて式典用服2着をローザ工房の皆様に発注した。
久しぶりに会うヨザック兄上の弟子達は、私のことが誰かわからないらしく、アスターの言った「帝国のお金持ちの息子さんのケイトス様」という設定を信じてローザ工房に紹介してもらった騎士服がリーズナブルなお値段で買える店で騎士服を3枚づつ、冒険者用品店で、爆買いしてアスターを焦らせていた。
私も買っているとこの店に有名人が来ているらしく店内が騒がしかった。
エイリーン兄上は意外とミーハーみたいで、わざわざ有名人を見てる人達に話を聞いていた。
私とアスターは採取した薬草などを入れる大瓶やポイズンバタフライを採取するのに、いい手袋とコルク栓で密封できるガラス瓶をたくさん買った。
「こっちです!」
「クソガキ!どこだ⁉︎返事しろ!!!」
聞き覚えのある凶悪な声に振り返ると凶悪な顔した大きな身体の毛皮の裏地のコートを着た冒険者がいた。
アスターが私の前に出る前に私はその人の前に行った。
「久しぶり!メリエレさん!この間はありがとう!早速ホームで使ってるよ!今日はお兄さん達と来てるから食事には行けないよ?」
メリエレさんは、私を抱っこしてどこかに移動し始めた。
エイリーン兄上とアスターとヨザック兄上の弟子達7人がぴったり付いて来る。
荷物はアスターと私が持ってるから、皆手ぶらで道場からラチられたメンバーは剣さえ持ってない。
剣を着けてるのはエイリーン兄上だけだ。
「……ねぇ?メリエレさん、どこ行くの?今日はファインさん達いないの?」
「先に行って店を開けさせてる!」
「タリスさんに迷惑かけるでしょう!そんな事しちゃダメです!!!」
鼻をつまんで抗議すると手を払われる。
「……違う!!!オーナムの店をちょっとだけ早く開けただけだ!オーナムにとってもお前らが買い物をすると利益になるし、損は無い!」
で?何の店に連れて行くのかな?
あれ。この前に通った道戻ってる?
軒並み閉まってる武器屋通り。
その中で一軒だけ開いていて、店の前にはメリエレさんの仲間たち。
ファインさんが手を挙げた。
「メリエレさん!起こしときました!」
「ファインさん!ありがとうございます!」
先にお礼を言うとメリエレさんに鼻を摘まれた!
何だか怒っているようです!
ここは一発身体を張ろう!
「わあい!メリエレさん大好き!」
傷だらけの顔にしがみつくと頭を撫でられた。
「……あんな演技に騙されるAランカー」
アスターの声がしたけど無視する。
「ところで剣買う人いるの?」
エイリーン兄上はヨザック兄上の弟子達に声をかけると帝国製の武器がラプナーさん以外の人が欲しいらしいが遠慮してるっぽい。
「公用金貨20枚までの武器なら買ってあげるよ!その代わり1人1点ね〜」
エイリーン兄上が1番先にオーナム武器店に入って行ったら、アミル達も入って行く。
アスターは店の前でラプナーさんとお話ししている。
話を聞いているとラプナーさんの武器は弓らしい。
メリエレさんに石畳の上に下ろしてもらい、エイリーン兄上を店の玄関から呼ぶ。
「兄上ーー!!!お金預かって!」
エイリーン兄上は走って来た。
公用金貨140枚、絹の袋に入れて渡しメリエレさんに両手を組んで目を見上げておねだり。
「弓矢さんに行きたいです!メリエレさん」
アスターのお腹が鳴る。
追いかけて私のお腹も鳴る。
「まず、メシだな」
メリエレさん達はエイリーン兄上達に道案内の仲間を2人残して繁華街に戻って開いている数少ない食堂へ入った。
アスターはラプナーさんと一つのテーブルを挟んですわり、メリエレさんの仲間たちは適当に座った。私はメリエレさんの隣りの席に。
テーブルを挟んで知らない人が座った。
「ファインさんは?」
「……次の店を開けさせてる。絶対買えよ?イリアンの店はうるさいんだ!」
「……私のもある?」
「あるけど大人の物と値段が変わらないぞ?いいのか、テレンスの店じゃなくて」
「とりあえず注文しましょうよ!メリエレさんもケイトスも。俺、ゼブって言うんだ!まだBランカー!よろしくな!ケイトス」
「わあ、メリエレさん達って、スゴいんだ!メリエレさんもAランカーだよね?」
さも、知ってるように言うと機嫌がよくなったメリエレさんとゼブさん。
それを通路を挟んでのテーブル席から見てメリエレさんを哀れむアスター達。
いいんだよ!喜んでるし!
メニュー表を覗き込もうとすると、メリエレさんに勝手にいろいろ注文されてしまった。
遠慮なく食べることにした私はメリエレさんに質問する。
「今日は薬草樹海行ってなかったの?」
するとメリエレさんが私を凶悪な顔で睨む。
はて?何故に睨む?
ゼブさんがその理由を教えてくれた。
「メリエレさんが良く行ってる穴場があるんですけどね〜、そこがこの前の【樹王】の討伐で荒されちゃって今、立ち入り禁止になってるんですよねー」
あー!通りで、睨まれるはずだ!
立ち上がってメリエレさんに一礼する。
「ごめんなさい!お詫びにお昼を奢ります!食べて下さい」
「ん!!!」
メリエレさん許してくれるみたいで良かった!
ホッと一息ついて椅子に座り、食事の到着まで話をすると、カルトラにはもう一つ初心者向けの小魔獣森林があり、その外周部に出没するブラッディウルフの群れを討伐する指名依頼を受けていると言う事だった。
なるほど!
アスターの部屋にあったフォレスト系魔獣の素材はそこで討伐したものか!
「……もうすぐAランク素材の取得件数が1万種に達するからSランクに上がれるって時に!よりによってブライダルネックレスの群生地を荒らす馬鹿がいたなんて頭に来てたら、薬草樹海に初めて入る奴じゃ仕方ない。酒も奢ってもらったし、メシ1回で手打ちにしてやる」
「Aランク素材か。魔獣じゃいけないの?」
「……魔獣はいろんな場所に行かなきゃいけないからな。薬草樹海じゃせいぜい2000種ぐらいしかいない。ケイトスも幻惑森林だけじゃSランクには上がれないぞ」
「……Bランク素材で良かったら紹介できるのになぁ」
「「バースデートーチなんかまっぴらごめんだ!!!」」
「……採ったんだ?フフ、お仲間だね」
「いい金にはなった!あんなもん貴族か医師かしか使わないからな!でも、2度と採らない!!!」
いい金?
「バースデートーチは安かったよ?えーと、ほらコレ!」
アイテムボックスから討伐報酬が書いてある紙を出して見せると、メリエレさんとゼブさんの眉が寄った。
「1500個も採って公用金貨3枚ぃいい⁈これは、本部に訴えろ!他の魔獣素材も値段が安い!!!」
「普通なら幾らするの?メリエレさん」
「……バースデートーチは1個で公用金貨1枚するぞ?食べても美味いけど、煮汁と生のまんまの芽が瓶に入れて保存して置くと1カ月くらい外科手術の麻酔として使えるから、常時優先依頼として各ギルドに貼られてるんだが、1回やると皆行かねーんだよ!」
「それがねー、ナイショだよ?アスムの冒険者ギルドの人が討伐報酬を抜いてて、その期間にもらった討伐報酬は冒険者達に返って来ないんだって本部の人が謝ってたよ」
「……多分、お前が1番損してたからだと思うぞ。あの森でまともに稼いでるの1人だけだってウワサになったからなぁ。バカな新人冒険者達が幻惑森林に行って死んでたらギルドタグだけでも回収してやってくれ」
「多分ムリ!幻惑森林の魔獣達お腹が空いているから見逃してくれないよ?夜になってアクティブになると、幻惑リスが徒党組んで襲ってくるんだよ?」
「「「「「「「「「何だ、それ⁉︎」」」」」」」」」
「ブラッディウルフが私が入ってくるの群れで待ち伏せしてるし」
「誰か!!!本部に行って今の情報報告して来い!」
「あー、いいよ!今夜用があるから行ったら報告するよ。私の方が詳しいから」
メリエレさんが不思議そうに私を見た。
「そんな危ない所に何回も行って何故生きている?」
「いや、普通に死にかけたけどお酒奢ってたから、偶然その人が助けてくれて今、生きてます!」
「懲りろよ!」
「だって私には、お金がかかることが色々あって稼がないと生きていけないから仕方ないです!」
「「「「「「「「「「「金の為か、仕方ないなあ。死ぬなよ?」」」」」」」」」」」
「ありがとうございます!わあ!!!来た来た!お料理!!!」
料理名は違うけどドラゴンフレーバーのコック、リョウちゃんが作ってくれた唐揚げとグラタンとパスタ、ドレッシングがかかったサラダがテーブルいっぱいに並んだ。
メリエレさんと奪い合いながら食べた昼食は最高だった!
「ねぇ!メリエレさん、ここってドラゴンフレ「黙れ!」…はい。2度と言わないです」
「…わかりゃいい」
ロトム、ドラゴンフレーバーの事は帝国では秘密みたいです。
いつか、私の秘密を話すからそのときはロトムも話してくれるかなあ?
エイリーン兄上達を待たずに「弓・イリアンの店」に行ってみるともう営業時間が来たのか武器屋通りの店がポツポツ開いている。
今はもう夕方になって居て、ようやく人の顔が判別できるくらいの暗さだ。
「メリエレさん!早く来てくだせぇ!!!イリアンさんが怒ってて手がつけられないんでさぁ!」
「持つぞ!」
メリエレさんは私を抱えて店内に入って行った!
ラプナーさんも慌てて追いかけて来た。
プンと香る木の香の中で帝国の民族衣装を着たふくよかな中年女性が仁王立ちして待っていた。
「フン!子供と大人1人づつかい!この子がアンタを負かした子供かい。金はあるんだろうね⁉︎」
「……割と今日は持ってます!」
「……そこんところをはっきりさせるんだよ!」
「1人に公用金貨20枚までで弓を見させていただきたいです!」
すると、それを聞いた途端、イリアンさんは微笑んで接客し始めた。
まず、ラプナーさんが試射用の弓を構えたら、弓と空間魔術を付与した魔道具の弓包を付けてキッチリ公用金貨20枚支払わせていた。
何というか、商魂たくましい店主さんで、私はドン引きしている。
しかも私には更に弓矢を100本付けてやはり公用金貨を20枚支払わせて店から追い出した。
弓矢の羽根の後ろにはほんの小さな魔石がついている。
「好きな属性が付与できるからイリアンの店は弓矢の方が良く売れるんだよ」
「……へー!1本いくら?」
「……100本で、公用金貨10枚だ」
「……大事にする!」
「ま、フェアリーウイングが次に出たら使うといい」
オーナムさんの武器屋を見てみると、ま〜〜〜だ剣を物色してるエイリーン兄上とアミル達に私は呆れてしまった。
「兄上ーー!!!まだなの⁉︎先に帰っていいの⁉︎」
「……そうか?そうしてくれ」
仕方なくメリエレさん達と別れて兄上達を待つことに。
女の子の買い物より長いよ!!!
結局21:30まで待ち、エイリーン兄上達がお買い上げしたらオーナムさんが出て来てアメをくれた。